Chapter: 4【another story】藍花の幸せ翌日、堂本先生が内科の診察前に、私に会いに来てくれた。「済まなかったね、昨日は」「まさか蒼真さんに電話されるとは……びっくりしました」「何だかね……無性に電話しないとって体が勝手に動いてた。自分でもよくわからないけど……そうしなきゃいけないって」「先生は優しい人です」「買いかぶりすぎだよ」「いいえ。じゃなかったら、電話なんかしないですよ。でも……本当にありがとうございました」「え?」「蒼真さん、喜んでいましたよ。堂本先生が電話をくれたこと。そして……堂本先生に申し訳なかったって言っていました」「……そっか……。久しぶりに昨日は学生時代の頃のことを思い出しながら眠った」「そうなんですか?」「ああ。不思議と楽しかった思い出ばかりが浮かんできて……なんだか懐かしかった。いつまでも彼女のことを引きずっているなんて、未練がましくて情けないってことがわかったよ。ほんと、バカだった」先生の顔は、優しくて安堵感に溢れていた。「堂本先生……」「これからは、僕も新しい人生を楽しみたいって思ってる」「よかったです。めいっぱい楽しくて幸せな人生を送ってくださいね。私も蒼真さんも、堂本先生に素敵な未来が訪れるって信じてます」「ありがとう、嬉しいよ」「私も先生に負けないよう、楽しい人生を送れるようにしたいと思います」蒼真さんと蒼太と3人で……「そうだ。新しい病院が決まったんだ。僕の実家がある近くに友達のクリニックがあるんだけど、ずっと前から声をかけてもらっててね。そこで一緒に頑張っていこうと思う」「そうなんですね。寂しいですけど……頑張ってくださいね」「ああ。彼女とならうまくやっていけそうだし」「彼女?女医さんですか?」「僕の幼なじみ。幼稚園の頃からのくされ縁でね。本当に優秀な内科医なんだ。……なんだかね、昔から僕のことが好きみたい」「えっ!」「もちろん、僕にはまだ彼女に対して恋愛感情は無いけどね。まぁ、でも、この先はどうなのかわからないしね」幼なじみの間柄、何だか勝手に恋の予感を巡らせた。堂本先生がとても嬉しそうだからかな。いろんなことが吹っ切れたような爽やかな表情に、私は心からホッとした。「いつかまた……蒼真さんに会いに来てください。いつでも堂本先生のこと大歓迎ですよ。あの人も楽しみにしていると思います」「……そうだね、またいつか
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 3【another story】藍花の幸せ「藍花……」「蒼真さん……?」「もっともっと俺のことを好きになって……」「……あっ……」蒼真さんの手のひらが私の頬に触れる。そこから直に伝わってくる愛情。蒼真さんへのどうしようもない愛しさが、私の体を巡る。「でも、どれだけ俺を好きになっても、俺が君を好きな気持ちには勝てないけどね」キュンと胸を貫く甘い言葉。自然に唇を塞がれて、蕩けそうになる。こんなことが私の日常にあることが今でもまだ不思議で仕方ない。上から下まで、とてつもなく美しい蒼真さん。年齢を少し重ねた私達。それでも、この妖艶な魅力を醸し出す蒼真さんに、私はいつだって心を奪われる。「堂本先生の話を聞いて、改めて思った。君の心は、誰にも奪わせない。どんな宝石をも盗み出す怪盗にだって……この体と心は盗ませない」「蒼真さん……」「何があっても俺のそばから離れるな」「はい。絶対に離れません……」幸せだった。いくつになっても蒼真さんに抱かれる幸せは、私の最上の喜びだ。「藍花のこと気持ちよくしてやるから」その言葉をきっかけに、蒼真さんの愛撫が始まった。嬉しい……本当に……嬉しい。「ああんっ……はぁ……っ」「ここ、気持ちいいんだろ?」「はあっ、ダ、ダメっ」「ダメじゃないだろ……こんなに濡らしてるくせに」「で、でも……っ」「もっとしてほしい……って、言って」耳元にかかる熱い吐息。蒼真さんの唇がそっと耳に触れると、体が勝手に身震いした。「ああっ、も、もっと……して……」体中がしびれ、我慢できないほどの快感に包まれる。言葉で表すことのできない刺激的な快楽が押し寄せる。「藍花……可愛いよ」「蒼真さん……はぁっ、い、いいっ、気持ち……いい」蒼真さんの舌が私のいやらしい部分に這う。どうしようもなく濡れている場所をさらに愛撫され、私はもうどうなってもいいと思った。「イキたい?」「は、はい……もう……我慢できないっ」蒼真さんは、人差し指で私の秘部の奥を何度も突いた。こんなことをされたら……「ああっ!ダ、ダメぇ!もう……イッちゃう……」案の定、私は簡単にあっけなく絶頂を迎えた。蒼真さんに私の敏感な部分を全て知られ、逃げることなんてできない。もちろん……逃げたいなんて思わないけれど。「蒼真さん……」「ん?」「蒼真さんは……本当に私の体で満足してます
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 2【another story】藍花の幸せ「……残念だな。確かに……嘘だよ」「……う、嘘?」「彼は、僕の彼女の告白を見事に断った。僕のことを裏切った彼女にも腹が立つけど、1番憎いのは白川先生だよ。彼は何もかも持っているのに、誰1人女性を相手にしようとしなかった。そういうところがめちゃくちゃ嫌いだったよ。余裕があるっていうか……」嘘だったと聞いて、信じていたとは言え、心からホッとした自分がいた。「蒼真さんは誠実な人なのに、勝手に悪者にしないでください。そんな理由……ひどいです」「……君はほんとに彼のことが好きなんだね。よくわかったよ。それに、白川先生も……嘘偽りなく藍花さんのことが好きなんだろうね」「……」そうだといいなと、一瞬考えてしまった。蒼真さんに嘘偽りなく愛されたい――私は心からそう思った。「どんな女も寄せつけない男が選んだんだ、君は相当良い女なんだろう」「そ、それは……。で、でも、これ以上、蒼真さんに何か言ったり変なことしたら私、許しませんよ」「強いな、君は。別に、今まで彼に何かをしようと思った事はないよ。もう忘れていたし、僕は僕の道を進んでいた。なのに、白川先生が突然連絡してきて……。あれだけ女性を相手にしなかったくせに、君みたいなとても素敵な女性を奥さんにしていたから……。結局、ああいう男が、君みたいないい女を手に入れるんだと思うと、なんだか無性に腹が立ってきて……。あの時彼女を奪われた僕の気持ちを白川先生にも味合わせてやろうと思ってね」「そんな……」「僕の密かな企みは結局失敗に終わったけどね。残念だけど、僕じゃ、彼には到底かなわないってことだな」堂本先生は苦笑いした。「僕はね、あれから誰かを好きになることができなくなってしまったんだ」「えっ?そんな……」「本当のことだよ。彼女ができても、またフラれるんじゃないか、誰かに盗られるんじゃないかって思うと怖くてね。情けないけど、誰かを好きになることができなくなってしまって」「堂本先生……」何だかその告白に胸が痛くなった。トラウマになってしまった先生の気持ちはわからなくはない。でも、それは蒼真さんのせいではない。彼氏がいながら、他の男性に告白した女性が悪いと思う。「今の病院すごくいいでしょ?働きやすくて、みんないい人ばかりだ。正直、そんな中でこんな歪んだ心を持った自分が、これから先、うまくやっていける自信は
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 1【another story】藍花の幸せ蒼太が小学校の高学年になり、私は蒼真さんの勧めで、近くの病院で看護師として働きだした。蒼真さんの知り合いの内科の先生がいる地元では有名な総合病院。松下総合病院と比べると、かなり規模は小さいがそれなりに立派な病院だった。いろいろ教えてくれる中川師長のような頼りになる先輩がいてくれて、とてもありがたかった。私は、外科の病棟に勤務していた。「藍花さん。少しは慣れましたか?」「あっ、堂本先生。はい……と言いたいところですが、まだまだです。堂本先生がこちらの病院を紹介していただいたおかげで本当に助かりました。ありがとうございました」「いえいえ。白川先生から頼まれると断れません。彼は僕の学生時代の友達ですから」「主人からも聞いています。堂本先生はとても優秀だから、勉強させてもらいなさいと」スラット背が高く、白衣も似合っていて、とても落ち着いた雰囲気のある真面目な先生だ。病院内の評判もとても良い。看護師達からの信頼も厚く、患者さんにも人気がある。松下総合病院で頑張っている蒼真さんと同じだ。「とんでもない。学生時代から彼の方がとても優秀で、僕なんか足元にも及ばないですよ」「……あっ、いえ。短期間ですが、先生を見ていて立派な方だとわかります」「ありがとうございます。あなたにそう言ってもらえると嬉しいです」「よかったら、1度、食事でもいかがですか?」「本当ですか?主人も喜びます」「……あ、いや。できれば、藍花さんと2人で話がしたいんですけど……。いろいろと……」えっ、2人きりで?……と、心の声が口から出そうになった。堂本先生の突然の誘いに驚き、なんと答えればいいのかわからなかった。「……ダメかな?」「す、すみません。2人きりはちょっと……。ナースステーションの誰かを誘ってみんなで行きませんか?」そう言った途端、堂本先生の顔つきが険しくなった。「みんなでワイワイするのは好きじゃないんだ。落ち着いたところで、白川先生の学生時代の話とか……できたらいいんだけど……」「主人の学生時代の話ですか?」そう言われると、とても興味がある。それでも蒼真さんに内緒で行くことはできない。「ああ、そうだよ。学生時代の白川先生のことを君に教えてあげたくて。聞きたくないの?」「き、聞きたくないことはないです。でも……」「とても興味が湧く話だと思うけどね」
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 3【afterstory】蒼太の幸せ僕はその結果に心からホッとしながらも、正直、自分を情けなく思った。自分にとって何よりも大切な人がこんなになるまで頑張っていたのに……無理していることに気づいてあげることができなかった。結果、桜子に不安を与えてしまい、痛い思いをさせてしまった。医師として、そして、彼氏として本当に申し訳ないことをしたと心底反省した。医師だから、体も心も強いわけではない。もがきながら、苦しみながら、逃げ出したい気持ちもある中で、みんな必死に患者さんのために頑張っている。僕も今回の事を教訓にして、桜子の体調も気にしながら、お互い励ましあって、支え合って生きていきたいと思った。もう二度と桜子を不安にさせないと、心に誓った。「ごめんね。本当に心配かけて。何だかみんなに心配をかけてしまって……恥ずかしい。これからは、一生懸命、妊婦さんや婦人科の病気を抱えている人のために頑張っていくね。あ、でも、自分の体にも気をつけていきます」「……うん。そうだね。僕もたくさんの人の命を守りたい。その気持ちを永遠に持ち続けて、そして、桜子のこと、必ず……幸せにしたい」「蒼太さん……?」「本当はもっとロマンチックな形で言いたかったけど、今どうしても君に伝えたいから」「えっ?」「桜子。僕たち結婚して、夫婦にならないか?」「……蒼太……さん?」「お互いに支え合って、いつまでもずっと一緒にいよう。絶対幸せにするから、僕についてきてほしい」「……嬉しい。蒼太さん、私、とっても嬉しいよ」「ほんと?」「うん、私を選んでくれて本当に本当にありがとう」「こちらこそ……。うわっ、すごくドキドキした」あまりの緊張に思わず心臓を抑えた。「私もドキドキしたよ。ありがとう、ほんとに嬉しい」「うん、僕も嬉しい。良かった……」病院の片隅、僕たちは永遠の愛を誓った。泣きながら笑うなんて変だけど……でも、こんなに幸せでいられることに感謝しかなかった。***それからしばらくして、両親と僕たちは川の近くにあるキャンプ場にやってきた。流れる水がとても綺麗で、心地よい風が吹いている。最高のキャンプ日和だ。早速、近くにテントを張ってバーベキューの準備をする。父も母も、桜子の元気な姿を見て、とても嬉しそうだった。「何だか蒼太の子供の頃を思い出すわね。川辺で遊んでいる姿がとても可愛かったわよね。ほ
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 2【afterstory】蒼太の幸せ数日して、桜子が胃カメラを受ける日がやってきた。一旦腹痛も治まり、翌日には退院して、仕事にも戻っていた。僕の両親と桜子、4人でその話をしたら、父も母もとても心配していた。父は外科医、母は看護師、2人とも熱い志を持って今も仕事をしている。2人とも可愛い桜子に対して何かしてあげたいとの思いを語ってくれた。「お父さん、お母さん。私のことをそんなに心配してくださって、本当にありがとうございます。産婦人科医として働いている自分が病気になるなんて……すごく情けないです」桜子は沈痛な面持ちで頭を下げた。「何を言ってるの。人間は病気になるものよ。でも病院に行って治療を受ければ大丈夫。病院と先生を信じてね。きっと良くなるわ。情けないなんて言っちゃだめよ」母が丁寧に諭すように言った。看護師としての母も、普段の母も、とても穏やかで優しい人だ。「お母さん……。励ましていただいてとっても心強いです」「いえいえ、私は昔、外科医である主人によく怒られていたのよ。笑顔で患者さんに接して、決して不安にさせてはいけないって」「別に怒っていたわけじゃないよ」父が照れながら言う。僕にはわかるけどね、父は母のことが大好きで、でも、うまく気持ちを伝えられずに、そういう態度で接してしまっていたんだって――「とにかく患者さんに優しく不安を与えずに治療を続ける主人を見て、とても感動したの。患者さんは先生に頼るしかない。わからないから不安になる、だから、先生に優しくされたら心から安心するのよね。主人と関わる患者さんは皆そうだったわ」「……そのくらいでいいから」「お父さん、照れすぎだよ。お母さんはそんなお父さんのことをいつだって尊敬していた。僕もその姿を見ていたから、お医者さんになりたいって子供の時から決めてたよ。無事に父さんと同じ外科医になれて本当に良かったと思ってる」「そうよね。だってそのおかげで蒼太は、桜子さんと出会うことができたんだもの」「お母さんがお父さんと出会ったように……ですね」桜子が少し目を潤ませて、そう言った。「そうね。私も主人と出会えて本当に幸せよ。可愛い桜子さん、本当に蒼太と出会ってくれてありがとうね。病気の事はきっと大丈夫だから。信じましょう。元気になったら、みんなでバーベキューでも行きましょう」「うわぁ、楽しみです。バーベキューなんて小学生の時以来で
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: afterstory 再び出会う奇跡「みんなで旅行に行った時以来。あの時、結姉を真ん中にして俺達3人で囲んで撮った」「そうだったね。何だか懐かしいね。あの時、すっぴんの私をバシバシ撮るからすごく恥ずかしかったんだからね」「結菜さん、とっても綺麗でした。本当に……良い思い出です」「よし、もう数枚撮るから。スマホを見て」「は~い」後ろに頼もしい3人を感じながら、私はスマホに向かって再び微笑んだ。「みんなありがとう」「楽しみにしてるね。だけど、颯君、くれぐれも無理はしないで」「わかってる。でも、最高傑作にするから。あっ、ついでに4人の絵も描くから」「は?ついでってどういうこと?」祥太君が笑いながら言った。「祥太兄と文都君はおまけだから」「ひどいですね」文都君も笑った。「まあ、とにかく、めちゃくちゃ創作意欲が湧いてきた。帰ってキャンバスに向かうのが楽しみだ」「じゃあ、俺も……結菜ちゃんのためにピアノを弾くよ」「えっ、本当に?」突然の申し出が、飛び上がりそうになるくらい嬉しかった。「さっきの仕返しだな。俺達にも聴かせて」「僕も久しぶりに祥太君のピアノ、聴きたいです」「楽団にいる時より腕は落ちてるから、あまり期待しないでね」そう言って、リビングの隅で存在感を出しているピアノの前に座った。マンションの一室でも、これだけ広ければ迷惑にはならなのだろう。「祥太君のピアノが聴けるなんてドキドキする」心の声がこぼれた。そして……ピアノの音色が奏られ、一瞬でこの部屋がコンサートホールになった。とても響きがよく、迫力を感じる。「素敵……」「本当に……素敵ですね。悔しいけど、結菜さんのために祥太君が弾いてるのがわかります。想いが届くように……って」文都君が言ったことが本当かどうかは分からないけれど、私の心に祥太君の情熱がダイレクトに伝わってきた。数分後、演奏が終わり、祥太君が立ち上がった。みんなで拍手を送る。「ありがとう。久しぶりにみんなの前でピアノが弾けて良かった。楽しかったよ」「全然腕落ちてなかったし、なんなら前より良かったかも」颯君が言うと、「本当に?あんなに練習してたのにね。まあでも、たぶんリラックスしてるからだと思うよ。あの頃はずいぶん緊張もしたし、体も固かったのかも。今は……なんて言うか、背負うものがないというか、演奏を心から楽しめてるから」と
Last Updated: 2025-08-29
Chapter: afterstory 再び出会う奇跡「久しぶりですね。祥太君、颯君」「本当に……みんな、元気だった?」数年後、私達は祥太君の招待を受け、ニューヨークで再会した。山崎フーズの関連会社設立のため、今は副社長としてこちらに住んでいる祥太君からの突然の誘いに本当に驚いた。あまりにも素敵な高級マンションの一室に案内され、とてもテンションが上がった。ペンションにも取り入れたくなるような部屋のレイアウトは、祥太君の彼女さんのセンスだそう。「はじめましてアリスです」「は、はじめまして」私達はアリスさんに挨拶した。日本とアメリカのハーフだそうで、日本語がペラペラな超美人。招待を受けた時に彼女の存在は聞いていたけれど、まさかここまでの美人だとは――「さあ座ってください。レストランに向かうまでこちらでゆっくりしていってくださいね」「ありがとうございます、アリスさん」「いいんですよ、結菜さん。あなたは祥太の大切な人なんですから」突然の言葉に驚いた。「……アリスさん?」「祥太から聞いてます。……本当に素敵な女性ですね。祥太が好きになるの、納得です」アリスさんはそう言って、豪快に笑った。「アリス。みんながびっくりしてるよ。もうそのくらいにしておいて」「あらら、私ったらつい。ごめんなさい。じゃあ、私はこれで失礼します」「えっ?アリスさんどこかに行かれるんですか?」「ええ。今日はパパとママと食事に行くんです。皆さんは、久しぶりの再会を楽しんでくださいね」アリスさんは、私達と別れ、笑顔で部屋を出た。「祥太君、アリスさん大丈夫なの?私達が追い出してしまったのかな?」「最初からアリスには予定があったから気にしないで。あの人は自分の家族との時間も大切にしたい人だから」久しぶりに会った祥太君と颯君。2人とも年齢を重ね、ますます素敵になっていた。みんなは40代。私は……50歳を超えた。何だか1人年上で恥ずかしい。テーブルに飲み物が置かれ、私達は久しぶりに4人で会話した。「結姉、相変わらず綺麗だ」「ちょ、ちょっと、そんな、綺麗だなんて止めて。さすがにお世辞だってわかるよ」顔から火が出そうなくらい照れてしまう。「お世辞じゃないから。本当に綺麗」「相変わらず颯君は直球ですね。結菜さんは僕の奥さんなんですからね」「文都、ヤキモチ妬いてるの?」祥太君が笑った。「祥太君、からかわな
Last Updated: 2025-08-29
Chapter: 4 エピローグ文都君の優しさは海よりも深い。どんな時も、決して声を荒げることはなく、眼鏡の奥の瞳を細め、いつだって笑ってくれる。ただ、初めて文都君とベッドに入った時はとても驚いた。見た目とは違って、かなりたくましい体をしていたから。服を脱がなければわからなかった胸板に、急激に心臓が鳴り出し、ドキドキが止まらなかった。今まで想像もしなかった、文都君との交わり。熱い吐息が私の耳にかかり、そこからの時間はどうしようもなく甘くて情熱的で……身体中がとろけそうだった。「死ぬまでずっと離しません。あなたは僕にとって命よりも大事です」「そんな……文都君の命はとても大事だよ」「それでも、僕にはあなた以上の人はいません。死ぬほど大事なんです。絶対に僕が守ります。大切な結菜さんを……僕が必ず」文都君は出会った時と変わらず、ずっと敬語。今さら止められないみたいだ。だけれど、そういうところが真面目で誠実な文都君らしくて……好き。いつも激しく私を求める文都君を、私は自然に受け入れてしまう。あまりの気持ち良さに、もっともっと……と、私から熱望する夜もあるくらいだ。文都君の優しい雰囲気とのギャップに、私の体はいつだってトロトロになる。眼鏡を外した顔もとてもセクシーで、何ともいえない男の色気をまとっていて、魅了されっぱなしだ。文都君のせいで、私は……とてもいやらしい自分を知ってしまった。もうあなた無しではいられない、淫らな体になってしまったんだ。昼の幸せと、甘い夜の幸せ――私は、文都君のおかげで毎日ドキドキの連続だ。この幸せがいつまでも続いてほしいと願う日々。もちろん、自分だけではない、私の大切な人達にも……ペンションを手伝ってくれているお義母さんは、再婚してお相手と仲良く暮らしている。ペンションには通いで来てくれ、死ぬまでここで働きたいと張り切ってくれている。間違いなく、幸せだろう。現在、ペンションで働いてくれているスタッフも、またまたみんながイケメンで、お義母さんはいつも楽しそうだった。これからもずっと元気でいてね、私の大切なお義母さん。時々ふと思う。祥太君、文都君、颯君……3人がいたから、私は人生をやり直すことができた。みんなの優しい愛に包まれて、今までずっとずっと幸せだった。夢も叶え、結婚までできて。みんなには、感謝しかない。祥太君も颯
Last Updated: 2025-08-29
Chapter: 3 エピローグそう、私は、1年前に神田 文都君のお嫁さんになった。「神田 結菜」になったんだ――年の差を乗り越えて、私達は、今すごく幸せに暮らしている。ペンションの隣に「神田内科クリニック」ができて1年半。たくさんの患者さんが、文都先生のもとに集まってくる。優しくて信頼が厚く、そして……眼鏡をかけたイケメン先生には当然のようにすぐにファンがつき、あっという間に人気の病院になった。病院が開院してすぐの頃、文都君は私にプロポーズしてくれた。「大好きな結菜さん。僕と結婚して下さい」ごくありふれたプロポーズの言葉だった。だけれど、文都君らしくて、私は心から感動し、涙がとめどなく溢れた。どうしようもないくらい嬉しくて、幸せで……心が大きく揺さぶられた。その時、今までよくわからなかった気持ちが吹き飛び、自分でもちゃんと文都君を愛してると思えた。もう迷わない、私は文都君の奥さんになりたいと――結婚式は身近な親戚をペンションに集め、お義母さんやスタッフも手伝ってくれて、慎ましやかに行った。その時の写真も送り、2人で祥太君と颯君に電話で報告したら、文都はズルいと何度も言っていた。『結菜ちゃんを一生大事にしないと許さない。泣かせるようなことがあれば、すぐに日本に帰って文都を殴る』「殴らないで下さいね。祥太君は前も殴ろうとしてましたし、本当に……男気のある人ですから」『……ああ、川崎さんの時だね。確かにそんなこともあったよね。あの時は結菜ちゃんを守りたくて必死だった。でも、これから先は文都が結菜ちゃんを守るんだ。いいな』「わかってます。必ず守ります。だから安心してください」『……うん、まあ……文都がいるなら大丈夫。心配はしてないよ』「祥太君……」2人のやり取りに涙がこぼれる。本当に私はいつもみんなに守られてきたんだ。颯君に連絡した時も同じだった。『結姉との生活、何から何まで全部うらやましい。夢のために結姉から離れた俺が悪いけど……でも文都君、必ず結姉を幸せにして。絶対に離すなよ』「はい。絶対に絶対に離しません。僕が必ず結菜さんを幸せにします」『……文都君なら任せられる。結姉が病気になっても助けてあげられるし。俺にはそれができないから……』「颯君の分まで僕は結菜さんを守りますから」『ああ、頼む』「はい、任せてください」2人の言葉に、文都君は改め
Last Updated: 2025-08-28
Chapter: 2 エピローグ颯君の大事な夢を絶対に実現させてあげたい。今、夢を追いながらも仕事を頑張っている祥太君の分まで、颯君には一歩前に進んでほしかった。「結姉。本当に……ごめん。俺のわがままで」「何言ってるの?颯君だって、昔、私のわがままを聞いてくれたじゃない。いっぱいアイデアを出してくれて、いっぱい手伝ってくれて。あの時の恩は忘れてないよ」「そんな。おおげさだな」「おおげさなんかじゃないよ。ペンションが成功したのは、間違いなくあなた達のおかげ。颯君には本当に助けられたから。感謝は忘れてないよ」「結姉……」「本当に大丈夫。ペンションは新しいスタッフに来てもらうようにするし、颯君は自分の夢を掴んで。それはね、颯君だけの夢じゃないよ。颯君の夢は、みんなの夢でもあるんだから」「……うん、本当に……ありがとう。俺はさ、本当に絵を描くのが好きだった。結姉に会って、もっともっと好きになった。絵を描く楽しみみたいなものを教えてもらった」「それこそおおげさだよ」「ううん。あの頃、結姉の絵を描いてる時、本当に幸せな時間だった。忙しい合間にモデルになってくれたこと、すごく感謝してる。今までいっぱい描いたけど、結局、俺は、結姉をモデルに描いたあの絵を1番気に入ってる。だから、あの絵はずっとここに飾っててもらいたい」「颯君……」「悲しいけど、一旦、みんなとお別れするよ。でも、早く一流になって、必ずここに帰ってくる」「……うん、うん。いつでも待ってるよ」本当は、寂しい。とても寂しいけれど、でも、あの絵があればいつでも颯君を感じていられる。それに……またいつか、必ず会える。だから、涙は流さない。祥太君も颯君も、私の大切な家族は、遠くへと未来に向けて1歩前へと進んでいった。そんな2人が海外へ旅立つ前、それぞれに私に精一杯のプロポーズをしてくれたことは、誰にも秘密――祥太君のプロポーズ、とても熱がこもっていて胸にグッときた。「結菜ちゃん。俺と一緒に来てくれないか?俺と……ずっと一緒に……」そう言って、祥太君は潤んだ瞳で私を見た。「……祥太君……」お互い見つめ合い、しばらく体が動かなかった。「……俺、結菜ちゃんをお嫁さんにしたい。俺の隣でずっと笑っててほしいんだ。あなたがいてくれたら、俺は……何も怖いものは無い」「祥太君……。何て言えばいいのか……ごめんなさい、私……
Last Updated: 2025-08-28
Chapter: 1 エピローグあれから、ずいぶん年月が流れ、10年が経った。一生懸命頑張ってきて、あっという間の10年だった気がする。ペンション経営は新しいスタッフも加わり、周りに支えられながら問題なく順調に進んでいる。そう、なんの問題もなく――でも、大きく変わってしまったことがある。それは、祥太君と颯君がいないこと。彼らは、数年前に日本を離れた。祥太君は、お父さんが急に病気で倒れてしまい、社長である叔父さんの手助けをするために、どうしても海外に行かなければならなくなった。お父さんのことをとても心配して、最初はものすごく動揺していたけれど、一命を取りとめたことでホッとしていた。せめてお父さんが回復するまでは大好きなピアノは、一時、止めるしかなかった。楽団から去ることはとてもつらそうだったけれど、私に笑って言ってくれた。「いつになるかわからないけど、必ずまたピアノが弾けるように、今はしっかり仕事を頑張るよ。父が一生懸命守ってきた会社だからね。結菜ちゃんがペンションを守ってるみたいに、俺が会社を守らないと」その決意は優しくもあり、男らしくてカッコ良かった。「私は、祥太君のこと、どこにいても絶対に応援してるから。だから、外国にいっても体に気をつけて……頑張って」「うん。自分なりにいろいろ学んで成長したいと思ってる。頑張るね」別れる時は、涙が止まらなかった。祥太君がいなくなることがこんなにも寂しいなんて。ピアノが聞けなくなることも嘘みたいにつらかった。でも、私は、祥太君を満面の笑顔で見送った。今は仕事も少し落ち着いたらしいけれど、まだ日本には戻れそうにないようだ。ピアノは、時々、地元のメンバーとセッションしたりして、息抜き程度に楽しんでると聞いた。早速ファンもついて、アマチュアなのにライブをしないかとの声掛けもあるらしい。さすが祥太君だ。どこにいても人気者。とにかく、好きなピアノ演奏ができているなら……私にはそれが1番嬉しい。そして、颯君は……ペンションに飾った絵がたまたま宿泊していた海外の有名な画廊の方の目にとまり、認められて、まずは日本で個展をやらないかと言ってもらえた。その時はみんなで大喜びして、颯君のことを応援しようと盛り上がった。画廊の方から、若き天才画家とまで言われ、当然のごとく個展も大好評だった。「今度はぜひ海外で個展を」と声をかけら
Last Updated: 2025-08-27