Share

第3話

Author: 朝野みつ葉
目を覚ますと、病室の外から責めるような声が聞こえてきた。

「おとなしく榊原家の奥様をしていればよかったのに。離婚して苦労している芹香と、わざわざ張り合う必要なんてあったの?

あれだけ出血して、子宮まで摘出したんでしょう。もう榊原家の跡継ぎを産むこともできないじゃない。私は最初から、あの女は気に入らないって言ってたのよ。結婚するなら芹香にしなさいって」

圭吾が母親の言葉を遮った。

「もういい、母さん。ここは病院だ。今日は帰ってくれ」

「分かったわ。夜、家に着く頃に連絡しなさい。芹香を行かせるから、身の回りのことをしてもらいなさい」

そこで初めて分かった。

私が家を空けるたび、圭吾の母は気に入っている芹香を圭吾のもとへ送り込んでいた。芹香も、私が出かける時間を見計らって訪ねていたのだ。

私は4年ものあいだ、何も知らずにいた。

絶望したままベッドに横たわり、圭吾が病室へ入ってくると、私は離婚を切り出した。

「外で話していたことは、全部聞いた。ほかには何もいらない。二人の子どもだけ、私に連れていかせて」

圭吾は新生児用のコットに寝かされた赤ん坊を見たあと、その場に膝をついた。

「澄花、離婚なんて言わないでくれ。俺にはお前が必要なんだ。結婚する前から、母さんが芹香と一緒になれって言ってたのは、お前も知ってるだろ。俺はお前としか結婚する気はなかった。

今になって母さんが、芹香を家に置いて面倒を見ろって言い出したんだ。断ったら死んでやるって騒ぐし、年老いた母親を見捨てることもできなかった。俺だって、どうすればいいか分からなかったんだ。一度だけ、許してくれないか?」

涙があふれ、枕を濡らした。

「お義母さんがそんなに芹香を気に入っているなら、あなたは二人と暮らせばいい。離婚して。私は子どもたちだけ連れていく」

そばにいた理玖は、圭吾の後ろへ隠れた。私はその手を取ろうとした。

子どもたちだけが、私に残された希望だった。

だが、力の入らない手を伸ばすと、理玖は身を引いた。

「ママ、またパパを困らせてる。何も悪いことなんてしてないのに、どうして離婚するの?芹香お姉さんは優しいし、おばあちゃんも、パパも、僕も好きだよ。

芹香お姉さんを嫌ってるの、ママだけじゃないか。ママなんて大嫌い!毎日怒って、ピアノを弾け、絵を描けって言うし、芹香お姉さんまでいじめる。僕はママとは行かない。パパとおばあちゃんと、芹香お姉さんと暮らす」

圭吾は形ばかり理玖をたしなめ、黙るよう目で合図した。

その瞬間、心の中で何かが死んだ。絶望する力さえなくなり、どんな言葉も意味を失った。

私はそれきり、一言も話さなかった。

退院すると、一人で花音を抱いて家を出た。

お金がなく、借りられたのは日当たりの悪い古いワンルームだけだった。

幼い花音を抱えたままでは、働き口もなかなか見つからなかった。

ようやく小さな食堂の店主が事情をくみ、店の奥に花音を寝かせる場所を用意して、皿洗いとして雇ってくれた。

給料は家賃と生活費でほとんど消えた。自分の食事を切り詰めても、花音のミルクやおむつは買わなければならなかった。

胃がんになったのも、あの頃の暮らしが少なからず影響していたのかもしれない。

それでも花音は聞き分けがよく、3歳になったばかりなのに、いつも私を気遣ってくれた。

もう二度と、この子にあんな苦労はさせたくなかった。

……

記憶を断ち切ったのは、ドアの向こうから聞こえてきた芹香の声だった。

「澄花さん、圭吾さんが迎えに来てくれたの。今日から一緒に暮らすんだから、仲よくしましょうね」

勝ち誇ったような笑みを浮かべている。

「そう。ようこそ、芹香さん。どの部屋を使うの?すぐに片づけるわ」

「その必要はない」

背後から、圭吾の冷たい声がした。

「芹香は体が弱い。この部屋がいちばん日当たりがいいから、ここを使わせる。澄花は、使用人用の部屋へ移れ」

「分かった。あなたの言うとおりにする」

私は従順に答えた。不満など少しもないように。

芹香の嘲るような笑みには気づかないふりをして、荷物をまとめ始めた。

その拍子に、鎮痛薬のボトルが床へ転がった。

圭吾が拾おうとかがみ込む。

「何の薬だ?誰が飲んでる?」

止める間もなく、私は答えた。

「花音のビタミン剤よ」

芹香は甘えた声で笑い、圭吾を部屋の外へ押し出した。

「女同士で片づけるから、圭吾さんは外にいて。私が澄花さんを手伝うわ」

私はその隙に、急いでボトルを拾い上げた。

圭吾は腑に落ちない顔をしていたが、そのまま部屋を出ていった。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 余命一か月、娘のために元夫へ戻った   第8話

    圭吾は霊園を飛び出し、車のエンジンをかけた。ハンドルを握る指は白くなり、手の甲には血管が浮き上がっている。窓の外の景色が、猛烈な速さで後方へ流れていった。芹香の艶めいた顔。自分を崇拝するような目。「何もいらない。圭吾さんと一緒にいられれば、それだけでいい」という甘い言葉も、「澄花さんは気が強いから。圭吾さんが疲れているんじゃないかって、心配なの」と気遣うようにささやいた声も、もう愛おしいとは思わなかった。今となっては、すべてが周到な計算にしか見えない。母親も同じだった。偶然を装い、二人が顔を合わせるよう仕向けた。芹香は何気ないふりをして、澄花への不満を圭吾に吹き込んだ。自分は妻を裏切っただけではない。二人の女に操られた、ただの人形だった。二人が暗黙のうちに手を組み、背中を押し続けたせいで、自分は一歩ずつ妻を死へ追いやった。屋敷の門の前で待っている芹香を見つけた瞬間、圭吾の頭に狂気じみた考えが浮かんだ。芹香は遠くから圭吾の車に気づき、うれしそうに一歩前へ出た。車に乗り込もうとしたのだろう。だが次の瞬間、圭吾はアクセルを床まで踏み込んだ。速度計の針が一気に跳ね上がる。黒い車は弾丸のように芹香へ突っ込んだ。芹香は血だまりの中へ倒れた。最後まで理解できなかっただろう。邪魔者はいなくなったはずなのに、あれほど恋い焦がれていた圭吾が、なぜ自分を車ではねたのか。圭吾は車の向きを変え、母親の住む家へ猛スピードで向かった。途中で電話をかけ、玄関の外で待つように告げた。母親の姿が見えると、圭吾は再びアクセルを踏み込んだ。そして、そのまま母親へ突っ込んだ。すべてを終えると、圭吾は狂ったように笑った。やった。二人に、血で償わせた。最も信じていた相手に裏切られ、利用され、奈落へ突き落とされる苦しみを、あの二人にも味わわせたのだ。まだ足りない。そう考えながら、圭吾が乱暴にハンドルを切った、そのときだった。耳をつんざくブレーキ音が響いた。タイヤが雨に濡れた路面を滑り、長い黒い跡を残す。車は、前方で右折していたトラックの後部に激突した。激しい衝撃で、圭吾の体はハンドルに叩きつけられた。胸を押し潰されるような痛みに、息が詰まった。冷たい汗が背中を濡らし、額から流れた

  • 余命一か月、娘のために元夫へ戻った   第7話

    葬儀は慌ただしく執り行われた。圭吾は感情を失ったように葬儀社へ連絡し、棺や骨壺を選び、火葬と納骨の手続きを進め、親族や知人からの弔意を受けた。顔には何の表情もなく、落ちくぼんだ目は赤く充血していた。泣きも笑いもせず、ただ面倒な事務を一つずつ片づけているように見えた。そんな圭吾の動きが止まるのは、時折、花音の姿が目に入ったときだけだった。花音は父親を怖がりながらも、その服の裾を強く握り、泣き腫らした顔で尋ねた。「ママは、お星さまになったの?」圭吾は、ほんの一瞬だけ動けなくなった。立ち止まるのが怖かったのだ。一度でも足を止めれば、恐怖にのみ込まれてしまう。澄花はいない。これで自分には、本当に帰る家がなくなった。澄花が家を出ていた3年間も、圭吾は屋敷の中をほとんど変えなかった。なぜ戻ってきた澄花は、そのことに気づいてくれなかったのか。最後まで、自分を許してはくれなかった。本当に、何も伝わっていなかったのだろうか。澄花が好きだった置物は、一つも場所を動かさなかった。二人の結婚式の写真も、毎日、自分で埃を払っていた。写真。置物。そこでようやく思い出した。大切に守ってきたはずの品々を、腹立ちまぎれにすべて自分の手で壊したことを。また激しい苦痛が圭吾をのみ込んだ。澄花がこの世に残したものは、もうほとんど残っていない。……夜になっても眠れず、圭吾は澄花が使っていた狭い部屋へ向かった。ベランダには、取り込まれないままの服が揺れている。ベッド脇の小さなテーブルには、鎮痛薬のボトルが残されていた。花音は部屋の隅に身を縮め、ほとんど口をきかなくなっていた。泣くか、眠るか。そのどちらかだった。母親に何が起きたのかを、まだ理解できる年齢ではない。「死」が永遠の別れだということも分からない。それでも、何かは感じ取っているのだろう。この数日、花音は圭吾を拒み続けていた。小さな声で母親を呼び、圭吾を見る目は他人を見るようによそよそしかった。理玖は以前と同じように、家じゅうに響く声で泣きわめき、母親を返してくれと訴えた。夜中に何度も悪夢で目を覚まし、家政婦が付き添わなければ眠ることもできなかった。理玖の年齢なら、母親が二度と帰ってこないことを、もう分かっているはずだった。

  • 余命一か月、娘のために元夫へ戻った   第6話

    救急隊員は到着するなり、床に横たわる澄花のもとへ駆け寄った。「お気の毒ですが……」一通り状態を確認したあと、二人は沈黙したまま圭吾に向かって首を横に振り、器材を片づけ始めた。そのままストレッチャーを運び出そうとする。その動きが何を意味するのかは、あまりにも明らかだった。圭吾はとっさに救急隊員の腕をつかんだ。「いや、もう一度やってください!お願いします、もう一度だけ!病院へ……病院へ運んでください。お願いします、妻を助けてください……」救急隊員はなだめるように言った。「お気持ちは分かります。ただ、もう……」圭吾は勢いよくストレッチャーの前へ回り込んだ。声はかすれ、目は真っ赤になっていた。救急隊員の腕を、最後の望みにすがるような力でつかむ。「さっきまで……さっきまで話してたんです!ほんの数分前まで話してたんです!お願いします、病院へ連れていってください!」救急隊員は困ったように眉を寄せ、圭吾の手を外そうとした。その目には、感情を抑えたような色が浮かんでいた。結局、救急隊員は小さくうなずいた。そして床に横たわる澄花をストレッチャーに乗せ、そのまま救急車へ運び込んだ。圭吾も理玖と花音を連れ、狭い車内に乗り込んだ。だが、車内には救命処置を続けるような切迫感はなかった。救急隊員はやるせなさそうに首を振り、あとは機器の単調な電子音だけが響いていた。救急外来の白い照明が、目に突き刺さるほどまぶしかった。澄花はすぐに処置室へ運び込まれ、圭吾は外で待つよう告げられた。腕の中では、泣き疲れた花音がしゃくり上げながら眠っていた。小さな頬には何本もの涙の跡が残っている。一秒、一秒が、身を焼かれるように長かった。圭吾は冷たい壁にもたれ、頭の中で轟音が鳴り響いているようだった。花音の泣き声と、血を吐いた澄花が最後に向けた憎しみのこもった目が、交互に脳裏へ浮かぶ。ふと何かに気づき、圭吾は勢いよく壁から体を起こした。眠っている花音を廊下のベンチへそっと寝かせ、上着をかけた。そばにいる理玖へ、妹をよく見ているよう言い聞かせた。それから、何かに突き動かされるように救急受付へ向かった。「今、処置を受けている高梨澄花の夫です。妻はがんだったんですか?これまでどんな治療を受けていたのか、教えてくださ

  • 余命一か月、娘のために元夫へ戻った   第5話

    気づくと、澄花は宙に浮かんでいた。圭吾が倒れた女のもとへ駆け寄り、その体を抱き起こす姿が見えた。澄花は、自分がもうこの世を離れたのだと悟った。「澄花……澄花!目を開けろ、澄花!」圭吾は何度も私の体を揺すり、声の限りに名前を呼んだ。けれど、その腕の中の女は少しも動かなかった。どうにか息を整えた圭吾は、改めて澄花の顔を見た。片方の手はみぞおちのあたりの服を固く握り締め、指の関節が白くなっている。顔は激しい苦痛にゆがみ、見開いた目は焦点の合わないまま天井を向いていた。圭吾は恐怖に顔を引きつらせ、数歩あとずさった。それでも再び近づき、震える指を鼻先へ寄せた。息は感じられなかった。「嘘だ……そんなはずない。澄花、澄花!」死んだ?なぜだ。どうして、こんなことに。圭吾はスマホをつかみ、119番へ電話した。「妻が息をしていません!早く来てください。お願いします!」電話を切って初めて、理玖が呆然と立ち尽くしていることに気づいた。花音はすでに声を上げて泣いていた。小さな体を震わせ、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしている。氷水を頭から浴びせられたような恐怖が、圭吾を襲った。なぜ血を吐いた?これまで大きな病気をしたことなどなかったはずなのに。だが、床に広がった血も、目の前で動かなくなった澄花も、紛れもない現実だった。圭吾は花音を抱き上げた。「花音」必死に声を落ち着かせ、涙に濡れた娘の顔を両手で挟み、自分のほうへ向けた。「ママはどうしたんだ?どうして血を吐いた?」花音の目はうつろで、歯がかちかちと鳴っていた。「ママ、お薬を飲んでた……急に、ここを押さえて……それから、もっとお薬を飲んで……血を、いっぱい吐いてた……」花音は、母親がしていたようにお腹を押さえた。恐怖で小さな顔がゆがんだ。涙で言葉が途切れた。「パパ、ママ死んじゃったの?ママ、もう起きないの?」薬?何の薬だ。澄花は本当に病気だったのか。圭吾の脳裏に、いつか床へ転がった薬のボトルが浮かんだ。痛みに耐えるように眉を寄せた顔も、何度か見た気がする。だが圭吾は、そのどれについても深く考えようとはしなかった。澄花に腹を立てることしか頭になかったのだ。圭吾は使用人用の部屋へ飛び込み、わずかな荷物を手当たり次

  • 余命一か月、娘のために元夫へ戻った   第4話

    芹香の鋭い視線を感じた途端、みぞおちにまた耐え難い痛みが広がった。私が逆らわずにいれば、花音はこの先、少しでも暮らしやすくなる。圭吾の足音が遠ざかると、芹香は私の手首をつかんだ。「あなたが陰で圭吾さんに泣きついて邪魔をするから、私は今までここへ来られなかったのよ。弱ったふりをすれば、心配してもらえるとでも思った?散々騒いで戻ってきたところで、圭吾さんが大切にするのは、結局私でしょう?」私は目を伏せ、穏やかに答えた。「勘違いよ。あなたがここへ来ることを、私は本当に歓迎している。二人には幸せになってほしいの。その代わり、これから花音を大切にしてあげて」何を言ってものれんに腕押しで、芹香はいら立ったらしい。吐き捨てるように言った。「忠告しておくわ。この家にいたければ、これからは身の程をわきまえることね」私は数着の服と、わずかな日用品だけをまとめた。階段まで来ると、圭吾が私の前に立ちふさがった。「それだけしか持っていかないのか?」「必要なのは、これだけよ」彼が何を言いたいのかは分かっていた。結婚式の写真。彼から贈られた絵やアクセサリー。二人で出かけた旅先で買った、いくつもの思い出の品。以前はどれも大切で、使用人にも触らせず、自分で手入れをしていた。けれど今は、一つも持っていく気になれなかった。圭吾が部屋を指さした。「ほかの物は、全部いらないっていうのか?」私は彼を一瞥した。「重くて運べないもの」圭吾は突然、私を押しのけて階段を駆け上がり、部屋へ飛び込んだ。そして結婚式の写真も、絵も、思い出の品も、すべて2階から投げ落とした。床へ叩きつけられた品々は、次々と音を立てて砕け散った。使用人たちは部屋の隅で息を潜め、誰一人、止めようとはしなかった。私は何も見なかったように破片の間を歩き、使用人用の部屋へ入った。背中に、芹香の嫉妬に満ちた視線が突き刺さった。ドアを閉めた途端、口から大量の血があふれた。もう、あと1週間しかない。疲れ切っていた。あの人たちのことを考える力など、もう残っていなかった。翌日、圭吾が部屋の前に立った。「芹香の娘が、昨夜は眠れなかったらしい。花音をお前の部屋へ移して、あの子には花音の部屋を使わせる」花音の部屋は、私たちを連れ戻したとき、圭吾

  • 余命一か月、娘のために元夫へ戻った   第3話

    目を覚ますと、病室の外から責めるような声が聞こえてきた。「おとなしく榊原家の奥様をしていればよかったのに。離婚して苦労している芹香と、わざわざ張り合う必要なんてあったの?あれだけ出血して、子宮まで摘出したんでしょう。もう榊原家の跡継ぎを産むこともできないじゃない。私は最初から、あの女は気に入らないって言ってたのよ。結婚するなら芹香にしなさいって」圭吾が母親の言葉を遮った。「もういい、母さん。ここは病院だ。今日は帰ってくれ」「分かったわ。夜、家に着く頃に連絡しなさい。芹香を行かせるから、身の回りのことをしてもらいなさい」そこで初めて分かった。私が家を空けるたび、圭吾の母は気に入っている芹香を圭吾のもとへ送り込んでいた。芹香も、私が出かける時間を見計らって訪ねていたのだ。私は4年ものあいだ、何も知らずにいた。絶望したままベッドに横たわり、圭吾が病室へ入ってくると、私は離婚を切り出した。「外で話していたことは、全部聞いた。ほかには何もいらない。二人の子どもだけ、私に連れていかせて」圭吾は新生児用のコットに寝かされた赤ん坊を見たあと、その場に膝をついた。「澄花、離婚なんて言わないでくれ。俺にはお前が必要なんだ。結婚する前から、母さんが芹香と一緒になれって言ってたのは、お前も知ってるだろ。俺はお前としか結婚する気はなかった。今になって母さんが、芹香を家に置いて面倒を見ろって言い出したんだ。断ったら死んでやるって騒ぐし、年老いた母親を見捨てることもできなかった。俺だって、どうすればいいか分からなかったんだ。一度だけ、許してくれないか?」涙があふれ、枕を濡らした。「お義母さんがそんなに芹香を気に入っているなら、あなたは二人と暮らせばいい。離婚して。私は子どもたちだけ連れていく」そばにいた理玖は、圭吾の後ろへ隠れた。私はその手を取ろうとした。子どもたちだけが、私に残された希望だった。だが、力の入らない手を伸ばすと、理玖は身を引いた。「ママ、またパパを困らせてる。何も悪いことなんてしてないのに、どうして離婚するの?芹香お姉さんは優しいし、おばあちゃんも、パパも、僕も好きだよ。芹香お姉さんを嫌ってるの、ママだけじゃないか。ママなんて大嫌い!毎日怒って、ピアノを弾け、絵を描けって言うし、芹香お姉さんまでいじめ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status