Chapter: 4【another story】藍花の幸せ翌日、堂本先生が内科の診察前に、私に会いに来てくれた。「済まなかったね、昨日は」「まさか蒼真さんに電話されるとは……びっくりしました」「何だかね……無性に電話しないとって体が勝手に動いてた。自分でもよくわからないけど……そうしなきゃいけないって」「先生は優しい人です」「買いかぶりすぎだよ」「いいえ。じゃなかったら、電話なんかしないですよ。でも……本当にありがとうございました」「え?」「蒼真さん、喜んでいましたよ。堂本先生が電話をくれたこと。そして……堂本先生に申し訳なかったって言っていました」「……そっか……。久しぶりに昨日は学生時代の頃のことを思い出しながら眠った」「そうなんですか?」「ああ。不思議と楽しかった思い出ばかりが浮かんできて……なんだか懐かしかった。いつまでも彼女のことを引きずっているなんて、未練がましくて情けないってことがわかったよ。ほんと、バカだった」先生の顔は、優しくて安堵感に溢れていた。「堂本先生……」「これからは、僕も新しい人生を楽しみたいって思ってる」「よかったです。めいっぱい楽しくて幸せな人生を送ってくださいね。私も蒼真さんも、堂本先生に素敵な未来が訪れるって信じてます」「ありがとう、嬉しいよ」「私も先生に負けないよう、楽しい人生を送れるようにしたいと思います」蒼真さんと蒼太と3人で……「そうだ。新しい病院が決まったんだ。僕の実家がある近くに友達のクリニックがあるんだけど、ずっと前から声をかけてもらっててね。そこで一緒に頑張っていこうと思う」「そうなんですね。寂しいですけど……頑張ってくださいね」「ああ。彼女とならうまくやっていけそうだし」「彼女?女医さんですか?」「僕の幼なじみ。幼稚園の頃からのくされ縁でね。本当に優秀な内科医なんだ。……なんだかね、昔から僕のことが好きみたい」「えっ!」「もちろん、僕にはまだ彼女に対して恋愛感情は無いけどね。まぁ、でも、この先はどうなのかわからないしね」幼なじみの間柄、何だか勝手に恋の予感を巡らせた。堂本先生がとても嬉しそうだからかな。いろんなことが吹っ切れたような爽やかな表情に、私は心からホッとした。「いつかまた……蒼真さんに会いに来てください。いつでも堂本先生のこと大歓迎ですよ。あの人も楽しみにしていると思います」「……そうだね、またいつか
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 3【another story】藍花の幸せ「藍花……」「蒼真さん……?」「もっともっと俺のことを好きになって……」「……あっ……」蒼真さんの手のひらが私の頬に触れる。そこから直に伝わってくる愛情。蒼真さんへのどうしようもない愛しさが、私の体を巡る。「でも、どれだけ俺を好きになっても、俺が君を好きな気持ちには勝てないけどね」キュンと胸を貫く甘い言葉。自然に唇を塞がれて、蕩けそうになる。こんなことが私の日常にあることが今でもまだ不思議で仕方ない。上から下まで、とてつもなく美しい蒼真さん。年齢を少し重ねた私達。それでも、この妖艶な魅力を醸し出す蒼真さんに、私はいつだって心を奪われる。「堂本先生の話を聞いて、改めて思った。君の心は、誰にも奪わせない。どんな宝石をも盗み出す怪盗にだって……この体と心は盗ませない」「蒼真さん……」「何があっても俺のそばから離れるな」「はい。絶対に離れません……」幸せだった。いくつになっても蒼真さんに抱かれる幸せは、私の最上の喜びだ。「藍花のこと気持ちよくしてやるから」その言葉をきっかけに、蒼真さんの愛撫が始まった。嬉しい……本当に……嬉しい。「ああんっ……はぁ……っ」「ここ、気持ちいいんだろ?」「はあっ、ダ、ダメっ」「ダメじゃないだろ……こんなに濡らしてるくせに」「で、でも……っ」「もっとしてほしい……って、言って」耳元にかかる熱い吐息。蒼真さんの唇がそっと耳に触れると、体が勝手に身震いした。「ああっ、も、もっと……して……」体中がしびれ、我慢できないほどの快感に包まれる。言葉で表すことのできない刺激的な快楽が押し寄せる。「藍花……可愛いよ」「蒼真さん……はぁっ、い、いいっ、気持ち……いい」蒼真さんの舌が私のいやらしい部分に這う。どうしようもなく濡れている場所をさらに愛撫され、私はもうどうなってもいいと思った。「イキたい?」「は、はい……もう……我慢できないっ」蒼真さんは、人差し指で私の秘部の奥を何度も突いた。こんなことをされたら……「ああっ!ダ、ダメぇ!もう……イッちゃう……」案の定、私は簡単にあっけなく絶頂を迎えた。蒼真さんに私の敏感な部分を全て知られ、逃げることなんてできない。もちろん……逃げたいなんて思わないけれど。「蒼真さん……」「ん?」「蒼真さんは……本当に私の体で満足してます
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 2【another story】藍花の幸せ「……残念だな。確かに……嘘だよ」「……う、嘘?」「彼は、僕の彼女の告白を見事に断った。僕のことを裏切った彼女にも腹が立つけど、1番憎いのは白川先生だよ。彼は何もかも持っているのに、誰1人女性を相手にしようとしなかった。そういうところがめちゃくちゃ嫌いだったよ。余裕があるっていうか……」嘘だったと聞いて、信じていたとは言え、心からホッとした自分がいた。「蒼真さんは誠実な人なのに、勝手に悪者にしないでください。そんな理由……ひどいです」「……君はほんとに彼のことが好きなんだね。よくわかったよ。それに、白川先生も……嘘偽りなく藍花さんのことが好きなんだろうね」「……」そうだといいなと、一瞬考えてしまった。蒼真さんに嘘偽りなく愛されたい――私は心からそう思った。「どんな女も寄せつけない男が選んだんだ、君は相当良い女なんだろう」「そ、それは……。で、でも、これ以上、蒼真さんに何か言ったり変なことしたら私、許しませんよ」「強いな、君は。別に、今まで彼に何かをしようと思った事はないよ。もう忘れていたし、僕は僕の道を進んでいた。なのに、白川先生が突然連絡してきて……。あれだけ女性を相手にしなかったくせに、君みたいなとても素敵な女性を奥さんにしていたから……。結局、ああいう男が、君みたいないい女を手に入れるんだと思うと、なんだか無性に腹が立ってきて……。あの時彼女を奪われた僕の気持ちを白川先生にも味合わせてやろうと思ってね」「そんな……」「僕の密かな企みは結局失敗に終わったけどね。残念だけど、僕じゃ、彼には到底かなわないってことだな」堂本先生は苦笑いした。「僕はね、あれから誰かを好きになることができなくなってしまったんだ」「えっ?そんな……」「本当のことだよ。彼女ができても、またフラれるんじゃないか、誰かに盗られるんじゃないかって思うと怖くてね。情けないけど、誰かを好きになることができなくなってしまって」「堂本先生……」何だかその告白に胸が痛くなった。トラウマになってしまった先生の気持ちはわからなくはない。でも、それは蒼真さんのせいではない。彼氏がいながら、他の男性に告白した女性が悪いと思う。「今の病院すごくいいでしょ?働きやすくて、みんないい人ばかりだ。正直、そんな中でこんな歪んだ心を持った自分が、これから先、うまくやっていける自信は
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 1【another story】藍花の幸せ蒼太が小学校の高学年になり、私は蒼真さんの勧めで、近くの病院で看護師として働きだした。蒼真さんの知り合いの内科の先生がいる地元では有名な総合病院。松下総合病院と比べると、かなり規模は小さいがそれなりに立派な病院だった。いろいろ教えてくれる中川師長のような頼りになる先輩がいてくれて、とてもありがたかった。私は、外科の病棟に勤務していた。「藍花さん。少しは慣れましたか?」「あっ、堂本先生。はい……と言いたいところですが、まだまだです。堂本先生がこちらの病院を紹介していただいたおかげで本当に助かりました。ありがとうございました」「いえいえ。白川先生から頼まれると断れません。彼は僕の学生時代の友達ですから」「主人からも聞いています。堂本先生はとても優秀だから、勉強させてもらいなさいと」スラット背が高く、白衣も似合っていて、とても落ち着いた雰囲気のある真面目な先生だ。病院内の評判もとても良い。看護師達からの信頼も厚く、患者さんにも人気がある。松下総合病院で頑張っている蒼真さんと同じだ。「とんでもない。学生時代から彼の方がとても優秀で、僕なんか足元にも及ばないですよ」「……あっ、いえ。短期間ですが、先生を見ていて立派な方だとわかります」「ありがとうございます。あなたにそう言ってもらえると嬉しいです」「よかったら、1度、食事でもいかがですか?」「本当ですか?主人も喜びます」「……あ、いや。できれば、藍花さんと2人で話がしたいんですけど……。いろいろと……」えっ、2人きりで?……と、心の声が口から出そうになった。堂本先生の突然の誘いに驚き、なんと答えればいいのかわからなかった。「……ダメかな?」「す、すみません。2人きりはちょっと……。ナースステーションの誰かを誘ってみんなで行きませんか?」そう言った途端、堂本先生の顔つきが険しくなった。「みんなでワイワイするのは好きじゃないんだ。落ち着いたところで、白川先生の学生時代の話とか……できたらいいんだけど……」「主人の学生時代の話ですか?」そう言われると、とても興味がある。それでも蒼真さんに内緒で行くことはできない。「ああ、そうだよ。学生時代の白川先生のことを君に教えてあげたくて。聞きたくないの?」「き、聞きたくないことはないです。でも……」「とても興味が湧く話だと思うけどね」
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 3【afterstory】蒼太の幸せ僕はその結果に心からホッとしながらも、正直、自分を情けなく思った。自分にとって何よりも大切な人がこんなになるまで頑張っていたのに……無理していることに気づいてあげることができなかった。結果、桜子に不安を与えてしまい、痛い思いをさせてしまった。医師として、そして、彼氏として本当に申し訳ないことをしたと心底反省した。医師だから、体も心も強いわけではない。もがきながら、苦しみながら、逃げ出したい気持ちもある中で、みんな必死に患者さんのために頑張っている。僕も今回の事を教訓にして、桜子の体調も気にしながら、お互い励ましあって、支え合って生きていきたいと思った。もう二度と桜子を不安にさせないと、心に誓った。「ごめんね。本当に心配かけて。何だかみんなに心配をかけてしまって……恥ずかしい。これからは、一生懸命、妊婦さんや婦人科の病気を抱えている人のために頑張っていくね。あ、でも、自分の体にも気をつけていきます」「……うん。そうだね。僕もたくさんの人の命を守りたい。その気持ちを永遠に持ち続けて、そして、桜子のこと、必ず……幸せにしたい」「蒼太さん……?」「本当はもっとロマンチックな形で言いたかったけど、今どうしても君に伝えたいから」「えっ?」「桜子。僕たち結婚して、夫婦にならないか?」「……蒼太……さん?」「お互いに支え合って、いつまでもずっと一緒にいよう。絶対幸せにするから、僕についてきてほしい」「……嬉しい。蒼太さん、私、とっても嬉しいよ」「ほんと?」「うん、私を選んでくれて本当に本当にありがとう」「こちらこそ……。うわっ、すごくドキドキした」あまりの緊張に思わず心臓を抑えた。「私もドキドキしたよ。ありがとう、ほんとに嬉しい」「うん、僕も嬉しい。良かった……」病院の片隅、僕たちは永遠の愛を誓った。泣きながら笑うなんて変だけど……でも、こんなに幸せでいられることに感謝しかなかった。***それからしばらくして、両親と僕たちは川の近くにあるキャンプ場にやってきた。流れる水がとても綺麗で、心地よい風が吹いている。最高のキャンプ日和だ。早速、近くにテントを張ってバーベキューの準備をする。父も母も、桜子の元気な姿を見て、とても嬉しそうだった。「何だか蒼太の子供の頃を思い出すわね。川辺で遊んでいる姿がとても可愛かったわよね。ほ
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 2【afterstory】蒼太の幸せ数日して、桜子が胃カメラを受ける日がやってきた。一旦腹痛も治まり、翌日には退院して、仕事にも戻っていた。僕の両親と桜子、4人でその話をしたら、父も母もとても心配していた。父は外科医、母は看護師、2人とも熱い志を持って今も仕事をしている。2人とも可愛い桜子に対して何かしてあげたいとの思いを語ってくれた。「お父さん、お母さん。私のことをそんなに心配してくださって、本当にありがとうございます。産婦人科医として働いている自分が病気になるなんて……すごく情けないです」桜子は沈痛な面持ちで頭を下げた。「何を言ってるの。人間は病気になるものよ。でも病院に行って治療を受ければ大丈夫。病院と先生を信じてね。きっと良くなるわ。情けないなんて言っちゃだめよ」母が丁寧に諭すように言った。看護師としての母も、普段の母も、とても穏やかで優しい人だ。「お母さん……。励ましていただいてとっても心強いです」「いえいえ、私は昔、外科医である主人によく怒られていたのよ。笑顔で患者さんに接して、決して不安にさせてはいけないって」「別に怒っていたわけじゃないよ」父が照れながら言う。僕にはわかるけどね、父は母のことが大好きで、でも、うまく気持ちを伝えられずに、そういう態度で接してしまっていたんだって――「とにかく患者さんに優しく不安を与えずに治療を続ける主人を見て、とても感動したの。患者さんは先生に頼るしかない。わからないから不安になる、だから、先生に優しくされたら心から安心するのよね。主人と関わる患者さんは皆そうだったわ」「……そのくらいでいいから」「お父さん、照れすぎだよ。お母さんはそんなお父さんのことをいつだって尊敬していた。僕もその姿を見ていたから、お医者さんになりたいって子供の時から決めてたよ。無事に父さんと同じ外科医になれて本当に良かったと思ってる」「そうよね。だってそのおかげで蒼太は、桜子さんと出会うことができたんだもの」「お母さんがお父さんと出会ったように……ですね」桜子が少し目を潤ませて、そう言った。「そうね。私も主人と出会えて本当に幸せよ。可愛い桜子さん、本当に蒼太と出会ってくれてありがとうね。病気の事はきっと大丈夫だから。信じましょう。元気になったら、みんなでバーベキューでも行きましょう」「うわぁ、楽しみです。バーベキューなんて小学生の時以来で
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 2 3人からのプレゼント「結菜ちゃん、あのさ……ちょっと話があるんだけど」「えっ?」「俺達3人でいろいろ考えたんだ」「う、うん」いったい何を言われるのだろう。祥太君の言葉にドキドキする。「川崎さんのことがあって、健太さんが出ていって、智華ちゃんもいなくなって。結菜ちゃん、すごく参ってると思うんだ。本当にいろんなことがあり過ぎて……」「……確かにそうだね。短い間にいろいろあり過ぎたよね」祥太君が言ったことだけではなく、目の前にいる3人からの告白も、私にとってはあまりにも大きな出来事だった。冷静な態度をとってはいるけれど、内心ドキドキで、テレが顔に出てしまうときもある。「結姉、いっぱい悩んだよな」「……うん。でもみんながいてくれたから乗り越えられたんだよ。同居人として、みんなが来てくれたから、私は川崎君とのことも、旦那のことも乗り越えられた。それは、本当に感謝してる。ありがとうね」「それはお互いさま。みんな結菜ちゃんに助けられてるから」「そうです。本当に助けられてます」「みんな……。ありがとう。でも、智華ちゃんには申し訳ないことをしてしまった……」せっかく同居人として一緒に暮らしていたのに。「彼女のことは結菜ちゃんには関係ない。健太さんと智華ちゃんの問題だから。結菜ちゃんは何も悪くないんだから気にすることはないよ」「祥太君の言う通りです。結菜さんは悪くありません。それに、智華さんも、健太さんと深く関わらずに済んで良かったです」「……うん、そうだね。あの人と関わった女性は、きっとみんな苦しむことになるから……」「あ、ごめんなさい。健太さんのこと、あんまり悪く言わない方がいいですよね……すみません」「文都君、気を使わなくて大丈夫よ。かつては旦那だった人だけど、やっぱり……傷つけられたことに間違いはないから。智華ちゃんは、本当にあの人と深く関わらずにいられて良かったんだよ。あんなに素敵な智華ちゃんなら、何百倍も素敵な男性が見つかるって信じてる。あの人にはもったいないくらいの美人さんだから」「そうですね。同じ同居人としては、みんな幸せになってもらいたいと思います」「俺もそう思う。そして、もちろん、結菜ちゃんにもね」「そうだよ。1番幸せになってほしいのは結姉だから」「そんな……」「それでね。俺達3人から結菜ちゃんに提案があるんだ」「提案?」祥太君がうな
Last Updated: 2025-08-02
Chapter: 1 3人からのプレゼント10月にもなると、朝晩がかなり冷え込む。秋も深まり、紅葉が美しいこの季節。夜も更けて、お義母さんとひなこちゃんは先に休んだようだった。暖かめのパジャマにカーディガンを羽織り、私はホットココアを入れた。旦那と別れてしばらくしても、私はまだ自分の置かれている状況に慣れないでいた。今、私はシングルなんだ――夫婦という肩書きは……もう、無い。あの人と、そんなに長く連れ添ったわけではないけれど、一応夫婦となって一緒に暮らしていたのに、一瞬にして紙切れ1枚でバラバラになるなんて……何だか呆気ない。まるで何も無かったかのように、新しい生活が始まっていた。そんな毎日の中でふと思う。あの7年間は無駄だったのだろうかと――でもきっと、7年間という時間の中で、私はたくさんのことを学んで、そして、少しは強くなれた。だからこそ、これからは毎日を真剣に生きていきたい。そう思えるようになれたことが私の成長だ。正直まだ手探りな日々だけど、今度はちゃんと真っ直ぐに進みたい、そう心に誓った。「さあ、ココア、どうぞ」「結姉のココアは美味しいんだよな。ありがとう、いただきます」「誰がいれても同じだよ。お湯を注ぐだけなんだから」「いや、颯君の言う通りです。結菜さんのココアを飲むと頭が働くような気がします」「まさか、気のせいだよ。文都君はものすごく集中力があるから」「いえ、結菜さんのココアのおかげです」「そう?じゃあ素直に喜ぶことにするわね」思わず苦笑いしながら言った。男子3人がダイニングに集まっているこの光景には、まだまだ慣れない。いいかげん慣れてもいい頃なのに、3人が3人ともに個性があって、まるでここがモデル事務所のような錯覚に陥る。もちろん、彼らの良いところは見た目だけじゃない。私が離婚して落ち込んでいるだろうと、あれからずっと気遣ってくれている。優しい言葉がけはもちろんのこと、いろいろ家事を手伝ってくれたり、庭仕事を一緒にしてくれたり、高いところの掃除は全部してくれて……何かサポートしようと頑張ってくれる3人には、感謝しかない。だけれど、そんな素敵過ぎる彼らに対しての答えは、いつまで経っても出せないまま。まさか、こんなイケメン男子達に告白されたなんて、やはり夢でも見ているのだろうかと不思議な気持ちになる。もし、これが夢だとしたら、とても長過
Last Updated: 2025-08-01
Chapter: 3 旦那と彼女「智華ちゃん。今夜、健太さんが帰ってきたら離婚について話してみるね。だから、少し待ってて。話がまとまったら……また、報告するね」胸が苦しい。わかっていても、離婚することは簡単じゃないんだ。結婚して、不倫して、旦那をとられて……本当に何をやってるんだろ、私は。「ご馳走さま……」私は、食事にはほとんど手をつけることなくその場から立ち去った。みんなの前にいるのがとても苦しかったから。そして、その夜……私は全てを旦那に話した。「智華ちゃん。みんなの前で言ったのか?」「そうだけど?」「はぁ……別にみんなにわざわざ報告しなくても」「その言い方、ずいぶんひどくない?智華ちゃんは、あなたのことが本当に好きで、どうしようもなくてみんなの前で言葉にしちゃったんだよ。あなたにはわからないの?彼女の純粋な気持ちが」旦那は、私の言葉に対して、めんどくさそうに頭を搔いた。「ちょっと若くて美人だから相手にしたら、すぐ彼女気取りだな。本当、重いんだよ、そういうの」「……本気で言ってる?」「は?」「あなたは、若い女の子の気持ちを弄んで、虜にさせておきながらバカにする……それでも人間なの?」「それ以上言うな。お前に説教なんかされたくない」「智華ちゃんは……ここを選んでくれた大切な同居人なのに……あなたは、あなたは……」胸が詰まって苦しい。「男と女の関係に、同居人だからとか関係ないだろ。惹かれ合えばくっつく。まあ、魅力が無いお前にはわからないか?」旦那の最低な言い方に、私は間髪入れずに平手打ちをした。「痛っ!何すんだ!」手も痛くて、息が上がる。「お願いだから私の前から消えて!顔も見たくないから。智華ちゃんにはあなたからキチンと話して。彼女が絶対に傷つかないように、デリカシーを持って話してあげて。いいわね?そして、私達は……完全に終わり。二度とあなたには会いたくない。すぐにここから出ていって!」旦那は黙っていた。こんな私を見るのは初めてだったのかも知れない。私だって、ちゃんと言えるんだから、自分の気持ちくらい。後日、私は旦那から離婚届を受け取った。あらかじめ渡していた用紙にサインして。ジュエリーボックスにしまい込んでいた結婚指輪も、時計も、やっと捨てた。そう、私は、ようやく旦那への全ての思いを断ち切れたんだ。少ししかない良い思い出も……
Last Updated: 2025-07-30
Chapter: 2 旦那と彼女「私、嘘ついてませんよ。健太さんは私を」「だからやめろって」「颯君、いいの。智華ちゃん……あなたが旦那を好きなことは充分わかった。だけどね、あの人を自分だけに繋ぎ止めておくことはとても難しいことだよ。それをあなたはちゃんとわかってる?」一瞬、智華ちゃんはたじろいだ。「……け、健太さんは私だけを愛してくれてます。私にはわかります。健太さんは優しい人だから」「智華ちゃん……」あの人を信じているいたいけな智華ちゃんを見ていたら、昔の自分とつい重ねてしまった。7年前、あの人が私に笑いかけてくれた笑顔。今でもそれだけは忘れられない。『この時計お似合いですよ。あなたにぴったりだ』そう優しく言ってくれたから、私はその時計を買った。何度も捨てようかと迷いながらも、結局捨てられないでいる。ひどい仕打ちをされたとわかっていても、ゼロに近いわずかな望みに賭けていた。情けない、ゼロではなく、マイナスだったのに。さっさと捨ててしまえば良かったのに……智華ちゃんを見て、あの人を全力で好きだった自分を思い出してしまったら、悲しい涙が頬をつたった。でも……私達は、これで本当に終わりだ。分かりきっていることだけれど、あなたは、もう、私を愛してはいないから――「結菜さん、泣かないでください」文都君が切ない表情で私を見た。「……ごめんなさい。今さら泣くことじゃないよね。大丈夫。私は大丈夫よ」「結菜さん……」「結姉、健太さんと……どうしたいの?」「もう、結菜ちゃんが苦しむの、これ以上見ていたくない」「……そうだよね。旦那の気持ちはもうずっと前から私には無い。だったら、いいかげん、離れた方がいいよね。あの人も、それを望んでると思うから」「そ、そんな、健太と離婚するなんて。そんなこと」ずっと黙っていたお義母さんが、たまらず口を挟んだ。「お義母さん、すみません。私達の間には子どももいません。それは、私達には愛が無かったからです。健太さんが智華ちゃんを選んだ以上、私は身を引きます。でも、お義母さんは、良かったらずっとここにいて下さい。あなたは、私の「お母さん」でもありますから」「結菜さん……ごめんなさい。私、ここにいてもいいの?」お義母さんには他に行くあてはないだろう。旦那と私のことで、無理やり追い出すことはしたくない。「もちろんです。私には本当の母
Last Updated: 2025-07-30
Chapter: 1 旦那と彼女文都君の告白から1週間後、川崎君から着信があった。たまたま3人がいた時に電話がかかってきたこともあって、私は恐る恐る電話に出た。「……今、電話いい?」川崎君の声は少し穏やかになっていて、張り詰めていた緊張の糸が切れた。「……あ、うん、大丈夫」心配そうに見つめる3人に、私は「大丈夫」との意味を込めてうなづいた。『……あのさ、俺、九州に転勤になった』「えっ?」『こんなタイミングで異動なんてな。自分でもびっくりした』「そっか、九州は遠いね……」『ああ、遠いよな。知り合いも誰もいないし、正直、最初は悩んだよ』「うん……」『それでさ、結菜に言いたいことがあって』「言いたいこと?」『俺……ほんと、この間はどうかしてた。自分があんな風になると思わなかったし、結菜に怖い思いさせてしまった』「……う、うん」『本当に……悪かった。俺、この機会に人生を本気でやり直したいと思ってるんだ。だから、もう2度と結菜には迷惑かけない。俺のことは……全て忘れてほしい』「えっ……」確かに、あの時の川崎君とは違う。これは、川崎君の本心なの?『結菜は結菜の人生を生きてくれ。俺も、新しい場所で頑張るから』「川崎君……。人生をやり直したいと思う気持ちは、私も同じだよ。川崎君が頑張ってると思ったら、私も……もっと頑張れる。いろいろ、本当にごめんなさい」勝手なことばかり言ってしまったと、心から反省している。川崎君、許して――私の1番苦しい時を救ってくれたのに、感謝できなくて……本当にごめんなさい。『結菜、幸せになれよ。じゃあな』電話はそこで切れた。自然に涙が溢れ、今度こそ川崎君の幸せな未来を祈らずにはいられなかった。祥太君、文都君、颯君も、話の内容を聞いてとても安心してくれた。「ありがとう、みんな。守ってくれてありがとう」「良かったです、本当に良かったです。結菜さんが無事で……」「うん、結姉、ほんと良かった」「結菜ちゃんも、これからまた新しい1歩を歩めるね」「そうだね。みんなに感謝して、私も川崎君みたいに前を向いて歩いていきたい」「うん、結姉のこと応援してる」「僕もです」久しぶりに、清々しい気持ちが湧き上がった。「ありがとう。本当に感謝してる。あっ、もうこんな時間、そろそろ夕食の準備しないと」「手伝うよ」「ありがとう、颯君、助かる」
Last Updated: 2025-07-30
Chapter: 2 家族だなんて思えない「僕は……ずっとずっと勉強ばっかりで、息抜きも上手くできなくて。いつだって気が張って、リラックスできないまま毎日疲れきっていました。周りの人はみんな青春を楽しんでて、少しうらやましく思えたりもしました。でも、医者になりたいって選んだのは自分です。その気持ちに負けてしまうのも……嫌でした。僕は、誰にも相談できずに、ずっと……葛藤してたんです」「文都君……。つらかったね」「……でも、もし、そんな状況から抜け出すことができたら……って思って……」「うん」「いろいろ考えて、まずは住む場所を変えてみようと思いました。だからといって、家事をする時間は無いですし、一人暮らしは絶対に無理だったので、ネットで良い方法がないか探しました」「そうだったんだ……」「はい。そしたら、ここが見つかって。不思議ですけど、絶対にここが良いって直感で思いました。その直感は大正解でしたよ。おかげで結菜さんに出会えたんですから。それからは毎日結菜さんに励ましてもらったり、美味しい食事を作ってもらったりして、それがすごく嬉しかったんです」「当たり前のことだよ、そんなことは。みんなが喜んでくれることが、私こそ嬉しかったんだよ。本当に、文都君がここを選んでくれて良かった」「全然当たり前じゃないですよ。励ましたり、美味しい食事が作れたりって……本当に当たり前じゃないと思います。結菜さんのそういう姿が、いつだって疲れきっていた僕の心に元気を与えてくれました」文都君の笑顔を見たら、嘘のない言葉をもらえた気がして嬉しくなった。「文都君はとっても頑張ってる。想像もできない世界だけど、誰かを助けたいと思ってお医者さんを目指してるその志を、私はいつだって尊敬してるよ」「……ありがとうございます。結菜さんの元気で温かい言葉で、僕は前向きになれました。結菜さんが僕をリラックスさせてくれて、変えてくれたんです。いつしか、あんなに悩んでいた勉強も嫌じゃなくなりました。逆に頑張りたいって思えるようになったんです」「そんな……。でもね、私は不倫をするような最低な女だよ。そんな私のことを好きだなんて、やっぱり……」「最低なんかじゃないです。僕も、健太さんが悪いと思います。結菜さんを泣かすようなことしたんですから。男として最低です。ただ……結菜さんがあの人に出会う前に、僕は結菜さんに出会いたかったです」「……
Last Updated: 2025-07-29