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第1493話 番外編百四十一

Author: 花崎紬
「3……2……」

ゆみは視線を戻さず、口の中でカウントダウンを始めた。

「パンッ!――パンパンパンッ!」

突然、校庭の道の両脇で花火の音が鳴り響いた。

大きな花火ではなく、きらびやかで小さな花火だった。

その花火はキャンパスにもっと賑やかな雰囲気を加えた。

ゆみは花火に目を奪われ、最後の「1」を数えるのを忘れてしまった。

ふと目を上げ花火を見ようとした時、目の前に隼人の姿が現れた。

目の前の隼人は、真っ黒なスーツを着こなし、抜群のスタイルを持ちつつも、どこかダーティな魅力を漂わせていた。

その腕には、一束の――

ゆみの目尻がピクッと痙攣するような花が抱かれていた。

小さな野菊がたっぷりと詰め込まれた花束。確かにきれいだが、あまりにも……

「俺が摘んできたんだ。どう?きれいだろ?君にあげる!」

隼人はその野菊の花束をゆみに差し出した。

今度はゆみが口元まで痙攣し始めた。

作り笑いを浮かべ、歯を食いしばりながら彼女は隼人を見つめた。

「バカかあんた!」

しばらく我慢していたが、ついに爆発した。

隼人はきょとんとした表情で、なぜゆみが突然怒り出したのか理解できない顔だった。

「あれ、気に入らないのか?頑張って摘まんできたのに……」

隼人は呆然とした顔でゆみを見つめた。

「菊って亡くなった人に供える花でしょ!私は死んでるわけ?」

ゆみはそろそろ我慢の限界だった。

隼人はすぐに手元の花束を見下ろし、ハッと気づくと、後ろに投げ捨てた。

「ごめん、そういうの知らなくて……」

隼人は言った。

「野菊なら大丈夫かと思ったんだけど……」

「呆れるわ」

ゆみは口ではそう言いながら、内心では嬉しかった。

だって隼人が突然花火でサプライズを仕掛けてくるなんて、思ってもみなかったから。

隣で紗子がゆみと隼人を交互に見つめた。

「あなたたち……」

「あ、そうだ。紗子ちゃん、紹介する。こっちは刑事課警察官の高橋隼人隊長だ」

ゆみはハッと我に返った。

「こんにちは、高橋隼人と申します。ゆみの将来の彼氏です」

隼人は紗子の方に向き、お辞儀をした。

「バカ言わないで!」

ゆみは笑いながら罵った。

「何が『将来の彼氏』だ?」

紗子は笑顔で隼人にお辞儀をした。

「こんにちは、吉田紗子です。ゆみの親友よ」

そう言うと、紗子はゆみ
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