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第1073話

Author: リンフェイ
「陽……陽ちゃんはまだ小さい子供なのよ……それに、あの子の親権は唯月が持ってる。俊介はただ毎月養育費を払っていれば、あの子が十八歳になってからはもう支払う必要はないし。将来、陽ちゃんが大人になった後に俊介がお金を出す必要なんてないんだから。彼が生きていたって、別にうちの財産を争うなんてことはしないはずよ」

「人の心は変わりやすいものよ。死んでしまえば、完全にあなたの子供と相続争いをすることなんてなくなってしまうわ」

莉奈「……私にはまだ子供はいないもの」

「まさかあなたって子供ができない体質なの?」

莉奈は言葉に詰まった。

すると相手は笑いだした。「成瀬さんって不倫だなんて道徳的にどうかって思うようなことはするのに、良心はある人みたいね。私もただこちらの計画を言っただけよ。別に陽って子を殺さないといけないわけじゃないの。

私はね、陽を利用して内海唯花をおびき寄せたいだけなのよ。叔母と甥の関係はとっても良好みたいじゃない。あの子供のためなら、あの女は喜んで一人で私に会いに来るはずよ」

彼女は唯花だけで来させたいのだった。

それを聞いた莉奈はホッとした。

彼女はただ他人の夫を横取りする勇気はあっても、他人の子を殺すような残酷な心を持っているわけではないのだ。

「陽ちゃんをさらってから、指一本彼に触れないって約束できますか?」

「あの子が大泣きして暴れるようなことがなければ、指一本触れないっていう約束はできるわよ。どうせあの子はただ内海唯花をおびき寄せるための餌でしかないもの。ただ私はあの女に復讐したいだけよ」

莉奈は心の中で、唯花はどうしてこのように残酷なことを簡単に考えるような女を怒らせたのだろうと思っていた。

それとも、この女は結城理仁に恋焦がれていて、理仁が唯花と結婚したということを知り、嫉妬から唯花に復讐し殺したいと思うようになったのか?

そして自分が結城理仁の妻の座につこうというのか?

「どうかしら、成瀬さん、私に協力してくれる気になった?」

莉奈はビクビクしながら尋ねた。「断ることができるんですか?」

「もちろんよ。だけど、そんなことしたらどうなるかわかるよね。成瀬さんが……女性が最も怖いのは何か、あなた知ってる?」

その瞬間、莉奈の顔色が再び青ざめた。

「成瀬さんが私に協力してくれるのであれば、ひどい目を見るのは内海唯
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