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6 淡い気持ち

Author: けいこ
last update Huling Na-update: 2025-07-16 22:03:50

文都君……

こんな私に、優しい言葉をかけてくれてすごく嬉しい。

文都君の純粋で綺麗な心。

それに触れてしまったら、今まで自分がしてきたことに激しい後悔をしてしまう。

私は、本当にバカな女だ。

とことん自分が嫌になる。

でも、おかげでハッキリと心が決まった。

川崎君との関係にケリをつけたいと――

中途半端にしていては何も解決しない。

私は、何かに急き立てられるように、その場で川崎君に電話をかけた。

「……」

何度かコールしているけれど、反応がない。

もう1度かけてみよう……

「……はい」

「あっ、ごめんね、川崎君。今、話せる?」

出てくれたことは良かったけれど、なんだか声に元気がない。

「うん。今は、大丈夫」

この前とはずいぶん違う反応だ。

あの罵声は、今でも忘れられないほど酷かった。そのことは胸にしまい、とにかく冷静に話そうと試みた。

「ごめん仕事中に。どうしても今、話したいことがあって……」

「……ああ」

「私ね……」

「別れたいんだろ?」

「えっ」

「いいよ、わかってる。結菜が別れたいって思ってるならそれでいいよ」

川崎君の答えに拍子抜けしてしまう。

「あっ、う、うん。本当に……ごめん。川崎君にはいろいろ相談に乗ってもらってたのに……」

「そんなこといいよ、別に。もう、結菜のことはキッパリ忘れるから」

川崎君の淡々とした言葉が続き、少し怖い気がした。

でも……きっとこれでいいんだと、自分に言い聞かせた。

「うん。今まで本当にありがとう。体に気をつけて元気でいてね」

川崎君は、それ以上、もう何も言わなかった。

電話を切り、ドキドキしている心臓の辺りを触った。

「……落ち着け……大丈夫、大丈夫だから。これからは川崎君のことを忘れて、しっかり前を向く。それでいいんだよね。新しい道を歩かなくちゃ」

1人つぶやくそのあとに、私は深く深呼吸をして、空を見上げた。

「……帰ろう」

1歩踏み出す足取りは、なんとなく、いつもより少しだけ軽く感じた。
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