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仇敵の妻〜私を救い出した夫は黒幕〜

仇敵の妻〜私を救い出した夫は黒幕〜

By:  方円Completed
Language: Japanese
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我が家が取り潰しに遭った日、死罪を待つ身から高官へと成り上がった幼馴染の塗景(とけい)は、皇帝から賜った死罪を免じる証を手に、皇宮の正殿の長い階段を一段一段、膝をついたまま登り、私・沈卿雲(しんけいうん)を妻に迎えたいと懇願した。 結婚初夜、私たちは寝所で、一晩に何度も重なり合った。 だが、わずか数ヶ月後のこと。身重の体で彼にお茶を届けに行くと、塗景と側近のこんな会話を耳にしてしまった。 「塗様。沈家に、かつてご一族百名余りを無残に殺されたというのに…… 一族の仇を討ち果たしたのち、なぜ仇の娘など救い出し、あろうことか妻に迎えたのですか?」 「復讐のためだ。なぜ俺だけが恨みを背負い、生きた心地もしない地獄を味わわねばならない? 沈卿雲にも、俺と同じ地獄を歩ませる。生きていれば不幸になり、死ぬことも許されない苦しみの中でな」 胸が張り裂けるほどの絶望のなか、私はひどく病弱な息子を産み落とした。 塗景は冷ややかな目で私を見下ろした。 「沈家の血を引く人間とは、どいつもこいつも出来損ないだな。 お前と同じように」 それから6年間。塗景を殺して息子の塗書陽(としょよう)を連れ去ろうと、132回も企てた。 しかし、そのすべてが失敗に終わった。 そしてあの日。塗書陽がうっかり檀木の箱を落として壊してしまった。罰として祠堂(しどう・先祖を祀る部屋)の冷たい床に跪かされたあの子は、意識を失ってしまった。 私はまたしても毒入りの酒を用意し、狂ったように復讐しようとした。 その時、側室の祁絮(きじょ)が塗景の腕の中で甘く笑う声が聞こえた。 「景さん、卿雲さんが命懸けで産んだ子供を、景さんが自分の手で殺したと知ったらどうかしら? 6年間、私たちの子の面倒を見させていたと知ったら、狂ってしまうんじゃないかしら?」

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Chapter 1

第1話

"آسفة يا آنسة ياسمين، لقد فاتك أفضل وقت لإجراء العملية..."

ظلت ياسمين واقفة متجمدة وهي تمسك بورقة التحليل التي تؤكد إصابتها بسرطان الرحم. بعد صمت طويل، اتصلت بسكرتير عمر، كريم الزهري.

رنّ الهاتف طويلًا قبل أن يُجيب أخيرًا، بنبرة لا مبالية كعادته:

"سيدتي، هل لديكِ أمر ما؟"

قبضت ياسمين أصابعها المرتجفة وقالت:

"أين عمر؟ أريد التحدث معه."

أجاب كريم:

"السيد عمر مشغول الآن ولا يستطيع الرد."

قالت بصوت متوسل:

"هل يمكنك أن تجعله يرد عليّ للحظة فقط...؟"

لكن قبل أن يكمل كريم كلامه، سمعت ياسمين من الطرف الآخر صوتًا ناعمًا:

"عمر، ما المفاجأة التي تخبئها لي حتى تتصرف بهذه السرية؟"

ثم جاءها صوت عميق مألوف حتى النخاع، لكنه كان يحمل حنانًا لم تنله هي أبدًا:

"ارفعي رأسك."

وفي اللحظة التالية، أنهى كريم المكالمة بلا تردد.

وفي الوقت ذاته...

بوم——

دوّى انفجار من جهة الميناء، فرفعت ياسمين رأسها بوجه شاحب.

ارتفعت في السماء المقابلة ألعاب نارية متلألئة، تتشابك ألوانها الزاهية في ليلٍ أزرق قاتم، فتبدو بجمالها كما في الأساطير.

أمام باب المستشفى، كان الناس يتحدثون بصخب:

"سمعتم؟ هذه الألعاب النارية التي أطلقها السيد عمر الراسني من شركة الأفق الأزرق لعيد ميلاد حبيبته، كلفته أكثر من مليوني دولار في ليلة واحدة!"

"إنها ليلى السويدي! حاصلة على دكتوراه من معهد كاليفورنيا للتكنولوجيا، نخبة تتنافس عليها أكبر الشركات المحلية، ذكية وجميلة ومن عائلة مرموقة، وحبيبها وسيم وقوي النفوذ!"

"ليس غريبًا أن يحبها السيد عمر الراسني إلى هذا الحد، حبيبة كهذه تُعتبر فخرًا له!"

ظلت ياسمين تحدق طويلاً في تلك الألعاب النارية الباذخة، ثم ارتخت قبضتها ليسقط ورق التحليل من يدها إلى الأرض.

استدارت ورحلت.

في ساعات الفجر الأولى، عاد عمر إلى المنزل، فوجد ياسمين جالسة في غرفة المعيشة دون أن تشعل أي ضوء.

رفع الرجل يده وأشعل المصباح، قطّب حاجبيه وقال:

"لماذا لم تنامي بعد؟"

رفعت ياسمين عينيها إليه، كان يحمل سترته على ذراعه، وعيناه السوداوان العميقتان تحدقان بها ببرود معتاد.

كانت تظن يومًا أن طبعه بارد بالفطرة، لكنها أدركت اليوم أن ذلك الجليد الذي ينام إلى جوارها ما هو إلا جمرة متقدة في قلب شخص آخر.

قالت بصوت خافت:

"لم أستطع النوم... ذهبت اليوم إلى المستشفى."

ألقى عمر سترته على الأريكة بلا مبالاة وسأل:

"وماذا قال الطبيب؟"

كانت ياسمين قد اشتكت منذ فترة من ألم في أسفل بطنها، وقد وعدها أن يرافقها للفحص، لكنه كان يؤجل دائمًا.

مرة بحجة عقد بملايين، ومرة بمشكلة معقدة في مشروع.

حتى البارحة وعدها أن يذهب معها إلى المستشفى، لكنه علم أن ليلى أخفت عنه عيد ميلادها، فسارع للحاق بها ولم يسعفه الوقت إلا لإطلاق الألعاب النارية.

أما ياسمين، فلم يجد وقتًا لها.

خفضت رأسها وقالت بهدوء:

" لا شيء يُذكر، مجرد أن أنتظر قليلًا وكل شيء سيكون بخير... لكن لماذا عدت إلى البيت اليوم؟"

توقف عمر لثوان، ثم اقترب منها.

ضمها إلى صدره، أنفاسه الحارة تتردد على عنقها، وصوته مبحوح:

"هذه الأيام هي فترة إباضتك."

وأضاف ببرود:

"لقد طلبتِ مني واتفقنا أن نكون معًا في هذه الأيام من كل شهر، حتى ننجب وريثًا لعائلة الراسني. أم أنك نسيتِ؟"

كانت رائحة عطر نسائي تفوح منه بوضوح، كرصاصة مزقت ما تبقى من كرامة ياسمين التي كانت تتشبث بها.

لم يكن مخطئًا؛ ثلاث سنوات من الزواج وهو بارد معها، لا يقترب منها إلا استجابة لإلحاح الحاجة الراسني بضرورة إنجاب وريث لعائلة الراسني.

تاهت ياسمين في أفكارها: طفل؟ لم يعد ممكناً.

كان طبعها دائمًا هادئًا وخاضعًا، لكنها هذه الليلة لم تعد قادرة على الاحتمال.

قالت بحدة:

"عمر، ألا تخشى أن تغار حبيبتك إذا جئت لتنام معي؟"

كانت عيناها تلمعان في الظلام، كحيوان صغير أظهر أنيابه أخيرًا.

تأملها عمر، ورأى جديتها، فبردت نظراته شيئًا فشيئًا.

ثم ابتسم ابتسامة باهتة لا تصل إلى عينيه وقال:

"ولماذا أخاف؟ نحن متزوجان سرًا، وأنتِ من تعيشين في الظل."

وتابع ببرود:

"بما أنكِ اخترتِ أن تكوني الدور الثانوي، فلا يحق لكِ المطالبة بالكثير."‬
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ノンスケ
ノンスケ
お互いに愛し合っていたのに、政治の駆け引きに巻き込まれて不幸にも死んでようやく一つになれた。
2026-04-13 22:01:09
1
0
松坂 美枝
松坂 美枝
凄惨なロミジュリものかこれは… 皇帝のせいでこんなことに 息子大丈夫かこれ 来世では遺恨なく出会えますように
2026-04-13 10:57:13
3
0
リッキー
リッキー
うーん。ラストがつまらない
2026-04-16 11:23:18
0
0
11 Chapters
第1話
我が家が取り潰しに遭った日、死罪を待つ身から高官へと成り上がった幼馴染の塗景(とけい)は、皇帝から賜った死罪を免じる証を手に、皇宮の正殿の長い階段を一段一段、膝をついたまま登り、私・沈卿雲(しんけいうん)を妻に迎えたいと懇願した。結婚初夜、私たちは寝所で、一晩に何度も重なり合った。だが、わずか数ヶ月後のこと。身重の体で彼にお茶を届けに行くと、塗景と側近のこんな会話を耳にしてしまった。「塗様。沈家に、かつてご一族百名余りを無残に殺されたというのに……一族の仇を討ち果たしたのち、なぜ仇の娘など救い出し、あろうことか妻に迎えたのですか?」「復讐のためだ。なぜ俺だけが恨みを背負い、生きた心地もしない地獄を味わわねばならない?沈卿雲にも、俺と同じ地獄を歩ませる。生きていれば不幸になり、死ぬことも許されない苦しみの中でな」胸が張り裂けるほどの絶望のなか、私はひどく病弱な息子を産み落とした。塗景は冷ややかな目で私を見下ろした。「沈家の血を引く人間とは、どいつもこいつも出来損ないだな。お前と同じように」それから6年間。塗景を殺して息子の塗書陽(としょよう)を連れ去ろうと、132回も企てた。しかし、そのすべてが失敗に終わった。そしてあの日。塗書陽がうっかり檀木の箱を落として壊してしまった。罰として祠堂(しどう・先祖を祀る部屋)の冷たい床に跪かされたあの子は、意識を失ってしまった。私はまたしても毒入りの酒を用意し、狂ったように復讐しようとした。その時、側室の祁絮(きじょ)が塗景の腕の中で甘く笑う声が聞こえた。「景さん、卿雲さんが命懸けで産んだ子供を、景さんが自分の手で殺したと知ったらどうかしら?6年間、私たちの子の面倒を見させていたと知ったら、狂ってしまうんじゃないかしら?」扉の向こうで続いていた嘲りの声は途絶え、やがて聞こえてきたのは、情事の音だった。私は全身の血が凍りつくような心地でその場に立ち尽くし、手にした毒入りの酒をただ呆然と見つめていた。6年の間、何度も塗景を殺して逃げようと計画していたのに。私の努力も、憎しみも、すべては滑稽な笑い話にすぎなかったのか?私の子は、私の生きる希望は、もう6年も前に実の父親の手で殺されていたのだ。卑猥な嬌声が窓から漏れ、耳に突き刺さる。酒を入れた器を
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第2話
最初は、私は歯を食いしばって塗景をにらみつけた。「塗景。いつか必ず、殺してやるわ」すると彼は、私の顎を強い力で掴み、無理やり自分の方を向かせた。「できるものならやってみろ。お前が俺を殺すのが先か、俺がお前を狂わせるのが先か」私たちは、そんなふうに6年間も傷つけ合ってきた。塗景は、私の父が皇帝の密命に従い、謀反の罪を着せて塗家を皆殺しにしたことを深く恨んでいた。そして私もまた、父の致し方ない立場など顧みず、すべての憎しみを沈家に押し付け、私を徹底的にいたぶり続ける塗景が憎かった。本当は、子供がいなければ、この6年間も耐えられなかった。私はもう疲れ果てていた。憎むことも、愛することも、すべてに疲れていた。眠れぬ夜が続くと、布団を抱えてぼんやりと空を見つめていた。死ぬことが、唯一の救いではないかと。けれど、私にはまだ幼い塗書陽を見捨てることなどできなかった。とうに枯れ果てた私の心は、あの子という細く儚い糸一本で、なんとか繋ぎ止められていたのだ。その糸が切れたとき、ようやく分かった……塗景、あなたの勝ちよ。これが、あなたから私への一番ひどい仕打ちだったのね。私は静かに目を伏せ、毒薬が地面に広がっていくのを見つめた。塗景と争う気力さえ、もう残っていなかった。私は力なく両手を下げ、塗景が罵倒を予想して身構えるのをよそに、背を向けた。3日後は、両親の命日。その日、自分自身のために毒を用意してもいいかもしれない。ぼんやりした心持ちで自室へ戻ると、机の上に、作りかけの勾玉が置かれていた。手に取ってなでてみると、指先に確かな感触が残る。この一つ一つの筋を、私が自分で彫ったのだ。布でしっかりと包み、本棚のいちばん奥へ隠した。もともとは塗書陽への新年の贈り物として、何か月もかけて磨いてきたもの。今や、残るは最後の仕上げのみとなった。それなのに……切なさに胸が締め付けられ、私は自嘲しながら再び勾玉を取り出した。錐を手に取り、少しずつ穴をあけていく。なんだかんだと言っても、6年も一緒に暮らせば、母親としての情が残っているのだ。最後の贈り物だと思えばいい。この6年間の親子の縁に、終止符を打つのだ。翌日の夕暮れ、磨き上げた勾玉を塗書陽の腰につけてやった。塗書陽は一目見るな
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第3話
塗景は手を伸ばして私を止めようとしたが、後ろから祁絮に呼び止められた。「景さん……」「出て行け」その鋭い叱責が響いた時、私はすでに部屋を後にしていた。塗景の顔色はさらに険しくなり、その様子を見た祁絮は何も聞くことができなかった。祁絮は塗書陽を連れ、おずおずとその場を立ち去った。散らばる破片を見つめる冷徹な男はゆっくりとしゃがみ込み、破片を一つ拾って掌に強く握り締めた。背後にいた護衛が腑に落ちない様子で口を開いた。「塗様、なぜ奥様にあの時のことを……」「黙れ!」塗景は視線を落とし、赤くなった目元を隠した。「口出しはするな」戻ってきた私は、その言葉を耳にした。塗景が私に気づくと、一瞬だけ動揺の色が見えたが、すぐさま以前の私に対する冷酷な態度へ戻った。「何をしに戻ってきた?」私は何も答えず、床に散らばった砕けた勾玉を黙々と拾い集めた。しかし、最後の破片を拾おうとした時、塗景の方が早く、足で踏みつけた。塗景は冷笑を浮かべ、私の姿をじろじろと見下ろした。「なんだ。もうこの息子は気に入らないか?戻ってきて、また俺との間に子供が欲しいとでも?」塗景は嫌味な言葉を投げかけ、壊れた勾玉を足でさらにぐりぐりと踏みつけた。「だが今のお前の姿で……書陽の言った通りだ。本当に見苦しい」揺らめく灯火越しに、両手を後ろ手に組んで立ち尽くす、凍てついたような塗景の姿が見えた。その強く握られた背後の手から血がしたたり落ち、石床に小さな跡を作った。血だまりを見て一瞬呆然としたが、塗景の異変に心を砕く余裕など私にはない。あと2日で、私はここを離れ、塗景から去るのだから。塗景は依然として、砕けた勾玉を踏んだまま動こうとしなかった。私はついに口を開いた。「出ていかないの?」もちろん塗景とまた子供を作るつもりなどない。だがここは私の寝室だし、塗景がいると休めない。私のさらりとした言葉を聞き、塗景は虚を突かれたように一瞬動きを止めた。「沈卿雲、以前のように俺に歯向かう気力も失せたか?あっさり負けを認めるとは、お前らしくもないな」塗景は嘲るような表情で突然私の手首を掴み、無理やり目を合わせようとした。私は微笑みながら、彼の指を一本ずつ手首から引き剥がした。「本当に私ともう
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第4話
「いい加減にして!」胸の内にふつふつと怒りが湧き上がる。私は塗書陽からその靴を乱暴に取り返した。「何怒っているんだ?」傍らに立つ塗景が、視線を伏せたままゆっくりと言った。「書陽はお前の息子だぞ。泣き出したらどうするんだ?」「私の息子?」私は冷笑した。「私の息子は、6年前に死んだはずでしょ?」塗景の顔がさっと強張り、動揺の色が隠しきれなくなる。彼は視線を逸らして、私を見ようともしなかった。「お前……なぜそれを?」「今更ね、塗景。一つだけ聞かせて。6年前、死んだはずの子をどこへやったの?」彼の瞳の奥に一瞬だけ苦痛の色が走ったが、すぐにまた元の冷たい表情へと戻った。崩れそうな私を見て、塗景はふっと笑う。「役に立たない出来損ないだったから、生まれてすぐに野ざらしにしてやったよ」塗景のあまりの非道さに、私はその場に呆然と立ち尽くした。静寂の中でようやく我に返った私は、迷いもなく塗景の頬を張り飛ばした。「あれはあなたの子供だったのよ!」「違う!」塗景は即座に言い返した。その時初めて、嘲りを捨てた塗景の目元がうっすらと赤くなった。「沈卿雲、あの子にはお前の血が流れているんだ。俺が認めるはずがない……死ぬまで、あの子はただの忌まわしい野良犬だ」一言一言が、鋭い刃のように耳に突き刺さる。それは、長年覆い隠されてきた醜悪な真実をすべて切り裂き、血まみれのまま私の目の前に突きつけてきた。互いに抱える憎しみは、死ぬまで消えないのだと突きつけられたようだった。子供は、この狂人の欲を満たすための道具に過ぎなかった。正気に戻れば、いつでも捨てられる捨て駒に……私はたまらず、声を上げて泣き出した。この6年分の屈辱を、すべて涙で洗い流そうとするかのように。どれほどの時間が過ぎたのだろう。塗景はもう立ち去ったのだと思うほど、長い時間が経っていた。だが彼はゆっくりとしゃがみ込み、私の手首を引き寄せて、真っ直ぐに視線を合わせてきた。「沈卿雲、俺を憎んでいるのか?だが今のお前の憎しみなど、あの頃の俺の万分の一にも及ばない」手を振りほどこうともがくが、どうすることもできない。やがて体の力が抜けていくとともに、心までもが完全に枯れ果てていくのを感じる。その瞬間、すべ
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第5話
ずっと昔、塗景は確かに私の耳元でそうささやいてくれた。それなのに、いつしか彼がこれほどまでに優しく甘い声色を向ける相手は、祁絮になってしまったのだ。私は自嘲気味に笑う。塗景の口から久々にこぼれ落ちた、そのあまりにも優しい声の響き。とうに枯れ果てたはずの私の心に、まだわずかな波紋を起こした。その瞬間、心の奥底にわざと封じ込めていた記憶が、再び波のように押し寄せてきた。雨の降る夜、道に迷った幼い私に、塗景は上着をかけてくれた。そして一歩、また一歩と、私を背負って深い山から連れ出してくれたのだ。塗景の背中に頬を寄せて聞く、あまりに速い鼓動。あれは彼のものだったのか、それとも私の鼓動だったのだろうか。婚姻を結んだ後でさえ、私たちには確かに、あたたかく幸せな日々があったというのに。塗景は店をいくつも回り、私の好きな菓子を作る職人を探してくれた。私が子供を授かったと知った日、塗景は心から喜んでくれた。金木犀を私の髪に飾り、愛を誓ってくれたこともあった。明け方の光の中で、塗景の目から涙がこぼれ落ちるのが見えた。彼は私を力強く抱きしめ、自分の体に埋め込むようにした。「卿雲、行かないでくれ……」酔った勢いで、彼はあの15歳の意地っ張りだった少年の身代わりになったかのように、泣き続けた。朝日が昇る頃、ようやく酔いもさめたようだった。意識がはっきりすると、彼は無言で私を見つめた。その瞳の奥にわずかに複雑な色が滲んでいた以外は、全くいつも通りだった。いつもの冷たい表情に戻っていた。先ほどまで泣きついていた男とは思えない。あれは夢だったのではないかと思うほどだった。塗景にひどいことを言われるのが怖くて、私は先に口を開いた。「酔いが醒めたのなら、さっさと私の目の前から消えて。ここに、あなたの居場所なんてないわ」目元の涙も乾かぬうちに突然言われ、塗景は動きを止めた。そして鼻で笑う。「消えろ、だと?沈卿雲、忘れたのか?この屋敷のすべては塗家のものだぞ」塗景は冷ややかな目を細める。「だから、俺はどこにだって行ける。消えるべきなのは、お前のほうだ」私は肯定も否定もせず、ただふっと笑った。「そう、じゃあ私が消えるわ」「沈卿雲!」塗景が急に顔を真っ赤にして、手首を力強く掴
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第6話
塗景は慌てて解毒薬を私の口に押し込むが、溢れ出す黒い血は止まらない。「卿雲……卿雲、寝ちゃだめだ……卿雲、お願いだ。目を閉じるな」塗景の涙が私の頬にこぼれ、熱く肌を焼きつける。けれど、私の意識はどんどん薄れていった。あの日、梨の花が舞い散り、帝都の街全体が白く染まっていたのを覚えている。青い衣を纏い、髪を高く結い上げた一人の少年が、青石の敷かれた通りを馬で駆け抜けていった。その手にした長剣は、望月楼(ぼうげつろう)が景品として高く掲げていた酒を見事に奪い去った。驚く人々を背に、少年は風のように駆け抜けていった。馬上で微笑むその姿は、まさに絵になる光景だった。当時の塗景は、誰もが認める華のある少年だった。私の目の前に飛び降りると、彼は無邪気に笑った。「ほら!卿雲、俺が取ってきてやった酒だぞ!」その凛々しくも優しい笑顔を、私は忘れられない。その瞬間、頭の中はそれでいっぱいだった。これが、私が初めて塗景に恋をした瞬間。私は顔を赤くしてその酒を受け取り、家の裏庭にある梨の木の下に隠した。その夜、初恋に心弾ませていた私は、一睡もできなかった。庭で輝く静かな月を見つめれば、不意に幻を見た。月影さえも、塗景に見えてしまうほどに。一年に一度、星々が巡り合うというあの夜、私は勇気を出して塗景を誘い出した。塗景は門枠に寄りかかり、口に草をくわえてふざけた笑みを浮かべている。「お、卿雲から誘ってくれるとはね」彼は不意に顔を寄せた。その瞳の奥には、私を惑わすような熱い色が宿っていた。「俺は忙しいんだぞ?」私は照れ隠しに足を鳴らして、塗景の袖を引っ張った。「なら、行ってくれるの?」「ああ、もちろん!」彼はくすくすと笑みを漏らすと、私の頭を優しく撫で、その髪を一房、指に絡めては解くようにして、とりとめもなく弄んでいた。「卿雲のお誘いを断れるはずがないだろう?」今も覚えている。輝く花火の下で、塗景が髪飾りを買ってくれたことを。「卿雲、早く大人になってね」と、塗景は言った。私が「大人になってどうするの?」と聞き返すと、塗景は顔を真っ赤にして、懐から一つの腕輪を取り出し、私の手首にはめてくれた。「父と母が想いを通わせた時、これを贈ったんだってさ。卿雲、大きくなったら
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第7話
塗景が去る時、私を深く見つめた。その瞳には理解できない複雑な色が浮かんでいた。家に帰ると、父が部屋の前に立っていた。まるで10歳も老け込んだようだった。「塗景は行ったのか?」「はい」月日は流れ、私が成人すると縁談の話が持ち上がるようになった。だが、あの年、馬を駆り駆け抜けていった少年の後ろ姿だけは、どうしても私の心から消し去ることができなかった。それどころか、時が経つほどにその姿は、より色鮮やかに胸の奥で刻まれていくばかりだった。李家の息子との縁談が決まった日、私は梨の木の下から酒壺を掘り出した。独りで、泥酔するまで飲み干した。酔った勢いで李邸の前に走り込み、自分の縁談をめちゃくちゃにしてやった。人生で初めての、大きな反抗だった。両親はただ溜め息をつき、何も言わなかった。塗景と再会したあの日、私は家族が一人ずつ殺されていくのを目の当たりにし、泣き叫ぶことしかできなかった。最後は私と両親だけになった。その時、塗景は神様のように現れ、私を連れ去った。父は立派な身なりの塗景を見て、全てを察したようだった。父は声を詰まらせ、目に涙を溜めて言った。「全ての因縁に卿雲は何の関係もない。卿雲を妻にするのなら、どうか大切にしてやってくれ」父は私に視線を移し、「これからは、誰も憎んではいけない」と言った。当時の私は、その最期の言葉の意味を理解できなかった。9ヶ月後、塗景の部屋の前で全ての真相を聞くまでは。私があたたかいと信じていたものは、最初からすべて偽りだったのだ。塗景こそが、皇帝に沈家が国を売ったと吹き込み、家を滅ぼした張本人だった。激しい衝撃で、私は書斎の入り口に倒れ込んだ。物音で書斎にいた塗景が出てきた。意識が遠のく中、彼が慌てて私を抱きかかえるのが見えた。口の中に無理やり薬を放り込まれ、耳元で必死に叫ぶ声が聞こえた。「卿雲、どうした?卿雲、怖がらせないでくれ……卿雲……沈卿雲!死んではいけない」……「沈卿雲、目を覚ませ。沈卿雲、俺を恨めば恨むほど、お前を生かしてやる」うるさい。本当にうるさい。塗景の言う通り、彼は私を死なせることすら許さないつもりらしい。記憶の中の声が現実と重なる。ふたたび目を開けると、いつかもわからない深夜だった。右手
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第8話
「目が覚めたのなら……もう行く」塗景は気まずさに耐えきれず、部屋をあとにした。だが、出ていく前に、一度だけ振り返った。「沈卿雲、もう二度と死のうなんてするな」私は背を向けたまま、言葉を返さなかった。塗景の見えないところで、私は静かに涙を流した。昏睡の数日間、走馬灯のように過去十数年の日々が蘇った。両家の仲睦まじい思い出、雪の降る日に聞いた悲痛な叫び声。初恋の喜びから、憎しみ合って傷つけ合う関係へ。春の梨の花を見上げていた頃から、老いて白髪になるまで……胸の奥をアリに食い尽くされるような苦しみが、心臓をえぐるようだった。塗景はずっと、沈家のせいで自分がすべてを失ったと信じ込んでいる。でも本当は、父は最後まで命令に従って公務を果たしただけなのだ。当時、父が背を向けたのは、友が絶望する姿を見たくなかったからだ。こっそりと涙をぬぐうためでもあった。当時の父には、何もできなかった。私の返事がないのを見て、塗景は小さくため息をついた。……塗景は庭で夜空を見上げた。半分もの時間、立ち尽くしたまま。ふと塗景は、1年前の家族と揉めて家出したことを思い出した。正確には家出というより、真夜中に塀を乗り越えて、沈卿雲の部屋の窓を叩いたのだ。沈卿雲を屋根へ連れ出し、二人で一晩中月を眺めた。その時に言いたかったことがあった。「お前こそが、俺の道を照らす唯一の明月だった」と。けれど、月もいつかは沈む運命にある。夜が明ける頃、冷たい露を浴びて、塗景は祁絮の部屋を訪ねた。彼は大金と数か所の土地の譲り状を祁絮に差し出した。「これだけあれば、お前と書陽の生活は一生安泰だ。山水の美しい地を見つけ、穏やかに暮らしてくれ」祁絮の心臓は、不意に力任せに鷲掴みにされたかのように激しく震えた。彼女はその場に崩れ落ちるように膝をつき、溢れ出る涙で視界を滲ませた。「景さん、急にどうして……」目の前の女を見つめる塗景の瞳には、複雑な色が浮かぶ。自分が苦境に立たされた時、祁絮は確かに支えてくれた。祁絮の望む通り、すべてを与えてきた。愛情、金、子供、権勢……何もかもを。だが、もはやこれまでだ。塗景はため息をついた。「お前がこれまでずっと、卿……沈卿雲に厳しく当たっていたことは
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第9話
「お母さん、死なないで、お願いだから……全部、僕が悪かったんだ……」塗書陽はしゃくり上げながら、これまで自分がした間違いをひとつずつ口にした。前はわがままで、祁絮ばかり好きだったと打ち明ける。でも、私がいなくなるなんて想像もしたことがなかったそうだ。塗書陽の純粋な瞳に涙が浮かび、私を真っ直ぐに見つめている。どこか、約束を求めているかのようだった。そんな彼を見つめながら、私は一瞬ぼんやりとした。もし、私の子が生きていたら。怒られたあとにこうやって謝りに来たかもしれない。それとも、あの子はもっと素直で賢い子だったのだろうか?胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛む。私は何度もひどく咳き込んだ。「わかったから、もう遊びに行ってきなさい」「お母さん……」「外に行きなさい」塗書陽をどう扱えばいいのか、私にはわからなかった。彼は泣きながら駆け出していった。その背中を見送りながら、私はもう耐えきれず、激しく血を吐いた。……塗書陽が会いに来た翌日。塗景は、祁絮親子を無理やり馬車に乗せて追い出した。3日目。塗景は心身の不調を理由に、皇帝へと辞官の書を奏上した。まだ、26歳という若さなのに。4日目。塗景は長年仕えてきた忠実な護衛だけを残して、仕えていた下男下女たちをことごとく去らせた。5日目。塗景は自ら食籠を手に提げ、私の元へやってきた。椀の雑炊を丁寧に冷まし、熱さを確かめてから、私の口元へと運んできた。「食べろ」私は迷わずそれを払い除けた。「沈卿雲、いいから食べろ」塗景はもう一度、別の椀を差し出してくる。私は何の感情も浮かべずに彼を一瞥した。怒る気力さえ失った私を見て、塗景はふっと声を柔らかくした。「一緒に食べてくれ。これが最後だと約束するよ」本当なら塗景の頬を平手打ちして、叫びたい気分だった。どうしてなのかと。どうして私を助けて引き止めるのかと。6年も続いた執拗な苦しみ。塗景、まだ足りないの?けれど、私はもう疲れてしまった。本当に、疲れてしまったんだ……心が枯れ果て、怒りを感じるのさえ、もはや苦痛だった。私が食事を拒む姿を見て、塗景は長く沈黙した。その後、塗景は表情を複雑に変え、やがてあの不気味な笑みを浮かべた。そして、ゆっく
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第10話
しょっぱい涙が、大粒になってこぼれ落ちる。それでも、胸の内の痛みは少しも和らがなかった。「死んで当然だからだ。お前たち沈家の連中は、みんな死ぬべきなんだ……生まれつきの卑しい命が!ああ、そうだ。お前の息子もな」塗景は言葉を切った。目尻を赤く震わせ、途切れ途切れに言い放つ。それなのに一言残らず、くっきりと私の耳に突き刺さった。「あいつも……この手で押し殺したんだ。死んだ時、全身が真っ青になっていたな。知っているか……」「塗景、この、人でなし!」込み上げる憎しみに、私は正気を失った。塗景が何を言っているのかもう聞こえない。ただ、その口が動くのが見えた。まるで地獄から命を奪いに来た鬼のように。青ざめた顔に牙をむき、おぞましい姿だ。久方ぶりの激しい恨みが心を満たす。脳内に一つの声が響いた。殺せ……仇を取れ……みんなの代わりに、報復するんだ。私は迷わず、袖に隠していた刃物を塗景の胸に突き立てた。ここ6年で幾度も繰り返してきたように。一瞬の躊躇いもない。だが、いつもとは違った。塗景は避けなかった。というか、最初から避ける気がなかったのだ。刃物が体に入ると同時に肉を裂く音が響き、血が飛び散った。まさかの成功に、自分でも驚きで息を呑む。しかし塗景は、どこかほっとしたような表情だった。口から血を吐きながら、いつもの冷酷な笑みを浮かべる。6年と2ヶ月間演じ続けた笑み。慣れ親しんだものだろう。胸には激痛が走るはずなのに。塗景は目の前で活力を取り戻した私を見つめ、どこか密やかな喜びに包まれていた。目尻から涙が一滴零れたが、言葉だけは強気だった。「もっと力を込めろ、沈卿雲。俺が憎いんだろう?俺を殺せば、一族の仇が討てるぞ……」あまりの刺激に精神が麻痺していた私は、もう塗景の言葉など耳に入らなかった。塗景だってかつては、月の光のように私の人生を照らした存在だった。梨の木の下で、塗景のために埋めたあのお酒のことさえも、今はそんなことも忘れている。思い出されるのは、暗い部屋で何度も腕を締め上げられた痛みと苦しみ。沈家のみんなが、ことごとく塗景に殺された記憶だけが心を支配していた。あの日も、今日のように風が冷たかった。気がつくと、私は塗景に何度も
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