第293話

「ポジションって、何のこと？」

明日香は顔を上げて、まっすぐに淳也を見ると、彼は無言で指先を伸ばし、明日香の前に置かれた参考書を軽く叩いた。

ようやく意味を察した彼女は、淡々と口を開いた。

「珠子は成績がいいもの。オリンピック数学クラスに選ばれるのは、努力の結果よ。あのクラスはそもそも成績で選抜されるし、優秀な人が入るのは当然でしょ」

「じゃあ、お前は珠子に劣ってると思うのか？」

その問いに、明日香は返事をせず、少しだけ視線を逸らした。

この話題を掘り下げるつもりはない。

彼女にとって、オリンピッククラスに入って帝大へ推薦されることは、履歴書の一行にすぎなかった。辞めたところで、最終目標には影響しない。

「あなた、珠子さんのことが好きなんじゃなかったの？こんなに優秀になって、嬉しくないの？」

「誰がそんなデマを？」

「え？違うの？」

明日香は少し目を細めた。

あの時、珠子が海外から戻ってきた直後、淳也が帝都第二高をサボって彼女に付き添い、べったりだったという噂は、校内の誰もが知っていた。

路上で、バーで、そして桃源村のバルコニーでキスしていた姿さえ目撃されている。

さらに、珠子がいじめを受けた時、淳也は明日香の首を壁に押し付けてまで珠子を守ろうとした。

あの必死さが、気持ちの証明ではないとでも？

......近頃の若者は、若気の至りで、恋愛感情を軽んじすぎている。

「もちろん違う！」

「そう。わかった」

明日香はそれ以上詮索せず、視線を落として再び問題に取りかかった。

「......理由、聞きたくないのか？」

突然の問いに、明日香は顔を上げた。

その瞳は、どこまでも冷静だった。

「あなたが誰を好きかなんて、私には関係ない。恋愛は個人の自由よ。私は、あなたの成績と帝大合格のために協力すると言ったけど、それ以外のことは関係ないわ」

彼女の声には、どこか突き放すような硬さがあった。

「恋愛関係なんて、脆いものよ。私たちはまだ若いし、将来の選択肢はいくらでもある。今、優先すべきは勉強。それだけ」

淳也の目が暗くなり、唇を引き結ぶと、低く呟いた。

「......お前って、本当に模範生だな」

明日香は苦笑して、肩をすくめた。

「だって、勉強は人生を変えられるもの。私には、それしかないから」

「......」

「あなた