Masuk姫華は笑って言った。「それはあなた達の目から見て、良い子だって思うだけでしょ。他の人からすれば、私はわがままなお嬢様なの。ご夫人たちも私を息子の嫁に迎えようとは思わないのよ。私みたいなじゃじゃ馬を上手く乗りこなせないと思ってるんだからね」そんなことは誰にもできはしない。神崎家の力は強大なのだから。普通の名家は、本当に姫華を嫁に迎えたいとは思っていない。そして神崎家と同等の家にいる男性は、すでに結婚しているか、彼女よりも年下ばかりだ。姫華は年下と恋愛するつもりはない。「それはそいつらの目が節穴だからよ。何も考えずあなたのことをわかろうともせずに、周りの噂に振り回されてるだけだってば。私も唯花も、あなたに初めて会った時、とても正直で、裏表のない子だって思ったのよ」明凛はまたキッチンにジュースを作りに戻った。「姫華は本当に素敵な子よ。私たちの仲が良いから、聞こえの良い言葉を言っているわけじゃないわ」姫華もキッチンに入ってきた。そして明凛がオレンジを搾るのを見ていた。「さあ、教えて。一体誰に告白されたの?桐生善さん?」明凛は尋ねた。姫華「……あなた知ってたの?」善が姫華のことを好きだということを、みんなは知っていたのか?明凛は笑って言った。「彼のあなたに対する態度はあからさまだもの。姫華に近づくために、隣の中古物件をかなりの金額で購入したでしょ。まさか彼が家がなくて困ってるわけでもあるまいし。星城にはもっと条件の良い物件がたくさんあるでしょ、それなのに彼は買わなかったわ。わざわざ中古物件を買いに行くってことは、つまりあなたを狙って以外に何があるっていうの?」姫華「……善君があの中古物件を買った時に、あなた達もう気づいていたのね。あの頃は、まったく他のことは考えてなかったわ。ただ、あのお屋敷はうちも狙っていたから、彼が購入するのも当然だとしか思ってなかった。彼が内装を変えることにして、私にいろいろ聞いてきたの。その時だって、余計なことは考えずに、私のアイデアを彼に伝えたわ。それを彼は採用してくれて」「それはあなたに近づくために買ったってこと。疑うまでもなく将来あなたと一緒に住むためよ。姫華の意見を聞いたなら、それはもちろんその意見通りに内装だって進めるわよね」姫華は少し黙ってから尋ねた。「明凛、ねえ、彼の告白
「善君、少し考えさせて」姫華は善の告白を断ることはなかったが、瞬時に受け入れることもなかった。彼女には考える時間が必要だった。善はそれを理解して言った。「もちろんです。ゆっくり考えてください。僕も焦っているわけではありません。僕のことを受け入れられなかったとしても、いつまでも待つつもりです。いつかきっと僕のことを好きになってくれると信じています」その言葉を聞き、姫華は笑った。「私はただ、ちょっと急に告白されたものだから」「確かに唐突でした」善は申し訳なさそうにそう言った。彼は、周りのみんなが彼の姫華に対する気持ちに気づいているので、これ以上告白せずにもたもたしていては駄目だと思った。そして姫華にも聞かれたことだし、いっそのことこの場で告白してしまったのだ。彼女のことを愛しているのだから、その気持ちをきちんと伝えなければ。ちゃんと言葉にしなければ、愛というものは伝わらないこともあるのだ。この時、二人の間には静寂が流れた。少しの間座っていて、姫華は立ち上がり言った。「もう帰りましょうか」「ええ」散歩に出かける時には、二人は楽しそうに話していた。そして帰りには何も話さなかった。姫華が話す気がなかったのだ。神崎家に到着すると、善は長居はせず、隣の内装途中の家に帰っていった。それから五分も経たずに、姫華は車で出かけた。唯花の店に向かったのだ。もちろん、親友二人に会うためだ。そして本屋に到着してみると、明凛しかいなかった。「唯花は今いないの?」姫華は店に入って明凛を見てすぐに尋ねた。「ブルームインスプリングに行ったのよ。たぶんもうすぐ帰ってくるよ。唯花に用だった?」明凛は今オレンジを絞ってジュースにして飲もうとしていて、姫華に尋ねた。「あなたも飲む?いるなら、もう一杯作るけど」「じゃあ、お願いしようかな。毎回お茶ってのも味気ないしね」明凛は笑って言った。「まあ、お茶はね。もし飽きたならいつでも私たちに言ってよ。紅茶にお砂糖入れてあげるから。本屋には本ばっかりで他にめぼしい物なんてないし」姫華レジの奥にある椅子に座った。「飽きたとは言えないけど、ジュースを今日はもらうわ」「ちょっと待っててね」明凛は段ボールからまたオレンジを取り出した。「姫華、唯花に用があったんじゃ
姫華はベンチに腰をかけた。「それならよかった。今は周りのああいうラブラブした空気には本当にまいってるのよね。毎回、唯花と明凛を見ていると、すごく羨ましくなっちゃう」「姫華さん、もう彼女たちのことを羨ましがる必要なんてないですよ。これから、あなたも同じように幸せになれるんですから」「これからの事なんて、誰にもわからないでしょ。だけど、もし結婚して幸せになれなかったら、耐え続けることなんてしないの。将来の夫が私を悲しませるようなことをするなら、さっさと離婚してやるんだから。お兄ちゃん達二人に一生養ってもらうわ」結婚後、女性は実家から支えてもらう。姫華は自分の家はかなり頼りになると思っている。「そんなこと有り得ませんよ。姫華さんの夫側は絶対にあなたに良くしてくれます」善は自分の家は、年配世代に誰一人として息子の嫁を苦しめるような人間はいないと自負していた。「私のことはいいから、早く善君のことを教えてよ。あなたが好きになったのはどこのご令嬢なの?きっと星城の方でしょ。だって、ここに家まで購入したのは、その人のためなんだろうから」善は頷いて素直にそれを認めた。「そうです、彼女のために買ったんです。彼女に近づくためにね。頻繁に会って、近くにいて仲を深められるように。あの家の内装も彼女にアドバイスをしてもらって、あれでいいとお墨付きをもらったんですよ」姫華「……善君、なんだか私のことを言われてる気がするんだけど」善は姫華を見つめて、真剣な眼差しで言った。「姫華さん、気がするのではなくて、まさにあなたです。僕が好きなのは姫華さんです。あの家を買ったのは神崎家に近く、今後隣同士になって、あなたと頻繁に会うためだったんです。もし、あなたと一緒になれたら、あの家に長く住もうと思って。そうすれば、あなたはすぐに実家に帰れるでしょう」姫華「……」彼女はそれを聞いて意外でもあったし、なんとなくそうかもしれないとも思っていた。食事の時に、結城おばあさんが匂わせるような言葉を言っていたからだ。その時、かなりびっくりしたが、よく考えてみれば、おばあさんの言うことも正しいと思った。確かに善はわざとらしい行動を取っていた。ただ彼はひたすら告白してくることはなかったので、姫華もあまり考えすぎて心が乱れないようにしていたのだった。自分がまた勝手
この時、善が姫華を連れ去ってしまうのではないかと家族から心配されていることを、当の本人は全く知らなかった。姫華は善と一緒に神崎家を後にすると、アスファルトの道に沿ってゆっくりと歩いていた。普段、出入りはいつも車だから、今まで住宅地周辺の景色をゆっくりと見たことはなかった。「長年ここに住んでいるのに、今やっとこの辺りがとっても綺麗なんだって気づいたわ。自然も多いし、道端には休憩用のベンチがあって、道を挟んだところには東屋もあるし」住宅地の中には小さな公園がある。公園には緑が生い茂り、子供たちが遊ぶための遊具もある。神崎邸は小さな数棟の家を買い取って、自ら大きな邸宅へ改装したものだ。家にはトレーニング用の部屋も備えている。それで、姫華はあまり住宅地の中の公園に足を運ぶことはなかった。普段は車で出入りするものだから、その時ついでに周りの景色をざっと見る程度だった。「この周辺は環境がとてもいいです。だから姫華さんの家の隣にある家が売りに出された時はすぐに購入したんですよ。ここの環境も、セキュリティもとても高いですから。それにかなり広いですし、中古物件とはいえ、とてもお買い得だと思いますね」善は歩きながら、中古のあの屋敷を購入したのは、まるで宝物でも拾ったかのように話していた。確かに彼からしてみれば、宝物を手に入れたようなものだろう。隣に住む姫華にアタックできる機会がぐんとアップしたのだから。「あなたが買ったあの家は本当に宝物を拾ったも同然よ。あのおうちの敷地面積はとっても広いし、うちだってあの家を購入したいと思ってたの。だけど、あなたのほうが早くて取られちゃったわ」姫華は歩きながら笑って言った。「あの時、お兄ちゃんが誰かに先を越されたって知った後、まさか自分たちよりも手が早いやつがいるなんてって言ってたわよ。一体誰かと思ってたらまさか善君だったなんてね。ねえ、あなたの目の付け所は良いわね。あの家を買って正解だったと思うわよ。それにまた風水がわかる人に頼んで見てもらったんでしょ。引っ越して来たら、きっと仕事はますます順調に行くわよ。もしかしたら、アバンダントグループの子会社も大企業に成長しちゃうかも。それから、善君が好きな人だって、彼女のために準備したお屋敷をとっても気に入ってくれるはずだわ」善の屋敷の内装は姫華にア
神崎家で食事を済ませた後、おばあさんは詩乃と少し世間話をして、晴を連れて帰っていった。全員で二人を見送り、晴がおばあさんを乗せて車を走らせ去っていくと、詩乃は振り返って善を見つめた。彼女は口を結び、結局は何も言わずに部屋の中へと戻っていった。理紗は食後休憩する必要がある。航は詩乃に付き合ってどこかへ行ってしまった。そしてすぐ、姫華と善の二人だけが庭に残される形となった。「ちょっと一緒にお散歩しない?」姫華のほうから善を誘った。善は優しく微笑んだ。「食後の運動をすれば健康でいられますしね」姫華は彼の微笑みを見つめた。彼の印象はいつだって穏やかで優しい。彼女と話す時はいつでも、微笑みを浮かべている。その笑みはまるで優しく温かい春風のように気持ちがいい。二人は一緒に神崎邸から出ていった。そして二階にある部屋では、詩乃が窓辺に立ち、可愛い娘と善が一緒に出かけていく様子を見ていた。彼女は厳しい顔つきで航に言った。「桐生家のあの坊ちゃんったら、また姫華を言いくるめで散歩に行ったわ」航が近づいてきて、窓の外を眺めた。本当に娘と善が肩を並べて外に出かけていっている。二人が何を話しているのかわからないが、楽しそうに笑って歩いていた。そして航は視線を戻すと、妻の恐ろしい顔つきをみて、おかしくなりこう言った。「そんなにあの二人が仲良くするのが嫌いなら、はっきり言えばいいだろう。ここでそんな険しい顔をしていたって、姫華には気づかれないぞ。その桐生家の坊ちゃんにだって見られないんだから」「あのお坊ちゃんは何も見えていないのよ。いつもいつもうちに食事に来て、私は不機嫌な顔であの子に視線を送っているっていうのに、全く理解しないみたいなの。姫華が彼とは友達なんだって言うのよ。二人はいつも楽しそうに話しているし、姫華の前であまり失礼な態度なんて取れないじゃないの」詩乃は若い頃、夫と一緒にビジネス界では、はっきりと物を言いその名を轟かせていた。しかし、善が姫華に近づいていくのを阻止することができなかった。姫華はたしかに善のことを友人と思っている。しかし善の姫華を見つめる優しい瞳の中には燃えるような情熱が隠れている。彼女のことを愛しそうに見つめるその目からは、明らかに好意が見て取れるのだが、自分の気持ちはまだ打ち明けていない。
「今後時間がある時にはおばあ様とチェスを楽しみたいですわ」詩乃はおばあさんの話ももっともだと思っていた。結城家と神崎家が以前どのような関係だったとしても、今では親戚同士なのだ。親戚も頻繁に交流することで、仲を深めていける。詩乃は唯花と唯月とは血の繋がる家族だ。彼女たちを支えるためにも、結城家とはもっと親しくしておく必要がある。そうしないと世間から、両家が不仲だと言われてしまうだろう。「いいわね」おばあさんは嬉しそうにその誘いを受け取った。「おばあ様、それではお食事にしましょう」詩乃はまた食事を勧めた。おばあさんはひとこと「ええ」と返事し、詩乃が立ち上がると、彼女も続いて立ち上がった。姫華がおばあさんの近くにいたので、すぐに近寄りおばあさんの体を支えた。おばあさんは少し彼女に支えてもらって、すぐに笑って言った。「ステッキがなくたって、飛ぶように素早く動けるのよ」彼女はステッキを持っているが、それは誰かにおしおきするために持っているのだ。恐らくおばあさんも武道を嗜んだ人間だし、若い頃は特殊な身分だったため、足腰がまだまだ衰えていないのだろう。山登りするのも、彼女の嫁たちもおばあさんには敵わない。「十年経っても、おばあ様ならステッキなんて必要ないかもですね」姫華は笑って言った。「唯花たちに子供ができて、やんちゃに駆け回るようになったら、おばあ様のステッキの出番かもしれません。言うことを聞かない生意気なガキを追い回すんです」おばあさんは、自分がステッキを持ってひ孫たちを追いかけ回す光景を想像し、思わずニヤリと口元が緩んでしまった。そして彼女は姫華の手を軽く叩いた。姫華はおばあさんのほうを見つめた。「良い男はたくさんいるわよ。気遣いのある優しい子で、あなたにぴったりな殿方は意外と近くにいたんだと、いつか気づくわ」おばあさんはこっそりと姫華だけに聞こえるようにそう言った。そして言い終わると、善のほうへちらりと視線を向けた。詩乃はこの時、善を食事に誘う言葉を言わなかったが、みんなは善が一緒に食事をとることに慣れてしまっているから、わざわざ声をかけるまでもない。食事の時間になると、善は勝手にみんなの後についてダイニングに入っていった。使用人たちも善の食器はいつも準備している。姫華が一緒にいるため、詩







