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第5話

Autor: 雛咲レイ
美夕は足早に歩み寄ると、凛の手からスマートフォンを奪い取った。

「知らないわ。ただの迷惑電話よ」

凛は表情を曇らせ、眉を深く寄せる。

「本当か?」

美夕は変わらず冷たい眼差しを彼へ向けた。

「それ以外に、誰だと思ってるの?」

相手が誰なのか、凛には分からない。

だが、美夕があれほど動揺した姿を見せたのは初めてだった。

しかも、その理由は自分ではなかった。

その事実が、彼の胸に激しい嫉妬の炎を燃え上がらせる。

どこまでも赤黒く、理性を焼き尽くすような炎だった。

しかし最後まで、彼は何も言わなかった。

ただ重く沈んだ視線を一度だけ彼女へ向けると、踵を返して病室を後にした。

それから間もなく、美夕の病室を担当していた医師や看護師は、全員別の部署へ異動させられた。

廊下では、看護師たちが声を潜めて囁き合っている。

「ねえ、あの藤崎さんって、一体何者なの?黒川さんがあそこまで溺愛して、動かせる医療スタッフをほとんど全部あちらへ回してしまうなんて。彼女のお世話をするためだけに、ご本人まで片時もそばを離れないんだから」

その話を耳にした美夕は悟った。

さっき凛は何も言わなかったけれど、やはり怒っていたのだ。

けれど、美夕はもう以前のように彼をなだめようとは思わなかった。

彼の機嫌を気に掛けることも、もう二度とない。

退院後、美夕は家へ戻り、再び荷造りを始めようとしていた。

玄関へ足を踏み入れた、その瞬間。

バタン、と重い音を立てて、屋敷の扉が外から施錠された。

続いて、一列に並んだボディガードたちが、屋敷の出入口という出入口を厳重に固め始める。

「美夕さん。社長からの命令です。本日より、外出は一切許可できません。何かご入り用でしたら、我々にお申し付けください」

美夕は一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

どういうこと……?

私、監禁されたの?

込み上げる怒りを必死に押し殺しながら、震える手で凛へ電話をかける。

「凛、ここから出して」

受話器の向こうから、低く沈んだ彼の声が返ってきた。

「美夕。俺がなぜこんなことをするのか、お前なら分かっているはずだ。お前が他の男との関係を完全に断ち、その目にも心にも俺だけを映すようになったら、外へ出してやる」

美夕が何か言い返すより早く、通話は一方的に切られた。

もう一度かけ直しても、二度と繋がることはなかった。

他の男……?

まさか、あの研究所の電話番号を、他の男だと思い込んでいるの?

美夕は、言葉ではどう説明しても理解してもらえないだろうという、どうしようもない徒労感に襲われた。

本当のことを話すわけにはいかない。

何とかして、自力でここを抜け出す方法を見つけるしかない。

しかし、屋敷のすべての出入口には屈強なボディガードが立ちはだかり、逃げ出す隙など微塵もなかった。

結局、今は諦めるしかなかった。

幸い、研究所へ向かう日までは、まだ数日の猶予がある。

その間に、何とか策を考えればいい。

深夜。

美夕は浅い眠りの中で、不安に苛まれていた。

まるで何かを予感していたかのように、枕元へ置いていたスマートフォンが、けたたましい音を立てて鳴り響く。

美夕が慌てて電話に出ると、療養院の介護スタッフの切羽詰まった声が飛び込んできた。

「桜庭さん、お祖母様が今夜、高血圧と脳血栓を併発されました。もう……長くはもちません」

その瞬間、スマートフォンが手から滑り落ち、ゴトッという鈍い音を立てて床へ転がった。

美夕はその場に立ち尽くしたまま、まるで青天の霹靂を受けたかのように凍りついた。

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