LOGIN姉がもうすぐ到着するという連絡を受けて、唯花は琴ヶ丘邸の門の前で待っていた。もちろん理仁も彼女と一緒だ。しかし、この時の唯花は頻繁にあくびをしていた。理仁は彼女に文句をもらした。「市内からここまで遠いから、昼寝しろって言ったんだ。起きたらちょうど義姉さんが到着する頃だろう。それなのに言うことを聞かないんだから。今になってあくびしまくってるだろ」すると唯花はまた一度あくびをしてから言った。「だって横になったらもう起き上がれなくなるって思ったんだもん。こんな天気でエアコンをつけた部屋にいると、寝れば寝るほどだるくなってきて、だるくなると寝たくなって起きたくなくなるわ」彼女を起こしてあげなければ、午後ずっと寝ているはずだ。「季節も変わり目だからだろ。この時期はみんなそうなるんだよ」理仁は唯花の手を握りしめ高く上げ、手の甲にキスをして彼女を見つめた。愛情のこもった甘い雰囲気で唯花を見つめ言った。「唯花、もうすぐ結婚記念日だろう。俺にどんな贈り物をしてくれるのかな?」唯花は手を引っ込め、わざと彼の顔をつねって言った。「まだ思いついてないの。あと半月はあるでしょ。今は遥さんの双子の赤ちゃんへのプレゼントを考えているところよ。もうすぐ百日祝いだからね」理仁は自分は可哀想だという顔つきで言った。「あの子たちは蒼真さんのお子さんたちだぞ。なのに俺よりも上位に来ているのか?唯花、俺が悲しむのを見ても傷つかないのか?」結婚記念日に妻から心のこもったプレゼントをもらえないと、理仁は一年ずっと沈んでいるだろう。その言葉に唯花は笑った。「私は本当にまだ思いついてないの。だったら何が欲しいか言ってよ。それをあなたにあげるから」彼女が今思っているのは記念日は休んで一日中彼と一緒に過ごすことだった。彼への贈り物は服、ネクタイ、時計以外なら、男性用のネックレスや、結婚一周年を記念した指輪など思いつくのはそれくらいだった。その日は彼女自ら三食手料理をふるまうつもりでいる。特に夕食はロマンチックなキャンドルディナーにしようと思っている。理仁は彼女の肩を抱き寄せた。「君からもらう物はなんだって好きだよ。俺から何がほしいかは言わずにおくよ。だって、それじゃなんだか味気ないじゃないか。双子ちゃんたちの百日祝いなら、おもちゃや服を買うことにしよう」ま
美乃里が隼翔に答えた。「佐々木さんが目を覚ましたのもそれはそれで良かったじゃない。陽ちゃんは父親をなくさずに済んだんだから。まだあんなに小さいのに、父親を失うのはやっぱり可哀想だわ」隼翔は言った。「陽君は父親とあまり仲を深めてはない。あの男は以前子供を唯月さん姉妹に押し付けていた。彼は何もしないで人任せにし、気が向いたら子供と遊んで、よく泣かせていたそうだ。あいつの両親も同じだ。陽君には外面だけ良くしていて、心から大切にしていたわけじゃない。子どもは誰が自分を面倒見てくれて心から接してくれるか本能的に感じ取る。陽君は叔母さんである唯花さんにもまるで実の親子のような感情を持っているぞ。それなのに血の繋がる祖父母や伯母たちとは全く家族のような仲ではない。それに唯月さんが陽君の親権を取ることができてよかった。陽君は彼女といたほうがいいに決まっている」美乃里は頷いた。「今、佐々木家の奴らは懸命に陽君と関係を良くしようとしている。確かにまだ間に合うとはいえ、見ているほうはあいつらに皮肉を言いたくなるぞ」隼翔は佐々木家に対して、実際かなり不満を抱いている。彼は本気であの一家を嫌っている。特にあの佐々木英子とかいう女だ。道徳よりも損得勘定にしか関心がいかないし、厚かましい。以前、彼女は唯月にひどい態度をとっていたというのに、今唯月の商売が繁盛すると、がらりと態度を変えて近寄り、利益を吸い取ろうとしている。「陽君の伯母の佐々木英子とかいう女は、俺が今まで見てきた中で一番恥を知らない人間だ」隼翔は思わず母親に英子の悪口をもらした。そして、彼が俊介が入院している病室で見たもの、聞いたこと、全て母親に話した。「本当に恥知らずね。あの一家は本当に最低だわ。唯月さんはあの人たちから離れて正解ね。このレベルのクズとはできるだけ遠ざかったほうがいいわ。それに唯月さんが優しい人だから、陽ちゃんと父親側の家族をまだ会わせてあげてるのよ。他の人だったら、離婚してさっさと子どもを連れて二度と会わないように遠ざかるわ」隼翔は少し黙ってから言った。「あの二人は離婚する時に、佐々木家は陽君に会いたい時にはいつでも会えると取り決めている。佐々木俊介も養育費を出したし、子供にはなんの罪もない。唯月さんがこのようにするのも全て陽君のためだな」俊介と陽は親子とし
「ええ、またね」美乃里は自ら琴音の見送りに外へ出た。美乃里は玄関先に立ち、遠ざかっていく琴音を見つめていた。あの子は息子とは縁がなかったと心の中で思っていた。人と人の縁というものは本当に不思議なものだ。今の唯月は絶対に琴音に及ばないが、息子は琴音に対して何も感情を持たず、唯月のほうに心を奪われている。暫くしてから、美乃里は家の中に戻った。部屋に入ると、息子がボディーガードに体を支えられずに、自分でゆっくりと立ち上がって一歩だけ足をずらし、ソファに座る姿を見た。美乃里はそれにとても感激した。息子が自分の力で立ち上がれただけでなく、一歩だが歩いたのだ。ボディーガードは車椅子を押して邪魔にならないように横へ置き、黙って部屋を出ていった。「隼翔」美乃里はササっと歩いてきて、息子の横に座った。そして、視線を息子の足のほうへ心配そうに移してみると、その足はがくがくと小刻みに震えていた。それを見て彼女は苦しくなり、優しく息子の足をさすってあげた。「まだ痛むの?」隼翔は頷いた。「初めて立ち上がった時よりも痛みは軽くなってる。母さん、そんなに心配しなくていい。ゆっくり良くなっていくから」「そうね、きっと良くなるわ。あなたも無理しないでゆっくりね」隼翔は頷いた。「今日は土曜日だけど、唯月さんもとても忙しいの?どうしてここへ呼ばなかったの?陽ちゃんに会いたかったのに」「理仁が奥さんを連れて琴ヶ丘邸に帰ったんだ。悟夫妻も行っているよ。理仁の両親たちが唯月さんに陽君を連れてきてほしいって言ったから、彼女たちは琴ヶ丘に向かったよ。きっと、日曜日の夜に理仁たちは一緒に市内に帰ってくる予定だろう」隼翔は無意識に自分の足を触った。「俺も暫く琴ヶ丘には遊びに行ってないから行きたかったけどな。でも、こんな俺が行って、あいつらの邪魔になるかと思って。俺のことを気にせず思い切り遊べないだろ。きっと俺があいつらの様子を見て辛くなるからと、心の底から楽しめないはずだ。それに俺の世話にも気を配らないといけないから、一切気にせずってわけにはいかないしな。だから、俺は遠慮したんだ」隼翔は自分が行けず、余計に以前の日々が懐かしく感じた。隼翔、理仁、そして悟の三人は星城でも有名な仲良し三人組だ。以前であれば、隼翔がいるところには必ず理仁と
隼翔は母親の言葉を聞き、彼女が唯月に対して恨み言を言っているのだと思ってしまった。そしてまた琴音が返事をする声が聞こえた。「おば様、人の気持ちは誰かがコントロールすることはできませんよ。彼は私のことは好きじゃないんです。私たちには縁がなかったというだけです。あれが運命だったなんてさっきおっしゃっていましたが、私と恋人になっていたとしても、事故に遭わないと保証できませんよ。今隼翔さんは現実と向き合い、吹っ切れているんでしょう。おば様も彼の前でそんな事を言ってはいけませんよ。彼が聞いたら、おば様が唯月さんのことを恨んでいると勘違いします。それに結局、彼女はずっと自分からは動いていないでしょ。彼女は隼翔さんのお世話をして、よく励ましてあげているみたいですが、態度は前と変わっていません」美乃里はため息をついた。「そうね、私たちから見ても、唯月さんは隼翔のことを好きになってないわ。彼女は別に隼翔の足が不自由になったことを嫌がってるんじゃなくて、再婚する気持ちがないだけ。あの男との結婚で大きな傷をつくってしまっているから。私は別に唯月さんのことを恨むとかそういうつもりじゃないわ。だって彼女は何もしてないでしょ。ただちょっとしみじみしちゃっただけよ、隼翔には絶対言わないから」琴音は美乃里を慰めた。「おば様、心配しないで。隼翔さんはリハビリに積極的なんですよ。先生だって、諦めずにリハビリを続ければ、ほとんどの確率でまた歩けるようになるって言っていたじゃないですか。隼翔さんは今たまに会社に行っていろいろと処理しているそうですね。彼がやる気があるなら心配なんて必要ないです」前向きな気持ちを持つというのはとても重要なことだ。病は気からと昔から言うではないか。美乃里は頷いた。「やっぱり唯月さんに感謝しないとね。彼女は隼翔の気持ちを受け入れていないけど、いつも彼を励まして、彼とちゃんと向き合ってくれてる。彼女はあの子の精神的な支えだもの。隼翔は彼女の存在があるからこそ、こうやってリハビリを頑張ってるのよね。ああ、今は私も何も考えないわ。ただ、隼翔によくなってもらいたいだけよ。唯月さんが隼翔と結婚する気になったなら、私たち東家も賛成するつもり。隼翔がこんなことになって私ももうこだわらないことにしたから。人にはそれぞれ定めというものがあるのでしょうね。隼翔はこ
結城おばあさんが寛哉に占い師を紹介してきたせいで、弦の悠々自適な穏やかな日々は消えてしまった。もし、その人がすごい腕の持ち主なら、他人の運命ではなく宝くじの番号でも当てたらどうだろうか。きっと大金持ちになれることだろう。弦は帰っていった。玲凰は家の前で、弦の乗る車が遠ざかっていくのを見送り、暫くしてから家の中に入っていった。……唯月は隼翔にご馳走した後、二人で暫くおしゃべりをしてから、陽を連れてホテルから出発し、琴ヶ丘に向かった。その途中、電話が何度もかかってきた。それは結城家の年配者世代たちからで、彼らは陽に早く会いたいらしく、いつ来るのか尋ねる内容だった。唯月はみんなに返事をした。もうすでに来ている途中だと返事して、やっとその次から次へとくる催促の電話を一旦止めた。隼翔は今足が不自由なので、自分が行くとみんながゆっくり週末休みを満喫するのを邪魔してしまうと思い、一緒には行かなかった。彼は一時間座っていてから、やっとボディーガードに実家に送らせた。まだ屋敷に入る前に、隼翔には中から久しく聞いていなかったみんなの楽しそうな笑い声を聞いた。隼翔が交通事故に遭ってからというもの、家の中はまるで死んだように重苦しい空気が流れていた。何か嬉しい事があったら、家族は隼翔のいないところでこっそりと喜んでいた。隼翔の前で楽しそうにするには彼の気持ちに影響すると思い堂々と楽しそうにできないのだ。隼翔はそんな家族たちはびくびくしすぎだと思っていた。確かに、事故当初は自暴自棄になって機嫌がすこぶる悪く、誰彼構わず怒鳴り散らしたい気分だった。そんな投げやりになった彼の態度のせいで、両親が何度涙を流したことか。しかし、退院してから彼はようやく吹っ切れ、日々に自信を取り戻していった。彼は懸命にリハビリをし、努力してポジティブに現実と向き合うことにした。だから、家族は自分たちが楽しそうにすることで、隼翔の神経を刺激してしまうのではないかと不安になる必要はないのだ。「今、入るのはやめておこう」家の前で、隼翔は声をおさえてボディーガードに言った。「俺は暫くその辺りで座ってから中に入る」彼は琴音の声と、母親の笑い声が聞こえた。恐らく琴音が来てまたおかしな話をして母親を笑わせているのだ。隼翔が事故に遭ってから、琴音は何
詩乃と姫華の二人が話している時、弦は何も言わず黙っていた。この親子が将来の黛家の当主が誰になるかという話題を話し終えてから、弦は再び立ち上がって挨拶をした。「それでは私はこれで失礼します。また日を改めて一緒に食事でもしましょう」神崎家からはもう誰も彼を引き留めることなく、詩乃は息子に弦を外まで見送らせた。玲凰が立ち上がって送っていった。弦もそれには特に何も言わなかった。そして母屋を出ると、玲凰が弦に尋ねた。「九条さんはうちの妹のことはなんとも思っていないんですよね。それなのにその芝居はいつまで続けるつもりなんですか?誰がこんなことをしてほしいと頼んできたんです?」玲凰はあの九条弦を動かし、芝居までさせられる力を持っているのが誰なのか、非常に気になった。「それはちょっと、それに言いたくないですね。恥をかきますから」玲凰は黙った。弦は一颯と賭けをして負けた。だから、無条件に一颯を手伝わざるを得ないのだった。一颯が出した条件は、善と姫華が婚約するまでであり、弦はその条件を守り、姫華を口説き続けなければならない。詩乃は桐生善の実家が遠いのを嫌がっているだろう?善と比べて弦は距離的に近い所にいる人物だ。同じく星城出身者なのだから。しかし、詩乃が娘を弦に嫁がせる気はあるだろうか?明らかに彼女にはそんな気はない。九条弦という比較対象ができてから、彼女は善のことをだいぶ気に入ってきたようだ。「神崎社長、そちらのお母様はまた考えを変えたのでは?今度は娘と想い人を一緒にさせるつもりなんではないでしょうか?」玲凰は言った。「……そうですかね?俺はちょっとよくわからないんですが」彼の母親は本当に今まで散々な手段を使っていた。この時、母親の出生に関してゆっくりと彼女に調査させるのは非常にタイミングが良いと玲凰は考えている。そうすれば、母親はこれ以上、姫華と善のことでそこまで騒ぐことがないからだ。「どうであれ、神崎社長にはお母様にひとことお伝えいただけますか。これからまた娘さんに別の男性を紹介しようとしたら、私がその相手の所に行って、神崎嬢は私の彼女だと言います、とね。誰もこの九条弦の彼女を奪えるわけないでしょう?」玲凰は言った。「……九条さん、そんなことされたら、妹がひどい目に遭うでしょう」「別に妹さんを
唯花は嘲笑するように言った。「佐々木英子さん、今すぐトイレへ行って、洗面器に水を汲んで……あ、すみませんね、蛇口がなかったわね。水道のパイプも姉がお金を出して取り付けたものだから、私たちがそれを外したのよ。じゃあ、仕方ないね、今すぐ雨が降るよう祈っていてね。それで、そこら辺に水溜まりが出来たら、それを鏡にして、自分の顔をちゃんと観察しなさいよ。どれだけ厚かましい顔しているかわかると思うから。姉はお宅の弟ともう離婚して、赤の他人になったのよ。よくもまあ、姉にあんたらの住む場所を探せだなんて言えるわね。姉のせいで住む場所がなくなったって?それは自業自得よ!もしちゃんと話し合って、姉の損失分
唯花は車を止めた。「唯花、どう?問題なさそう?」明凛が心配して尋ねた。唯花は笑って「大丈夫よ」と返事した。唯月は車を降りると、カードでマンションのエントランスを開けて管理人に言った。「引っ越しするんですけど、この方たちは引っ越しを手伝ってくれる人たちです」管理人はマンション前にいる大勢を見て、唯月に言った。「これは引っ越しですか?それとも、立て壊し作業ですか?あの人たちは、なんだかたくさん工具を持ってるみたいですけど、引っ越した後にまたリフォームをなさるんで?」「ええ、まあ、もう一度リフォームするようなものですね」しかし、それは彼女のお金を使ってではない。管理人
俊介は心配だった。彼がいなくなると、唯月が莉奈に何かするんじゃないかと思っていたのだ。唯月は彼と成瀬莉奈のホテルでの浮気現場を捕まえたあの夜、莉奈をひどく痛めつけたのだ。彼はあの後、あの夜のことを思い出しただけでも恐ろしくなる。唯月は冷たい声で言った。「この女を殴ったら私の手が汚れるだけだし。安心して、私は一切手出しをしないから」「唯月、これは俺ら二人の事だ。俺がここにいたらいけないのか?」俊介はやはり心配だった。唯月が彼から家庭内暴力を受けた時、包丁を振り回して彼を街中追いかけたのだ。だから、彼は唯月は一度キレると、本当に何をしでかすかわからない奴だと思うようになっていた
「ジンジャーティーも作ったんだ。時間がないなら、タンブラーに入れるから一緒に店に持って行って飲んでくれ」唯花は少し意外そうに彼を見つめた。彼が彼女のためにわざわざジンジャーティーまで作ってくれていたなんて。理仁はタンブラーをさっと水洗いし、作っておいたジンジャーティーをその中に入れて、それをまた袋に入れてから彼女に手渡した。「ちゃんと飲んでね」唯花はそのタンブラーの入った袋を受け取り、じいっと彼を見つめてから言った。「行ってきます」それだけで行ってしまった。理仁はその場に立ったまま彼女が出かけるのを見送っていた。おばあさんは彼に「彼女を送ってあげないのかい?」と







