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第4話

Author: 紫野甘花
部屋には灯りがついていた。気づいたら、あの家に足が向いていた。

玄関を入った瞬間、隣の部屋から聞くに堪えない声が聞こえた。

引きずるように歩み寄り、絡み合う二つの背中と、散らかり放題の部屋を目にした。

痛みが極まると、あとは麻痺するだけなのだと知った。

柚に生理痛はなかった。蓮司も、淡白なんかじゃなかった。

どうやってホテルに戻ったのか覚えていない。

三年前のあの夜はとても寒くて、その時に蓮司が私を背負って歩いた場面を何度も夢に見た。

夢の中では最後に二人とも、あの大雨の中に溺れていった。

夜明け前、急き立てるようなスマホの着信音で目が覚めた。

「水無月部長、大変です!

九条課長がエメラルドプロジェクトを篠宮さんに任せたんですが、見積書のゼロが一つ少なかったんです。

先方の社長がすぐに入金して、契約手続きも全部完了してしまいました!」

掌に爪を食い込ませながら、気持ちを落ち着かせて冷静に聞いた。

「損失は?」

「少なくとも一億円です」助手が泣きそうな声で言った。

「部長、一年間が全部無駄になりました」

スマホを握りしめ、指の関節が白くなった。

会社に着くと、蓮司は柚をなだめており、社員たちが怒りの目を私に向けていた。

助手が私を脇に引っ張り、気まずそうに言った。

「九条課長が皆さんに、エメラルドプロジェクトは水無月部長の担当で柚さんは関係ないと言ったそうです」

信じられなくて目を見開き、蓮司に問い詰めようとしたら、彼に腕を掴まれてオフィスに引き込まれた。

「真緒、この件は本当に申し訳ない。

でもお前は管理職だ。本部からせいぜい降格か異動、少し賠償すれば済む。だが柚は違う。即刻解雇されて、どこにも雇ってもらえなくなる。彼女の人生が終わる」

反吐が出そうだった。堪えきれず、思いきり平手打ちをした。

「あなた正気?私の気持ちなんて一度でも考えたことあるの!?」

彼は深く息を吸い、冷たい顔で私のすべての感情を一瞬で崩壊させる言葉を口にした。

「頼む、柚を助けてやってくれ。

俺が昔、命を助けた恩返しだと思って」

その瞬間、耳の奥で轟音が鳴り響き、全身の力を使い果たしても、喉から声が出なかった。

蓮司は私を社員たちの前に押し出して、困り顔で言った。

「このプロジェクトは確かに水無月部長が担当していました。本人もとても辛い思いをしています。皆さんにご理解いただければ」

誰かがカップを叩きつけた。

「なんで!こいつ一人のミスで、なんで全員が割を食うんだ!

俺、住宅ローンが払えなくなるんですけど!」

次第に多くの社員が歯を食いしばりながら私を睨みつけ、目には嫌悪が満ちていた。

私はその場に立ち尽くし、動くことも声を出すこともできなかった。

柚が怯えたように身を縮めると、蓮司は即座に抱き寄せた。

「さあ、みんな仕事に戻って。本部の処分が下り次第また話し合いましょう」

社員たちが散っていく中、誰かが故意にぶつかってきた。私はとっさに受け身も取れず地面に倒れ、散々な姿になった。

誰も助け起こそうとしなかった。社員たちは冷たく私の傍を通り過ぎ、助手も伸ばしかけた手を引っ込めた。

柚が私の前にしゃがみ込んだ。

首元のネックレスが垂れ下がり、肌に滲んだ赤い痕と共に揺れて、まるで私を嘲笑っているようだった。

「水無月部長、助けてくれてありがとうございます」柚は声を潜めた。「私は蓮司を二人で分け合うのは構いませんよ」

顔が青ざめ、掌を握りしめたまま、持てる力のすべてで柚の頰を張った。

柚は顔を押さえて悲鳴を上げ、たちまち目を赤くした。

「水無月部長、起こしてあげようとしたのに、なんで叩くんですか!?」

社員たちがまた集まってきた。

蓮司は動揺し、柚の顔を見た瞬間、反射的に私に平手打ちを食らわせて怒鳴った。

「真緒、いい加減にしてくれ!?」

蓮司が私に手を上げたのは、これが初めてだった。

無数の嘲りの視線を浴びながら、私の心は不思議なほど静まり返った。

「蓮司、こんな結末になるなら、あの時お金で恩返しすればよかった」

彼の顔色が一瞬青ざめ、何か言おうとして、結局口を開かなかった。

私は床から立ち上がり、本部取締役の葉山朔(はやま さく)に電話をかけた。
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