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なんでもかんでも明け透けに、喋ればいいと思うなよ!《1》

Author: 砂原雑音
last update Last Updated: 2025-05-07 08:38:15

純白にレースをあしらったそれは、ウェディングドレスを思い起こさせる。

開いて、新婦の名前が自分の友人ではなかったことに安堵した。

金の文字で「Wedding」と書かれたそれを、くしゃりと握りつぶすのはさすがにバツが悪く大人げない気がしてしなかったけれど。

僕はそれを、ゴミ箱に捨てた。

どうせ返事をしなくても、家族ぐるみの付き合いで両親同士仲が良い。

僕の出席は既に決まり事のように話されているに違いない。

あの男もだから仕方なく、招待状を出したに過ぎないだろうから。

―――――――――――――

――――――

この頃のbarプレジスは、どうも僕にとって居心地が悪い。

元より多い女性客がこの頃増えたから……というのは正しくは理由にはならない。

僕は女性客の方がやりやすい。

ただ増えた女性客が、陽介さんに思いを寄せていたアカリちゃんというところが、問題なのだ。

友人と一緒だったりすることも多いアカリちゃんだが、今日は一人だった。

そして、少し前から来店していたマリちゃんをカウンターに見つけ、今は二人でカクテルを楽しんでいる。

仲良くなるのは、いい。

まったく構わないが……この二人のセットが、近頃の僕の居場所を穢していた。

「陽介くん、今日はまだ来ないんですか?」

「どうかな、もうすぐ来るかもしれないけど」

嫌な方へ話が進みそうだと思ったけれど、尋ねられて答えないわけにはいかない。

曖昧に答えると、アカリちゃんはウキウキとした表情で頬杖をついた。

「もう、陽介くんのキラッキラした慎さんへの目が、見ててほんとに可笑しいんですよね」

「冗談じゃないわ。それならそれで、相手はもっとカッコイイ大人の男でないと……」

アカリちゃんの言葉にマリちゃんが不満の声を上げた。

ある日ふとした会話で意気投合した二人は、それ以降店で居合わせると躊躇いなく隣に座る。

そして話題はいつも、僕と陽介さんの話だ。

この二人の間ですっかり僕と陽介さんは、ゲイカップルとして認知されてしまったのだ。

最早反論する気力も沸かず、乾いた笑いを漏らした僕に、アカリちゃんが言った。

「大丈夫です! 私、二人の邪魔をする気はないですから、すっぱり諦めます!」

「いや……はは」

笑うしかない。

アカリちゃんは、好きな男がゲイだったという本来ならドン引きするような出来事を、随分とあっさり受け入れていた。

それが本音なのかど
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