LOGIN三國京介(みくに きょうすけ)の「子供が生まれたら結婚しよう」という言葉のせいで、私、堂本檸檬(どうもと れもん)は散々な目に遭った。 お産直前には大出血をして、三途の川を渡りかけた末、やっと三國家の長男を生んだのだ。 それなのに、息子のお宮参りのその日、京介は初恋相手、田中琳子(たなか りんこ)の手を掴んで掲げ、集まった人たちの前でこう言った。 「皆様、琳子と僕の息子のお宮参りにご参加いただき誠にありがとうございます」 私は階段口で立ち尽くしていた。京介は私を見ると笑いながらやってきた。 「遅かれ早かれ話さなければならなかった。それなら子供がまだ幼いうちにお前と決着をつけた方がいい」 京介は私に向かって杯を挙げた。彼の口調はまるでビジネスの商談をしているかのようだった。 「お前は婚前妊娠したのだから、ここにいる人は皆、お前を軽蔑する。俺の両親だってお前とは面識がないのだから、お前は俺にすがる他ない。 安心してくれ。息子はお前に育ててもらう。 でも明日、お前には一緒に出生届を出しに行ってもらわなければならない。息子の親権は必ず琳子に渡してもらう」 京介は私が泣き崩れるか、子供のために泣き寝入りすると思っていた。 けれど私はただ静かにその場を離れ、帰国したばかりの三國家の当主、京介の父親と連絡を取った。 数日後、私は息子、三國浩輝(みくに こうき)と共に三國家に籍をいれた。 それ以来、私は京介の義母、息子は京介の弟となった。 息子の親権は全部私が持つ。 そして、将来の三國家の相続権も私に帰属することとなったのだ。
View More「言ってみて。三國家に京介が存在する意味はまだ何か残っているかしら?」京介の顔はすっかり青ざめた。彼はガタガタと身震いし、唾をゴクリと飲み込んだ。そして慌てて腰をかがめるとこう言った。「檸檬、本当にすまなかった。すべて俺が悪かった。檸檬のことを欺いてはいけなかったし、あんな態度を取るべきじゃなかった。俺を許してくれないか。これからはお前1人を愛すると約束する。琳子とは離婚して、お前と結婚する!お願いだ、俺から全てを奪わないでくれ…」家政婦がボディーガードを呼び、彼を連れだすように言った。京介は動揺のあまり、抑えていた声を爆発させてわめき立てた。「檸檬!俺はお前のことを愛している。琳子と結婚したのは、仕方ない成り行きだったんだ。もう一度俺のことを信じてくれ、頼む!」書斎のドアが開き、三國浩介が早足で駆け寄り、京介と私の間に立ちはだかった。「無事か?」「私は大丈夫です。ただ京介は少し過激になっています。病院に連れて行って診てもらってはどうでしょうか?」三國浩介はうなずいた。「京介を病院に連れて行ってくれ」「やめろ…やめてくれ!」京介は激しく抵抗したが、数秒もたたないうちに連れ去られた。私は京介が立ち去るまで三國浩介の後ろから、そっと彼に向かって手を振った。因果応報――これで京介と私はおあいこだ。三國浩介は京介が家の外に出るのを見届けると、私の方を振り返った。そして私に尋ねた。「明日、堂本家のご両親に挨拶に行ったら、私は明後日から引き続き海外で仕事に明け暮れることになる。次に帰国するのは1年後だ。君は…」「浩介さんと一緒に行きます。けいちゃんも連れて行きます」私はなんの迷いもなく頷いた。彼は少し驚いていたが、すぐに笑って言った。「分かった、君たちの分の手続きを進めさせる」彼は一呼吸を置くと、変わらず微笑みを浮かべながらこう言った。「檸檬さん、私は誰かと付き合ったことがないもので、君にどう接すればいいのか分からない。だが努力しようと思うので、何か間違ったことをしていたら言ってほしい」私も一緒に笑い、刻々と頷いた。浩介さんは書斎へ仕事をしに戻った。私は浩輝の様子をチラッと覗いてから、寝室に戻ると床についた。/翌日に両親への挨拶を終えて家で荷物をまとめているとき、ボディ
「分かった。予定を調整して、明日堂本家に挨拶に行く」私がまだ言い終わらないうちに、彼は遮って言った。そして秘書に電話をかけさせて、明日の予定を空けた。私が驚いて言葉を失っているのをみると、彼は手を差し伸べて私の甲の上に重ね、私を落ち着かせるような眼差しを向けた。そして私にこう言った。「当然のことだ。私に気を遣わないでくれ」張り詰めていた心がふっと解け、私は彼と指を絡めた。/三國家本宅に帰ってくると、ホームパーティーのときの装飾は全て片付けられていて、再び厳かな雰囲気に戻っていた。京介は書斎のドアの前にいたが、私と目を合わせる勇気さえも持ち合わせていないようだった。「父上、お帰りなさい」三國浩介は京介の目をじっと見つめた。「他に言うことは?」京介は歯を食いしばり、ぎゅっと目をつぶって、やっと一言絞り出した。「母上、お帰りなさい」私はとても気分が良かった。三國浩介と腕を組んで彼の前を通り過ぎ、よく通る声で答えた。「うん、良い子ね」書斎のドアを閉めた途端、外から京介の怒りに満ちた唸り声が聞こえた。テーブルの上には京介の反省文が置いてあった。三國浩介はそれをちらりと眺めると、シュレッダーに放り投げた。そのまま電話を応じ、オンライン会議を始めた。オンライン会議を聞いているうちに眠くなり、私は立ち上がって主寝室へと向かおうとした。しかし、京介がいきなり飛び出てきて、私の行く手を塞いだ。「檸檬、お前は俺をこんなに憎んでいたんだな。俺に復讐するためにまさか父上に嫁ぐとはな!」家政婦たちは一階にいて、ベビーシッターは赤ちゃん部屋で浩輝をみている。ボディーガードは門の外にたっており、三國浩介はすぐそこの書斎にいる。――それでも私は京介に怯えることはなかった。「京介も私が京介を憎んでいると知っていたのね」京介は言葉を詰まらせ、顔を曇らせた。「なんでお前はこんなふうに変わってしまったんだ。昔はあんなにも俺のことを愛していて、お前は俺のために両親さえも捨てたというのに!父上がお前に何か言ったのか?それとも金か?金が欲しければ俺に言えばいい、欲しいだけ与えてやるぞ!」私は馬鹿げていると思い、逆に彼に問い返した。「京介のお金は浩介さんからもらったものでしょう?京介、忘れないで。両
「三國京介は社長の実の息子ではないと聞きました。亡くなったお兄様夫婦が残した子で、三國社長のご両親に育てられたのち、社長がご両親の後を継いだ際に養子に迎えられたそうですね。社長は養子をもたれているため、30代になられた今も結婚されていません。しかしながら、残念なことに京介さんにはビジネスのセンスがなく、毎年彼は少なからず三國家の財産を食いつぶしています。それなら、別の後継ぎを育てられてはいかがでしょうか?」オフィスは数秒間静まり返り、三國浩介はようやく顔をあげて私の方を見た。知的で落ち着いた目が私のことを上から下までじっと見つめた。三國浩介は右手で秘書に部屋からでていくよう指示し、左手でオンライン会議を中断した。彼は椅子に深く腰掛け、私に向かってこう言った。「正真正銘三國家の血を継いだ子をくれると言ったな。だが三國家は血縁が薄く、私の代は自分と兄の2人しかいない。兄も早死したので、次の代は兄の息子の京介しかいない。ということは、君のいう子供というのは京介の子か?」私はうなずいた。「そうです。三國京介の息子です。信じられないというなら、DNA検定をしていただいても結構です」三國浩介は目を細め、全身から私への疑心を漂わせていた。「DNA鑑定は必ずするにしても、私の知っているところでは京介はもう籍を入れていて、法的な妻の名は田中琳子という。私は彼女の写真も見たことがある。君は田中家のご令嬢ではない。君は何者だ?京介とはどんな関係なんだ?」私は唇を噛んだ。認めたくはなかったが、本当のことを話すほかない。「私と京介は8年間付き合って、私は彼の子供を産みました。それなのに彼は私を見捨て、息子を奪い、田中琳子を母親にしようとしています。決して彼らの思いどおりにするわけにはいかないので、私には後ろ盾が必要なのです」三國浩介は眉をピクリと動かした。「知っての通り、私は戸籍上は京介の父親だが、血縁上は叔父だ。もし君が子供を連れて私に嫁げば、君は京介の義母となり、君の子供は京介の弟になる。君は何でそんなに、私が孫の世代にあたる子を養子に迎えることに確信をもてるのだね?」確信なんてなかった。しかしそれを表に出すわけにはいかない。私は服の裾をギュッと握りしめ、一言一句はっきりと告げた。「なぜなら社長は
「また、田中琳子さんは田中家のご令嬢です。三國家と格が合い、結婚すればメリットが…」三國浩介はこれ以上京介に弁解のチャンスを与えなかった。三國浩介は私の手を引き、車がすでに玄関口に来ていると目で合図を送ってきた。「もういい。後で話してくれ」車に乗り込むと、私は車の窓から外を眺めた。京介はまだ2階にいる。怒りのあまり手すりを叩きながら、何かぶつぶつと言っている。田中琳子は彼に歩み寄って肩をポンポンと叩いたが、バッと強く押しのけられていた。「首を見せてくれ」三國浩介は浩輝を助手席のベビーシッターに渡すと、無理やり私の首を彼の方へ向けさせた。「君に着物を着せるべきではなかった。襟もとがきつすぎる。まあはっきり言って、京介が容赦なく引っ張ったのが悪い。もしあのとき私が来ていなければ、本当にどうなっていたことか…」首元を見られているのが落ち着かず、襟を上にあげて隠したくなった。しかし、しっかりと着付けられているので全く動かすことができない。「大丈夫です。薬を塗ればよくなりますよ。私も甘かったです。ゲストの前で息子を取り上げようとしてくるとは、思ってもみなかったもので…ボディーガードを連れて行くべきでした」三國浩介の両眉は相変わらずしかめられたままだった。彼は私の目を見ながら、とても真剣に誓った。「今日のことは、必ず私が片を付ける。君は安心してくれ。金輪際絶対に君と浩輝をこんな目に合わせたりはしない」顔が熱くなり、ますます居心地が悪くなった。ただ軽くうなずき、振り返って窓の外をみることしかできなかった。/実のところ、ついこの前まで三國浩介が本当に私の提案を聞き入れるとは思っていなかった。京介に浩輝から追い出されたその日、私は一人で街を歩いていた。ショックのあまり足がふらついた。頭の中は彼に言われた言葉でいっぱいだった。…浩輝を育てる権利はあるが、親権は田中琳子に渡さなければならない。1度目の体外受精に失敗したときに、京介の友達から田中琳子という名前を聞いた。幼い頃から京介は田中家のご令嬢の彼女に片思いをしており、彼女が海外留学に行くときにやけ酒で酔いつぶれた京介は、彼女以外とは結婚しないと宣言したのだと彼らは話した。私は耐えきれなくなって、京介のもとへ行って説明を求めた。京介はその