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偽善夫を捨て、天才科学者は頂点へ
偽善夫を捨て、天才科学者は頂点へ
작가: アーシャー

第1話

작가: アーシャー
白川汀(しらかわ なぎさ)の夫は、周囲から「聖者」と崇められる大学教授である。

二時間前、国家の最高学術機関である学士院会員の父、白川敬三(しらかわ けいぞう)が危篤に陥り、緊急手術が必要となった。

しかし、海外の医療先進国から特任で招いた専門医は、夫である宗方渡(むなかた わたる)によって別の患者の手術へと回されていた。

汀は渡に七回連続で電話をかけ、ようやく繋がったものの、返ってきたのは冷たい一言だけだった。

「今、学生の発表審査で手が離せない。急ぎでなければ後にしろ」

絶望と悲痛の中、汀の腹に宿っていた小さな命は失われた。

手術台の上で目を覚ました汀は、スマートフォンを手に取り、渡とのトーク画面に届いていた新しいメッセージを目にした。

【蘇原さんの修士論文が最高峰の学術誌に掲載されたんだ。今日の発表審査会は彼女の人生がかかっているから、僕が付き添わなければならない。些細なことで電話をかけてこないでくれ】

画面の最上部にピン留めされた生命科学研究科のグループラインは大いに盛り上がっており、話題の中心は渡とその教え子である蘇原婉(そはら えん)だった。

誰かが発表会現場の動画を投稿していた。

動画の中では、渡が婉に表彰状を授与している。スポットライトを浴びる二人は、一方は長身で端正、もう一方は恥じらうように儚げに見える。

「宗方教授は、生物学専攻で最年少の博士課程担当教授なだけあるな。才色兼備で、本当に絵になる」

「蘇原さんの論文、テーマ選びからデータ集めまで宗方教授が手取り足取り教えたんだろう?大学院生が筆頭著者としてトップジャーナルに載るなんて、どれほどの労力がかかっていることか」

「それだけじゃない。蘇原さんが今日の発表に集中できるよう、宗方教授は彼女の病気の母親のために、わざわざ海外から専門医を招いて手術を手配したらしい。まさに別格の寵愛ぶりだ」

汀はメッセージを一つずつ読み進めるうち、下腹部の痛み以上に、胸の奥が締め付けられるように痛むのを感じた。

渡が父親の命を救うはずだった医師を奪い、SOSの電話を切ったのは、すべて婉のためだったのだ。

汀は喉の奥に込み上げるものを堪え、痛む体に鞭打って強引に退院すると、帝都大学へと向かった。

帝都大学生命科学研究科の講堂の扉を開けたとき、婉はちょうど発表を終えたところだった。

会場からは割れんばかりの拍手が沸き起こり、壇上の渡は婉の傍らに立ち、いつもの穏やかで気品ある態度で、その瞳には称賛と労いの光を湛えていた。

汀は入り口近くの影に身を潜め、無意識のうちに指をきつく握り締めた。

かつて彼女も、このように渡と共に栄光の中心に立つ未来を思い描いていた。

家柄、才能、容姿。汀はそのすべてを持ち合わせており、周囲には常に聡明で優秀な若き天才たちからのプロポーズが絶えなかった。

しかし、渡には他にはない独特の慈悲深さと純粋さがあった。

彼は傷ついた小鳥を拾い上げて優しく手当てをし、自らの奨学金をすべて貧しい地域の支援に寄付し、見ず知らずの学生のために正当な評価を求めて奔走するような男だった。

だからこそ、汀は自らの才能の輝きを抑え、彼の歩む後ろをひたすら追いかけてきたのだ。

だが、連れ添って七年が経ち、汀は渡が素晴らしい人間であっても、その優しさは最も身近にいる人間には決して向けられないという事実を痛感せざるを得なかった。

それは、太陽の光がどれほど温かくとも、近づきすぎれば自らが燃え尽きる燃料にされるようなものだった。

その時、司会者が質疑応答セッションの開始を告げた。

プロジェクターに映し出された論文のタイトルを目にした瞬間、汀は息を呑んだ。

【新型遺伝子編集システムに基づく遺伝性疾患治療の新たな戦略】

これは、紛れもなく汀自身がゼロから立ち上げ、研究を続けてきたテーマだった。

汀は静かに手を挙げた。

司会者は彼女に気づき、一瞬呆気にとられた。

「白川先生?何かご質問でしょうか?」

全員の視線が一斉に汀へと集まる。

渡は顔を上げ、彼女の姿を認めると、眉をわずかにひそめた。

流産したばかりの汀の顔色は紙のように白かったが、その口調は毅然としており、静かで明瞭だった。

「蘇原さんに質問です。この研究の方向性と領域は、あなたのこれまでの研究実績とは全く異なります。この革新的な着眼点は、一体どこから得たものですか?」

壇上の婉はマイクを握り締め、唇を震わせながら口ごもった。

「私は……それは……」

講堂内がざわつき、疑惑の眼差しが向けられ始めた。

その時、渡が壇上の前に歩み出ると、自然な動作でマイクを受け取った。

「このテーマは、僕が蘇原さんに勧めたものです。

指導教官として、学生を最先端の領域へと導くのは僕の責務です。彼女は非常に努力家であり、才能もあります。この成果は彼女の実力によるものです」

彼の声は穏やかでありながら確信に満ちており、反論を許さない権威を帯びていた。

客席からの異論は途絶え、司会者はこの隙に別の質問者を指名してその場を取り繕った。

渡は壇上から降りると、汀の腕を強く掴み、廊下の角へと引きずり込んだ。

「正気か?」

渡は声を潜めたが、珍しく怒りを露わにしていた。

「こんな公の場で問い詰めるなんて、蘇原さんを潰す気か?」

汀は腕を振り払い、彼を真っ直ぐに見据えた。

「潰すですって?宗方渡、あなたが私の研究を奪って彼女に与えたとき、私が潰されるとは思わなかったの?」

渡はさらに深く眉をひそめた。

「蘇原さんは父親を早くに亡くし、母親は長年病床に伏せっている。彼女自身も深刻なうつ傾向を抱えていて、もし修了できなかったら……」

彼は一瞬言葉を切り、口調を和らげた。

「汀、君は蘇原さんよりも強い。耐える力がある。このテーマは君にとって一つの論文に過ぎないが、蘇原さんにとっては命綱なんだ」

「ただの一つの論文?」

汀は自嘲気味に笑い、目元に浮かんだ涙を隠すように俯いた。

「この研究のために、私がどれほど徹夜を重ねて実験と計算を繰り返し、先週ようやく論文を投稿したか、あなたは知らないとでも言うの?そして、なぜ私が未だにテニュア審査を通過できずにいるのか、本当に分かっていないの?」

渡は少し躊躇い、口を開こうとした。

汀は、いつも慈悲の光を湛えている彼の瞳を見つめながら、その言葉を遮った。

「学部を卒業する時、あなたは私に大学院への推薦枠を身体に障害のある同級生に譲るよう言い、私には一般入試を受けさせた。それは百歩譲ろう。

博士課程を修了する時、あなたは先輩が四年も留年していて、筆頭著者の論文がなければ退学になると言って、実績を先輩に譲らせた。私たちにはまだチャンスがあるからと言って。

昨年、父が私に海外のトップ研究所への留学枠を確保してくれた時も、あなたはそれを柳沢先輩に譲るよう言った。彼女はシングルマザーで子供が重病だからと。私の父ならまた次を準備できるからと。

でも、次なんてないのよ、宗方渡。あの論文は、私が審査を通過するための最後の切り札だった。それがなければ、私は大学を去らなければならないの」

渡は静かにそれを聞き終えると、嘘偽りのない困惑の表情を浮かべた。

「だが、君は僕の妻であり、白川教授の娘だ。大学が本当に君を解雇するはずがない。それに――」

渡は汀を見つめ、その眼差しを優しく和らげた。

「君は身重じゃないか。僕がこのテーマを回したのは、君に体を休めてほしかったからでもある。子供が生まれたら、僕が自ら君の新しいプロジェクトを主導して、もっと素晴らしい論文を書かせてあげるから」

そう言いながら、彼は汀が今にも倒れそうなほど衰弱していることにようやく気づいたかのように、彼女の両手を握り締め、労わるような口調になった。

「手がどうしてこんなに冷たいんだ?今日は病院へ妊婦健診に行くと言っていたね。赤ちゃんは元気かい?」

核心から目を背ける彼の態度に、汀は深く息を吸い込んだ。

「今日、あなたに何度も電話をかけたわ」

渡は驚いた様子でスマートフォンを取り出した。

「発表会で忙しくてマナーモードにしていたんだ。何があったんだ?」

「父が危篤になったの。家族が海外から招いた専門医を、あなたは私に一言の相談もなく、別の誰かの手術のために連れて行ったのよ」

渡の顔色が変わった。

「お義父さんが……今はどうなったんだ?」

汀は冷ややかに笑ったが、その瞳に感情はなかった。

「父がどうなったかは、もうあなたには関係のないことよ。離婚しましょう」

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