共有

第1223話 気持ち悪い

作者: 花崎紬
「港の監視カメラをハッキングしてみる。何もしないでいると不安だから」

「わかった!」

一方、晋太郎は道中の信号をも無視して猛スピードで港に向かった。

港には、眩しく輝く巨大な遊船が一隻泊まっていた。

しかし妙なことに、船の搭乗口に立っているボディガード以外、周りには人影が全く見えなかった。

恐らく悟はその船で自分を待ち構えていたのだろう。

冷たい川風が彼の体に当たり、黒いトレンチコートを激しく揺らした。

周りを見回していると、ポケットの中の携帯が振動した。

密かに護衛しているボディガードから「到着した」とのメッセージが届いた。

晋太郎は船の搭乗口に向かった。

「ボディチェックが必要です」

船に近づくと、ボディガードの一人が言った。

晋太郎は冷酷な目つきで両手を挙げてチェックを受けた。

携帯以外に危険物は見つからず、ボディガードは道を開けた。

その時、船上。

ソファに横たわっている紀美子は眉をひそめた。

「紀美子」

そばに座っている悟は優しく声をかけた。

悟の声を聞いて、紀美子の混乱した頭の中に一瞬何かが走った。

彼女は何かを思い出したかのように、急に目を開けた。

目に入ったのは、見知らぬ環境だった。

その内装から、カジノのような場所に見えた。

周りには十数人のボディガードが経っており、紀美子は強烈な不安を感じた。

彼女は額に手を当て、眉をひそめて体を起こそうとした。

悟はすぐに手を差し伸べて彼女を支えようとした。

悟の手の温かさを感じた紀美子は、反射的に距離を取った。

「気分はどうだ?」

悟の手は途中で固まり、ゆっくりと引き込んだ。

「そんなことを聞くなんて、気持ち悪い!」

紀美子は冷たい声で言った。

「ごめん、勝手に君を気絶させてここに連れてきた」

悟の目には苦しみが浮かんだ。

「大事な話があると言ってたのに、何でカジノなんかに連れてきたの?」

紀美子は心の中の嫌悪感を抑えて彼を見た。

「焦らないで、あの人はもうすぐ来る」

悟は腕時計を覗いて時間を確認した。

「『あの人』って誰?」

紀美子は彼を見つめ、心の中の強い不安が募った。

「晋太郎だ」

悟は腕を下ろし、冷静に彼女を見て答えた。

「あんたは一体何を考えてるの?私を餌食に晋太郎を誘い出すつもりだったの?彼は来ないわよ!」

紀美子の
この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1461話 番外編百九

    「これは何?私たちが手伝ったお礼?」ゆみは贈り物を見て尋ねた。「まあ、それもあるけど、君の能力を疑ったことへの詫びの印だ。許してくれないかな」隼人は照れ笑いをしながら答えた。「気にしないで。よく疑われるから、もう慣れてるし。わざわざ謝りに来なくてもよかったのに」「いやいや、それとこれとは別だ。遠慮せず受け取ってくれ。もし、今回のことを佑樹に知られたら、めちゃくちゃ怒られちゃう」「わかった、じゃあ受け取っておくわ。ありがとう」隼人の真剣な顔を見て、ゆみは言った。そして臨に贈り物を中に運ぶよう合図した。「そうだ、みんなで飯食いに行かない?」隼人は誘った。「ごちそうするよ。事件解決のお礼も兼ねて」ゆみが答える前に隼人が続けて言った。「いいのよ、私たちは適当に食べて帰るから。お気持ちだけいただくわ」ゆみは断った。「そうはいかないだろう。俺は佑樹と友達なんだから、そんなに遠慮しなくていいじゃないか」隼人の親切心を目の前にして、ゆみはどう断ればいいかわからなくなった。臨に行くかどうか聞こうとしたとき、ふと澈が隼人をじっと見ているのに気づいた。その静かな眼差しの中には、何か言いようのない感情が潜んでいるように見えた。その時、ゆみの脳裏に紗子の言葉がよぎった。「わかった。じゃあお言葉に甘えて」彼女はさりげなく口元を上げ、隼人に返事した。案の定、澈はゆみに視線を向けた。しかし、ゆみは気づかないふりをしたまま臨に澈の車椅子を押すよう促し、隼人と一緒に出ていった。二人が前を歩き、臨が澈の車椅子を押しながら後ろを歩いた。「高橋隊長と姉さんの後ろ姿を見ると、めっちゃお似合いだな」臨が前の二人を見て言うのを聞き、澈は思わず肘掛けを握る手に力を込めた。「高橋隊長って姉さんのことを気にしてるよな、きっと。だって、少し疑っただけでお詫びにこんな高級なもの贈ってくるなんて、普通ありえないよ。ちらと見たんだけど、ツバメの巣にナマコとか、高そうなものばかりだった」「俺にはわからない」澈は目を細め、低い声で言った。「澈兄さん!どうしたんだよ」臨は彼を見て言った。「普段は姉さんより頭が回るってのに」「人間関係の話は得意じゃない」「そか」臨は前を見たまま言った。「だって

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1460話 番外編百八

    「つまり……裏切られた怒りで、玲奈と娘さんを殺したというの?」「最初は殺すつもりなんてなかった。ただあの男と別れて、俺とまともに暮らしてほしかった。許してやろうと思ったんだ……でも、彼女がはっきり言ったんだ。『もうあなたなんてどうでもいい。あの人と一緒に生きていきたい』って。……それだけじゃない。娘にまで、俺のことを『浮気者』だって洗脳し始めたんだ。あの子の俺を見る目は……まるで仇を見るようだった。俺は、六年間父親として育ててきたのに。あんな目を向けられて……死ぬまで忘れられない。だから……俺は、怒りのままに玲奈と娘を絞め殺した」「遺体はどこだ?」隼人が低く問うと、兵介は淡々と答えた。「冷凍庫の中だ。……バラバラにして、目玉と性器は犬に食わせた」そう言って、兵介は立ち上がり、寝室の方へ向かった。「俺の話が信じられないなら、玲奈の浮気の証拠がまだ残ってる」隼人が警戒しながら付いていくと、兵介は携帯を取り出しソファに戻った。携帯に映し出された不倫の証拠を見て、ゆみは複雑な表情を浮かべた。本当に悪いのは、玲奈だったのか。菜乃も、この事実をある程度知っていたのかもしれない。でも、遺体を取り戻すために、嘘をつくしかなかった――そう考えると、ゆみはすべてがつながったように感じた。菜乃は、きっと玲奈の死体の在り処を知っていた。母娘で結託していたのだ。……幽霊なんて、本当に油断できない。うかつに「助けてやろう」なんて思ったら、いつの間にか自分が罠にかかっている可能性だってあるのだ。「たとえ、あの女と娘がお前の男としての尊厳を踏みにじったとしても、殺していい理由にはならない」「分かってる。俺が悪いんだ。だから連れて行ってくれ。罪を償う覚悟はできてる」この後の処理はすべて、隼人の手に委ねられた。ゆみと臨は無言のまま店に戻った。ドアが開いているのを見て、ゆみは澈が来ているのだと悟った。中へ入ると、澈は反射的に外を見てから二人に視線を戻した。彼らの表情が冴えないのを見て、澈は尋ねた。「どうした?犯人を捕まえられなかったのか?」「捕まえたさ」臨はため息混じりに言った。「簡単にね。自分から全部白状したよ」「じゃあ、どうしてそんな顔してるんだ……?」「僕たち、騙されてた

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1459話 番外編百七

    「ああ、兵介さんならいるわよ。上がって」中年女性が去った後、ゆみは驚きで口を開けたままの隼人を見た。彼女は軽く鼻で笑うと、階段に向かった。三人はエレベーターで5階へ上がり、505号室を見つけると、ゆみはドアをノックした。「おい!」隼人が慌てて止めた。「そんなノックの仕方じゃ犯人に警戒されるぞ!」「じゃあ、ドアを蹴破るつもり?」ゆみは不思議そうに彼を見て言った。「警察の制服も着てないくせに、何を怖がってるの?」「……」隼人は言葉を失った。ゆみは隼人を無視し、再びドアをノックした。すぐに中から声がした。「どなたですか?」「管理会社の者です。ガス管の点検に参りましたので、ドアを開けていただけますか?」ゆみの平然とした嘘っぷりに、隼人は思わず感心して心の中で親指を立てた。兵介は、管理会社と聞いて、警戒せずにすぐにドアを開けた。彼の目の下にははっきりとしたクマができており、明らかに疲弊した様子だった。まるで幽霊に取り憑かれたかのようだ。「お邪魔します」ゆみがにこやかに挨拶すると、兵介は小さくうなずいて体を横にどけた。だが、臨も入ってこようとするのを見ると、彼の眉間はぐっとひそめられた。「待ってくれ!」兵介は警戒心を露わにし、臨を指さして言った。「管理会社にそんな若いのはいないだろ」ゆみはにっこりと笑って言った。「ごめんね。待たないよ!」その言葉と同時に、ゆみは隼人に目を向けた。「隊長、取り押さえて!」隼人は即座に反応し、兵介を素早く押さえつけた。そのついでに、脚でドアを閉めた。兵介はもがいて抵抗したが、その力は隼人に到底及ばなかった。すぐに兵介は抵抗をやめ、大人しくなった。ゆみはソファに腰を下ろし、腕を組んだまま兵介をじっと見つめた。「自分の娘と妻を殺した罪、認める?」「認める」兵介はうなだれるように答えた。あっさりと罪を自白した兵介に、ゆみたちは驚いて彼を見つめた。「弁解すると思ったか?」兵介は自嘲気味に笑った。「弁解するつもりはない。確かにあの子と玲奈を殺した。だって……六年間も騙されていたんだ!!」その言葉に、ゆみは思わず目を見張った。……えっ、浮気してたのは兵介じゃなかったっけ?どうして話がひっ

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1458話 番外編百六

    三人が隼人の車に乗り込んだその瞬間、澈がちょうどボディーガードに付き添われて葬儀屋の前に到着した。そして彼は、ゆみが別の男の車に乗るのを目撃した。車が遠ざかっていくのを見送りながら、澈は何も言わなかった。ほぼ一時間の道のりを経て、ゆみたち三人は豊河団地に到着した。隼人は車を停め、団地の中を一瞥してから聞いた。「容疑者の顔、わかってるのか?」「そんなの簡単よ」ゆみはそう言って、隼人を一瞥した。「でも、後で私のことをバカにだけはしないで」「えっ?どういう意味だ?」ゆみが黙ると、彼は臨に答えを求めた。「姉さんは、朔也おじさんに聞くんだよ。誰かなんて聞かない方がいいよ。後で姉さんが独り言を言い始めても、余計なことは言わないでね」臨は誇らしげに説明した。隼人は頭をかきながら言った。「分かった。君たちのやり方に任せるよ」だが隼人の予想に反して、ゆみは車の中から大声で「朔也おじさーん!」と叫んだ。まるでテレビで見たことのある、何かを召喚する儀式みたいで、滑稽にすら思えた。思わず笑いそうになった瞬間、隼人は周囲に冷たい空気が漂い始めたのを感じた。彼は思わず上着を締め直し、不安になって周囲をきょろきょろと見回した。続けて、ゆみの声が聞こえてきた。「朔也おじさん、その男の名前、知ってる?」ふわりと現れた朔也は、ゆみの隣に座って答えた。「名前は聞かなかったけど、今からその女の幽霊に聞いてみようか」「お願いね、朔也おじさん。できれば顔も教えて」「わかった」ゆみがそう言ったあと、隼人はしばらく彼女を見つめていた。その目つきは、まるで頭のおかしい人を見るようだった。空気に向かって話すだけで、容疑者の名前と顔が分かるって?今どきの若い女の子は、なんでこんなに怪しげなんだ……最初は綺麗で正義感の強い子だと思ったのに。今はどこか……「佐藤兵介(さとう へいすけ)」隼人がまだ頭の中で思考を巡らせている中、突然、ゆみが名前を口にした。「犯人の名前は佐藤兵介。男、今年42歳。つり上がった目、薄い唇、痩せた顔立ち、身長は170センチ前後」隼人は驚いてゆみを見た。「いや、それは……」「私の言うことを疑っても構わないわ」ゆみは淡々と言った。「でも、私の幽霊たちの

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1457話 番外編百五

    車に乗り込んだあと、ゆみは茹で卵を二つ頬張り、牛乳を一本飲み干した。「姉さん、今朝、佑樹兄さんが出かける前に連絡取ってくれたって言ってたよ。高橋隊長とは連絡ついた?」「取れたよ」ゆみは口の中の食べ物を飲み込みながら、もごもごと答えた。「店で待ってるって」「澈兄さんも行くのかな?」臨は聞いた。臨は澈がそばにいると安心できるため、一緒に行ってほしかったのだった。ゆみは答えた。「来るかどうかは本人次第。でも、足の調子が良くないから、多分来ないと思うよ」臨は少し残念そうに唇を尖らせた。「そっか……」三十分後、葬儀屋に到着した。店の前には、黒いカイエンが一台停まっていた。ゆみはちらりと一瞥し、店のドアを開けようとした。だが、手をドアにかける前に、背後から大声が飛んできた。「佑樹の妹さん!」その呼び声に、ゆみは思わず目元をぴくりとさせ、振り返った。すると、一人の大柄な若い男が車の前を回り込んで歩いてくるところが見えた。男性は日焼けしたような小麦色の肌をしており、輪郭のはっきりとした顔立ちは男らしさに溢れていた。見た目からして、かなり陽気そうなタイプだ。彼は、ゆみの目の前まで来ると、白い歯を見せてにっこり笑い、手を差し出した。「初めまして、高橋隼人(たかはし はやと)です」ゆみも手を差し出して握手した。「こんにちは、ゆみです」「さすが佑樹さんの妹さん、お兄さんと同じくお上品なお顔立ちですね」「……」佑樹お兄ちゃんを上品だと言う人は初めてだった。何か言おうとしたが、隼人はもう次の話題に移っていた。「にしても、こんな若いのにこういうお店をやってるとは思わなかったな」ゆみが説明しようと口を開くと、隼人が続けた。「っていうか、外めっちゃ寒いでしょ?女の子は特に冷えに弱いし、中で話そっか?」ゆみはこの饒舌なイケメンを呆れたように見つめた。「……はいはい、どうぞ」ドアを開け、ゆみは隼人を店内に招き入れた。席に着くと、ゆみは話を切り出した。「高橋隊長、あの……」「そんな堅苦しい呼び方やめてよ」隼人は手を軽く振り、笑顔で言った。「隼人って呼んで。俺、佑樹とはそこそこ仲がいいんだ。だから、妹さんとも友達になりたいんだ。他人行儀なしでいこうよ」

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1456話 番外編百四

    ゆみは朔也の言葉を素直に聞き入れ、店を閉めた後、運転手に澈を家まで送り届けさせてから臨と一緒に潤ヶ丘へと戻った。家に着く前、臨が急にゆみの袖を引っ張った。「姉さん、明日、僕も一緒に行きたい」「明日……何曜日?」「日曜日だよ!」臨は言った。「姉さん、曜日も忘れるなんて」「……ならいいわ。連れて行ってあげる。でも、学校のある日はダメ。私の後ついて回ってたら成績落ちるでしょ」家の扉を開けると、佑樹と念江はまだ起きていて、リビングで待っていた。二人が帰宅したのはもう午前一時近くだった。佑樹は思わず眉をひそめて何か言いかけたが、それを察した念江が先に口を開いた。「ゆみ、臨、用事は片付いたか?」「まだだよ」臨が元気よく答えた。「明日が本番。姉さんが事件を解決しに行くんだ」「事件?」佑樹が眉をひそめた。「何の事件?」臨はゆみに視線を向け、話してもいいか目で確認した。ゆみは彼に応えず、自ら今夜の出来事を説明した。「そういうことなら、警察の知り合いがいる。高橋隊長って人だ。後で連絡先送るよ」佑樹が言った。「分かった。じゃあもう寝るね。眠くてたまらないし……」ゆみが何度もあくびをするのを見て、佑樹と念江もそれ以上何も言わなかった。部屋に戻ったゆみは、お風呂を済ませてベッドに横になった。しかし何度か寝返りを打ったが眠れず、紗子にメッセージを送ることにした。「紗子、まだ起きてる?」しばらくして返事がきた。「ちょうど寝るところだったよ。どうしてまだ起きてるの?」「紗子、私、振られちゃったの」紗子は驚いた絵文字を送った。「え?どういうこと?」「今日、澈ともうちょっとでキスしそうだったの。でも彼が顔を背けて、『今の関係でそういうのは良くない』って」「それってむしろいいことじゃん。責任感ある人だよ、彼」「そうなんだけど、でも私、早く彼を手に入れたいのよ」「焦ってもダメだよ。逆に彼を焦らせる方が効果的」「あなたも澈と接したことあるでしょ?あの人、ほんとに感情が見えないのよ」「でも、見えてても、それが本心とは限らないよ」「じゃあ、どうしたら彼を焦らせれると思う?」「自分らしく過ごしてればいいよ。食べたいものを食べて、遊びたい時は遊んで、誰とでも自由

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status