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第2話

Author: 冷たい風
私は寝返りを打ち、彼の手を避けた。

「てっきり、今夜は一晩中、日和さんのそばにいるものだと思っていたわ。

なんといっても、彼女はまだ学生なんだし。あなたがいなきゃダメなんでしょ?」

パッと寝室の電気がついて、眩しさに思わず目を細めた。

拓真はベッドから起き上がると、苛立ちを隠さない声で言った。

「知花、どうしてそんな言い方をするんだ?

何度も説明しただろ。俺は日和をただの妹だと思っているし、やましいことは何もない」

私は何も言わず、スマホを取り出して、日和のインスタを見せた。

そこには、本来私が予約していた個室で、拓真の家族と日和の家族が親しそうに写っていた。

写真の中で、拓真は日和と一緒にメニューを眺めていた。日和はそんな拓真の頬に、嬉しそうに手を添えていた。

二人の距離は、異様なほど近かった。

【両家の顔合わせ。ずっと私を支えてくれた人が、これからは私の夫になります!】

私はスマホを掲げたまま、彼を見つめた。

「本当に頭がいいわね。私が1週間もかけて選んだお店と個室が、そのままあっさりとあなたたちの婚約の場所になるなんて」

拓真は顔色を少し変えて、眉をひそめて言った。

「こんなものを載せているなんて知らなかったんだ。今すぐ電話して消させるから。

それに日和は、俺たちの結婚話を聞いて、面白がって適当に投稿しただけだろう。

子供のしたことだし、大して意味はないよ。君は年上だから、もう少し大目に見なさい」

私は鼻で笑った。

「23歳にもなる子供ね。いっそのこと赤ちゃんって呼んだらどう?」

拓真はイライラした様子で口を開いた。

「もうすぐ結婚するんだ。俺は喧嘩をしたくないんだよ。

今夜は書斎で寝る。君が頭を冷やして、わがままを言わなくなったら戻ってくる」

寝室のドアが大きな音を立てて閉まり、その音で両親が目を覚ましてしまった。

慌ててリビングに出てきた二人は、何があったのかと私に尋ねた。

私は首を横に振り、たいしたことないからとなだめて、二人を休ませた。

翌朝、私が早く起きると、リビングでは両親がすでに朝食を作って待っていた。

テーブルには、両親が実家からわざわざ持ってきてくれた手作りの漬物が並んでいた。私が子どものころから大好きな味なのだ。

書斎から出てきた拓真は、冴えない顔をしていた。

両親は少し気まずそうにしつつも、笑顔で彼を食事に誘った。

しかし、彼は話しかけられた瞬間に眉をひそめた。

「なんで二人がここにいるんですか?」

テーブルの漬物を一瞥すると、露骨に嫌そうな顔をして鼻をつまんだ。

「それに、なんだ、その変な食べ物は。部屋中が臭くてたまらない。

ここは東都ですよ。実家の田舎じゃないんですから、最低限のルールやマナーくらい守ってください。そんなものを持ち込まないでくれませんか?」

両親は気まずそうにその場に立ち尽くした。

母は慌ててテーブルから漬物の皿を引っ込めようとし、ひどく怯えた声を出した。

「ご、ごめんね、拓真さん。知花が昔から大好物だったから持ってきただけで、深く考えてなくて。

すぐに片づけるから。お、怒らないで……」

慌てたせいでお皿がテーブルから滑り落ち、床で割れて散らばってしまった。

母はびくっと体を震わせ、恐る恐る拓真の顔色をうかがった。そして頭が真っ白になり、その場で動けなくなった。

父は黙り込み、年老いて丸くなった背中をかがめて破片を拾おうとした。

それを見ていたら、私の目頭がどうしようもなく熱くなった。

実家にいた頃、両親の背筋はいつもピシッと伸びていた。

近所の人が都会で働く私のことを褒めるたび、両親は内心の喜びを隠しきれずに胸を張るのだが、口では「とんでもありません、まだまだですよ」と、いかにも謙虚な様子で答えていた。

けれど、私が拓真と付き合い始めてから、二人はずっとこんな風に怯えるようになってしまった。

私が実家にお金を送っても、「両親が貧しいと見下されてはいけないから」と言って受け取ろうとせず、そのお金はすべて拓真の両親への贈り物に使いなさいと言った。

お正月に帰省した帰り際にも、両親はたくさんの地元の特産品を持たせ、「これを拓真さんのご両親に渡して」と何度も念を押した。

そして、拓真の両親に約束を破られても決して怒ろうとはせず、ただひたすら、結婚したあとに私が肩身の狭い思いをしないか、それだけを心配していた。

私は二人に歩み寄った。複雑な思いで喉が詰まり、声はかすれていた。

「お父さん、お母さん、もういいからご飯を食べて。私が片付けるから。

それから、漬物はそのままでいいよ。私の好物なんだから」

二人はそれでも手伝おうとしたが、私は彼らを椅子へ強引に座らせた。

拓真は振り返って私を見ると、一瞬だけ決まりの悪そうな顔をして、言い訳するように言った。

「そういう意味で言ったんじゃないんだ。俺、鼻炎持ちだから、きつい匂いが苦手なんだよ。知っているだろ?」

私は彼に言葉を返すことなく、黙々と床に散らばった割れた皿を拾い集めた。そして、怪我をしないよう厚手の紙で包み、それをゴミ袋に入れた。

拓真は私の後ろをついて回り、何かを言いたそうに口をもぐもぐさせていたが、私は彼を振り返ろうとしなかった。

食事が終わったら両親を近場の観光地へ連れていくつもりだったが、そこへ突然会社から緊急の電話が入った。

私の担当するプロジェクトで問題が起きて、とても深刻な状況らしい。

すると、拓真が自ら進んで声をかけてきた。

「仕事に行ってきなよ!俺が二人を観光地に案内しておくから。ちょうど今日は、うちの会社は休みなんだ」

私が彼をじっと見つめると、拓真はバツが悪そうに話を続けた。

「さっきのは言い方が悪かった。昨日の喧嘩を引きずっていたんだ。

結婚すれば君の親は俺の親なんだから。安心して、俺がちゃんと二人の面倒を見るよ」

両親はせっかく東都に来てくれたのに、このまま何もせずに帰るのは勿体ないと思った。私は仕方なく頷いた。

仕事を終えた頃、すでに深夜になっていた。

二人が無事に帰ってきたか確認するために電話をかけようとスマホを手にした瞬間、母からの電話がかかってきた。

急いで電話に出ると、母のひどく混乱した泣き声が響いた。

「知花、は、早く病院に来て。お父さんがケガをして、意識を失っちゃって……」

頭の中が真っ白になり、立ち上がろうとしたけれど、足元がショックでふらついていた。

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