共有

第686話

作者: 大落
立花市の利根田(とねだ)交流センターで、ある晴れ渡った週末の午前。

「心の声」クリニックの初の一般人に公開する心理講座が始まった。

会場は満席で、百人ほど近くの住民が訪れてきた。

未央は知性を感じられるベージュのスーツを着てステージに立ち、自信に満ちて落ち着いた様子で、プロのカウンセラーのオーラを放っていた。

講座のテーマは『効果的な親子コミュニケーションの方法』で、現在多くの家庭が抱える問題の核心を突いていた。

ステージの下の最前列の席には悠生と悠奈も座り、二人は熱心なファンのように、集中して耳を傾けている。

未央の講座は分かりやすく、教科書通りに進めるのではなく、一つ一つ生き生きとした例を用いて、専門的な心理学に関する知識を理解しやすく説明し、非常に説得力があった。

彼女が「言葉の暴力が子どもに与える目に見えない傷」について話すと、下の多くの母親たちは共感し、うなずいていた。会場の雰囲気は非常に盛り上がっていた。

質疑応答も和やかに進んでいた。しかし、突然あるおしゃれだが目に少し意地の悪さを感じさせる若い女性が手を挙げた。

マイクを手にした彼女は、親子コミュニケーションに関する質問はせず、話の流れを変えて、鋭い声で尋ねた。「白鳥先生はご家族との生活はきっととても幸せで満足しているのでしょうね?結局のところ、自分自身の結婚生活もうまく築けない人が、どうして他人に家庭の築き方を教えられる資格があるでしょうね?」

この質問に、会場は一瞬で静まり返り、全ての人の視線が未央に集中した。

悠奈はその場で立ち上がって怒りを爆発させようとしたが、隣にいる悠生に押さえつけられた。

この突然ぶつけられた悪意に満ちた質問に対し、未央の顔には少しも動揺はなかった。

彼女は微笑みながら言った。「そこの奥さん、とても良いご質問をされましたね。しかし、事実は逆で、私たちがトラウマを抱え、苦痛を感じたからこそ、患者さんの葛藤をより理解できるのです。優れた医師は、決して病気にならないから優れているのではなく、病気をどう癒すかを知っているから優秀な医者だと認められるんです。他人の病気に対してはそうであり、自分の病気に対しても同じですよ」

この言葉に、会場の大部分の住民の理解と共感を勝ち取り、激しい拍手をもらった。

梶内公子(かじうち きみこ)はさっきの策が失敗したのだ
この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • 今さら私を愛しているなんてもう遅い   第788話

    未央はただ、鼻の奥が急にツンと痛くなり、その瞳が温かい涙でぼやけてしまった。過去の七年間、彼女は頭の中で何度もこのような光景を想像してきた。一生、こんな幸せを手に入れることができないだろうと思っていた。しかし今、かつては手の届かなかった夢のような願いが、こうしてすぐ目の前にある。その幸福はあまりにもリアルで、わずかでも息を荒くすれば、この虹色の夢から即座に覚めるのではないかという恐怖さえ感じた。その時、博人はまるで後ろにも目があるかのように、火を止め、二枚の皿を持って振り返った。階段でぼんやりと立ち尽くす未央を見て、彼は眉をわずかにつり上げ、朝日に照らされた顔に、太陽よりも輝くような笑みを浮かべた。「起きた?」彼は手にした皿を少し上げ、まるで手柄をアピールする子どものように自分の作品を披露した。「早く手を洗って、俺の腕を味わってみて。これは西嶋グループの社長自らが腕を振るった自慢の料理だぞ。他にないから、西嶋夫人」未央は鼻をすすると、必死にその涙を押し戻し、口元が抑えきれずに上がった。「自惚れ屋」彼女は小さな声でそう呟くと、足早に近寄り、彼の手から皿を受け取った。皿の上には、二つの卵がハートの形にされて焼かれていた。卵白はなめらかで、黄身はちょうどいい具合の半熟状態だ。隣にはジュージューと焼かれたソーセージと、黄金色に香ばしく焼き上げられたトーストが二枚添えられていた。家族四人は長い食卓を囲んで座った。理玖はとっくに待ちきれない様子で、トーストを一枚掴むと、大きく一口かじり、頬っぺたをぷっくり膨らませながら、もごもごとした声で叫んだ。「美味しい!パパの作ったご飯、大川さんのと同じくらい美味しいよ!」大川は家の雇った家政婦で、その腕前はミシュラン級なのだ。この口の上手な理玖は、褒めるにもほどがある。しかし博人は明らかに嬉しそうで、息子の口元のパンくずを指でぬぐいながら、目尻に皺を寄せて笑った。「だろう?」愛理はまだうまく話せず、手に持ったスプーンと格闘しながら、つるりとした卵白を口に運ぼうとしていた。何度か試してもうまくいかず、焦って小さな顔を真っ赤にし、ついにはスプーンを放り投げて、素手で掴み始めた。未央が止めようとしたその時、博人が先に娘のふっくらとした小さな手を握った。掴むのを止めはせず、む

  • 今さら私を愛しているなんてもう遅い   第787話

    子供たちはどこへ行ったの?父親と一緒に下へ行った?未央は少し戸惑い、そしてかすかな不安を胸に、階段へと急いだ。階段に着くやいなや、食べ物の香りが彼女の食欲を誘ってきた。卵焼きとトーストの焦げた香り、そして温かいミルクの甘い香りが混ざり合い、温かく癒されるような感覚があった。続いて、下のリビングからテレビのアニメ番組の音と、時折子供たちの澄み切った何のわだかまりもない笑い声が聞こえてきた。彼女の心は一瞬にして落ち着いた。階段を降りる足を速めた。広々としたリビングでは、理玖と愛理が柔らかいカーペットの上に、お行儀よく並んで座っていた。二人ともきちんと着替えを済ませ、髪も整えられていて、一人は小さな紳士、もう一人は小さなお姫様のようだ。理玖はテレビで流れている『ウルトラマン』に夢中で、小さな愛理は怪獣退治にはあまり興味がないようで、ぬいぐるみを抱きながら、テレビの登場人物の真似をして手を振り足を踏み鳴らし、時折澄んだ笑い声を上げている。この光景は、穏やかな日常を描いた一枚の名画のようだった。理玖が、一番早く階段に立つ母親を発見した。彼はすぐにリモコンを放り出すと、発射された小さな弾丸のように、短い足を動かしてダッシュで駆け寄り、彼女の足にしがみついた。博人にそっくりの小さな顔を上げ、甘えた声で叫んだ。「ママ、おはよう! 今日はすごく遅いね!」愛理も彼女に気づき、興奮してその場でぷっくりした小さな手を振りながら、口の中で「ママ……ママ……」とはっきりしない声をあげている。未央の心は、一瞬でこの二人の小さな存在で満たされた。全ての疲労と、あのわけのわからない感情さえも、この瞬間に跡形もなく消え去ってしまった。彼女は腰をかがめて、優しく息子の頭を撫でると、歩み寄って娘を抱き上げ、ぷっくりした小さな頬にキスをした。彼女は柔らかな声で尋ねた。「理玖、愛理、どうしてこんなに早く起きたの? 洋服は誰が着せてくれたの?」理玖の顔にはすぐに、これ以上ないというほどの誇らしげな表情が浮かんだ。彼は小さな胸を張り、指を伸ばしてキッチンの方を指さした。「パパだよ!」 彼の声は誇りに満ちていた。「パパが朝早く僕たちを起こしてくれて、服を着せてくれたり、顔を洗ったり歯を磨いたりしてくれたんだよ!パパ、すごくかっこいいよ!」未央が息子が指

  • 今さら私を愛しているなんてもう遅い   第786話

    未央は博人を押しのけると、主寝室にあるバスルームへ駆け込み、カチッと鍵をかけた。冷たい扉に背中を預けながらも、胸の中の心臓はまだ言う事を聞かず、激しく鼓動を続けていた。さっきの朝の「激しい運動」が、彼女の体力を奪い尽くしただけでなく、思考力もすっかり空っぽにしてしまったのだ。シャワーから温かいお湯が注ぎ、疲れた体を洗い流し、同時に彼女の混乱した思考にも、ようやく束の間の休息をもたらした。バスルームにはすぐに湯気が立ち込め、鏡は白く霞んでしまった。彼女は鏡の湯気を手でそっと拭い、酸欠で顔が真っ赤になっていないか確かめようとした。しかし、たった一目見ただけで、彼女の体はその場に凍りついた。ようやく抑え込んだはずの熱が、凄まじい勢いで、再び彼女の体を攻めてきた。鏡の中には、まだ情事の余韻を残した彼女の体に、さまざまな赤い痕が散らばっていた。繊細に浮き出る鎖骨から、胸のふっくらとした柔らかな白い肌、そして細いウエストの脇まで……まるで、所有権を主張する容赦ない印のように、彼女の肌に鮮明かつ大胆に刻み込まれ、昨夜から今朝にかけて、あの男がどれほどの狂気と激しさをぶつけてきたのか静かに物語っていた。この「証拠」の数々に、彼女は恥ずかしさのあまりに穴があったら入りたいぐらい恥ずかしくなってきた。これではどんな顔で外に出ろというのだ?シャワーを浴び終え、バスタオルに身を包んだ未央は、クローゼットに立ち、初めて着る服に頭を悩ませた。普段よく着るクルーネックやVネックの部屋着では、鎖骨にある最も目立つ痕を隠すことなど到底できない。彼女はクローゼットをひっくり返すほど散々探し、ようやく一番奥の隅から、去年の秋に買ったがほとんど着ることのなかった、薄手のベージュのハイネックシャツを引っ張り出した。買った時は襟が高すぎて窮屈に感じ、ずっとしまい込んでいたのだが、まさか今日の救世主になるとは。彼女は注意深くそれを着ると、鏡の前で前から背中まで何度も何度もじっくりと確認した。襟は顎のラインにぴったりと密着するほど高く引き上げ、全ての曖昧な痕跡をしっかりと隠し、首にある最も淡い赤みさえも一切見せないようにした。それで、ようやく彼女は安堵の息をついた。寝室の中で行ったり来たりしながら、長い時間をかけて心の準備を整え、深く息を吸い込んだ。戦場へ向かう

  • 今さら私を愛しているなんてもう遅い   第785話

    この理由は、彼女自身にも全く説得力がないと感じられた。博人の笑みは一層深くなった。彼はこれ以上何も言わず、ただ突然体をひるがえし、未央が驚きの声を上げても気にせず、彼女を完全に自分の下に押し倒した。彼は両腕を彼女の体の両側に突っ張り、二人だけの狭い空間を作り出した。二人の体制は完全に逆転した。彼は上からのぞき込むように彼女を見つめ、狼狽え戸惑う彼女の瞳を眺めながら、ゆっくりと身をかがめ、鼻先がほとんど彼女の鼻に触れるほど近づいた。「本当か?」彼は彼女の目を見つめ、冗談めかした口調は次第に収まり、それに代わったのはこれまでにないほど真剣な表情だった。彼は彼女を見つめ、まるで彼女の魂まで見透かそうとするかのようだった。しばらくして、彼は身をかがめ、額をそっと彼女の額に押し当て、誓いを立てるような、はっきりとした口調で、一言一句ゆっくり言った。「未央、俺を見ろ」未央は彼と視線を合わせざるを得なかった。「俺が約束する」彼は声を低くし、人を説得できる声でこう言った。「過去にやったクソみたいなこと、お前を悲しませ、涙を流させたあの日々は、もう二度と起こらないと誓う。俺は自分を変える。残りの人生をかけて、お前に償う。俺たちの子どもたちも償ってみせる」彼の目には、もはや冗談やからかいの色はなく、ただなかなか溶けきらない懺悔と深い愛情だけが残っていた。「だから、もう俺から離れるな。頼むから」ほとんど卑屈と言えるほどの願いと、彼の目に隠しきれず失うことを恐れる脆さは、重いハンマーのように、未央の心の最も柔らかい部分を強く叩いた。彼女のすべての羞恥心と困惑は、この瞬間、ズキズキとした痛みになり、彼女の心臓を突きさした。彼女は目の前の男を見つめた。この俺様気質で、すべてを支配するのに慣れた男が、今このような姿で、彼のすべての弱点と不安を彼女に隠さずに晒した。彼女がどうして、まだ彼を押しのけることができるだろうか。未央は手を上げ、拒絶ではなく、もう躊躇わずそっと彼の首を抱きしめた。答えではないが、この動きはすでに言葉に勝るものだった。彼女の積極的に彼を求めたその行為は火薬に火をつけたかのようだった。博人の目には情熱な炎が燃え上がり、すべての理性がこの誘いに完全に焼き尽くされた。彼は再び彼女の唇を貪った。このキスは、もはや昨夜

  • 今さら私を愛しているなんてもう遅い   第784話

    虹陽の西嶋家にて。朝日が金の糸のように、分厚いカーテンの隙間を静かにすり抜け、カーペットの上に真っ直ぐな光の線を描き出した。未央のまつ毛がかすかに震え、意識はゆっくりと浮上していく。彼女は目を開けたが、目の前の光景はまだぼんやりしていた。視界に入ってくるのは、博人のまだ眠っているかっこいい横顔のアップだった。彼の顔立ちは朝日の中で特に柔らかく見え、普段の鋭さや冷たさはなく、唇は軽く結ばれ、呼吸は穏やかだった。そして、その熱い腕がまるで鉄の輪のごとく、独占欲も感じられるほどに彼女の腰をしっかりと抱きしめ、胸に引き寄せていた。昨夜の記憶が、コントロールできず、映画のようにはっきりと頭の中に浮かんできた。抑えられた息遣い、熱さが感じられる汗、そして彼が自制を失い、彼女の耳元で何度も繰り返したささやき……一つ一つのシーンが細かいところまで鮮明で、彼女の顔が火照り、その熱は頬から耳の付け根まで広がっていた。すでに二人の子を持つ母親ではあったが、これほど完全に、純粋な愛から生まれた親密さは、彼女にとって初めての経験だった。彼女は体のすべての骨が一度分解され、また組み立て直されたかのように、痛くてだるく、ほんの少しの力も湧かない。しかし同時に、奇妙な、満たされたような満足感が、温かい波のように、彼女の全身を包み込んでいた。この感覚は彼女に恥ずかしさを覚えさせると同時に、なぜか……心の安らぎも与えていた。その次の瞬間、彼女はやっと自分が今、どういう状況にあるのかに気づいた。彼女は完全に彼の胸に抱きしめられているのだ。非常に親密な姿勢で、頬を彼の温かく引き締まった胸に寄せ、彼が穏やかに呼吸するたびに、胸のわずかな動きさえも感じ取れるほどだった。肌同士が直接に触れ合ったせいで、他人の熱すぎる体温が、彼女を全身そわそわとさせた。彼女の頭に浮かんだのは今すぐ逃げることだ。この心をかき乱す腕から、すぐにでも逃げ出さなければ。未央は息を殺し、飼い主の部屋に潜り込んで魚を盗み食いしようとする子猫のように、脱出計画を実行に移し始めた。彼女は動きをできるだけ軽くして、注意深く、自分の体を少しずつ動かし、腰を抱きしめているあの腕を、徐々に離そうとした。彼女の動きは非常に慎重で、そばで眠るこの「獣」を決して目覚めさせまいとしていた。その腕が、ついに彼女

  • 今さら私を愛しているなんてもう遅い   第783話

    今だ!彼は全神経が瞬時にその一点に集中し、直ちにその痕跡を追い始めた!データの流れは洪水のように、彼が構築した仮のルートを狂ったように奔り、具体的な位置情報がまもなく特定される!ナンバーファイブという具体的な街の名がすでに彼の目に浮かびかけていた。しかし、彼が成功しようとするその一瞬に、彼が食い下がって追っていたそのデータの流れが突然、まるで見えないハサミでパサリと切られたように消えてしまった。すると、彼のパソコンの画面が突然、真っ暗になってしまった。停電ではない。より強大な外部からの力によって強制的にこのパソコンの操作を奪われたのだ!悠生は目が見開いた!彼はすぐに再起動を試みるのではなく、両手がさらに素早い動作でキーボードを叩き、操作の奪還を試みた。しかし、彼の全ての指令は水の泡となり、まるでパソコンが自分のものでなくなったかのようだった。画面が再び明るくなった時、追跡プログラムは全て強制的に終了させられていた。画面の中央には、コードで構成された、シンプルで傲慢な笑顔の顔文字が現れた。【:)】続いて、その顔文字の下に、冷たい外国語がゆっくりと浮かび上がった。【Nice try, Mr. Fujisaki】(いい試みでしたね、藤崎様)悠生は一瞬で全身が凍り付いたかのような感じだった!相手は最後の瞬間に彼の追跡に気づいただけでなく、電光石火の間に彼のパソコンに侵入し、彼の正体を暴き、見下すような挑発の言葉を残したのだ!これは、もはや単純な技術対決ではなく、一方的な翻弄だった!彼はハッカーという顔が完璧に隠されているとずっと思っていた。同じ業界の信頼できる僅かのメンバーの数人を除けば、誰も知らないはずだった。しかし、この相手の前では彼は透明な存在のようで、全ての仮装があっさりと見破られてしまった。この人物は誰なのか?どうやって自分の正体を知ったのか?あのメールを送った本当の目的は一体何なのか?次々と疑問が彼の頭を駆け巡る。彼は自分に冷静になれと叱り、目の前の状況を素早く分析した。これほどの技術を持つ相手が、藤崎家と西嶋家の確執を煽るに十分な資料を送りつけ、彼が追跡するという行為をただからかい返しただけで、何ら実質的なネットワーク攻撃やデータを盗むような行為など行っていない。これは理にかなっていない。

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status