会社の資金調達が成功したあと、社長である妻――畑結衣(はた ゆい)は、全社会議で俺――長谷川蒼(はせがわ そう)との関係を公表するはずだった。それなのに、新入社員として入ってきた彼女の大学の後輩、木戸明人(きど あきと)が突然その場に現れ、得意げにこう言い放った。「こんなに早く僕との関係を公にするなんて、社長は僕のことを甘やかしすぎじゃないですか?」結衣はそれを否定するどころか、微笑みながら明人を会社の重要プロジェクトにねじ込んで、箔をつけようとした。その場にいた全社員から割れんばかりの拍手が巻き起こって、二人はお似合いだと褒めそやした。長年の同僚が、無言の俺を見てわざわざ小声で耳打ちしてくる。「お前、いつも上手く立ち回るだろ。ここは早く気の利いたことでも言っとけよ」俺は騒ぐことも怒ることもなく、プロジェクト責任者の社員証を明人に渡した。「ただプロジェクトに参加するだけじゃ、君の立場に合わないだろ。この『プロジェクト責任者』のポジション、二人への交際祝いとして譲ってやる」俺が社員証を明人に渡すのを見て、会議室での全員が驚きで目を丸くした。無理もない。ここ数年、俺はこのプロジェクトのために寝食を忘れ、低血糖で何度か倒れそうになるまで働き詰めていたからだ。だがすぐに、同僚たちが拍手し始めると、室内の熱気は最高潮に達した。「太っ腹!」、「さすが社長を長年支えてきたベテラン!」と歓声が上がる。ただ一人、結衣だけは険しい顔つきで、唇を真一文字に結んで、俺をじっと睨みつけている。その気まずそうな様子が、俺にはただ滑稽に見えた。結衣は社内恋愛を極端に嫌っていた。極秘結婚して7年、俺がずっと公表しようと頼み込んでも、彼女は頑なに拒み続けてきた。今回の資金調達で、ようやく彼女が折れてくれたというのに、まさか最後にあっさりと明人に横取りされるとは。今となっては、彼女が公表したがっていようがいまいが、俺にはもうどうでもいい。「それじゃ、他に用がないなら俺はこれで。みんな、楽しんでください」結衣の返事を待たず、さっさと会議室を後にした。今回の資金調達が成功したのは、俺が手掛けるプロジェクトが順調で将来性があり、提携先から追加投資を引き出せたからだ。このプロジェクトのコア特許は俺の持ち物で、会社に尽くしてきたからこそ
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