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第4話

Author: ソフトクリーム
電話を切ってすぐ、結衣からメッセージが届く。

【接待があるから、夕飯は一緒に食べられない】

その短い一言が、やけに珍しく感じる。結衣はこれまでわざわざ報告なんてせず、いつも平気ですっぽかしていたからだ。

だが、その理由はすぐにわかることになる。

ついさっき、明人がインスタのストーリーを更新していたのだ。

写真の中では、結衣がうつむき加減でステーキを切り分けている。背景を見ると、まさに俺が予約していたあのレストランだ。

添えられたコメントはこうだ。【社長は美人で優しくて、切り分けてくれたステーキは格別の味!】

偶然とは恐ろしい。支配人が言っていた「他のお客様」というのは、この二人のことだったらしい。

なぜ接待だと嘘をついたのか問いただす気にもなれないし、少しも悲しいとは思わない。

今の俺は驚くほど凪いでいて、ただぐっすり眠りたかった。

シャワーを浴びてベッドに入って、そのままここ数年で一番深い眠りに落ちた。

しかし真夜中、寝室の電気が突然パッと点いて、その眩しさで目が覚める。

まばたきをしてようやく強い光に目が慣れると、ベッドの脇に結衣が立っている。

彼女は目を丸くして、信じられないという顔で声を荒げた。

「蒼、寝てたわけ?」

寝ぼけ眼でスマホの画面を見ると、もう深夜3時。こんな時間に帰ってきたのか。

以前なら、明人が少しでも胃が痛いと言えば、結衣は一晩中看病していたはずだが、今の彼女はひどく機嫌が悪そうで、仏頂面で文句を言ってくる。

「蒼、私がこんなに遅く帰ってきたのに、心配のメッセージもなければ起きて待ってもいないなんて、あんまりじゃない?」

俺があんまりだって?心の中で呆れ返る。

以前、結衣の身を案じて電話をかけた時は、「監視してるの?信用してないわけね」とキレられた。

夜中に帰りを待ち、夜食を作り、風呂の準備までしたときには、「暇だから眠れないのね、もっと仕事を増やしてあげる」と言われた。

こうして世話を焼くのをやめても、結局文句を言われる。女心と秋の空とはよく言ったものだ。

適当に返事した。電気を消して再び寝ようとする。すると結衣が俺を小突いて、骨抜きになったみたいに寄りかかってきた。

「蒼、今日すごく疲れたの。お風呂の準備、してくれないの?」

結衣から、明人が愛用しているメンズ香水の匂いがふわりと漂ってくる。吐き気がする。

以前なら、結衣に言われるまでもなく甲斐甲斐しく世話して、眠りにつくまで見守っていたはずだが、今はただただうっとうしい。

結衣を軽く払いのける。眉をひそめて、起こされたせいで少しぶっきらぼうな口調になる。

「俺は眠いんだ。自分のことくらい自分でやれ」

結衣はポカンとして、突き飛ばされたという事実をまだ理解できていないようだ。

しばらくして、バッグのチェーンを握りしめる手が白くなるほど力を込めながら、歯を食いしばって言う。

「一回ご飯を一緒に食べなかったくらいで、その態度は何よ。大したもんね!

私が喜んで帰ってきたとでも思ってるわけ!?」

そう言い捨てると、結衣は怒り心頭で部屋を飛び出して、ドアを鼓膜が破れるほどの勢いで叩きつけた。鍵を掴んで外へ出て行く音が聞こえる。

以前なら間違いなく追いかけて、行かないでくれと引き留めていただろう。今の俺は迷うことなく電気を消して、そのまま眠りについた。

翌朝、自然に目が覚めると気分は爽やかだった。朝ご飯でも作ろうかと思ったが、意外なことに結衣が家にいる。

いつもなら、俺が機嫌を取らない限り冷戦状態になって、早々に会社へ向かっていたはずだ。

結衣はリビングのソファにきちんと座って、太ももの上に置いた上品なギフトボックスの紐を器用にリボン結びにしている。

こちらの気配に気づいたのか、結衣は振り返る。

そして一歩近づくと、俺の手首を掴んで、箱から取り出した腕時計をカチャリと巻きつける。ヒヤリとした感触に、思わず手首がビクッと震える。
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