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9. 脱出

Author: Mr.Z
last update Last Updated: 2025-03-28 20:34:51

 まさかコイツだったなんて⋯⋯なんでコイツがこんなところに⋯⋯? だったら、やっぱり"本物の先生"は⋯⋯

 頭を巡る最悪の答え。俺は意を決して"頭の無くなった人物"の近くに寄った。

 ⋯⋯先生がいつも着ていた服だ。胸元には【新東京大学】の教職員証。名前は⋯⋯

 【名誉教授:君野正義】

 薄赤い部屋で見にくかったが、これで分かった。ここで何があったのかを。

「⋯⋯そういうことかよ」

 あんな事を先生がするはず無い。それが分かったのと同時に、悔しさと怒りが込み上げてきた。どうして先生をこんな⋯⋯

「ユキ⋯⋯先生は⋯⋯」

 俺を見て察したのか、小さく頷いた。夢だったらいいのにと、今何回思ったか。どれだけ思っても、これは"非現実の現実"で、変わらない。

 ユキは自分を責めているようだった。もう少し早く来れば助けられたんじゃないかと。

 ⋯⋯無理だ。緊急メッセ―ジは、"ヤツ"が送っていたんだから。俺はとにかくユキを慰め続けた。その後間もなくして、また"アイツ"から通話が入った。アイツの顔がL.S.のホログラムパネルに映る。

「おい! 新崎さんも一緒にいるんだよな!? 早くそっから出ろ!!」

 真剣な表情でアイツが言う。

「何体かそこへ入っていきやがった!! "さっきの"が!!」

「は? まだ他に"コイツ"が!?」

「あぁ⋯⋯いる!! 特に"赤いヤツ"には気を付けろ!! アイツはマッポを瞬殺しやがった!!」

「警察が⋯⋯? シンヤって今"1階"だよな?」

「そう! 後、降りてくる時には"階段"を使え!! アイツらエレベーター前でも待ってやがる!! ここもヤバいから後でな!!」

 そう言って、シンヤからの通話は途切れた。シンヤの場所もGPSで共有しているからすぐ分かる。さっき窓を割ったのは、たぶんコイツだ。それ意外あんな行動するのは、考えられない。

「ユキ、他にも"コレ"がいるらしい」

「まだいるの⋯⋯?」

「シンヤが言うにはだけどな、急いで出よう」

「シンヤ君が⋯⋯うん」

 俺は先生の教職員証を拾い、自分の胸にしまった。この人の意志は、俺が持っていく。君野教授研究分室のドアをL.S.で開ける。ヤツが遠隔で閉めたのだろうか?

 研究分室を先に出たユキは、

「⋯⋯今までお世話になりました」

 と、小さく呟いた。その言葉は、"俺の胸の証"にも響いた気がした。

 走りながら一応警察に
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  • フォールン・イノベーション -2030-   53. 都庁

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  • フォールン・イノベーション -2030-   52. 遺言

     ニイナはその後も周囲に励まされていた。見た目、凛としてそうな感じに見えたけど、そうでもないのか。案外警察ってとこ意外は、普通の女の子らしい。 少し涙目になっていたヒナにも今一度謝った。今まで通りなら、もっと冷静でいられたんだ。 新宿駅までの短い間、俺たちが持っているイーリス・マザー構想の情報を全てアスタたちへと渡した。行動を共にするタイミングで渡そうと思ってたから、どっちみちこうする予定だった。 そして俺のL.S.には、ユエさんと裏部さんから託された"最期の遺言データ"がある。殺されたあの次の日の朝、自動的に俺へと送られていた。こうなった時の事を考えて、今まで忙しくしていたんだ。死んでもまだ、助けてくれるなんて⋯⋯会いたいよ、俺は⋯⋯。 入っていたのは、裏部さんが持っていた"UnRuleモンスターの詳細データ"と、ユエさんによる"生前考察データ"。その中に、今の俺の疑問を解消してくれるものもあった。 何回読んだか分からない。読めば読むほど、また会いたくなった。 【三船ルイ君へ】 これを読んでいるという事は、もう会えないのね。天国に行けるか分からないけど、きっとどこかでアオ君と一緒にあなたたちを見守っています。もし、私の赤ちゃんが残ってたら、ちょっと面倒見てくれるとありがたいかな~なんてね。そんな事してたらいつまでも足枷になっちゃうから、誰かに預けちゃって。 無駄書きごめんなさい、ここから本題です。ここには今の私が捻り出した考察を残しておこうと思います。今後のため、必ず役に立つはずです。  【1つ目:総理のもとへと辿り着く最適方法】 簡潔に話すと、裏部の添付データを参考に、"未来を選び取る欠片"を完成させなさい。 そうすれば、あの邪魔な輝星竜を消し、国会議事堂に入れるはず。 後は、臨機応変にあなたたちが対応していくしかない。ここにある攻略データは、"私たちがUnRuleに関わった時の事だけ"になるから、紀野大臣の時のように、イレギュラーが起こらないとも限らない。 でも、虚無限蝶の状態にまで到達したあなたなら、出来ない事なんて無いと私は思ってる。このUnRuleの武器は、使用者に応じて"不規則なクラウドアップデート"がされていく。開発者にも誰にも知る事の出来ない、真の未知の領域。だからこそ、人間にもAIにも予測出来ない力が加わっていく。どん

  • フォールン・イノベーション -2030-   51. 協力

     多くの人数が集まった新宿移動。向こうは新宿駅で待ってくれているらしい。「時間だな、それでは行こうか。各自、注意を怠らないように」「あ、すまん! ちょっと、一つ聞いていいか?」 突然スエが手を上げ、主催者に質問をし始めた。「どうした?」「なんで19時に集まったんだ? もっと明るい方が行きやすかったろ?」「それは思ったが、新宿区からの指示でな。このくらいの時間の方が、襲撃しやすいと言っていた」「ふーん、まぁいいけどよ」 渋谷駅に着いた時、ちょうど電車が来た。簡易型エスカレーターがすぐ用意され、3階へと乗れる事を示す。「3階、行こっか」 ユキに続いて3階へと上がる。その上がる途中、ユキが「初めて襲われたあの日、思い出すね」と小さく呟いた。俺は「⋯⋯そうだな」と。 今思えば、あんなのは本当に始まりでしかなかった。その後は、君野先生との別れ、大学からの脱出、2回目の総理の記者会見、国会議事堂への突撃失敗、そしてユエさんとアオさんと裏部さんとの出会い。もっと正しい最適解を選べていれば、みんな生きていたのだろうか。また苛立ちが募り、ぐっと唇を嚙み締めた。「まだ、悔やんでる?」 隣のユキが顔を覗き込んでくる。「⋯⋯当たり前だろ。絶対に殺す」「ルイ⋯⋯」「お前がやるんだったら俺もやるぞ。マッポの連中は総理の味方してるしな、もう役に立ちゃしねぇんだからよ」「でも、いいんでしょうか、そんな⋯⋯」「んじゃ黙って殺されろって言うのかよッ!!!」 ついヒナに大声を上げてしまうと、周囲が騒ぎ始めた。近くにいたアスタたちが近付いてくる。「どうしたんだよ、らしくない」「いや⋯⋯ヒナ、ごめん」「⋯⋯いえ」「今日怖いよ君ら、何かあったの?」 聞いてくるアスタの前へとシンヤが出た。「どうもこうもあったもんじゃねぇッ! こっちで大事な仲間が二人も殺されたんだッ! "黄色いパーカーのヤツら"になッ!!」「"黄色いパーカー"? ⋯⋯それって最近出てるっていう"殺人集団"の?」「そう。アスタ君も気を付けてよ。深夜に襲ってくるみたいだから」 ユキの声にアスタが頷く。すると、アスタの右隣にいた女の方が黒能面を取った。「アスタ様は死にません」 端正な顔立ちで急にそんな事を言った。と思ったら、左隣の男までも顔を出す。「僕らがいれば、安全ですよ」 アスタは

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