Share

第2761話

Author: リンフェイ
隼翔は自分のことを廃人だと思っていることを口には出していない。唯月がそんな言葉を聞けば、心を痛めて、励ましの言葉をたくさんかけてくるはずだ。

唯月はホテルの部屋にある電気ポットとカップをサッと水洗いして、お湯を沸かし、ドリップコーヒーを淹れた。それを運んできてテーブルの上に置き、彼に言った。

「かなり熱いから、少ししてから飲んだほうがいいかも」

リリリリ……

唯月の携帯が鳴った。

彼女は携帯を取り出して着信を確認し、隼翔に言った。

「唯花からだわ」

彼女は妹のほうで何かあったのかと思い、すぐに電話に出た。

「唯花?何かあった?」

「おかあさん」

携帯越しに、陽の幼い声が伝わってきた。

「あら、陽だったの。やっとお母さんのことが恋しくなって、電話かけてきたのね?」

唯月は笑ながら息子をからかった。

陽は寂しかったのか、口を尖らせて、再び母親を呼んだ。

息子の寂しそうな声を聞くと、唯月は心配して尋ねた。

「陽、どうしたの?何かあった?お友達と喧嘩でもしたの?」

「ううん、隼翔おじちゃん、ひどいや。ぼくに何も言わないで、こっそりおかあさんのところに行ったでしょ
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第2764話

    隼翔は喜んで陽の継父になろうと思っているので、少なくとも息子の家庭には子供が一人いると美乃里は考えていた。そして、もしかすると、陽の兄弟を作るために唯月がまた子供を産むかもしれない。陽はずっと妹が欲しいと言っていた。唯花のお腹にいる子供は、みんな息子だろうと予想している。そして陽が妹がほしいと思ったら、母親に妹を産んでほしいと頼むはずだ。そうなれば、隼翔と唯月の間に子供ができる可能性は十分にある。その子が娘だろうが、息子だろうが、隼翔自身の子供であるのなら、美乃里は嬉しかった。もちろん、そんな考えを持っていることを彼女は表に出すことなどできない。隼翔が交通事故を起こして、足が不自由になったことで、彼の両親は嫁の家柄にこだわらなくなった。「今日はこれで失礼します。次回時間がある時にまたお邪魔します。陽ちゃんもよくここへは来るはずですから」唯花が陽と瀧を連れて今帰ると言うので、美乃里はどうしようもなかった。そしてお菓子や果物などたくさん唯花に持たせようとした。「おば様、こんなにたくさん必要ありませんよ。それにこれ以上食べたらもっと太ってしまいます」妊娠してからというもの、家には山のように人からもらった物が積まれているので、また誰かが贈り物を持ってくると頭が痛くなるのだ。美乃里は笑って言った。「もっと、って全然太ってないわよ。妊娠したのだから、少しふっくらしてくるのは当然よ。妊娠後期になったらお腹が大きくなるし、腰回りにだってお肉がついてくる。出産を終えたら、ゆっくり体をしぼっていけばいいだけよ。ほら、持って帰って。中には陽ちゃんが好きなお菓子もあるから。本当はあなた達を夕飯に誘うつもりだったんだけど、急いで帰るって言うから」美乃里は陽と瀧にお小遣いを渡した。二人ともそれを受け取ろうとしなかった。美乃里は笑顔で瀧の手に握らせて言った。「瀧ちゃん、今日は初めて遊びに来てくれたんだから、受け取ってちょうだいね」瀧は確認するように唯花のほうへ顔を向けた。唯花は受け取っていいと頷いたので、彼は受け取り、美乃里にお礼を言った。陽はこう言った。「ぼくははじめてじゃないから、いらないよ」そう言われても、美乃里は彼に小遣いを渡した。「これでおもちゃと、美味しい物を買ってね」「おば様、陽ちゃんにはい

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第2763話

    陽はとてもがっかりしていた。瀧を引き留めるために、大切な友達が罰せられてはよくない。唯花は瀧の話を聞いて、興味津々で尋ねた。「瀧君は医学書を見てわかるの?写すのもできるんだ?」瀧と陽は年齢的にほぼ同じで、陽は今簡単なアラビア数字は書け、簡単な絵を描くことはできる。唯花と唯月は陽がまだ幼稚園児だから、よく食べ、よく遊び、楽しい幼少期を過ごせばいいという考えを持っている。こんな小さな子に必要以上に何かを学ばせるつもりはない。だから、陽は幼稚園ではプレッシャーもなく、とても楽しく毎日を過ごしている。それでも、ある期間は、毎朝起きて幼稚園に行きたくないとごねていた。初めの頃積極的だったのは、今までとは違う環境で新鮮な気持ちだったからだろう。「ううん、あんきはできるけど、意味はわからない。写せなくてもしないといけないんだ。じゃないと、先生からおいしいものがもらえないから。それに書くのも遅いよ。先生からの罰で一ページ写すのに、とっても時間がかかるんだ」瀧はとても頭の良い子で、陽よりも多くの字を知っていて、書くことができる。でも、まだ三、四歳の子供だから、医学書一ページにある内容を書き写すのは、かなり大変だった。一度この罰を受けて、瀧は怖くなった。間違ったことをしたら、この罰を受けさせると言われたものだから、彼はおとなしく先生の言うことを聞くようにしている。唯花はそれを聞いて可哀想になり、よしよしと瀧の頭を撫でた。「大変だね、お疲れ様」陽はまだ憂いのない楽しい毎日を送っているが、瀧はこの年齢ですでに地獄のような特訓を受ける日々だった。しかし、あの名医たちも、厳しい時は厳しくし、遊ぶ時は思いきり遊ばせている。余裕がないほどに彼を追いつめるようなことはない。無理に追い込んで逆効果にならないように、ここ数日は彼に休みをあげて、A市の音濱岳邸に泊まり、リラックスさせてあげている。美乃里は初めて瀧に会って、彼の話を聞いた後、唯花に尋ねた。「桐生家の遥さんはこの子をお医者さんに育てるつもりなの?そうだったとしても、こんなまだ小さい子に医学書なんて書き写させることはないんじゃない?」唯花は陽と瀧を連れて東家に来ている。美乃里にはただ、瀧は遥の養子だとだけ教え、桐生弘毅の妻である依茉の弟子だとは伝えていなかった。美乃里の

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第2762話

    「今週の金曜日、幼稚園が終わったら、おじちゃんが陽君を連れて行くよ。日曜日の午後にまた星城に帰るんだ。どうかな?」隼翔は陽にそう約束した。そうすれば、彼自身も遠慮なく金曜日に、唯月の元に飛んで来られる。「本当?おじちゃん、うそじゃないよね?」「おじちゃんは子供を騙したりしないって言ったじゃないか。おじちゃんはこの世で一番正直な人だぞ。君だってそう思うだろ?」陽は少し考え、おじさんは普段、とても正直だと思い、言った。「うん、しんじる。でも、おかあさんはいいって言うかな?ぼくたちが行ったら、おかあさんのお仕事のじゃまにならない?」唯花から母親は最近とても忙しいと聞いていた。陽は母親は自分のために忙しくしていることをわかっていた。以前、たくさんお金を稼いで、自分に良い暮らしをさせてあげたいと言われたことを覚えている。陽は今の生活でも、十分良いと思っていた。母親に苦労してほしくなかった。だが、母親はどうしても仕事をしてお金を稼ぐと言う。自分はお利口さんだから、そんな母親を応援しようと、本音を隠していた。「そんなことないよ。俺たちが週末に行くなら、お母さんだってお休みだ。ちょうど休みだから、お母さんをいろんなところに気晴らしに連れていってあげられるよ。お母さんが週末リラックスできたら、来週仕事をする時に、元気が出て効率もアップするだろう?」陽は「そっか」とひとこと返事したが、それでもまだ心配そうだった。「おじちゃん、おかあさんに聞いてくれる?いいって言うかな」隼翔は笑いながら、携帯を唯月に返した。母と子は互いにああだの、こうだの言い合って、結局唯月は息子が金曜日に来るのに同意した。彼女も息子が恋しかった。隼翔が連れてきてくれるなら、きっと何も問題はないはずだ。母親からの同意を得ると、陽は嬉しくなって、すぐに通話を終わらせた。そして携帯を唯花に返した。唯花は笑顔で彼に尋ねた。「もう怒ってない?ご機嫌はなおった?」陽はとても嬉しそうに言った。「きんようびになったら、おかあさんに会えるんだ。おばちゃん、今日はなんようび?」「月曜日よ」陽は尋ねた。「じゃ、きんようびまであと何日?」一週間に何日あるのか陽はまだよくわかっていない。母親から教えてもらったが、どうして七日しかないのか

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第2761話

    隼翔は自分のことを廃人だと思っていることを口には出していない。唯月がそんな言葉を聞けば、心を痛めて、励ましの言葉をたくさんかけてくるはずだ。唯月はホテルの部屋にある電気ポットとカップをサッと水洗いして、お湯を沸かし、ドリップコーヒーを淹れた。それを運んできてテーブルの上に置き、彼に言った。「かなり熱いから、少ししてから飲んだほうがいいかも」リリリリ……唯月の携帯が鳴った。彼女は携帯を取り出して着信を確認し、隼翔に言った。「唯花からだわ」彼女は妹のほうで何かあったのかと思い、すぐに電話に出た。「唯花?何かあった?」「おかあさん」携帯越しに、陽の幼い声が伝わってきた。「あら、陽だったの。やっとお母さんのことが恋しくなって、電話かけてきたのね?」唯月は笑ながら息子をからかった。陽は寂しかったのか、口を尖らせて、再び母親を呼んだ。息子の寂しそうな声を聞くと、唯月は心配して尋ねた。「陽、どうしたの?何かあった?お友達と喧嘩でもしたの?」「ううん、隼翔おじちゃん、ひどいや。ぼくに何も言わないで、こっそりおかあさんのところに行ったでしょ?おともだちのりょう君をしょうかいしようと思って、おばちゃんにおじちゃんのお家に連れていってもらったんだ。おじちゃんはそっちに行ったって、おじちゃんのおかあさんが教えてくれた」陽はこの時かなり悔しそうにしていた。「おじちゃんも、ぼくに何も言わないで行っちゃった。ぼくだっておかあさんに会いたいよ。行くなら教えてほしい。一緒におかあさんに会いに行きたかった。おじちゃんはうそつきだ。こどもせんもんの」唯月が出張へ行った後、今後陽が母親のことが恋しくなったら、プライベートジェットで母親のところに連れていくと隼翔が約束してくれていた。その時、陽は隼翔のことを本当に良い人だ、父親よりもずっと良いと思った。陽が毎回父親に会う時、もちろん自分を大事にしてくれるが、いつも隼翔の悪口を聞かされるから、父親はあまり良い人ではないと思うようになった。彼は隼翔おじさんは悪い人のはずないじゃないかと思っていた。父親も、祖父母も、伯母も、陽のことを三歳の小さな子供で、何もわからないと思っているようだが、実際陽は多くのことを理解している。唯月は隼翔のほうを見て、息子に言った。「

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第2760話

    隼翔は唯月の手を握って、熱い眼差しを彼女に向けた。活気と自信に満ち溢れる彼女を見ていると気持ちがさらに深まっていく。「唯月」隼翔は低くかすれた声で彼女の名前を呼ぶと、顔をどんどん近づけて、探るように尋ねた。「その……キスしても、いいかな?」唯月「……」彼女の顔はその言葉に真っ赤になった。彼女も別に思春期の女の子ではない。結婚も出産も離婚も経験した。でも、隼翔からそのように聞かれると思わず顔を赤くし、恥ずかしそうにソワソワと落ち着かなくなった。隼翔はそんな彼女の様子を見て、鼓動がどんどん速くなってきた。隼翔は唯月に恋をして、もうかなり時間が過ぎている。彼女の手を繋いだこともある。彼女との関係は、ただそこまでに留まっていた。「唯月、いいか?」隼翔は唯月の顔に手を添えて、自分のほうへ向かせた。二人の視線が絡み合い、距離が近づいてくると、彼女は彼の熱い息遣いを感じた。唯月が恥ずかしそうにしている姿を見ていると、隼翔は自信が湧いてきた。唯月の返事を待たず、彼は彼女の赤い唇にそっと自分の唇を触れた。唯月が目を閉じたのを見て、隼翔は彼女をぎゅっと抱きしめた。はじめは優しく唇を重ねていたが、その後徐々に舌を絡めて激しくなり、熱いキスに変わった。長い口づけを終えると、唯月は急いで彼の体を押しのけ、立ち上がって何かしにいく素振りを見せた。「お、お湯を沸かしてくる。コーヒーと紅茶どっちがいい?」話すときの息遣いは少し乱れていた。隼翔はとろけるような眼差しで唯月を見つめた。彼女の姿を目で追い、優しい声で答えた。「コーヒーをお願いするよ。来る途中で何時間も休んだから、寝る必要もないし。コーヒーでも飲んで頭をはっきりさせるよ。これから君が何かしに行くなら俺も付き合う」「今日やる事は午前中に終わらせたの。後でちょっと黛家に行こうかと思ってるわ。私の代わりに亡くなった方のご家族が来るそうだから、会いに行こうかと思って。もし私の頼みで車を運転してくれていなかったら、死ぬことはなかったんだから」黛当主の陰謀だったとしても、証拠がない状況では、事故として片付けるしかない。黛家のボディーガードは、確かに唯月の代わりに運転して交通事故を起こし、亡くなったことになっている。唯月が親戚を訪ねて、亡くなった人をいた

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第2759話

    隼翔は唯月のほうへ顔を向けて言った。「俺がどんな奴だと思ってる?昔は公園のベンチで夜を過ごしたこともあるんだぞ。まあ、あれは青春のグレていた頃の話だけど」唯月は彼が二十歳前後の若い頃は、かなり不良だったことを知っている。不良仲間とかなり危ない事もしていたらしいが、彼の祖母が体調を崩して亡くなったことで、彼は自分を改めることにした。正しい道に戻ってから、自分の力で努力して会社を立ち上げ、今の東グループまで成長させた。あれからもう十年以上が経過している。彼は祖母を思い出してしまうから、彼女の前であまり言及することはない。東おばあさんが最も可愛がっていた孫が隼翔だという。彼は末っ子で、家族から可愛がられていた。彼の頬にあるあの切り傷を、陽は最初の頃はとても怖がっていた。彼は整形手術でも受けて傷跡を消そうかとも考えたことがある。しかし、結局はそうしなかった。彼はこの傷跡を自分への戒めとして残しておきたかった。彼の反抗期のせいで祖母が病にかかって亡くなったからだ。隼翔は祖母に罪悪感を持っていた。「俺はどんなところだって寝られる。それにこの部屋だってとてもいいじゃないか」隼翔は普段出張する時には確かにスイートルームに泊まっている。独身なうえに、多くの財産がある。それを享受しないであんなに稼いでどうするというのだ?「今から休憩する?」「あそこのソファで座るだけでいいよ」隼翔は窓辺にあるソファを指さした。唯月は車椅子を押しながら部屋に入り、止まって彼の体を支えようとしたが、断わられた。「自分で立つよ。数歩程度なら歩けるから」毎日リハビリを続け、数歩歩いても足は前ほど痛まなくなった。しかし、少し遠くまで歩こうとしたら、両足は耐えきれずにズキズキと痛み出す。その痛みで立っていられず地面に倒れてしまう。何度も転び、両足には青あざができてしまっている。ズボンで隠れているから、周りに気づかれないので、心配されることはない。彼は誰からも同情の目で見られたくなかった。それで唯月は彼を手伝うのはやめて、隼翔が自分で立ち上がり、足を動かすのを見ていた。一歩進み、体の向きを変えて、ゆっくりとソファに腰かけた。彼が座ってから、唯月は車椅子を壁際に押していった。「果物でも食べる?ホテルからは毎日届けられるの。旬の果物ば

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status