Chapter: 4【another story】藍花の幸せ翌日、堂本先生が内科の診察前に、私に会いに来てくれた。「済まなかったね、昨日は」「まさか蒼真さんに電話されるとは……びっくりしました」「何だかね……無性に電話しないとって体が勝手に動いてた。自分でもよくわからないけど……そうしなきゃいけないって」「先生は優しい人です」「買いかぶりすぎだよ」「いいえ。じゃなかったら、電話なんかしないですよ。でも……本当にありがとうございました」「え?」「蒼真さん、喜んでいましたよ。堂本先生が電話をくれたこと。そして……堂本先生に申し訳なかったって言っていました」「……そっか……。久しぶりに昨日は学生時代の頃のことを思い出しながら眠った」「そうなんですか?」「ああ。不思議と楽しかった思い出ばかりが浮かんできて……なんだか懐かしかった。いつまでも彼女のことを引きずっているなんて、未練がましくて情けないってことがわかったよ。ほんと、バカだった」先生の顔は、優しくて安堵感に溢れていた。「堂本先生……」「これからは、僕も新しい人生を楽しみたいって思ってる」「よかったです。めいっぱい楽しくて幸せな人生を送ってくださいね。私も蒼真さんも、堂本先生に素敵な未来が訪れるって信じてます」「ありがとう、嬉しいよ」「私も先生に負けないよう、楽しい人生を送れるようにしたいと思います」蒼真さんと蒼太と3人で……「そうだ。新しい病院が決まったんだ。僕の実家がある近くに友達のクリニックがあるんだけど、ずっと前から声をかけてもらっててね。そこで一緒に頑張っていこうと思う」「そうなんですね。寂しいですけど……頑張ってくださいね」「ああ。彼女とならうまくやっていけそうだし」「彼女?女医さんですか?」「僕の幼なじみ。幼稚園の頃からのくされ縁でね。本当に優秀な内科医なんだ。……なんだかね、昔から僕のことが好きみたい」「えっ!」「もちろん、僕にはまだ彼女に対して恋愛感情は無いけどね。まぁ、でも、この先はどうなのかわからないしね」幼なじみの間柄、何だか勝手に恋の予感を巡らせた。堂本先生がとても嬉しそうだからかな。いろんなことが吹っ切れたような爽やかな表情に、私は心からホッとした。「いつかまた……蒼真さんに会いに来てください。いつでも堂本先生のこと大歓迎ですよ。あの人も楽しみにしていると思います」「……そうだね、またいつか
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 3【another story】藍花の幸せ「藍花……」「蒼真さん……?」「もっともっと俺のことを好きになって……」「……あっ……」蒼真さんの手のひらが私の頬に触れる。そこから直に伝わってくる愛情。蒼真さんへのどうしようもない愛しさが、私の体を巡る。「でも、どれだけ俺を好きになっても、俺が君を好きな気持ちには勝てないけどね」キュンと胸を貫く甘い言葉。自然に唇を塞がれて、蕩けそうになる。こんなことが私の日常にあることが今でもまだ不思議で仕方ない。上から下まで、とてつもなく美しい蒼真さん。年齢を少し重ねた私達。それでも、この妖艶な魅力を醸し出す蒼真さんに、私はいつだって心を奪われる。「堂本先生の話を聞いて、改めて思った。君の心は、誰にも奪わせない。どんな宝石をも盗み出す怪盗にだって……この体と心は盗ませない」「蒼真さん……」「何があっても俺のそばから離れるな」「はい。絶対に離れません……」幸せだった。いくつになっても蒼真さんに抱かれる幸せは、私の最上の喜びだ。「藍花のこと気持ちよくしてやるから」その言葉をきっかけに、蒼真さんの愛撫が始まった。嬉しい……本当に……嬉しい。「ああんっ……はぁ……っ」「ここ、気持ちいいんだろ?」「はあっ、ダ、ダメっ」「ダメじゃないだろ……こんなに濡らしてるくせに」「で、でも……っ」「もっとしてほしい……って、言って」耳元にかかる熱い吐息。蒼真さんの唇がそっと耳に触れると、体が勝手に身震いした。「ああっ、も、もっと……して……」体中がしびれ、我慢できないほどの快感に包まれる。言葉で表すことのできない刺激的な快楽が押し寄せる。「藍花……可愛いよ」「蒼真さん……はぁっ、い、いいっ、気持ち……いい」蒼真さんの舌が私のいやらしい部分に這う。どうしようもなく濡れている場所をさらに愛撫され、私はもうどうなってもいいと思った。「イキたい?」「は、はい……もう……我慢できないっ」蒼真さんは、人差し指で私の秘部の奥を何度も突いた。こんなことをされたら……「ああっ!ダ、ダメぇ!もう……イッちゃう……」案の定、私は簡単にあっけなく絶頂を迎えた。蒼真さんに私の敏感な部分を全て知られ、逃げることなんてできない。もちろん……逃げたいなんて思わないけれど。「蒼真さん……」「ん?」「蒼真さんは……本当に私の体で満足してます
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 2【another story】藍花の幸せ「……残念だな。確かに……嘘だよ」「……う、嘘?」「彼は、僕の彼女の告白を見事に断った。僕のことを裏切った彼女にも腹が立つけど、1番憎いのは白川先生だよ。彼は何もかも持っているのに、誰1人女性を相手にしようとしなかった。そういうところがめちゃくちゃ嫌いだったよ。余裕があるっていうか……」嘘だったと聞いて、信じていたとは言え、心からホッとした自分がいた。「蒼真さんは誠実な人なのに、勝手に悪者にしないでください。そんな理由……ひどいです」「……君はほんとに彼のことが好きなんだね。よくわかったよ。それに、白川先生も……嘘偽りなく藍花さんのことが好きなんだろうね」「……」そうだといいなと、一瞬考えてしまった。蒼真さんに嘘偽りなく愛されたい――私は心からそう思った。「どんな女も寄せつけない男が選んだんだ、君は相当良い女なんだろう」「そ、それは……。で、でも、これ以上、蒼真さんに何か言ったり変なことしたら私、許しませんよ」「強いな、君は。別に、今まで彼に何かをしようと思った事はないよ。もう忘れていたし、僕は僕の道を進んでいた。なのに、白川先生が突然連絡してきて……。あれだけ女性を相手にしなかったくせに、君みたいなとても素敵な女性を奥さんにしていたから……。結局、ああいう男が、君みたいないい女を手に入れるんだと思うと、なんだか無性に腹が立ってきて……。あの時彼女を奪われた僕の気持ちを白川先生にも味合わせてやろうと思ってね」「そんな……」「僕の密かな企みは結局失敗に終わったけどね。残念だけど、僕じゃ、彼には到底かなわないってことだな」堂本先生は苦笑いした。「僕はね、あれから誰かを好きになることができなくなってしまったんだ」「えっ?そんな……」「本当のことだよ。彼女ができても、またフラれるんじゃないか、誰かに盗られるんじゃないかって思うと怖くてね。情けないけど、誰かを好きになることができなくなってしまって」「堂本先生……」何だかその告白に胸が痛くなった。トラウマになってしまった先生の気持ちはわからなくはない。でも、それは蒼真さんのせいではない。彼氏がいながら、他の男性に告白した女性が悪いと思う。「今の病院すごくいいでしょ?働きやすくて、みんないい人ばかりだ。正直、そんな中でこんな歪んだ心を持った自分が、これから先、うまくやっていける自信は
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 1【another story】藍花の幸せ蒼太が小学校の高学年になり、私は蒼真さんの勧めで、近くの病院で看護師として働きだした。蒼真さんの知り合いの内科の先生がいる地元では有名な総合病院。松下総合病院と比べると、かなり規模は小さいがそれなりに立派な病院だった。いろいろ教えてくれる中川師長のような頼りになる先輩がいてくれて、とてもありがたかった。私は、外科の病棟に勤務していた。「藍花さん。少しは慣れましたか?」「あっ、堂本先生。はい……と言いたいところですが、まだまだです。堂本先生がこちらの病院を紹介していただいたおかげで本当に助かりました。ありがとうございました」「いえいえ。白川先生から頼まれると断れません。彼は僕の学生時代の友達ですから」「主人からも聞いています。堂本先生はとても優秀だから、勉強させてもらいなさいと」スラット背が高く、白衣も似合っていて、とても落ち着いた雰囲気のある真面目な先生だ。病院内の評判もとても良い。看護師達からの信頼も厚く、患者さんにも人気がある。松下総合病院で頑張っている蒼真さんと同じだ。「とんでもない。学生時代から彼の方がとても優秀で、僕なんか足元にも及ばないですよ」「……あっ、いえ。短期間ですが、先生を見ていて立派な方だとわかります」「ありがとうございます。あなたにそう言ってもらえると嬉しいです」「よかったら、1度、食事でもいかがですか?」「本当ですか?主人も喜びます」「……あ、いや。できれば、藍花さんと2人で話がしたいんですけど……。いろいろと……」えっ、2人きりで?……と、心の声が口から出そうになった。堂本先生の突然の誘いに驚き、なんと答えればいいのかわからなかった。「……ダメかな?」「す、すみません。2人きりはちょっと……。ナースステーションの誰かを誘ってみんなで行きませんか?」そう言った途端、堂本先生の顔つきが険しくなった。「みんなでワイワイするのは好きじゃないんだ。落ち着いたところで、白川先生の学生時代の話とか……できたらいいんだけど……」「主人の学生時代の話ですか?」そう言われると、とても興味がある。それでも蒼真さんに内緒で行くことはできない。「ああ、そうだよ。学生時代の白川先生のことを君に教えてあげたくて。聞きたくないの?」「き、聞きたくないことはないです。でも……」「とても興味が湧く話だと思うけどね」
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 3【afterstory】蒼太の幸せ僕はその結果に心からホッとしながらも、正直、自分を情けなく思った。自分にとって何よりも大切な人がこんなになるまで頑張っていたのに……無理していることに気づいてあげることができなかった。結果、桜子に不安を与えてしまい、痛い思いをさせてしまった。医師として、そして、彼氏として本当に申し訳ないことをしたと心底反省した。医師だから、体も心も強いわけではない。もがきながら、苦しみながら、逃げ出したい気持ちもある中で、みんな必死に患者さんのために頑張っている。僕も今回の事を教訓にして、桜子の体調も気にしながら、お互い励ましあって、支え合って生きていきたいと思った。もう二度と桜子を不安にさせないと、心に誓った。「ごめんね。本当に心配かけて。何だかみんなに心配をかけてしまって……恥ずかしい。これからは、一生懸命、妊婦さんや婦人科の病気を抱えている人のために頑張っていくね。あ、でも、自分の体にも気をつけていきます」「……うん。そうだね。僕もたくさんの人の命を守りたい。その気持ちを永遠に持ち続けて、そして、桜子のこと、必ず……幸せにしたい」「蒼太さん……?」「本当はもっとロマンチックな形で言いたかったけど、今どうしても君に伝えたいから」「えっ?」「桜子。僕たち結婚して、夫婦にならないか?」「……蒼太……さん?」「お互いに支え合って、いつまでもずっと一緒にいよう。絶対幸せにするから、僕についてきてほしい」「……嬉しい。蒼太さん、私、とっても嬉しいよ」「ほんと?」「うん、私を選んでくれて本当に本当にありがとう」「こちらこそ……。うわっ、すごくドキドキした」あまりの緊張に思わず心臓を抑えた。「私もドキドキしたよ。ありがとう、ほんとに嬉しい」「うん、僕も嬉しい。良かった……」病院の片隅、僕たちは永遠の愛を誓った。泣きながら笑うなんて変だけど……でも、こんなに幸せでいられることに感謝しかなかった。***それからしばらくして、両親と僕たちは川の近くにあるキャンプ場にやってきた。流れる水がとても綺麗で、心地よい風が吹いている。最高のキャンプ日和だ。早速、近くにテントを張ってバーベキューの準備をする。父も母も、桜子の元気な姿を見て、とても嬉しそうだった。「何だか蒼太の子供の頃を思い出すわね。川辺で遊んでいる姿がとても可愛かったわよね。ほ
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 2【afterstory】蒼太の幸せ数日して、桜子が胃カメラを受ける日がやってきた。一旦腹痛も治まり、翌日には退院して、仕事にも戻っていた。僕の両親と桜子、4人でその話をしたら、父も母もとても心配していた。父は外科医、母は看護師、2人とも熱い志を持って今も仕事をしている。2人とも可愛い桜子に対して何かしてあげたいとの思いを語ってくれた。「お父さん、お母さん。私のことをそんなに心配してくださって、本当にありがとうございます。産婦人科医として働いている自分が病気になるなんて……すごく情けないです」桜子は沈痛な面持ちで頭を下げた。「何を言ってるの。人間は病気になるものよ。でも病院に行って治療を受ければ大丈夫。病院と先生を信じてね。きっと良くなるわ。情けないなんて言っちゃだめよ」母が丁寧に諭すように言った。看護師としての母も、普段の母も、とても穏やかで優しい人だ。「お母さん……。励ましていただいてとっても心強いです」「いえいえ、私は昔、外科医である主人によく怒られていたのよ。笑顔で患者さんに接して、決して不安にさせてはいけないって」「別に怒っていたわけじゃないよ」父が照れながら言う。僕にはわかるけどね、父は母のことが大好きで、でも、うまく気持ちを伝えられずに、そういう態度で接してしまっていたんだって――「とにかく患者さんに優しく不安を与えずに治療を続ける主人を見て、とても感動したの。患者さんは先生に頼るしかない。わからないから不安になる、だから、先生に優しくされたら心から安心するのよね。主人と関わる患者さんは皆そうだったわ」「……そのくらいでいいから」「お父さん、照れすぎだよ。お母さんはそんなお父さんのことをいつだって尊敬していた。僕もその姿を見ていたから、お医者さんになりたいって子供の時から決めてたよ。無事に父さんと同じ外科医になれて本当に良かったと思ってる」「そうよね。だってそのおかげで蒼太は、桜子さんと出会うことができたんだもの」「お母さんがお父さんと出会ったように……ですね」桜子が少し目を潤ませて、そう言った。「そうね。私も主人と出会えて本当に幸せよ。可愛い桜子さん、本当に蒼太と出会ってくれてありがとうね。病気の事はきっと大丈夫だから。信じましょう。元気になったら、みんなでバーベキューでも行きましょう」「うわぁ、楽しみです。バーベキューなんて小学生の時以来で
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