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第4話

Author: 雛咲レイ
ほどなくして、スマートフォンの通知音が立て続けに鳴り響いた。

届いたメッセージは、すべて玲奈からだった。

目を見張るような高級ジュエリーやブランドバッグの写真が、次々と送られてくる。

【凛って、本当に私に優しいの。私が欲しいって言ったものは、何でもためらわずに買ってくれるんだから。

親友だったよしみで、あんたにも何か好きなものをプレゼントしてあげる。今は別荘地の湖で景色を眺めてるから、選びに来なさいよ】

美夕は相手にする気にもなれず、そのまま無視することにした。

しかし、玲奈からのメッセージは一向に止まらない。

そして最後に送られてきたのは、あのお守りの写真だった。

【美夕、私、そんなに気が長いほうじゃないの。これ以上待たせるなら、このお守り、捨てちゃうよ】

そのお守りは、亡き両親が美夕に遺してくれた大切な形見の一つだった。

かつて、美夕と玲奈が親友だった頃。

玲奈がいつも病気や災難に見舞われていることを案じた美夕は、一生無病息災でいられるよう願いを込めて、そのお守りを彼女へ贈ったのだ。

まさか、あの時の善意が、今では玲奈が自分を脅すための道具になるとは思いもしなかった。

胸の奥から怒りが込み上げ、美夕はそのまま家を飛び出し、湖畔へと向かった。

「お守りを返して」

玲奈は鼻で笑うと、無造作にお守りを美夕へ放り投げた。

「美夕、この数日、凛が私にどれだけ尽くしてくれてるか、あんたも見てたでしょ?私、もうあんたの家にまで住み込んでるのよ。それでもまだ諦めて身を引く気はないわけ?」

そう言いながら髪をかき上げ、首元に輝く精巧なダイヤモンドのネックレスをこれ見よがしに見せつけると、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

美夕はゆっくりと深呼吸をした。

「何度も言ったはずよ。彼はあなたを愛してなんかいない。ただ利用しているだけ」

その言葉を聞いた瞬間、玲奈の笑みは消え失せ、たちまち苛立ちを露わにした。

「ふざけないで。彼が私を愛してるかどうかくらい、私にだって分かるわよ」

美夕は、それ以上何も言わなかった。

玲奈に説明するのは、これが初めてではない。

凛は容姿端麗で、家柄も申し分ない。

その気になれば、女心を掴むことなど造作もない男だった。

美夕に嫉妬させるため、凛はわざわざ親友だった玲奈を利用した。

ほんの数回甘い言葉を囁いただけで玲奈を本気にさせ、正式に付き合ってもいないのに、手を繋ぎ、抱きしめ、果てはキスまで交わした。

美夕は何度も、凛は玲奈を利用しているだけなのだと忠告してきた。

だが玲奈は少しも信じようとせず、そのために美夕と絶交することさえ厭わなかった。

「あんたは男の心を掴めないけど、私は違う。凛が私に向ける愛は本物よ。信じられないなら、ちょっと試してあげる」

そう言い終えるや否や、美夕が反応する間もなく、玲奈は背後から彼女を湖へ突き落とした。

そして、自らも水の中へ飛び込んだ。

水中で浮き沈みしながら、美夕は必死にもがく。

恐怖で頭の中は真っ白になっていた。

かつて溺れかけたことがある彼女にとって、それは今も消えないトラウマだった。

泳げないうえ、水そのものが何よりも恐ろしい。

冷たい湖水は瞬く間に全身を包み込み、頭上から差し込むわずかな光だけが視界に残った。

極限の絶望の中、美夕は岸辺から凛がものすごい勢いで駆けてくる姿を見た。

ザバーン!

彼は上着を脱ぎ捨て、そのまま湖へ飛び込む。

しかし彼は、美夕の身体をすり抜けるように通り過ぎ、そのすぐそばにいた玲奈を抱き上げて助け出した。

視界は次第に闇に覆われていく。

遠ざかっていく二人の背中と、振り返った玲奈が浮かべた勝ち誇った笑みだけが、焼き付くように目に残った。

彼女の唇は、ゆっくりとこう動いていた。

『あ・ん・た・の・負・け』

美夕は、手足から力が抜けていくのを感じた。

――ああ。

私の負けだ。

完膚なきまでに、負けた。

再び目を覚ました時、最初に飛び込んできたのは、凛の墨を流したような黒髪だった。

彼の瞳には赤い血の糸がびっしりと浮かんでいた。彼女が目を開けたのを見た途端、それまで必死に押し殺していた冷たい表情が崩れ去る。

「美夕、やっと目が覚めたか。寒くないか?腹は減ってないか?どこか痛むところはないか?」

あれほど張り詰めた様子を見せる彼を前にしても、美夕が覚えたのは底知れない皮肉だけだった。

「私が死のうと生きようと、あなたには関係ないことでしょう」

その一言に、凛の身体はぴたりと固まった。

目の下には濃い隈が刻まれ、ひどくやつれ果てている。

「美夕……俺に怒っているのか?分かってるはずだ。あの時、お前をすぐ助けなかったのは、お前を罰するためだった。

他の男と話したことへの罰だ。俺が他の女と親しくしても、お前があんなに平然としていられることへの罰なんだ」

美夕は自嘲するように唇を歪めた。

罰――

よくそんなことが言えるものだ。

凛も自分の非に気づいたのか、声色を和らげて何度も謝罪した。

その日は一日中、彼女の体調を気遣い、自ら雑炊を煮込み、スプーンで一口ずつ丁寧に口へ運ぼうとする。

しかし、美夕は顔を上げようともしなかった。

見かねた看護師が、とりなすように口を開く。

「桜庭さん。黒川さんは、あなたを病院へ運び込んだ時、本当に気が狂いそうなくらい取り乱していらしたんですよ。

三日三晩、一睡もせずに付き添っていらっしゃいましたし、もしあなたに何かあったら、この病院ごと壊してしまいそうな勢いでした。

あれほど大切に思い合っていらっしゃるのですから、お話し合いで解決できないことなんて、ないんじゃありませんか」

美夕は聞く気にもなれず、拒むように静かに目を閉じた。

凛が医師と病状について話している隙を見計らい、美夕はベッドを降りて病室を出る。

外のベンチにしばらく腰を下ろし、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んでから、ようやく病室へ戻った。

ドアを開けた瞬間、陰鬱な光を宿した凛の瞳と視線がぶつかる。

彼は美夕のスマートフォンを強く握り締め、張り詰めた威圧感を漂わせていた。

画面には、一件の不在着信が表示されている。

「これは誰だ」

その数字の並びを目にした瞬間、美夕の心臓はぎゅっと縮み上がった。

それは――研究所からの電話だった。

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