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第269話
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元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第344話
「母さん、大場健也（おおば けんや）があのクソ野郎の会社を突き止めたよ！」大場はチンピラで、まともな仕事には就いていなかったが、裏の手口にはそれなりに詳しかった。峯人もダメ元で頼んだだけだったが、まさか本当に調べ上げるとは思っていなかった。「最高じゃない！ちょうど相手を探す場所がなくて困ってたのよ。行くわよ、峯人、あいつに会いに行くの！」理子の目は興奮で輝き、今にも飛び出しそうな勢いだった。ここしばらく、入江家の門前で張り込んではいたものの、美琴を不快にさせて外に出させないこと以外、何の成果もなかった。だが、今は違う――30分後。「これが入江海斗の会社？こんな高いビル、どれだけ金持ちなんだよ……」峯人は目の前の高層ビルを見上げ、唾を飲み込み、抑えきれない欲望を目に浮かべた。理子も舌打ちしながら感嘆の声を漏らした。「いやまあ、あの娘も今回は大物を釣り上げたわね。見た感じ、普通の金持ちじゃないわね！」ここでひと儲けできたら、親子二人の余生は安泰だ。そう思うと、二人は顔を見合わせ、大股で中へと歩き出した。しかし、海斗の会社は都心の一等地にあり、ハイレベルなセキュリティシステムが整っていて、そう簡単に入れる場所ではなかった。理子は清掃員が掃除しているのを見つけると、こっそりと資材室に忍び込み、清掃員の制服を二着手に入れ、変装してビルの中に潜り込んだ。中に入ると、二人はビルの内部をきょろきょろと見回し、まるで都会慣れしていない田舎者のように、出入りする人々の中にまったく馴染めていなかった。にもかかわらず、本人たちはそんなことに気づきもせず、あちこち目を泳がせ、ようやくエレベーターが来たところで人波に紛れて乗り込んだ。「峯人、あなたの友達は、あの人が何階にいるか言ってた？」理子は多くの階数表示を見て、少し混乱していた。峯人は首を振った。「言ってなかったけど、考えたら最上階に決まってるだろ」その言葉が終わると同時に、エレベーターが「ディン――」と音を立てて開いた。まさに最上階だった。二人は中から出て、理子が言った。「こんなに広くて、どっちに行けばいいの？」峯人も分からなかった。このバカみたいに広い場所には案内板もない。「たぶん……まっすぐかな？」まあ、運試しだ！二人はそのまま少し歩
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第343話
考えれば考えるほど腹が立ち、腹が立つほど外に出たくなる。「広瀬（ひろせ）さん――」美琴は運転手を呼んだ。「準備して、二十分後に出かけるわ」「かしこまりました、奥様」美琴は二階に上がって着替え、しっかりと化粧もした。運転手はすでに待機しており、彼女は腰をかがめて車に乗り込んだ。「行きましょう」案の定、車がまだ門を出る前から、遠くにあの親子の姿が見えた。鉄門の両脇にしゃがみ込み、左右に分かれて、まるで二体の悪鬼のようだった。「奥様、あの二人がずっと門の前にいますが、もし車を止めようとしたらどうしましょう？」運転手がそう言ったのは、数日前に車をメンテナンスに出した時、彼らに車を止められた経験があったからだ。その時は、車の中に誰も乗っていないのを確認して、ようやく通してくれたのだった。運転手もかなりうんざりしていた。あの二人は、どう見ても恥知らずで命知らずのチンピラだ。彼はただ、この仕事を無事に続けて、毎月きちんと給料をもらいたいだけだった。命まで危険にさらすつもりはなかった。美琴はそれを聞いて、冷たく笑った。「気にしないで、そのまま出てちょうだい。止まらなくていいわ。何かあっても、私が責任を取るから」運転手は怖かったが、美琴の命令に逆らうことはできなかった。車が門を出ようとした時、あの二人はまるで糞の匂いを嗅ぎつけた犬のように、すぐさま前に飛び出してきた。運転手は本能的にブレーキを踏みたくなったが、後部座席の美琴が鋭く睨んでいる。その視線に圧されて、止まるわけにはいかず、彼は歯を食いしばってアクセルを踏み込んだ。理子と峯人も、車を止めるのはこれが初めてではなかった。これまでは運転手が素直に止まってくれていた。だが今回は――なぜだ？理子は顔色を変え、慌てて息子を引っ張って脇へと避けた。次の瞬間、車は彼らがさっきまで立っていた場所を猛スピードで突っ切った。もし避けていなかったら――「どうやら、私たちを轢き殺すつもりだったのよ！」「考えるまでもないわ。あのくそババアが車に乗ってたに決まってる！」「何が名門家族よ！みんな頭のおかしい狂人ばっかり！本当に轢かれたら、あんたたちが賠償しきれるとでも思ってるの？」「今日出かけられたからって、明日も明後日も出かけられると思うな！言っとくけど、ちゃんと解
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第342話
凛はその記憶をすっかり忘れていた。覚えているのは、慎吾に言われて陽一を見送るために外に出たことだけ……それで？それっきりだった。次に目を覚ましたのは翌朝だった。ベッドの上で気持ちよく伸びをしながら、何の違和感も感じなかった。敏子がドアを開けて入ってきて、ぬるま湯を差し出した。「起きた？」凛は身を起こし、それを受け取って一口飲んだ。その瞬間、慎吾の声が続いた。「これで懲りたか！酔っぱらって暴れ出して、誰の言うことも聞かず、まるで小悪魔みたいだったぞ」酔っぱらって暴れる？小悪魔？凛は飲みかけの手をぴたりと止めた。いくつかの断片的な記憶が脳裏をかすめたが、何ひとつはっきりとは思い出せなかった。彼女は喉を詰まらせるように唾をのみ込み、おそるおそる尋ねた。「父さん、私、昨日……何したの？」「ふん！何をって？自分で覚えてないのか？」凛は激しく首を横に振った。本当に、何も覚えていなかった。「庄司くんを見送るように言ったのに、お前は庄司くんの髪をぐしゃぐしゃにして……それでも向こうは気にせず、お前を担いで帰ってくれたんだぞ」「もういいわ」敏子が遮った。「それ以上からかわないの。顔が真っ赤な猿みたいになってるじゃない！ほらほら、自分でゆっくり整理させてあげなさい」そう言って、敏子は慎吾を部屋から追い出し、親切にもドアをそっと閉めてくれた。一秒。二秒。三秒目——寝室から、恥ずかしさと悔しさが入り混じった悲鳴が爆発した。「あああああ！」これでもう、顔も丸つぶれだ。慎吾と敏子は顔を見合わせ、思わず吹き出した。「あなたの娘さん、あなたそっくりでお酒のマナーが悪いわね」敏子がからかうように言う。「お前にも似てるよ。弱いくせに飲みたがるところ」と慎吾も笑った。敏子は彼をきっと睨みつけた。「生意気言って？」「いやいや、そんなつもりじゃ」慎吾はすぐに両手を上げて否定した。……一家三人の暮らしは穏やかで楽しく、平和そのものだった。それに比べて、美琴の最近はかなり辛いものだった。理子親子が前回ホテルで騒ぎを起こしてからというもの、誰も彼らを止められないと悟ったのか、まるで味をしめたように、何日も入江家の旧宅の門前に張り込み、まるでチンピラそのもののふるまいを繰り返していた。
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第341話
陽一は黙り込んだ。本当に勘弁してほしい。「どうだい、兄弟？味はどう？」「……美味しいです」陽一はぽつりと答えた。慎吾は目を輝かせ、まるで気の合う友を見つけたかのように声を弾ませた。「気に入ったなら、もっと食べていいんだぞ！それから、このビーフジャーキーも食べてみて。俺の秘伝のタレと一緒にな！」陽一は終始、「美味しい……香ばしい……作り方が独特……こんなの初めて食べました……」などの褒め言葉と繰り返していた。その様子に、慎吾はますます張り切ってしまった。ようやく食事を終え、陽一が腰を上げた時、ようやく重荷が降りたような気がした。……だが、次の瞬間――「凛、おじさんを送ってあげなさい」慎吾が何気なくそう言った。陽一にとって、これは予想外の展開だった。……彼はもう疲れた。「……はい！」凛は立ち上がった。ワインの酔いが回ってきたのか、頭がぼんやりして、反応もわずかに遅れていた。それでも表情はいつもと変わらず、目も依然として澄んでいる。彼女は陽一を玄関まで送り出した。外に出た瞬間、背後のドアが風に煽られて、バタンと音を立てて閉まった。本当はわざわざ送るほどのことでもなかった。どうせ隣同士なのだ。凛は陽一に手を振り、酔いのせいか、あるいはどこかで気が緩んだのか、思わず口にしてしまった。「バイバイ、おじさん」陽一の足が止まり、不意に振り返って彼女を見た。その目は深い闇のようで、底知れぬ渦のようだった。彼は一歩近づき、ひと言ずつゆっくりと呟いた。「今、何て言った……ん？」語尾が上がり、妙な危うさが漂う。その声が凛の耳に届いた瞬間、まるで微かな電流が走ったような、痺れる感覚が湧き上がった。凛はぼんやりと顔を上げ、目が合った瞬間、不意に陽一の瞳に引き込まれた。一秒、二秒……五秒は経っただろうか。ようやく凛は状況を理解した。恥ずかしさからか、本当に酔っていたのか、両頬は一気に赤く染まった。そして、ますます赤みは広がり、耳の付け根まで燃えるように熱くなっていく。彼女の澄んだ黒く輝く瞳は、まるで山の泉で洗われたかのように清らかで純粋だった。唇を噛みしめる仕草に、次第に恥じらいが浮かんでいく。「ご、ごめんなさい……私、どうしてこんな呼び方をしてしまったのか、自分でも分からなくて…
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第340話
ようやく料理が揃い、食卓に並んだ。敏子がワインを開け、凛も少しなら飲むことを許された。その結果は……彼女は二杯も飲んでしまった！慎吾は話に夢中で、敏子は料理に集中しているから、誰も彼女の飲みぶりに気づかなかったが、一人だけ……「雨宮さん、三杯目だよ」その呼び声に驚いた凛は、ワインボトルに伸ばした手を固まらせた。慎吾と敏子はようやく、凛がこんなに飲んでいたことに気づいた。「もうこの子ったら！少しでいいとは言ったけど、次々と飲んでしまって！」敏子は呆れかえった。彼女もワインが好きだが、いつもほどほどにしていた。まさか自分の娘はこんなに……慎吾も不満そうだったが、彼が気になったのは別件なんだ——「庄司くんさすがは研究者だ！細やかなことでも逃せない心遣い！なんと鋭い観察力だ！道理で若くして、これほどの学術的成果をだしたのだ……」そう、慎吾は既に様々なルートで、陽一の物理学における成果を調べ尽くしていた。確認していた間は、感嘆の声が途切れることはなかった。敏子まで『あなたの父親はもう庄司くんにハマったよ』と言うほどだった。凛は以前気づかなかった。なぜなら、陽一の学術的成果の素晴らしさは、アカデミックな世界に触れた者でなければわからないからだ。しかし今、この『ハマった』説に強く共感した——自分が二杯飲んだことに気づいただけで、ここまで褒めちぎるの？凛は強く疑った。陽一は何をしても、父は褒めるでしょう！どれくらい些細なことでも！「庄司くん、凛のことをこんなに気にかけて、細かいことまで気づいてくれるなんて、父親として恥ずかしい……」慎吾はそう言いながら、ワインを一口飲んだ。彼は急にグラスを置いて、真剣に言った。「なんなら俺たちが義兄弟になって、凛に叔父さんと呼んでもらうのはどうだろう？」ぷっ――敏子は危うく飲み込んだワインを噴き出しそうになった。凛は少し戸惑った。「？？？！！！」陽一も絶句した。慎吾は誰も反応しないのを見て、独りで頷いた。「これでいい、考えれば考えるほどいい考えだと思う！ほら、俺と敏子は普段臨市にいるし、凛は一人で帝都にいて、面倒を見てくれる人もいないんだ」「あなたは落ち着いていて、細やかで、能力もあるから、生活上でも学業上でも、彼女の面倒を少しでも見られるだ
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第339話
そう言って、足早に部屋を出た。凛は完全に絶句した。まあ、彼らが楽しければそれでいい……実験室にて——陽一は先週出した二組のデータをチェックしていたが、第二組の第四列にずれがあることに気づき、博文を呼ぼうとしたとき、電話が鳴った。彼はさっと電話に出た——「もしもし」「先生、凛です」陽一の動きが一瞬止まった。スクリーンに注いでいた視線をゆっくりと外し、自然と声も柔らかくなった。「どうしたの？何かあったか？」「この前、父が先生に手料理をごちそうしたいと言ってましたが……もし忙しければ結構ですので、後で断っておきます……」「空いてる」凛は数秒間言葉に詰まった。「……研究室は忙しくないんですか？」「また大丈夫」「じゃ……」「夜、また会おう。叔父さんにも感謝を伝えてくれ。料理を作ってくれるのは大変だろうから」「ど、どういたしまして」電話を切って、凛は少し混乱していた。おかしいわ……昨日真奈美からLINEが来て、進捗に追われてグループ全員が死ぬほど忙しいと愚痴っていたばかりだった。なのに彼は「また大丈夫」って？一方、朝日は陽一が電話を終えるのを見て、わざと近づいて肩をぶつけた。「誰と話してたんだ？凛だろう？声が聞こえた」陽一は淡々と彼を見た。「知ってたのに敢えて聞くのか？」朝日は『ふん』と笑った。「俺はもう3日も徹夜だぞ。真奈美も博文も死にそうな状態だった。なのに庄司大先生だけが涼しい顔で『また大丈夫』だなんて。さすがだな、デートが控えてる男は違うよ」実際、陽一誰よりも長く徹夜していたが、彼の口によると、なんであんなに軽やかに聞こえるんだろう？まさか他のみんなが行った実験、書いた報告書と論文はすべて偽物なのか？陽一は横に移動して彼から離れ、時計を指さした。「僕の記憶が正しければ、昨日最初の実験データを渡してからすでに9時間以上経過していたはずだ。どれくらい再確認した？正解率は基準に達していたか？ずれは修正したか？報告書はいつ出す予定か？」地獄からの質問が次々と。「……すみません。失礼しました。仕事に戻る」彼は苦い顔をして自分の実験台に戻り、コンピュータのまだ処理し切れていないデータの山を見つめた。こんな時になると、朝日は特に凛が懐かしくなる。もし彼女がまだこ
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