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第18話

Author: 大落
西嶋知恵(にしじま ともえ)は両手を胸の前に組み、粗捜しをするような目つきで未央をじろじろと見つめていた。

博人が眉間にしわをきつく寄せて、視線を下に落とすと未央は無感情に淡々とした様子だった。まるでもう西嶋家からのいじめには慣れてしまっているようだった。

彼は我慢できず口を開いた。「おばさん、未央の格好はとても素敵じゃないですか」

この時、博人がはじめて未央をかばうような言葉を口にしたのだ。

知恵はそれに驚いて、声を詰まらせ気まずそうに笑った。

彼女は弱い者いじめしかできないのだ。この博人という西嶋家の跡取り息子の前で、大きな口は叩けない。

この時、部屋の中から威厳のあるよく通った冷たい女の声が聞こえてきた。

「こんな玄関先で立って何をしているの?こっちに来て座りなさい」

それは西嶋容子(にしじま ようこ)だ。彼女は博人の母親で、年季の入った木製の大きなひじ掛け椅子に座り、すごいオーラを放っている。

彼女は不機嫌そうに未央を睨みつけ、その口調からは嫌悪と不満が溢れんばかりだった。

「理玖ちゃんが教えてくれたわよ。ご飯も作ってくれないし、バイオリンの練習にも付き合ってくれないって。あなたそれでよく母親なんかやってられるわね?」

容子は最初から未央という嫁にはとても不満を持っていた。もし、彼女が妊娠なんてしなければ、彼女は絶対にこの結婚には同意しなかったのだ。

彼女の理想の嫁は、きっと西嶋家と同等レベルの名家の令嬢だったのだ。それが、未央という没落してしまった家出身の女になってしまって許せなかったのだ。

未央は瞼を下に向け、平然と言った。「理玖は私が作る料理が好きではないので。それに、バイオリンの練習の時も私が隣にいると邪魔になるらしいですから、私が付き合ったほうがよっぽど練習になんかなりませんよ」

彼女の口調は非常に淡々としていた。以前であれば、この義母のご機嫌取りをしていたのだ。それも博人の面子を立ててのことだった。

しかし、今はもうすぐ去る身なので、彼女はどう思われようがどうでもよかった。

容子はまさか未央が大人しく反省する色を見せず、このように歯向かってくるとは思ってもいなかった。

彼女の顔には瞬時に怒りの色が表れ、指先で強くテーブルを叩き、ものすごい剣幕で「そういうことなの。なら、西嶋家にはこのような嫁は役に立たないわね、そ
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