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第1373話 番外編ニ十一

Author: 花崎紬
「誘ってきたのはそっちでしょ?」

ゆみは容赦なく言い返した。

「そうだけど、ゆみだって拒否しなかっただろ?」

剛は眉をひそめながら言った。

「会いに来たのは、あんたのビビリで卑怯な姿を見てやろうと思ったからよ」

ゆみは嫌味たっぷりに言い放った。

「俺がビビリな上に卑怯だと?なら澈の野郎はどうなんだ?」

剛は怒りを通り越して思わず笑った。

「もちろん澈君は違うわ。彼はあんたよりずっと度胸があるし、私の話も信じてくれる」

ゆみは頷きながら答えた。

「だったら、なんで澈と遊びに行かないんだ?」

剛は明らかに腹を立てているのがわかった。

「あら、キレたの?やっぱりあんたは澈と比べ物にならないわね。感情のコントロールもできないなんて。ただ恥を晒しにきたの?」

ゆみは笑いながら言った。

「お前、誘いに応じたのは俺を侮辱するためだったんだな?」

剛は怒って息を荒くしながら立ち上がり、ゆみを睨みつけながら言った。

「へえ、少しは頭が回るのね」

ゆみはゆっくり頷いた。

「なんでこんなことするんだ?」

「理由が聞きたい?」

ゆみは軽蔑を含んだ目つきで彼を見た。

「簡単よ。あんたが澈を殴ったから」

「あいつが先に俺を騙したんだ!」

「騙されたから殴っていいの?あんた、何様のつもり?」

ゆみは嫌悪感を露わにして言った。

「女だからって手を出さないと思ってんじゃねえぞ!!」

剛はとうとう我慢の限界に達し、ゆみの襟首を掴んで引き寄せると思い切り怒鳴った。

「どうぞ。できるもんなら殴ってみなさい」

ゆみは少し顎を上げ、自分の顔を指さした。

「親が偉いからって、何しても許されると思ってんのか?」

剛は全身を震わせた。

「ええ」

ゆみは剛の言葉に乗った。

「どう?私の親がちらついて手が出せないの?ああ、わかったわ。あんたみたいな人間は弱い者いじめしかできないのね。澈は自分より下だと思ったから殴れたんだね?」

ゆみは剛を執拗に挑発し続けた。

彼のイライラした表情を見るほど、彼女は快感を覚えた。

確かに、彼女と澈の間にはわだかまりがある。

だが、まだ絶交を宣言したわけではなかった。

母の紀美子が言ったように、友達が殴られたら、助けるのは当然だ。

「そんな言い方しかできねえのか?」

剛は怒鳴った。

「ええ」

ゆみは剛を真っ
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