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第1407話 番外編五十五

Author: 花崎紬
「姉さん、もう怖くないよ。なんか普通の人と変わんないじゃん……」

臨は周りの幽霊を何体か見た後少し慣れてきたようで、ゆみにそう言った。

ちょうどその時、1メートルも離れていない所を、頭が押しつぶされたような霊がふわりと通り過ぎた。

「うわっ!ちょっ、なんだありゃ!」

臨はすぐさま頭を抱えて地面にうずくまり、また元の怖がりに戻ってしまった。

ゆみは大きくため息をつき、臨の襟首をつかんで校舎へ引きずっていった。

やはり、昨夜と同じ階だ。

ゆみは教室を一通り見て回ったが、例の女幽霊を見つけられなかったため線香を焚いて誘い出すことにした。

線香に火をつけ、2歩歩いた瞬間、目の前に人影が現れた。

その霊は逆さ吊りの状態だった。

ゆみは冷静だったが、隣の臨はそうではなかった。

叫びはしなかったものの、凍りついたようにその場で固まってしまった。

目の前の霊は、青白い顔色をしているが、端正な顔立ちで、清純さと妖艶さを兼ね備えていた。

臨はこれまで多くの美女を見てきたが、この外見はなかなかいなかった。

彼は恐怖忘れ、思わずじっと見つめてしまった。

その間、その霊は線香を貪るように見つめ、深く息をしてその煙を吸い込んでいた。

それを見て、ゆみは手に持った線香をぽきりと折って、冷たく笑った。

幽霊はぽかんとし、怒った目でゆみを見上げた。

臨も驚いてゆみを見た。

「何のつもりだ?」

霊は不満そうな顔で尋ねた。

「あんたこそどういうつもりなの?」

ゆみは問い返した。

「私が聞きたいこと、分かっててごまかしてたわね?」

「何で気づいたんだ?」

幽霊の目に一抹の驚きが見えた。

「それはどうでもいいでしょ。今日は理由をはっきりさせるために来た」

ゆみは言った。

「確かに、本当のことを言わなかった。あの霊の顔も知っている」

女幽霊は笑いながら体をひらりと回転させ、空中であぐらをかいた。

「だが、線香だけで質問に答えろというのは、あまりにも安い取引だわ」

幽霊は続けた。

「もちろん、今日はこれだけ持ってきたわけじゃない」

ゆみは線香を臨に渡し、壁にもたれかかった。

「あんた、まだ未練があるんでしょ?それを叶えてあげる」

ゆみは淡々と言った。

「未練などないわ」

幽霊はあざ笑いをした。

「この学校ができたのは53年前。あんたは学
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