地味男はイケメン元総長

地味男はイケメン元総長

last updateLast Updated : 2025-07-11
By:  緋村燐Updated just now
Language: Japanese
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高校一年になったばかりの灯里は、メイクオタクである事を秘密にしながら地味に過ごしていた。 そんな中、GW前に校外学習の班の親交を深めようという事で遊園地に行くことになった灯里達。 お化け屋敷に地味男の陸斗と入るとハプニングが! 「なぁ、オレの秘密知っちゃった?」 「誰にも言わないからっ! だから代わりに……」 ヒミツの関係はじめよう?

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Chapter 1

メイクオタク地味子

 暗闇の中。

 ほんのりと淡緑黄色で照らされた部屋はどこか幻想的で、そこに立つ彼は普段とは違って見えた。

 近づいて来る彼はとても整った顔をしていて……。

 口元には赤い血が付いていて、それを指で拭った。

 そんな仕草も妖艶でつい魅入られてしまう。

「なぁ……俺の秘密、知っちゃった?」

 そう言って弧を描く口元に視線が吸い寄せられる。

 ドクドクと心臓がうるさいほど。

「俺とヒミツの関係、なってよ?」

***

 あたし、倉木灯里(くらきあかり)は悩んでいた。

 高校一年になった四月の終わり。

 GW直前の土曜日。

 鏡の前でうんうん唸りながらどうしようか悩む。

「いっそぶっちゃけて本気メイクで行くか……地味子を通すためにナチュラルメイクで行くか……」

 悩んだ末に、あたしはナチュラルメイクで行くことにした。

 今日出かけるのは遊園地。

 外を歩くことが多いだろうから、日焼け止め下地は必須。

 肌のトーンを明るくするリキッドファンデーションをポンポンと塗って、仕上げに化粧筆でパウダーをサッと撫でる。

 アイブロウは目立たないように薄めに描いて、アイメイクはしないでおく。

 最後にリップクリームを塗って唇を保湿して、軽くティッシュを当てる。

 リップライナーと赤みの少ないタイプのルージュを塗り、もう一度ティッシュを当てた。

 鏡を見直して、おかしいところがないかチェックをする。

「うん、こんなもんかな」

 メイクに納得したので、他の準備を始めた。

 なんであたしがこんなに悩んでメイクをしているかというと、今日はクラスの校外学習で同じ班になった子達と一緒に遊園地に行くからだ。

 中学までは同じくメイクが好きな友達とわいわい普通に楽しんでいた。

 でも高校に進学するにあたってその友達とも別れてしまい、しかも今の高校は今どき珍しいくらい校則が厳しい。

 髪を染めるのはもってのほか。

 メイクなんて色付きリップですら指導が入る。

 違反したら容赦なく内申点が削られるとか。

 校内でメイクは楽しめないと早々に諦めたあたしは、休みの日にめいいっぱい楽しもうと決めて学校ではいわゆる地味子で行くことにした。

 少しでもおしゃれをしようと考えると本気メイクをしたくなってしまうからだ。

 まあ、そのせいで特に仲の良い友達も出来なかったのは痛手だったけれど……。

 それでも班に誘ってくれる人とかはいたし、そこまで不自由は感じていない。

 で、土曜日で休みの今日。

 休みの日だからメイクを楽しみたいところだけれど、今日会うのは学校の面々。

 別にメイクが好きなことがバレても構わないんだけど、それで学校でもメイクの話をするようになったらあたしの我慢が限界に達しそうだと思った。

 だから今日も地味子で通すことにはしたけれど、休みの日だから少しでもメイクは楽しみたい。

 その結果が今のナチュラルメイクだ。

 パッと見はメイクしてるなんて気付かないだろう。

 ちゃんと見ても、色付きリップ塗ってるかなってくらいだと思う。

 中学の友達くらいメイクに精通していれば肌のトーンとかでリキッド塗ってるのは気付くだろうけれど、多分普通の女子高生なら気付かない。

 それくらいのナチュラルメイクだ。

 ある意味力作なナチュラルメイクに合わせたのはボーダーTシャツにピンクベージュのパーカー。

 そして明るめの色合いのジーンズだ。

 肩までの髪はいじらずそのまま。

 寝癖だけは気を付ける。

 最後に学校で使っている地味ーな黒縁メガネをかけて今日のコーデは完成だ。

 メガネはもう少しオシャレな可愛いフレームのものもお年玉で買ったのを持っているけれど、学校では地味子に徹(てっ)すると決めたので小学校の頃から使っているものをかけている。

 高校生になった記念にと言ってコンタクトもワンデイのものを買わせてもらったけれど、こっちは本当に休みの日用だからまだ二回くらいしか使っていない。

 そんな感じで準備を終えた頃にはそろそろ家を出ないといけない時間だった。

「あ、ごはん食べる時間微妙……」

 でも美容のためにも朝食を抜くと言うのはありえない。

 簡単にヨーグルトにフルーツグラノーラをかけたものだけ食べることにした。

「それだけ? いつもはサラダとかハムとかも食べてるのに」

 休みの日だからとゆっくり朝食を食べているお母さんに言われたけれど、そんなに食べている時間はない。

 かき込めば食べれるかも知れないけれど、美容にも健康にも良くない。

 そういうのがクセになって、いつもそんな食べ方してると肌も荒れてしまいそうだ。

 そう、肌も荒れる。

 つまり、化粧ノリが悪くなる!!

 それだけは絶対にさけたい。

 まあ、こんなだからお母さんにはメイクオタクとか言われちゃうんだけれど。

「時間ないからしかたないよ。これ食べたら出るから」

「そう? じゃあ用意しておいたサラダは夜に食べる?」

「うん、取っておいて」

 朝は食べれなくても一日の栄養分として摂取しておきたい。

 ちょっと遅くなったけれど、待ち合わせには何とか間に合いそうだ。

 あたしは小走りで待ち合せ場所に向かいながら、今日出かけることになった経緯を思い出していた。

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メイクオタク地味子
 暗闇の中。 ほんのりと淡緑黄色で照らされた部屋はどこか幻想的で、そこに立つ彼は普段とは違って見えた。  近づいて来る彼はとても整った顔をしていて……。  口元には赤い血が付いていて、それを指で拭った。  そんな仕草も妖艶でつい魅入られてしまう。 「なぁ……俺の秘密、知っちゃった?」 そう言って弧を描く口元に視線が吸い寄せられる。  ドクドクと心臓がうるさいほど。  「俺とヒミツの関係、なってよ?」 *** あたし、倉木灯里(くらきあかり)は悩んでいた。  高校一年になった四月の終わり。 GW直前の土曜日。  鏡の前でうんうん唸りながらどうしようか悩む。 「いっそぶっちゃけて本気メイクで行くか……地味子を通すためにナチュラルメイクで行くか……」  悩んだ末に、あたしはナチュラルメイクで行くことにした。  今日出かけるのは遊園地。 外を歩くことが多いだろうから、日焼け止め下地は必須。 肌のトーンを明るくするリキッドファンデーションをポンポンと塗って、仕上げに化粧筆でパウダーをサッと撫でる。 アイブロウは目立たないように薄めに描いて、アイメイクはしないでおく。  最後にリップクリームを塗って唇を保湿して、軽くティッシュを当てる。 リップライナーと赤みの少ないタイプのルージュを塗り、もう一度ティッシュを当てた。  鏡を見直して、おかしいところがないかチェックをする。 「うん、こんなもんかな」 メイクに納得したので、他の準備を始めた。  なんであたしがこんなに悩んでメイクをしているかというと、今日はクラスの校外学習で同じ班になった子達と一緒に遊園
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