Home / BL / 余計なお世話係 / 元不良少年の計画

Share

元不良少年の計画

last update Last Updated: 2025-08-01 13:11:51

時が流れるのは本当に早い。

けど特に大きく変わったこともなく、平穏な日々を送れている。……少なくとも、自分は思う。

「日永さん。今月の決算書作成、そろそろお願いしますね」

「承知しました」

和巳は会社のデスクで、ひたすらパソコンに向き合っていた。月末作業の為、今日は朝からかなり切り詰めて働いている。

「ちょっと飲み物買ってきます」

腰をさすりながら席を外し、休憩所へ向かう。

パソコンをする時だけ使う眼鏡を外し、目薬をさした。

「はぁ~。疲れた……」

目が痛い。数字は強い方だけど、漢字の羅列はあまり慣れてない。結構疲れるな……。

入社したばかりだからか、現状任されているのは単純作業だ。仕方ないけどどうしても考えてしまう。

俺この会社に入る意味あった……?

日に日に疑問に思う。死にものぐるいで勉強して大学を卒業した後、ラッキーボーイの俺は運良く大手の会社に就職した。契約ではあるけど、結果を出した分だけ評価される世界は良かった。

ところが父から今後の方向性を考えてほしいと言われ、泣く泣く退職して日本に戻り、今に至る。

祖父が引退した後、恐らく父が取締役に就任して……これから長い目で見ていけば、この会社で少しずつキャリアを積んでいくのが一番良い。

それでも、毎日代わり映えのない入力作業ばかりだと思考が凝り固まる。俺はこの会社の何なんだ。中途入社した社員? ……うん、それだ!

でも俺は十七時退社を夢見てる。定時五分前は皆大慌てで帰り支度をしていた、前の職場が懐かしい。

……いやいや。

卑屈になるのはやめよう。

缶コーヒーを買ってベンチに腰掛ける。そしてポケットの中の手帳を開き、中から世界で最も愛する恋人の写真を取り出した。

わぁ。可愛いな、鈴。

そうだ。お世話になった会社を辞めて帰国したからこそ、また鈴と逢えた。その全てに感謝しなきゃ罰が当たる。現状をあるがまま受け入れるのも順応性のひとつだ。郷に入っては郷に従う。英語が不安なのに留学した時も、何とかなったんだし。

何とかならなかったのは寮生活してたときに間違えて女子の部屋に入ったことだ。変態のレッテルを貼られて知らない学生達からdirtyと連呼された時は心が折れそうになった。

でもそんなのは大したことじゃない。俺はポジティブ思考だけは誰にも負けないと思ってるから。

大学生活は単位をとるのに必死で、血反吐を吐くような缶詰生活
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 余計なお世話係   1

    場所は変わり、同時刻。街角の居酒屋の一室では、各々が好き勝手に飲み、騒いでいる。座敷の片隅に座る鈴鳴も、次第に酔いが回り始めていた。「日永! お前、気になってる女子いないのかよ?」「あぁ、俺はいないかな」今日は久しぶりにサークルの飲み会に参加した。大人数でわいわいやっていたけど、やたら男友達の恋愛話に引っ張り出された。「お前も早く彼女つくれよ~。あそこにいる女子だったら誰がタイプ? 呼んできてやるから言ってみろよ!」「いやいや、俺は大丈夫。ありがとう」皆酒が入ってるせいか、いつもより少し強引だ。悪ノリが過ぎてしまったり、厄介事も多い。特に恋愛の話は困ってしまう。何故彼女をつくらないのか質問攻めされ、次に脈ありな女子を捜そうとしてくる。たった今声を掛けてきた友人も、まさにそれ。応援しようとする気持ちは嬉しいけど困ってしまう。俺には恋人がいるし、関係ない女の子を巻き込むのも嫌だ。そう思ってると、彼を押し退けて一人の青年が間に割って入ってきた。「ばーか、鈴鳴は他の大学に好きな子がいんだよ。余計な世話は焼くなって」「秋」秋が堂々と言い放ったことで、彼は「そうなのかー」と渋々他のグループのところへ戻って行った。ほんと、こういう時は助かる。「サンキュ、秋」「おう。ああやって適当に流せばいいんだよ。どーせ絶対分かんないんだから」秋は手にビールを持ったまま、隣にどっかり腰を下ろす。向こうの華やか女子グループから逃げてきたみたいだ。「鈴鳴、最近和巳さんとはどう?」「いつも通りだよ、毎日仲良くやってる。秋は?」逆に聞き返すと、彼はジョッキをテーブルに置いて俺の肩を掴んできた。「……てない」「え?」「全然シてないんだ。お前らが家に来た日から、また! 俺と先生はシてないの!!」「…………」悲痛な叫びに、苦悶の表情。瞬時に事態を察したものの、どう返せばいいか分からず固まった。ひとまず彼に向き合い、詳しく話を聞いてみることにした。するとどうやら、また(生活リズムが)すれ違う日々が続いているらしかった。「あの日だけは、先生とシたよ。むしろ死ぬかと思うぐらい抱かれた……でもセックスはあの日っきり。あれからもう三週間近く経つだろ。三週間、シてないんだよ」「う、うん」何か前も全く同じことを聞いたな。デジャブを感じつつ、つっこめないまま頷く。「

  • 余計なお世話係   元不良少年の計画

    時が流れるのは本当に早い。けど特に大きく変わったこともなく、平穏な日々を送れている。……少なくとも、自分は思う。「日永さん。今月の決算書作成、そろそろお願いしますね」「承知しました」和巳は会社のデスクで、ひたすらパソコンに向き合っていた。月末作業の為、今日は朝からかなり切り詰めて働いている。「ちょっと飲み物買ってきます」腰をさすりながら席を外し、休憩所へ向かう。パソコンをする時だけ使う眼鏡を外し、目薬をさした。「はぁ~。疲れた……」目が痛い。数字は強い方だけど、漢字の羅列はあまり慣れてない。結構疲れるな……。入社したばかりだからか、現状任されているのは単純作業だ。仕方ないけどどうしても考えてしまう。俺この会社に入る意味あった……?日に日に疑問に思う。死にものぐるいで勉強して大学を卒業した後、ラッキーボーイの俺は運良く大手の会社に就職した。契約ではあるけど、結果を出した分だけ評価される世界は良かった。ところが父から今後の方向性を考えてほしいと言われ、泣く泣く退職して日本に戻り、今に至る。祖父が引退した後、恐らく父が取締役に就任して……これから長い目で見ていけば、この会社で少しずつキャリアを積んでいくのが一番良い。それでも、毎日代わり映えのない入力作業ばかりだと思考が凝り固まる。俺はこの会社の何なんだ。中途入社した社員? ……うん、それだ!でも俺は十七時退社を夢見てる。定時五分前は皆大慌てで帰り支度をしていた、前の職場が懐かしい。……いやいや。卑屈になるのはやめよう。缶コーヒーを買ってベンチに腰掛ける。そしてポケットの中の手帳を開き、中から世界で最も愛する恋人の写真を取り出した。わぁ。可愛いな、鈴。そうだ。お世話になった会社を辞めて帰国したからこそ、また鈴と逢えた。その全てに感謝しなきゃ罰が当たる。現状をあるがまま受け入れるのも順応性のひとつだ。郷に入っては郷に従う。英語が不安なのに留学した時も、何とかなったんだし。何とかならなかったのは寮生活してたときに間違えて女子の部屋に入ったことだ。変態のレッテルを貼られて知らない学生達からdirtyと連呼された時は心が折れそうになった。でもそんなのは大したことじゃない。俺はポジティブ思考だけは誰にも負けないと思ってるから。大学生活は単位をとるのに必死で、血反吐を吐くような缶詰生活

  • 余計なお世話係   2

    いつも通りの、平穏な日曜日の朝だった。朝ごはんを食べて、倖地君のお母さんが迎えに来るのを待つ。……内心は、やっぱりちょっと落ち着かない。「あはは、鈴、倖地君より落ち着きないね」「いやあ……」これでまたしばらく会えないんだと思うと切ない。倖地君は和巳さんと仲良くタブレットでゲームをしてるけど。「鈴鳴お兄ちゃんは倖地君にずっとここにいてほしいみたいだよ」「か、和巳さん……」もう、余計なこと言わなくていいのに。恥ずかしかったけど、倖地君はゲームをやめて俺の方を向いた。「僕も。まだお兄ちゃんと一緒にいたい……」少しだけ揺れてる瞳見えた瞬間、さらに寂しくなった。そして、どうしようもなく嬉しい。「良かったね、鈴」「うん。あ、そうだ。皆で写真撮ろうよ」二人を定位置につかせた後、カメラを固定してセルフシャッターにした。本当は昨日三人で撮りたかったけど、バタバタして忘れちゃったからな。写真を撮ったあとプリントアウトして、倖地君に手渡す。彼は嬉しそうに「ありがとう」と言った。「鈴、俺にも後で二枚お願い。一枚は保管用で、もう一枚は常に手帳に入れておきたい」「わ、わかった」写真を確認し終わった直後、家のインターホンが鳴った。返答すると倖地君のお母さんだったから、和巳さんと三人で玄関へ行く。「本当にごめんね、和巳君。鈴鳴君もありがとう」「いえいえ、何とかなりました」彼女とは初めて会ったけど、やはりまだ若い人だった。旦那さんも同じぐらい若い人なのかもしれない。「倖地君、元気でね」ちょっと屈んで言うと、彼は俺に抱き着いてきた。俺も驚いたし、和巳さんもお母さんも驚いてる。「お兄ちゃん、また会えるよね」「あ、会えるよ。絶対、会える」今生の別れみたいになってることが可笑しくて、そして、どうしようもなく嬉しかった。「倖地君。俺も、お父さんと仲悪かったんだよ。お父さんのことが怖かった」「そうなの?」ちょっと跳ねてる、彼の髪の毛を手ぐしで直した。「うん。怖いからずっと逃げてた。でも初めて逃げずに話したとき、お父さんの知らなかった所を知ることができたんだ。……だから大丈夫。久しぶりに、お父さんにただいまって言ってあげて」アバウトすぎてアドバイスにもならない気がしたけど、彼は笑顔で頷いた。最後にまた強く抱き締めて、去って行く二人を見送った。改めて振り

  • 余計なお世話係   1

    付き合ってもう三ヶ月も経つのに、改まって彼とどこかへ出掛けたことがない。そのことに今さら気付いて驚いた。和巳さんと一緒にいられるだけで幸せで、家で過ごす時間が好きだったから、特別どこかへ行きたいと思ったことはなかったんだ。「いいよね、こういうの。小さな子もいてさ、本当の家族になったみたい」「うん、そうだね。でも何かちょっと変な感じ……」「倖地君が心開かないから?」図星のため、思わず口を噤む。バレバレだったみたいだ。「ご、ごめん。子どもに苦手意識持ってるわけじゃないんだけど」「あはは、いいんだよ。相性ってもんがあるし……倖地君は鈴が嫌いなわけじゃないと思う。ただ、どうやって接したらいいか分かんないんだよ」彼の笑顔はやっぱり救われる。でも俺も、彼とどう接したらいいのか分からない。だから気が重い。「和巳さんはすごいね。すぐ、誰とでも打ち解けられて」「別にすごくないよ。仲良くなるタイミングって、結局どっちが先に心を開くかで決まるから。俺はすぐに自分の中身を見せちゃうだけ。タイミングは人それぞれだよ」……焦らなくていい。彼はそう言ってくれた。「さ、そろそろお腹空いたね。倖地君も呼んで、何か食べに行こう」「……うん!」それから三人でレストランへ行き、ご飯を食べた。これでちょっとは、倖地君の気も晴れればいいと思いながら。でも、帰る時になって事件は起きた。「倖地君がいない!!」「嘘、ほんと!? ……ほんとだ!」もう帰ろうと言ってた矢先に倖地君の姿がないことに気付き、俺達は驚愕した。周りを見渡しても、すぐには見つからなかった。この人の多い動物園で……あぁ、こういうときこそGPSが欲しい。「大変だ。誘拐かも! どっどっどっどうしよう……」「落ち着いて和巳さん。迷子の可能性が高いよ」とツッコみつつ、青ざめる彼を見てたら俺まで不安になった。誘拐の線は低いと思うんだけど……。あっ、……そういえば。一つだけ思い当たって、すぐさま走った。とりあえず、来た道を戻るだけ。俺達が何気なく素通りした、トイレへと走った。「いた……!」心臓がバクバクする。ここにいなかったらもう係員の人を捜しかないとと思ったけど、倖地君はトイレの前に立っていた。彼は不安そうに人並みを見つめていたけど、俺に気付くと駆け寄ってきた。ホッとした表情で、ちょっと涙目にも見える。

  • 余計なお世話係   三人分の食事

    季節の変わり目は、環境も一変することがままある。「か、和巳さん。……この子は?」夜、鈴鳴は仕事から帰って来た和巳を玄関まで迎えに行った。……までは良かったのだが、今日はいつもと違う。和巳の隣に、小さな男の子がちょこんと立っていたからだ。「ごめん、鈴……実は、俺の隠し子なんだ。今まで黙ってたけど、もう限界だと思って……」申し訳なさそうに俯く和巳の話を遮り、鈴鳴はドアを閉める。すると勢いよく、彼はドアを開けて入って来た。「ちょっと鈴、そこはもっと驚きのリアクションするとこでしょ!」「ご、ごめん。ちょっと混乱しちゃって」彼のリアクションが良かったので満足してしまった。心を落ち着けて彼の隣を見ると、そこにはやっぱり、幼稚園ぐらいの男の子がいた。「えっと、ほんとに隠し子ではないよね」「ではないね。面白いジョークだったでしょ?」「和巳さん、今日の夜ごはん少なめにするね」「ごめんごめん、悪気は無かったんだ! 鈴の慌てふためく可愛い姿が見たくてっ……でも思ったよりクールでショックだった」俺よりずっと慌てふためいてる彼をスルーし、男の子の前に屈んだ。「それで、この子はどこの子?」「あはは、鈴も初めて会うもんな。俺の母さんの妹の子だよ。だから、俺の従兄弟」「えっ! か、和巳さんの……!?」驚いて大きな声を出してしまった。俺は和巳さんのお母さんの親戚はあまり付き合いがないから知らなかった。「ほら、この人がさっき話した鈴鳴お兄ちゃんだよ。挨拶してごらん」「……」男の子は、普通に俺から顔を逸らして和巳さんの後ろに回った。何故? 俺何かした?不安に思ってると、和巳さんは困ったように彼を支えた。「あーもう、しょうがないなぁ。ごめん鈴、この子すごい人見知りなんだよ。許してやって」「あ、あぁ……そっか。大丈夫だよ、とりあえず中に入ろう」その子も招き入れて、温かい紅茶を用意した。一応、男の子にはオレンジジュースを入れて差し出す。すると普通に飲んでくれたから、ちょっとホッとした。「この子は瀬賀倖地君《せがこうち》。今幼稚園、年少、年中、年長……五歳って、年中?」「年中だね」「へぇ。でも結構しっかりしててさぁ、鈴のちっちゃい頃みたいでホントに可愛い。……なのに何で俺がアメリカ行ってる間に生まれちゃったんだろ。赤ん坊の頃を見たかったのに」「ま、まぁま

  • 余計なお世話係   4

    初めて秋と会ったのは大学のカメラサークル。初めて話したのは、新入生の歓迎会だった。かっこいいな、というのが初見の感想だ。でもその時は挨拶しか交わしてない。席も遠かったし、彼は常に女子から引っ張りだこで話す隙はなくって。……ただ不思議と目が合った。そのまま大して関わらずにきてたんだけど────ある日、俺達はとんでもない所で会ってしまう。「あれ。日永?」「え……」行きつけのDVDレンタルショップで彼とばったり顔を合わせてしまった。それが、普通のコーナーなら良かったんだけど……俺がそのとき居たのは、成人指定のゲイビコーナーだった。入学早々、知り合いに大変なところを見られた。わざわざDVDを借りに来る知り合いはいないだろうと油断していたのが原因だ。興味本位で見ていた、と言い訳することはできない。何故なら俺はその時、ばっちり見たいゲイビを数本手にしていたから。「おわ。お前、そういうの好きなの?」「あ、いや……これは……っ」パニックで倒れそうだった。大学からはだいぶ離れてるし、まさかこんなところで陽キャに会うとは思わなくて。泣きたくなるのを堪えていたら、彼は思いもよらないことを口にした。「ん~……。早く借りてこいよ。それとも、恥ずかしくて借りられねえの?」え。聞き間違いかと思った。まさかそんな事をつっこまれるなんて夢にも思わない。普通、ドン引きして立ち去るのに。「う、うん……店で借りるのは、初めてで……店員に引かれると思うと、ちょっと」それでつい、そんな大嘘をついた。実際本当にほしいやつは通販で買うんだけど、店頭で借りたこともそれなりにある。でも大学で噂が立つのが怖くて、そう嘯いた。すると、またまた予想外の返答が聞こえた。「借りてきてやろうか」「えっ!? いやいや、いいよ!」「大丈夫だよ。ほら、貸してみ」彼は自分のカードで俺の持っていたDVDを借りてくれた。正直、何でそんな事をしてくれたのか……わりと本気で分からない。もしかしてこれで恩を売って、何か恐ろしい要求してくるんじゃないか。そんな醜い疑念すら湧いた。「はい」「あ、ありがとう」でも店を出てから、彼は俺に困ったように言った。「AVだってちょっとドキドキすんのに、こっち関係は恥ずいよな」「風間君も、こういうの借りたことあるの?」「あー、借りたことはないな。昔、買ったこ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status