第157話

野菜を育てて、鶏や魚も飼って――これでもう、家族みんなの食べ物には困らない！

「おや、お引っ越し？」春美が庭の門に立ち、腕を組んで、にやにやとした笑みを浮かべていた。

慎吾は彼女を相手にする気もなく、せっせと土を掘り返していた。

屋内にいた敏子はその声を耳にすると、ちょうど外に出ようとしていた足をスッと引っ込めた。

見なければ、気にならない。

春美は鼻を鳴らして、つぶやいた。「何を得意げになってるのかしら。どうせ私に追い出されたようなもんじゃない」

「大友さん、お買い物？」

市場からの帰り道、春美は普段から仲の良い女友達と顔を合わせた。

「ええ、卵をちょっと買ったの。この時間に行けば、朝市のときより半額になるんだから！」春美は誇らしげに眉を上げた。

自慢じゃないけど、この教職員住宅エリアで、彼女ほど家計をうまくやりくりできる人間はいない――と、自負している。

「じゃあ、今度は私もその時間に行ってみるわ。そうそう、聞いた？あなたの隣の雨宮先生、引っ越すんですって」

春美はうなずいた。「知ってるわよ。でも、どこの団地を借りたのかしらね。ここほど便利な場所、他にある？」

ふん！いい年して、意地張って。

我慢できないなら、さっさと出ていけばいいのよ。おかげで、二ヶ月おきに棚に登ってあの鬱陶しい花やツルを切る手間もなくなるわ。

女友達が声を潜めた。「ねえ、あなたたちが前にちょっと揉めたじゃない？それで引っ越すことにしたんじゃないの？」

春美は得意げに顎を上げた。「さあ、それは知らないわね。でももしそれが理由なら、ただの器の小さい負けず嫌いってことよ！」

「やっぱり、あんたってすごいわ。これからあの庭も、全部使って野菜育てればいいのに」

「そう言えば、実は私もそれ考えてたの！」春美の目がきらりと光る。

そこへ別のご近所さんが足早に駆け寄ってきた。「何話してるの？早く飴もらいに行きなよ！もうすぐなくなっちゃうよ！」

「何の飴？」

「雨宮先生のとこで配ってる飴だよ。あんたたちご近所なんだから、もうもらったんじゃない？私は急がないと、なくなっちゃう！」

「ちょっと待って！あの家でなんで飴配ってるの？結婚式でもないのに……」

「えっ、知らなかったの？！雨宮先生、引っ越すんだって！しかも大きな別荘よ！ご近所さんに引っ越し祝いの飴を配ってるの」