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第1052話

Author: リンフェイ
唯花は奏汰と隼翔に微笑みながら挨拶を返した。隼翔が入った後、彼女は玄関を閉めた。

そして振り返ると、おばあさんがこの時すでにみんなに朝食を食べるよう声をかけていた。

理仁は愛妻家だから、唯花が好きなものを熟知している。奏汰に持って来させたものは全て唯花の好きな食べ物ばかりだ。内容も豊富で、隼翔がここにはお呼びでない存在であったとしても、ここにいる全員が食べるには十分な量があった。

お腹いっぱい食べた後、おばあさんは直に隼翔に言いつけた。「隼翔君、今から唯月さんのところに、彼女と陽君を迎えに行ってから、琴ヶ丘のほうへ向かってくれるかしら」

それを聞いた隼翔は一瞬驚いた目をして、すぐにどうして俺が行く必要がある?と言いたげな顔をして尋ねた。「おばあさん、一体バーベキューは何人誘ってあるんですか?」

「私だってうちの者が何人今日帰って来られるかはわからないのよ。どちらにせよ家族グループには知らせてあるの。星城にいる者は全員、今日琴ヶ丘のほうへ戻るようにってね」

隼翔「……」

それを聞くと、なんだか結城家が家族会議でも開くような感じだが。

彼はそもそも仲の良い友人たちと数人集まって、一緒にバーベキューやお酒を飲んで春の美しい景色を堪能しようと思っていただけだった。それがどうして結城家の家族の集まりに変わってしまったのだ?

「出かけましょう。もうこんな時間だわ。琴ヶ丘のほうへ戻るのにも一時間は車でかかるんだし」

市内だから渋滞しやすいので、時間がかかってしまうのだ。

「私と唯花ちゃんは理仁の車に乗るし、奏汰は唯月さんのマンションの場所がわからないからね。隼翔君、唯月さん親子のことはあなたにお願いするしかないわ。ささ、早く行った行った、ぐずぐずしてないで。今日バーベキューしようと言い出したのはあなたでしょう」

隼翔はおばあさんの命を受け、仕方なく車の鍵を手に取ると歩きながら言った。「結城おばあさん、俺はただ親しい友人数人で集まろうと提案しただけですよ。おばあさんのところにこの話が通ると、結城家の集まりに変わってしまったではないですか。

俺の気持ちも考えてくださいよ、気まずいじゃないですか」

おばあさんは彼に言った。「気まずいって言うのなら、陽ちゃんが見たら怖がるからその顔の傷痕をレーザー治療でもしていらっしゃい。そしたら陽ちゃんも抱っこさせてくれるよ
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