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第437話

Penulis: 十一
すみれはもちろん、凛の最後のひと言なんて聞こえていなかった。

すみれは新しいスマホで、自宅のバーカウンターを適当に一枚撮影。焦点は逆さに吊るされたワイングラスに合わせ、背景はすべて美しくぼかされていた。

そして、こんなキャプションを添えた。「退屈な夏、だらけた午後」

投稿ボタンをタップしてアップすると、

スマホをぽいっとソファに放り投げ、立ち上がり、裸足のまま、しなやかな足取りで寝室へと向かった。

まずは昼寝でもしよう。

冷房の効いた室内は心地よく、凛が外に出たくない理由も、今ならよくわかる。

すみれだって――出たくなかった。

……

一方その頃、広輝は室内サーフィンの予定を入れていた。

このインストラクターは腕がよく、普段はなかなか予約が取れない人気ぶり。本当は今日は一日家でダラダラするつもりだったが、せっかく空きが取れたことを思い出し、もったいないと感じて結局出かけることにしたのだった。

予約が取りづらい理由は、たしかにあった。

彼に何度か指導してもらい、技術が急成長し、広輝は自分が恐ろしく強くなったと感じた。

そろそろ休憩しようかと、いったんボードから降り、一人で座ってスマホを何気なく開いたその瞬間――目に飛び込んできたのは、すみれのSNSの最新投稿だった。

「退屈な夏、だらけた午後……」

写真にも目をやる。

一見して、ごく普通の投稿だった。

キャプションには少しおしゃれな雰囲気が漂い、写真も整っている。

大半の人なら、ただこう思うだろう。おしゃれだな、余裕のある生活してるな。

しかし……

広輝は、そんな普通の人間ではなかった。

プレイボーイで、数多の女性を見てきた広輝の目に、それはまったく「普通の投稿」には映らなかった。

退屈な夏——

キーワード:退屈。

潜んだ本音はこうだ。金も暇もあるけど、やることがない。誰か一緒にいてくれない?

だらけた午後——

キーワード:だらけた。

これも裏にはっきりとしたメッセージがあった。私はもうくつろいで待ってるけど、誰か一緒にのんびりしてくれない?

画像を見ると、焦点はワイングラスにある。

ワイングラスといえば――そう、赤ワイン。

赤ワインといえば、夜、ムード、甘い囁き……

ひと文字ひと文字が色気を放ち、誰か来てのサインが、投稿全体から濃厚に立ちのぼっていた。

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