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第1047話

Author: 豆々銀錠
「このクソガキ、なんでこんなにファンが多いのよ。どうしてこんなに売れるわけ?」

夢美はスマホの画面を睨みつけ、頭の中を疑念で埋め尽くされていた。これほど早く売り切れるなど、常識では考えられない。

彼女は「不正販売」の証拠を見つけ出し、紗枝に恥をかかせてやろうとまで思いつめていた。

だが夢美は知らなかった。ライブ配信の「隠れた大口支援者」は、一般のママたちだけではなかったのだ。

澤村お爺さんと綾子――一方は曾孫を盲目的に溺愛し、もう一方は孫を狂おしいほど可愛がっており、二人とも黙々と売上に貢献していたのである。

澤村お爺さんは、これが景之たちの仕業であることをすぐに察していた。子供たちが宣伝する商品であれば、彼は惜しみなく大金を投じて応援するのが常で、今回も例外ではなかった。

そばに控えていた執事は、つい堪えきれず口を挟む。

「旦那様、こちらのスキンケア用品は旦那様がお使いになるものではございません。それに、これほどの量をお買い上げになられては、とても使い切れません」

たとえ使えたとしても、浴槽を満たすほどの量だ……執事は心の中でひそかに付け加えた。

しかしお爺さんは全く意に介さず、悠然と言い放つ。

「構わん。使い切れなければ風呂にでも入れればよい」

執事は絶句した。旦那様がお買い上げになった量では、一ヶ月は入浴剤代わりに使えますぞ……

一方その頃、黒木家でも綾子がスキンケア用品を大量に購入していた。彼女はスマホを置き、私設秘書に問う。

「紗枝はまたお金に困っているのかしら」

秘書は少し困ったように答えた。

「おそらく……そのようなことはないかと」

綾子は深くため息をつく。

「困っていないのなら、どうして子供たちがあんなに必死にライブ配信で商品を売っているの」

秘書は心の中で、「きっとただ母親を手伝いたいだけでしょう。必ずしも金銭的に困っているわけでは……」と思ったが、あえて口にはしなかった。

「紗枝の口座に、さらに十億振り込んでおいて」

綾子の声は揺るぎなかった。

「どんなに大変でも、私の孫たちと、彼女のお腹の子だけには辛い思いをさせられないわ」

秘書は慌てて頭を下げる。

「はい、ただちに手配いたします」

秘書が去ると、綾子は再び景之たちのライブ配信ページを開き、残っていた商品を一つ残らず買い占め、満足げに画面を閉じた
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