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第5話

Penulis: ハル
拓海は勢いよく青葉を放し、熱いものに触れたように、よろけながら後ずさりした。

「すみません、俺は……」拓海はごくりと喉を鳴らし、掠れた声で言った。「ここ数日、雪乃の様子が落ち着かなくて入院しているんです。勘違いして、部屋を間違えました」

拓海は踵を返し、背中を向けてまるで逃げるように立ち去った。

青葉は口元を乱暴に拭い、そのバカバカしさに苦笑いをした。

拓海がこれほど嘘が下手だなんて知らなかった。

今は昼間だし、間違って入るほど、自分のことが分からなくなるわけがないはずなのに。

青葉は数日後、退院手続きを終えて病院をあとにした。

その退院した日、ちょうど基地の一般開放日だった。

青葉が基地の宿舎に戻ると、愛想の良い夫人たちにすぐさま取り囲まれた。

「青葉ちゃん。菅原隊長が亡くなられて随分経つのだし、あなたもいつまでも塞ぎ込んでいないで。良い人を紹介してあげる!」

「そうよ、岡田隊長の下の息子さんなんか、若くして将来有望、本当にいい男よ……」

青葉はすでに隆平からのプロポーズを承諾していることを告げようとした。だがそれより早く、一人の青年の前まで連れていかれた。

「ほら見て!広瀬さんよ、科学研究所で働いているの。お家には家具が全て揃っているそうよ!それにお給料も月30万円もあるらしいわ!」

その青年が、眼鏡に触れて自己紹介をしようとした。その瞬間、大きな影が猛烈な勢いで入り込み、彼の顔を拳一撃で殴り倒した。

「きゃあっ!」

その場にいた全員があっけにとられた。

青葉が顔を上げると、激怒して血走った拓海の目線と合った。

拓海は制服のボタンを外し、呼吸を大きく乱して叫んだ。「奥さん方のお気持ちだけで結構です」

一語一句、押し殺した氷のような声音だった。「青葉さんの面倒は、自分が見ますので、他人のお節介など要りません」

そう言うなり、拓海は青葉の腕を力任せに掴んで引っぱって行った。

随分と遠くまで連れていかれ、青葉はそれを強引に振り払った。「拓真さん!」

青葉は拓真の名前をあえて強調した。「お節介を焼いているのはあなたのほうですよ」

拓海の瞳がかすかに揺らめいた。

「はっきり言いますが、私とあなたは、何の関係もないでしょう?私が見合いしようと誰と再婚しようと、私の勝手です」

青葉が踵を返そうとしたとき、背後から鈍い叩きつける音が響いた。

拓海は隣にあった木の幹へ荒々しく拳を振り下し、指の付け根から鮮血が流れていた。

けれど青葉は再び彼を見ずに進んでいった。

……

真夜中に、青葉は布団のわずかな気配で目を覚ました。

電気を点ける暇もなく、熱を持った体が上に覆いかぶさってきた。

きつい酒の匂いに混じり、嗅ぎ慣れた森の香りが鼻をつく。拓海は、彼女の唇を激しく貪った。

「っ……」

拓海は明らかに泥酔しており、キスは凶暴で荒々しく、まるで青葉を喰らおうとするかのようだった。

青葉は全身をこわばらせて突き飛ばしたが、手首を拘束された末、そのまま押しつぶされて動けなくなった。

「行かないでくれ……」拓海はひどく掠れた声で、熱い涙を彼女の頬にこぼした。「誰とも……お見合いなんてしないでくれ……頼む……」

「ふざけないで、拓海!あなたは、今の状況で何なの、雪乃さんのパートナーのはずよ!」

「違……」拓海は自身の重い顔を、青葉の顔に乗せながら、か弱い声をこぼした。「もう少々で済むから、どうか……」

「離れてよ!」

青葉が強く相手に向かって足を伸ばすと、拓海は軽い声を上げてベッドから落とされた。

これほど大きな衝撃の騒ぎに、他室にいた雪乃も引き寄せられて顔を出す。「一体何事?」

灯火によりすべてが見える。青葉は背後を隠しながら、小さく傷口からにじむ鮮血を目立たぬよう、背中に髪を長く垂らして隠した。

「拓真さんが酔って部屋を間違えただけです。雪乃さんが連れて帰ってあげてください」

雪乃の視線が青葉の切れた唇に落ち、爪が深く掌に食い込んだ。

だが、彼女は何も言わず、ただ弱々しく拓海を支えた。「拓真、部屋に戻りましょう」

拓海はふらつきながら連れ去られそうになったが、ドアの前で一度だけ青葉を振り返った。

その瞳には、死にゆく獣のような色が宿っていた。

青葉はドアを閉め、ゆっくりとその場に崩れた。

唇の傷がヒリヒリと痛む。だが、ずっと昔から穴だらけの心臓の方が、より激しく疼いていた。

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