個室の重いドアを押し開けた瞬間、桜庭美夕(さくらば みゆ)の目に最初に飛び込んできたのは、激しくキスを交わす一組の男女の姿だった。一人は、彼女の恋人。そしてもう一人は、彼女の最も親しい親友だった。黒川凛(くろかわ りん)は有無を言わさぬ強引な身振りで藤崎玲奈(ふじさき れいな)をその腕の中に押さえ込み、どこか野性味を帯びた仕草で彼女の唇を塞ぎ、熱い吐息を絡ませ合っている。その光景を目の当たりにした瞬間、美夕は全身の血の気がざわっと引き、得体の知れない冷気が波のように押し寄せてきた。爪が手のひらに深く食い込み、血が滲むほどの傷ができているというのに、少しの痛みすら感じない。周囲には耳をつんざくような音楽が鳴り響き、集まった大勢の人間が狂ったように囃し立てていた。「せっかくキスしたんだから、もっと激しく、ディープキスしちゃえよ」「おおっ!ディープキス!ディープキス!ディープキス」周囲から囃し立てる声が響き渡る中、凛は玲奈の唇を強引にこじ開けた。唇と歯が熱を帯びて絡み合い、しなやかな舌がなまめかしく共舞している。美夕は雷に打たれたような衝撃を受けた。耳に入るすべての音が遠ざかり、目の前の景色さえも色を失ってしまったかのようだった。彼女はただ呆然と、その場に立ち尽くすことしかできない。とめどなく涙が溢れ出し、胸が鋭い刃物で抉られるように痛んだ。どれほどの時間が過ぎたのだろうか。凛と視線がぶつかる。彼の瞳には、少しの濁りもなかった。だが、彼の最初の反応は焦りなどではなく、狂喜だった。美夕は目元を真っ赤に腫らして泣きじゃくり、もはや表情を取り繕うことすらできず、無意識にきびすを返してその場を逃げ出そうとした。凛は、腕の中でキスに酔いしれていた玲奈を容赦なく突き飛ばした。長い脚で個室を飛び出すと、美夕の背中を追いかけ、彼女をきつくその腕の中に閉じ込めた。「美夕、来てくれたんだね!他の女とキスするってメッセージを送った途端に、駆けつけてくれるなんて。お前は俺を愛しているんだろう?だから、俺が他の女とイチャイチャしているのを見て、耐えられなくなったんだ。だったら、お前ももう他の男と関わるのはやめてくれないか。さっきのはお前への罰だよ。俺に隠れて、他の男と30分も話していたことへのね。俺の心がどれだ
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