Masuk晴はどんな仕事でも必死に頑張ると言ってはいるものの、心の中では理仁が彼を管理の難しい小さな工場を任せることだけは勘弁してほしいと思っていた。結城グループはマンモス企業で、子会社も多くある。子会社にはそれぞれたくさんの関係会社を持っている。その中にはもうすぐ倒産してしまうくらいに経営危機に陥っている会社も存在する。理仁の弟や従弟たちが働き始める頃、通常おばあさんか理仁が彼らに仕事の手配をする。時にはそのまま結城グループの一般社員として始めることもある。そしてまた時には経営が難しい、もうすぐ倒れてしまう小さな会社で鍛える場合もあるのだ。こちらのほうが自分の実力を試す意味でプレッシャーが大きい。もし、その倒産危機の関連会社を立て直すことができ、またさらに会社を成長させることができれば、実力があると証明できる。ビジネスの才能が非常に高いのだ。その最初の関門をクリアしたら、理仁は次に実力のある子会社に彼らを送り、鍛えあげる。そして最後に、彼らのその成績に応じて、結城一族が経営するどの業界で働かせるかを決定する。ゆくゆくはその事業を率いていくのだ。もし結城家が経営する事業が嫌なら、自分で会社を創立してもいい。しかし、そのための資金を結城家が無償で提供することはない。彼らは先に借金する形で創業の資金を調達する。その借用書の作成に加えて、利息もきっちり支払わなければならない。おばあさんは常に孫たちに、結城家は金持ちであるが、自分たちがお金を持っているわけではないのだと口を酸っぱくして言い聞かせていた。結城家の財産は、これまで祖先が蓄えてきたものであり、彼らのものではない。自分が金持ちになりたいのであれば、自分の力で必死に稼ぐ必要があるのだ。それ故、彼ら結城家の子供たちは、自分で会社を作ろうとしても、家からただで創業資金を得られるわけではない。しかもその間、結城グループの力を借りてもいけないのだ。全てを自分の力だけに頼ってやるしかない。もちろん、おばあさんが世話をしてきた子供や孫たちは、今まで彼女を失望させたことなどない。家業を継ぐにしろ、自分で新事業を行うにしろ、誰もがおばあさんを満足させるものだった。おばあさんは頷いて、明凛も腰をかけてから、ある招待状を取り出し、それを彼女に渡した。「明凛ちゃん、結城家は来週の土曜日
明凛は笑って、気まずくならないよう晴を名前で呼び直した。心の中で、結城家の坊ちゃんたちはそれぞれ性格が違うが、みんなかなりイケメンだと思った。それも雑誌の表紙を飾れるくらいのレベルだ。明凛が毎日読む小説に出てくる男主人公よりもカッコいい。「おばあちゃん、そんなにたくさん、一体何を持って来てくれたの?」唯花は袋をレジ台に乗せて、その中身を確認してみた。「別に大したものじゃないのよ。うちには体に良い食べ物がたくさんあるから、いくらお年寄りが食べたほうがいいからって言っても、食べ過ぎはやはり良くないでしょう。摂りすぎると逆に良くないってことはあるから。それで、あなたのところに持って来たのよ。若い人は毎日仕事でとっても疲れているだろうし、健康的なものを食べて補ったほうがいいからね」おばあさんは続けて言った。「それから海の幸も持って来たのよ。麗華さんがあなたにって。あなたが海鮮が大好きなのを知っているから」「今は理仁さんと一緒に瑞雲山の家のほうで暮らしてるから、何でも揃ってるのよ」しかし、義母が自分の好きな物を覚えていて、こんなにたくさん持って来てくれたのでとても嬉しかった。「麗華さんが持って行けって言うんだもの、おとなしく持って来るしかないでしょ」おばあさんは、まるで自分は配達員とでも言わんばかりだった。唯花は椅子を運んできておばあさんを座らせ、明凛はこの二人にお茶を入れてくれた。晴は手に持っていたものを下に置いて、唯花が椅子を持って来てくれるのを見ると急いで自分から取りに行き、感謝も忘れなかった。「おばあちゃん、会いたかったわ」おばあさんは軽く唯花の額を突っついて言った。「口ではそんなふうに言って、本気で会いたいと思ってるなら、理仁と一緒に琴ヶ丘で暫くの間暮らしてくれたらいいじゃないの」「だってあっちはかなり遠いんだもの。だったら、おばあちゃんのほうが前みたいにうちに引っ越して一緒に暮らしたらどう?」唯花は琴ヶ丘が嫌いなわけではない。そこは市内から結構離れた場所にある。彼女は毎日病院へ姉の見舞いに行き、時には陽の世話をしないといけないので、それを考えると琴ヶ丘で暮らすのは不便なのだ。理仁が購入したあの邸宅のほうがかなり便利だ。それこそ、理仁が当初通勤に便利だと思い、瑞雲山邸を購入したのだ。おばあさ
唯花は理仁に尋ねた。「辰巳君は会社を休んでるでしょ。九条さんだって今日出勤するとは限らないわ」理仁は笑った。「秘書に会議は遅らせると伝えればいいさ。行こう、送って行くよ。君の車は中野に店まで運転させるから」唯花は理仁の言う通りにすることにした。「夕方迎えに行くよ。夜は会食があるから、一緒に来てほしいんだ」「いいわよ」唯花は快くそれに応えた。理仁は唯花を本屋に送った後で会社に向かい、この日の仕事を始めた。明凛は今日店にやって来た。唯花は彼女をからかって言った。「家で結婚式の準備しなくていいわけ?お宅の旦那さんはそれに神経をとがらせているじゃないの、今日は来ないかもしれないと思ってたわ」「別に私がやることなんて特にないもん。家にいても暇だから来ちゃった」明凛からはキラキラと輝く幸せオーラが出ていて、唯花は前よりも綺麗になったと思った。唯花は明凛の頬に手を伸ばして軽くつまむと、褒めた。「肌イイ感じね。なんかどんどんすべすべになっていってない?愛がここまで女性を綺麗にさせるのね。もし私が男だったら惚れちゃうところよ」明凛も唯花の顔をつねった。「あなただって同じでしょ。結城さんがくれたスキンケアは本当に効果抜群みたいね」唯花は笑って言った。「実はもらったものは、姫華がくれたのとほぼ一緒よ。定期的に一番腕の良い美容師さんを家まで呼んでエステしてもらってるの」日々の生活において、理仁は唯花に最高のものを贈っている。一度たりとも彼女を適当に扱ったことなどない。スピード結婚したばかりの頃でも、彼女にはきちんとした生活を送らせてくれていたのだ。「結城さんってどんどんあなたのためにやってくれるよね。ホントすごいスピードで成長してるって感じ」「おばあちゃんが、良い男は自分の手で育てろって言っていたわ」結城おばあさんの話になり、明凛は言った。「長いことおばあちゃんに会ってないから、懐かしくなっちゃった」「あらそう?ちょうど来たわよ」噂をすれば影が差す。おばあさんは何も連絡することなくやって来た。おばあさんは相変わらず生気に満ち溢れていて、しっかりとした足腰でサッと歩いて来るのに、彼女からは高貴で優雅、大らかな気質も伝わってくるのだ。毎回結城おばあさんに会うと、唯花は自分は何を見ていたのだ、本当
唯花は隼翔が去っていくのを見ていた。その後、理仁のほうを見てみると、彼はかなり落ち着いた様子だった。まるで隼翔のこのような反応は前からわかりきっていたと言わんばかりだ。しかし、理仁は隼翔を外まで見送った。「唯花、お店のほうも忙しいだろうし、そっちに戻りなさい」「お姉ちゃん、暫くここにいるわ」「私は今誰かに付き添ってもらわなくても、自由に動けるし、体調もかなり良いの。お医者さんがダメって言わなければ、もう退院したいくらいよ」唯月はまんぷく亭のことが気になっている。「それはダメだよ」唯花は言った。「あと数日してから退院ね。退院したとしても、すぐにお店で仕事を始めたらダメよ。家で静養してなくっちゃ」「病院でもう半月近く休んでいたのよ。退院してからもまだ休まないといけないなんて、体が逆に悲鳴をあげそうよ。退院したら、お店の様子を見に行くわ。別に忙しく動き回るわけじゃないの、レジを担当するだけ、いいでしょ?安心して、体は私自身のものなんだから、絶対に無理をさせたりしないって」唯花は隼翔が持って来た袋を開けた。「お姉ちゃん、お医者さんに聞いて食べる?」「そんなにたくさんあるんだもの、東社長がもう行ってしまったら、清水さんたちにおすそ分けしましょう。彼女たち毎日ずっと私のことを見てくれていて、とても大変だもの」隼翔は花とその袋を置くとすぐに去っていった。きっと、唯月が見舞い品を断ると思ったのだろう。実際、彼があんなに早く去っていかなければ、唯月はその袋は彼に返すつもりでいた。隼翔の気持ちを知ってから、唯月は彼とは距離を保とうと思っている。彼が持って来てくれたものは、食べたくもないし、こんなにたくさんあっても困る。普段から、見舞いにくる人たちが持って来てくれた物は、清水とヘルパーにも分けていた。そうじゃないと賞味期限が切れたものは捨ててしまうのだ。以前かなり苦労をして生きてきた唯月にとって、そのように捨ててしまうのは非常にもったいなく感じてしまう。清水にあげれば、喜んでくれてもっとやる気が出るだろう。「結城さんから東社長に言ってもらって。こんなにたくさん持ってきてもらっても食べきれないって。だから今後お見舞いに何か持って来る必要はないから。彼が持って来ても、それは清水さんたちに分けるだけだからって」
ボディーガードは理仁から目配せされて、その意味を理解した。隼翔は最後に病室に入っていった。その時、俊介は隼翔が自分同様に花束を買い、見舞いの品を提げてきているのを見て、彼が唯月にアプローチし始めたと悟った。彼は瞬時に不愉快になり、複雑な気持ちになった。「唯月、おい、唯月……」俊介は二度唯月の名前を呼んだが、陸に口を塞がれて黙ってしまった。陸はまだ若く、不良たちとある時期ずっとつるんでいて、非常に素行が悪い。俊介に対して一切手加減などしなかった。俊介のようにオフィスワーカーをしていた軟弱者など、十八歳になったばかりの血気盛んな若者の相手にはならない。俊介は陸に口を塞がれて、遠くのほうまで引きずられていってやっと解放された。「てめぇ、俺を窒息死させる気か?」俊介は陸を貶した。「細かいことを言わなけりゃ、実際お前は俺には敬語を使って話すべきだろ、お前の従姉の夫だぞ」「はあ?何が唯月さんの夫だよ。てめぇにはそんな資格はねぇし。本当に恥ずかしい野郎だな。てめぇと唯月さんは半年前に離婚しただろうが。んで、てめぇのほうは再婚して数カ月経ってんぞ。そのくせ、よくもまあ唯月さんの夫だとぬかせるよな、ざけんな!」陸は若く血の気が多い。俊介のひとことに、何度も汚い言葉を吐き出していた。聞いただけでも、耳まで汚れそうなくらいだ。俊介は陸からまくし立てられて、唾まで飛ばされて、吐いてしまいたいくらい気分を害された。そしてすぐにハンカチを取り出して、顔にかかった唾を綺麗に拭いた。「内海とか言ったよな、お前らは唯月たち姉妹とは仲が悪かったはずだぞ。最近何か美味い汁でもすすらせてもらったのか?お前と、あの死にぞこないの老人二人して、うちの家族を妨害しやがって」陸は冷たく鼻で笑った。「唯月さんじゃなくて、お前らの味方するとでも思ってんのか?俺らがいくらあの姉妹と仲が悪かったとしても、同じ内海家のもんだぞ。てめぇらは佐々木って名前だろ!唯月さんたちともっとひどい喧嘩になったとしても、同じ祖先を持つ親族なんだよ。おい、佐々木。言っとくが、また唯月さんに付き纏いでもしてみろ、覚悟しとくんだな、タクシーの運ちゃんすらできなくしてやるからな!」俊介はそのからまた何度か陸を罵って、さっさと退散してしまった。病室の唯月は外の様子が聞こえて
隼翔は唯花の話を聞いて、思わず心の中で不満を漏らしていた。さすがは理仁の妻。二人は物事への見方と、言う言葉がほぼ同じだ。「内海さん、俺はお姉さんが再婚するまでは諦めないと思うとだけ言っておくよ」とても真剣な表情で彼はそう告げた。それを聞くと唯花もこれ以上は何も言えない。ある原因を除いて、東隼翔という人物のことは彼女も高く評価しているのだ。そして三人は入院病棟に入った。唯月の病室まで来ると、なんと朝早くから俊介が病室の前に居座っていた。この日、俊介はたった一人で来ていて、母親と英子は一緒ではなかった。俊介も同じく花束と、お見舞いの品を提げていた。両親からそうしろと言われたのだ。俊介がいたので、唯花は少し驚いていた。おじいさんとおばあさんはこの男を止めるのに失敗したのだろうか。しかし、佐々木母と英子は来ていないので、まあまだマシだ。俊介は今、不安定な状態で、簡単に追い払うことができる。「ちょっと、そこの佐々木さん、また唯月さんの邪魔しに来たんですか。さっさと帰ってくださいよ!」この時、陸が唯花たちを通り過ぎて、勢いよく俊介の前に現れた。片手で俊介が持っていた花束を奪い取ると、それを床に投げ捨て、足で踏みつけてしまい、花束は無残な姿に変わってしまった。それから、もう片方に持っていた袋も取り上げようとしたが、俊介はそれをしっかり死守していた。陸はどうしても奪おうと必死だったが、すぐそばにいるボディーガードたちはただ傍観しているだけだった。「陸」唯花が近づいてきて、従弟を呼んだ。「唯花さん、来たんですね。こいつ最低っすよ。両親を使ってじいちゃんとばあちゃんを阻止して、こいつだけ逃げてきたんです。俺が車で追いかけて来たけど、追いつくことができずに、唯月さんの邪魔をさせてしまうことになってしまって」陸はそう説明しながら、俊介の気が散った瞬間に、ようやくあの袋を奪い取ることに成功した。その場にいた全員は陸がそれをそのままゴミ箱に捨ててしまうかと思っていたが、彼は中に入っていたものを取り出して食べ始めた。その場にいた全員が言葉を失った。「おい、内海陸とか言ったか、それはお前に買ってきたんじゃねぇぞ」俊介はそれを奪い返したが、陸は一気に半分ほど食べてしまった。俊介は怒りに顔を真っ赤に







