LOGIN愛しているのに、触れられない。 幼なじみの夫は、こう言った。 「もう、女性を愛することはできない」と。 それでも「君がいい」と言い続ける彼と、 子どもを望む現実の間で、私は追い詰められていく。 だから決めた。 彼のためにも、私は他の誰かを探す。 ――そう思ったのに。 なぜあなたは、そんな顔で私を追いかけてくるの? これは、間違った優しさで離れた二人が、 もう一度、互いを選び直すまでの物語。
View More「もういつ生まれてもおかしくないわね」近所の助産師がアーシュの診察をしたあとそう言った。俺は診察台に横になるアーシュの背中を支えて、起きるのを手伝った。 「ありがとう、ディー」アーシュは俺に優しい笑みを浮かべた。 「お母さま、もうすぐ生まれるの? 女の子なんだよね?」アルディは瞳を輝かせて、アーシュのおなかを見た。「そうよ~! 今赤ちゃんもお外に出る準備をしていて、大丈夫になったら出てきてくれるのよ」 アーシュは目を細めて、アルディの赤い髪をなでる。アルディはますます目を輝かせて、アーシュを見た。そして、アルディの小さな手でアーシュの大きなおなかを撫でた。「早く会いたいな……」俺とアーシュは目を合わせて小さく笑った。「そうだな。俺も早く会いたいよ」アルディの時は、立ち会えなかった。一人で辛く苦しい出産をさせてしまった。せめて、今回は少しでも……。俺は膝の上でこぶしを握り締めた。◇アーシュの魔道具店は臨時休業中だ。暗い店内を見渡し、アーシュに頼まれたものを探す。これかな?へんてこな形をした鉄の塊を手に取り、アーシュの部屋へ足を向ける。ふうふう言いながら最終段階の魔道具のチェックをしているアーシュ。その瞳は真剣そのもので、俺のことなど何も見えていないようだった。アーシュの視界にその鉄の塊を入れると、「あ!これ!」と笑った。何やら、ゆりかごのようなその魔道具は赤ちゃんがぐずったときに使うらしい。鉄の塊に魔力を流して、その魔道具の軸にはめていく。カチッと音が鳴って、ゆりかごが光った。アーシュは額の汗を手で拭った。綺麗な顔に赤髪が張りつき、汗が流れ落ちた。その汗の行く末を見届けるように、アーシュを見つめ続けてしまう。こんな女性をずっとここで一人にしていたなんて……。俺は眉間に力が入った。一人悶絶していると、アーシュが不思議そうに俺を見ていた。「どうしたの? ディー……」あまりにも近くに来ていて、肩がはねた。「か、完成したの?」「うん! 今回は結構うまくいったと思うんだ!」アーシュは星をちりばめたような瞳で、ゆりかごの魔道具について説明し始めた。クルクル変わるその表情に、目が離せなくなる。そのサクランボのような唇からは、誇らしげな言葉がこぼれる。——愛おしい。アーシュの手をつかんで、俺はゆっ
重い扉が閉まる。 ガチャン。 外の音が聞こえなくなる。 「本当に平気?」 私はルシアンを見つめる。 「はい、ぜひこの目で見ておきたいいんです……」 「そう……。あなた、変わっているわね……」 ルシアンがふわっと笑った。 ――かわいい。 ルシアンとも今日でお別れ。 中央の台に小さな魔道具がある。 今日はこれに魔力を入れて、完成させる。 簡易式転移魔道具。 「じゃあ、いくわよ」 私は目をつむる。 魔力の流れに耳をすませる。 ――来た。 手から黄色い光が溢れだす。 台の上の魔道具にその魔力を流し込む。 魔道具がカタカタと震えだす。 汗が頬を流れる、唇が渇く。 ガタガタと激しく動く魔道具。 その魔道具が台の端まで動いていく。 ――その時。 魔道具の動きが止まった。 ふと視線を上げる。 ルシアンだった。 彼が魔道具を手で固定していた。 ――痛いだろうに……。 彼は眉間にシワを寄せながら、笑った。 やるじゃない……。 魔道具はすべての魔力を吸収して、動きを止めた。 「もう、離して大丈夫よ」 「あ、はい……」 私は彼の手を握る。 そして、手を開いた。 彼の手はとても熱く、真っ赤になっていた。 私は彼の手に自分の手を重ねた。 黄色い光と共に、すっと赤みがひいていった。 「あなた、無茶なことするのね。普通はこの部屋にすら、入りたがらないわよ……」 私は手を離した。 ガシッと、今度は私の手が掴まれる。 「こんな小さな手で……。痛くないのですか? 他の人より、たくさん作っていますよね。魔力の消費の激しいものばかり……」 「えっ……? あー……。私はもともと魔力が有り余っているくらいだから……」 「それでも……。俺が帰ったらまた一人で……」 「ふふふ。どうしたの? この部署はそういうところよ……」 「分かっています……。でも、もうあなたを手伝うことができない……」 私はふっと笑いが出た。 「私、この仕事が好きなの。結婚にも興味がないわ。だから、このままでいいの。時々、夜遊びをするしね」 彼の目を見て笑った。 「……」 「だから、あなたは安心して帰りなさい。少し情が移ったのよ。また、元の直場に戻れば忘れるわ……」 ――いつも、そうしてきた。 これが、私からの手紙の返事。 ぎゅっと、痛い
少し前の話……。「アーシュ、おめでとう……」「ありがとう、イヴェッタ……」私はカウンター越しに、アーシュを見上げた。お腹がだいぶ大きくなって、ふうふう言いながらこの店を切り盛りしてる。――私の親友。「アーシュ、ダメじゃないか……。少し休んで……」奥から無駄に逞しい肉体の男性がやってきた。「ディー、大丈夫よ。少しくらい……」アーシュが額の汗を拭った。ディートハルトの目が光る。「きゃっ! ちょっと、ディー! みんなの前で――恥ずかしい……」気が付けばアーシュレイはディートハルトに横抱きにされていた。顔を真っ赤にするアーシュ。「イヴェッタ悪い、少しアーシュを休ませる……」私は無言で手を振って、二人は奥に消えていった。「うぅ……」そして、隣でうなだれる男……。水色の髪と瞳が透き通った湖みたい……。涙をためて、その瞳はさらに透明度が増している。瞬きすると、その涙がサッと目尻から流れた。「――かわいい」私は彼の涙を指で拭った。「えっ?」「あなた、名前は?」「俺は、ルシアンです……」「私は、イヴェッタ。あなたは、アーシュレイが好きなのね……」彼がまつ毛に影を落とす。「かわいそうに……」私は泣いている子供を慰めるように、彼の頭を撫でた。ふわふわの動物の毛みたいだった。彼の髪の毛先を、指で絡めてみた。――悪くない。「俺、アーシュレイさんが赴任してきてからずっと好きで……。それなのに、あの人が突然やって来て……」彼は鼻を赤くして、声はかすれていた。「そうだったんだ……。それは辛かったね……」
「今日から研修として、辺境の地から若き魔道具士が来てくれた。みんなよろしく頼むよ」拍手の音が聞こえる。私は目の前の魔道具をじっと見つめた。ここの回路を繋げば、もっとスムーズに動く?「初めまして、ルシアンです。どうぞ、よろしくお願いします」「うーん、じゃあ、彼女について色々学ぶといい……。……さん」「イヴェッタさん!」突然大きな声で呼ばれて、勢いよく頭を上げた。魔豪具課のみんなが私を見ていた。私は下がった丸眼鏡を上げた。「何か……?」私はわざと低い声で答えた。こっちは忙しいのに……。所長が男性を私の前に連れてきた。ん……? はて、どこかでみたような……。長身ですらりとした体形。水色の瞳に、同じ色の髪。嫌味のないイケメン……。どこかの酒場でひっかけたか……?「あの、イヴェッタさん。ルシアンです! よろしくお願いします!」さわやかなイケメンが頭を下げた。「じゃあ、イヴェッタさんあとは頼んだよ……」所長はスタスタと自分の机に戻っていった。――押し付けられた。私は小さくため息をつく。彼はじっと私を見て、頬を赤らめていた。は……?ルシアン……。最近その名前を執事から聞いたような……。――手紙。そうだ、連日その名前で、手紙が届いてたんだった。中身読んでいないのよね……。「まあ、とりあえず、よろしく……」私は半笑いでそう言った。 ◇◇◇ ルシアンて子は、なかなか筋が良い。私の作業中は声をか