Share

第218話

Author: 北野 艾
柊也が去った後、密は興奮気味に詩織に話しかけた。「あの賀来社長が門前払いされるなんて!あー、スッキリしました!」

彼女もかつては柊也の理不尽な要求に振り回され、苦労させられた口だ。

かつての上司が手も足も出ずに追い返される様は、見ていて痛快極まりなかったのだろう。

「でも詩織さん、あの方、素直に一週間待つでしょうか?」

「待たないわよ」詩織はデスクの書類に目を落としたまま、即答した。

「なんで分かるんですか?」

「七年も一緒にいたのよ。あの人の性格くらい、嫌でも分かる」

「確かに」密は深く頷いた。

詩織の読み通りだった。その日の午後、柊也は再び現れた。

詩織は『リードテック』の須藤宏明と面談の約束をしていたのだが、直前になって場所の変更を告げられた。

その時点で、何か裏があると察した。

指定された会員制クラブの個室に入ると、そこには案の定、柊也が座っていた。

「いやあ、賀来社長とも少し話がありましてね。お二人も旧知の仲ですし、ご一緒でも構いませんよね?」須藤はニコニコと愛想よく言った。

ここまでお膳立てされて「No」と言える空気ではない。

柊也も人選を心得て
Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App
Locked Chapter

Pinakabagong kabanata

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第949話

    これ以上踏み込めば、本当に恥ずかしさで爆発しかねない。話題が変わったことで、詩織の胸のつかえもようやく少しだけ下りた。【ミキの新しい仕事、あなたが手を回したの?】【ああ、手強いお目付け役の機嫌を取るためにな】彼はことあるごとにミキを「お目付け役」と呼ぶ。詩織もすっかりその呼び名に慣れてしまい、初めの頃のようにいちいち反論すらしなくなっていた。とはいえ、身内に対する庇護欲は強い。ミキの気持ちを尊重するなら、今は柊也に妥協してもらうしかなかった。【ミキはいつも「養ってほしい」なんて冗談言ってるけど、本当は自分の仕事にすごく誇りを持ってるの。機嫌を取るのはいいけど、絶対ぬか喜びになるような真似はしないでね】詩織は自分の懸念を正直に伝えた。【分かってる。二人の邪魔さえしなければ、彼女をトップの女優に押し上げてみせるさ】翌朝。ミキの出発はかなり早かったため、昨夜のうちに「タクシーで行くから見送りは気にしないで」と詩織に念を押していた。しかしマンションのエントランスを出ると、すでに一台の黒塗りの車が待機していた。運転手が慇懃に頭を下げる。「近藤様。ボスの仰せで、空港までお送りいたします」「あなたのボスって……誰?」「賀来柊也様です」——露骨な餌付けね!だが……まだ外は暗く、ここでタクシーを拾おうと思ったら大通りまで歩かなければならない。ミキはほんの数秒だけ葛藤した後、あっさりと妥協して車に乗り込んだ。車に乗り込むと、運転手が助手席に用意されていた紙袋を差し出した。「近藤様。ボスから手配された朝食です。どうぞお召し上がりください」中に入っていたのは、数日前に彼女が食べてお気に入りになったという、あのお店のキッシュだった。——ふん。随分とご機嫌取りがお上手なこと。彼が過去に詩織にした酷い仕打ちさえ知らなければ、少しは見直してもいいところだけど。ミキはキッシュを頬張り、高級車のシートにドカッと腰を落ち着けながら運転手に言った。「あなたのボスに伝えといて。私、奢られたり物をもらったりしても、すぐ忘れちゃうタチなのよ。恩とか義理に縛られる気なんてさらさらないから」運転手は愛想よく微笑んだ。「承知いたしました」腹が満たされると、彼女はロールス・ロイス名物の『スターライト・ヘッドライナー』

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第948話

    詩織がマンションの部屋に戻っできたのは、電話を切ってからさらに三十分後のことだった。柊也の視線は、エントランスに吸い込まれていく彼女の後ろ姿を、見えなくなるまで未練がましく追い続けていた。彼女の姿が消えると、彼は深く、長いため息を吐き出した。体中を駆け巡る血の熱を、必死に沈めようとする。こわばりきった体がゆっくりと解けるまで、かなりの時間を要した。やり場のない熱と苛立ちを逃すように、シャツの襟元を乱暴に引っ張る。詩織のあの親友は、下手に姑よりよっぽど厄介だ。しかも詩織は、彼女のこととなるとなぜか過剰に庇い立てするのだ。俺の存在が、将来ミキの優先順位を超える日が来るのだろうか。諦めきれない苛立ちを抱えたまま、柊也はスマートフォンを取り出し、ある番号へと発信した。詩織が玄関のドアを開けると、ちょうどミキがカイにミルクを与えているところだった。子猫のぽっこり膨らんだお腹は、まるで手羽先餃子のようにパンパンになっている。「さっき『もう下に着く』って言ってたのに、ずいぶん時間かかったわね?」ミキはからかうように尋ねた。幸い、玄関の照明が暗かったおかげで、後ろめたい視線を隠すことができた。昔、柊也とこっそり付き合い始めたばかりの時でさえ、こんなに緊張したことはなかったのに。「えっと、ちょっと道が混んでて」「こんな時間に渋滞?」ミキが容赦なく核心を突く。また言い訳を考えておくのを忘れた。詩織は苦し紛れに話を合わせるしかない。「なんか軽い事故があったみたいで。少し足止め食っちゃったの」ミキは「ふーん」とだけ言って、それ以上は追及してこなかった。信じたのか、あえて乗ってやったのかは分からない。詩織が手を洗ってリビングに戻ると、ミキはすでに温め直した夕食をテーブルに並べ、向かいの席に座っていた。詩織が箸を進めている間、ずっと彼女の顔を穴が開くほど見つめてくる。さすがに居心地が悪くなり、詩織は顔を上げた。「ねえ、さっきから何見てるの?」「あんた、リップどうしたのよ。グチャグチャじゃない」「……お酒飲んだから落ちたんじゃないの」「アシスタントは化粧直しするよう注意してくれなかったの?」詩織は危うく舌を噛みそうになった。注意するどころか、そのリップを台無しにした張本人なのだ。「それ

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第947話

    彼は車のシートにどっしりと構えたまま、手のひらで彼女の細い腰をしっかりとホールドし、その赤い唇のすぐ近くで低く囁いた。「これなら、思う存分できるだろ?」彼女の方から求めてくるなど、滅多にないことだ。これがどれほど理性を削る甘い拷問だとしても、彼は喜んでその底なし沼に溺れる覚悟だった。密着した姿勢に、詩織の頬がカアッと熱くなる。全身が小さく震えた。これまでの睦み合いは、いつも柊也が主導権を握っていた。五年の空白も重なり、こうしたことへの免疫はすっかり失われている。ただ、子供のように唇を押し当てることしかできない。見かねた柊也が、低く甘い声で導く。「詩織、口を開けて」促されるままに唇を割ると、すぐに熱い粘膜が吸い上げられた。湿り気を帯びたキスは、彼がずっと抱いてきた感情そのもののように、温かく、それでいて懸命に理性を保っている。もともと、詩織は飲み込みが早い女だ。絡まる舌に自らも応え、彼の熱を追いかける。その積極的な変化に、柊也はたまらなく愛おしそうに目を細めた。深淵のような瞳に、歓喜の光が宿る。あまりに無防備で健気な姿に、柊也の自制心が悲鳴を上げた。キスは不意に深く、激しくなる。肺の酸素が強引に奪われ、熱い吐息が口内を満たしていく。主導権はあっけなく、柊也の手へと戻った。突然の豹変に翻弄され、詩織は無意識に彼の背中へ爪を立てた。逃げ場のない快楽に、声にならない吐息が漏れる。一度唇が離れると、柊也は赤く腫れた彼女の唇を、燃えるような眼差しで見つめた。そのまま首筋へと顔を埋め、熱い吐息を吹きかける。詩織の肌が、瞬時に鮮やかな緋色に染まった。柊也の手は、まるで火の玉のように熱い。腰を抱き寄せるその熱量に、詩織の背筋が戦慄いた。車はいつの間にか、詩織の住むマンションの下に停まっていた。運転手は空気を読み、すでに車を降りて姿を消している。詩織の鼓動は早鐘を打ち、言葉にできない渇望が全身を支配した。彼の服を掴む指先に、ぎゅっと力がこもる。柊也がコンソールボックスから除菌シートを取り出し、ゆっくりと自分の指先を拭った。詩織は潤んだ瞳を細め、ぼうっとした頭で彼を見つめている。上気した顔は熱く、眼差しには艶があった。車内の空気は、濃密な情欲に塗り潰されていく。詩織は彼の肩

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第946話

    詩織は閉じていた目を開き、彼を見上げた。「苦労して、って?」「ああ」柊也の長い指が彼女の頬を滑り、そのままうなじへと移動して、ゆっくりと揉みほぐしていく。「接待のプロみたいな同業者からノウハウを聞き出して、少しずつ君の酒に慣らしていったんだ」それはもう十年以上も前のことのはずなのに、彼の記憶にははっきりと刻まれているらしかった。「最初の頃、君のリミットはたったグラス三杯だった。チャンポンなんてもってのほかで、ビールと焼酎を混ぜれば二杯半で完全にダウン。ワインなら四杯はいけたが、後を引くから結局三杯に抑えなきゃならなかった」「あの頃、接待の席で君に三杯以上飲まれないように、俺がどれだけ言い訳をでっち上げたことか」「少し酒に強くなってからは、五杯から八杯いけるようになった。強い酒もお猪口なら十杯は飲めたな。チャンポンも平気になったが、その分悪酔いしやすくなった。だから飲む前に必ずヨーグルトで胃の粘膜を保護させて、飲んだ後には翌日の頭痛対策でレモン水を用意したんだ」詩織自身でさえ曖昧になっているような細かいデータまで、柊也はまるでマニュアルを読み上げるようにスラスラと語ってみせた。「どうしてそこまで鮮明に覚えてるの?」不思議に思って尋ねると、予期せぬ答えが返ってきた。「毎回、記録をつけていたからな」「記録って……どうしてそんなこと」「俺が同行できない接待の時、誰も君の酒量を代わりに計算してやれないだろう。だから君の限界を正確に把握して伝えておく必要があった。そうすれば、君自身でペース配分ができるからな」そう言われてみれば、思い当たる節がある。詩織が単独で会食に出向く時、柊也は必ず「これ以上は飲むな」とリミットを念押ししてきた。どうしても酒を断れない相手なら、あの手この手で言い訳を作って逃げろ。どうしようもなく厄介な相手なら、いっそ契約ごと見送っても構わない——と。だが、当時の詩織はあまりにも必死すぎた。彼が海外へ拠点を移していた二年間、彼女は自分の胃をボロボロにするまで、身を粉にして働き続けたのだ。こんな結果になるなら、最初から彼女に酒の飲み方など教えなければよかった。その時のことを、彼は今でも深く後悔しているらしい。彼女の眉間を優しく撫でる彼の指先から、痛切な後悔が伝わってくる。その瞳は

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第945話

    同じ人間の血が通っているとは思えない、あまりの冷酷さだ。五年間だぞ!この五年、俺がどれだけ地獄を見てきたと思っているんだ!泣きつくようなスタンプを連打しても、柊也は完全スルー。太一は、自分のアカウントがミュートされているのではないかと本気で疑った。【ココロの真理子が、本港市にある桐生キャピタルと接触し始めたらしい。最近頻繁に会ってるみたいだが、何を企んでるかまでは分からない】最後にそうメッセージを送って、ようやく返信が来た。【監視を続けろ】「……」太一は絶句した。『栞』の話題になると死んだふりをするくせに、詩織に関することとなると途端に生き返るのだ。もううんざりだ!【で、お前は華栄で一体何にそんなに忙しくしてるわけ?】自分の会社を放り出すほど、一体何をしているというのか。案の定、柊也はこのメッセージも華麗にスルーした。腹立たしさと好奇心に耐えきれなくなった太一は、詩織への挨拶を口実に、自ら華栄のオフィスへ乗り込んだ。足を踏み入れるなり、詩織に尋ねる。「柊也のやつはどこ?姿が見えないけど」もちろん、詩織も彼のお目当てが柊也であることは百も承知だった。彼女は書類から顔も上げずに答えた。「プロジェクトチームのみんなに、コーヒーを買いに行ってるわ」太一は顎が外れそうになった。「あいつに……パシリでコーヒーを買いに行かせてるのか?」いくらなんでも、大物の無駄遣いが過ぎないか?「何か問題でも?」詩織は逆に問い返した。アシスタントの仕事って、そういうものでしょう?「……いや、何でもない」太一はようやく悟った。要するに、完璧な主従関係が成立しているのだ。一方は平然と顎で使い、もう一方は喜んでこき使われている。完全に惚れた弱みというやつだ。詩織のオフィスを出た太一は、まだ呆然としていた。やがて、外から二十杯以上ものコーヒーを両手に提げて戻ってきた柊也の姿を目撃し、彼の表情は完全にヒビ割れた。本当に、自分の会社の社長室に座るより、ここでパシリをしている方がマシだというのか?だが、さらに太一の正気を奪ったのはその後の光景だった。柊也は買ってきたコーヒーをチームの同僚たちに一つ一つ配り終えると、今度は給湯室にこもり、一心不乱に詩織のための特製ハーブティーを淹れ始めたのだ。誰か、あ

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第944話

    詩織は光一に探りを入れてみた。「どうやら、とんでもない相手を怒らせたようです。詳細は私にも分かりませんが……華栄に大きな損失が出る前に発覚して、不幸中の幸いでした」自分が持ち込んだ案件だったため、光一はひたすら恐縮し、頭を下げ続けた。「江崎社長、今回は本当に申し訳ありませんでした。このお詫びとして、次回はもっと大きな案件を華栄に紹介させていただきます」「岡本さん、どうかお気になさらないでください」光一を見送った後、詩織は業界の友人に連絡して情報を探った。「『栞』って会社、聞いたことある?」友人は逆にそう尋ねてきた。「もちろん。確か、高温超電導の研究からスタートして、ここ一、二年は独自の資産運用会社も設立したはず。いくつものプロジェクトに投資して大儲けしてるって噂よね。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いじゃない」詩織にとって、その社名は強く印象に残っていた。というのも以前、真理子が『ココロ』の出資元として『栞』に目星をつけ、接触を図っていたという話を聞いていたからだ。彼女はかなりの労力を注ぎ込み、あと少しで『栞』の扉をこじ開けるというところまで漕ぎ着けていたはずだった。だがなぜか、突然交渉は白紙に戻された。不意打ちを食らった真理子は、仕方なく本港市の資本に望みを託すことになった。新たな出資者を見つけるため、何度も本港市へ足を運んでいたのだ。当然、詩織にも本港市には人脈がある。真理子のそうした動向は、すべて詩織の耳に入っていた。最近では、『桐生キャピタル』とかなり親密にやり取りしているらしい。桐生キャピタルのトップは、小宮山序だ。だが今、詩織の関心は本港市の桐生キャピタルにはなかった。目の前の『栞』だ。彼女は手元のメモ用紙に『栞』のローマ字、「SHIORI」と書き留めた。社名をローマ字で表記するのは、詩織の昔からの習慣だった。メモを簡潔にするためと、万が一の機密漏洩を防ぐためだ。——高温超電導からのスタート。そこで詩織のペン先がピタリと止まった。ふと、ある記憶が蘇ったのだ。かつて柊也が、志帆のために設立した会社。その名を『パース・テック』と言った。その設立目的も、まさに高温超電導プロジェクトの開発だった。ただし、最終的にそのプロジェクトは大きな事故を起こし、結果としてエイジアま

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第501話

    ここ最近、先生はずっとAIの話題ばかりだったしな……「これからはAIの時代だ。お前も暇な時はこの対局ソフトと打ってみろ」と、やけに熱心に勧めてきたことを思い出す。「どうして急にAIなんです?」と尋ねると、脇でお茶を淹れていた家政婦が笑って口を挟んだ。「それはもう、先生の可愛い愛弟子さんがお勧めになっているからですわ」「なっ、馬鹿を言うな!私はまだあやつを弟子と認めたわけではないぞ!うちの大学院に受かってから言え!」高村教授は顔を真っ赤にして否定したが、家政婦は楽しそうにクスクスと笑っていた。「本当に素直じゃないんですから。あの子のニュースが出るたびにチェックして、お友達

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第519話

    詩織という女には、つくづく呆れ果ててしまう。京介の気持ちを弄びながら、一方で譲とも怪しい噂があり、今度は賢にまで色目を使っているのか。その節操のなさに、志帆は心底軽蔑した。彼女はスマートフォンを取り出すと、意地悪な笑みを浮かべてグループチャットにメッセージを投げ込んだ。【ねえ、江ノ本大学で誰を見かけたと思う?】この手の話題に食いつくのは、決まって『穀潰し』の太一ぐらいなものだ。要するに、暇なのだ。『衆厳メディカル』に詩織が資本参加して以来、彼の実質的な発言権はほぼ失われ、ただ配当を受け取るだけのその他大勢の株主と変わらなくなっていた。毎日やることといえば、無駄に

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第510話

    「えっ、もう帰っちゃうの?」志帆の声には明らかな驚きが混じっていた。「ああ、実家で急用ができてね」それが建前だと気づいたかどうか。志帆は落胆しつつも、努めて明るく振る舞った。「そっか……残念。じゃあ、今度北里でロードショーをする時に埋め合わせさせて」その提案に対し、悠人は肯定も否定もしなかった。ただ無言で通話を切った。志帆はその沈黙の意味を深く考えなかった。悠人が自分にどれほど心酔しているか、誰よりも知っていたからだ。気を取り直し、彼女は他の招待客への連絡を続けた。だが、現実は冷酷だった。以前なら、柊也の顔を立てて媚びへつらってきた連中が、潮が引くように態度を変えて

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第518話

    【時間は取らせない】【電話でも、会ってでもいい。君の都合に合わせる】返信がなかったからか、それ以上のメッセージは来ていなかった。詩織は迷うことなく、履歴を削除する。身支度を整えている最中に、再び着信があった。画面にはやはり柊也の名が表示されている。時計を見ると、まだ六時半だった。よほど焦っているらしい。彼とは長い付き合いだが、誰かのためにここまで取り乱す姿を見たのは初めてかもしれない。だからといって、それに応じる義務など自分にはない。今回の森田和代の件に関していえば、自分は完全な被害者なのだ。誰であれ、情に訴えて自分を言いくるめることなんてできない。

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status