Mag-log inたくさんの悩みや葛藤を抱えた、高校生。 自分なりに出した答えを正解だと信じて駆け抜けた青春時代。 4人の高校生の等身大のストーリー
view moreファミレスで軽く夕食を済ませた私達は。『夏と言えば花火だろう』。 コウ先輩のこの一言で、急きょ花火大会をすることになった。花火と一緒にお酒やお菓子も購入し、ここらへんで一番近い海に向かった。電車を使わず歩いて行ける距離の海だから、写真で見るようなきれいな海ではないけれど。目的はみんなで花火。波の音と、潮の香りがあれば、十分だった。「美羽」砂浜に降りる階段の一番下で、コンビニの袋から花火を出して準備をしていると、私の隣に壮吾が腰掛けてきた。作業の手を止めずに壮吾を見上げる。「おまえ、酒飲むなよ」そう言って、手に持たされたのはオレンジジュース。「おまえが酔うと、たちが悪そうだからな」「そんなことわからないよ。案外ざるかもしれないじゃない」こんな事で張り合う私達は、まだまだ子供だ。でも、まあ。最初から、お酒なんて飲む気はなかったんだけど。壮吾の言う通り、私、本気で潰れそうだから。「美羽ちゃん、何してんの。早くこっちに来いよ〜」「美羽〜。 裸足でおいで。気持ちいいよ〜」相変わらず賑やかな兄妹。波打ち際で二人でじゃれ合っていた。『ったく、あいつらは』と、呆れながらもお尻を上げる壮吾。両手にはコウ先輩の分のお酒も持っていて。だけど、私の隣で立ち上がった瞬間、ピタリと動きを止めた。暗闇のせいで表情は見えない。「あいつに酒を飲ますのはいいけど、これ以上テンションおかしくなったら相手できねー」ああ……。それで、躊躇ってるわけね。「大丈夫だよ。コウ先輩には日和という保護者がいるから」「だよな」『おーい、はしゃぎ過ぎだろ。ったくガキじゃねーんだからよー』と、壮吾が砂浜を歩いて行く。一定のリズムで奏でられている波の音。寄せては引いて、引いては寄せて。その音に混ざって、壮吾の靴底からギュッギュッと、砂の鳴く音が聞こえた。
「あのー」私の横からひょいっと出てきたコウ先輩。お客さんを装って、本棚の整理をしていたレオくんに声をかけていた。「いらっしゃいま……げ」くるりと振り向いたレオくんが、あからさまに嫌な顔をする。本を片手に、頬が引きつっていた。「成人雑誌って、どこにありますか?」と、恥ずかしげもなくそんな事を聞くコウ先輩。もちろん、「黙れっ!! クソ兄貴」すぐに日和に頭をはたかれて、口を尖らせていたけれど。「何しに来たんだよ」声をひそめるレオくん。「何だその言い方は。 心外だな」ポケットに両手を突っ込む壮吾が、ブスッとして言った。「様子を見に来たんだよ。こいつが、心配してたから」壮吾の顎が私に向くと、『心配?』と、眉間にしわを寄せたレオくんが私を振り向いた。「おまえがちゃんと働けてるのかって、俺らは心配なんだよ」「んなの、余計なお世話だよ」素っ気ない一言を壮吾に向けて、仕事に戻って行くレオくん。「仕事終わったら、速攻裏に来いよ。駐車場で待ってるからな」壮吾がレオくんの背中に声をかけると、レオくんは返事をするように、背中越しに右手を上げた。「レーオ」本屋さんの裏口から出てきたレオくんに、コウ先輩が明るく声をかけた。駐車場のフェンスに寄りかかって話をしていた私達も、裏口へ目を向ける。レオくんは迷惑そうに、眉をひそめて私達を見ていた。「おまえ、今のうちからそんなに眉間にしわ寄せてっとすぐに老けんぞ」フェンスから体を起こした壮吾が、レオくんに歩み寄る。プイッとそっぽを向いたレオくんは、くるりと踵を返すと、無言で駐車場から出て行こうとしていたんだけど。「ちょちょちょちょ。待てって」ガシッと、壮吾に肩を掴まれていた。不機嫌に振り向くレオくん。「何なんだよ。俺、バイトで疲れてんの。騒ぎたいなら俺無しで騒いでくんない?俺、もう帰るし」「んな寂しいこと言うなよ。明日休みだろ?朝まで楽しもうぜ」「そうそう。 楽しもう」と、壮吾とレオくんの間にコウ先輩が割り込んだ。それを遠くから見ている私達は、目を見合わせ、肩をすくめてくすっと笑った。
壮吾の言葉に頷いた私だけど。レオくんが、接客をしている姿が全く想像できない。それって、私だけ?接客業ということは、少なからず笑顔は必要なわけじゃん?レオくんの営業スマイル……。うーん……。やっぱり、想像できない。「レオくんのバイトってさ、レジとかするんだよね?」私が聞くと、「当たり前じゃん」と、日和がおかしそうに笑った。「ということは、『いらっしゃいませ』とか、言うんだよね」さらに続けると「急にどうしたの?」と、日和が眉をひそめた。「いや、何か、ほら。全く想像できないから。レオくんが笑顔で『いらっしゃいませ』って言ってる姿」私がそう言うと、『確かに、言われてみれば』と、3人が同じように頷いた。「そういえば、俺らって、まだレオのバイト姿見てねーよな」「ああ」壮吾の言葉に、コウ先輩が頷く。「レオのバイト先には行ったけど、結局、中には入れなかったしな」私はぐっと背中を丸めた。その原因は、私にあるから。申し訳なくて、顔を上げることができなかった。「んじゃ、今から行ってみる?もうすぐ、バイト終わる時間だし」「いらっしゃいませー」レオくんのバイト先の自動ドアをくぐったら、明らかにレオくんだと思われる声が一番に聞こえてきた。これで店長に怒られないのかと心配するほど、暗くて、超棒読みな声だ。この辺りには、ここだけしか本屋がない。小さな本屋だけど、中には結構な人が入っていた。ぞろぞろと中に入る私達に、レオくんは全く気づいていない。ぶっきら棒に、だけど、すごく真剣に、接客を続けていた。「カバーつけますか」「あ、いえ」「1,155円になります」言葉に強弱がなく、ずーっと同じ調子。もちろん、営業スマイルなんてしているわけもなく。「ありがとうございましたー」本当に有り難く思っているのか、と、思わず突っ込みたくなるレオくんの声。だけど――。レオくんの黒のエプロン姿。ビューティフル。接客業としてはいけないことなのかもしれないけれど、レオくんのように美しい男性に接客されたら、どんなに素っ気なくても、どんなに笑顔がなくても、全然いいと思えてしまう。もっともっと接客をしてほしいって思っちゃうほど、レオくんはカッコよくて、少し大人に見えた。
「おじゃましまーす」ギャーギャー声が聞こえてきたのは、コウ先輩の部屋。そろりとドアを開け、中を覗き込むと「コウ!! てめぇ、ちょっとは手加減しろよ!!」「はっ?バカか、おまえ。手加減してたら楽しくねーだろ」壮吾とコウ先輩が、ゲームに熱中していた。私がドアを開けたことにも気づいていないようだ。「あ、あのー。入ってもよろしいでしょうか」おずおずと声を出すと、ゲームのコントローラーを手にしている2人が、くるりと振り向いた。「なんだ、美羽。来てたのか」そう言って、ゲームを中断した壮吾が、私の元へとやってくる。「何ビクビクしてんだよ。早く中に入れよ」またこの人は。自分ちでもないのに、そんな勝手に……。「日和は?」「あ!! 美羽。 いらっしゃい」壮吾に問いかけた瞬間、背後から日和の声が聞こえてくるりと振り向いた。日和の手には、紅茶カップと、さっき私が日和ママに渡した、シュークリームののったおぼん。「うお。うまそーなシュークリーム」一番に反応したのは壮吾だ。「美羽のお土産だよ」「マジで?そんな気を遣わなくていいのに」だから、壮吾。ここはあなたの家じゃないでしょ?そう思いながらも、「結構おいしいんだよ。食べてみて」と、コウ先輩の部屋に入りながら言った。コウ先輩の部屋は、相変わらず色んなものが散乱していた。だけど、やっぱり、不衛生には感じない。ホントに不思議。「ねぇ、レオくんは?」日和の持ってきてくれた紅茶に口をつけながら、壮吾に聞く。「ああ。あいつ、バイト終わってから来るって」ぱくっとシュークリームを頬張った壮吾が、何だか小さな子供に見えた。カッコイイだけじゃなくて、こんなかわいい一面もあるから、あたしはどんどん壮吾の虜になっていく。「バイトかぁ。頑張るね、レオくん」「まぁ、あいつなりに楽しんでんじゃね?バイトの愚痴なんて、一度も聞いたことねーし」「ふーん。そうなんだ」
あの写真の事を言っているの?何も悪いことはしていないのに、どうして、こんなに逃げ腰になってしまうんだろう。壮吾も、コウ先輩も、日和も、それにレオくんだって。あの写真に、何の意味もないってわかってくれている。周りが勝手に盛り上がっているだけだ。それなのに、どうして、ここに座り込んだまま息を潜めるだけで、出ていけないんだろう。「ねぇ、レオくん。絶対、如月さんに騙されてるよ」――レオくん?レオくんと一緒なの?本棚の間からこっそりと覗いてみたが、ここからでは2人の姿を確認することができなかった。「あれって、カッコよければ誰でもいいってことでしょ? 違う?」何、それ……?あんな
中を開いてみると、私のよく知っている花から、初めて見る名前も知らない花までたくさん載っていた。レオくんは、この中の、何の花を見ていたのだろう。この前、膝に本を広げたままうたた寝をしているレオくんを見て、花が好きなのかなって思った。それに、花屋の前で立ち止まっていたレオくん。外に並ぶ色鮮やかな花をずっと眺めていたし。レオくんの好きな花は、この中のどれなんだろう...。そんな事を思っていると、全ての本を片付け終わったレオくんが、本棚の間から現れた。レオくんの目は、私には向けられず、私が手にしていた本に向いている。「あ、これ。レオくん、この前見てたよね。花が好きなの?」「………」
私は、コウ先輩に向かってほほ笑んでみせた。「美羽ちゃん、レオにも言っといたから」「え?」「美羽ちゃんは、軽い気持ちでおまえと接してるんじゃないってさ。あいつ、何も言わなかったけど、きっとわかってると思うよ。ただ、表情を表に出さないヤツだからさ。だから、あんまへこむなよ」コウ先輩の手が私の頭に伸びてきて、グシャグシャと乱暴に撫でられた。せっかく解いてきた髪が、鳥の巣のようにボサボサになった。それを手で直していると、また壮吾の蹴りがコウ先輩にとんでいた。「いっで!!!」「どさくさにまぎれて美羽に触れんな」「あ〜ん。壮ちゃんのいけず〜」「だから、おまえはキモいんだよ」朝の通学
「あ…… おはよ」壮吾とコウ先輩と駐輪場で別れた私達は、昇降口で靴を履き替えるレオくんにばったり会った。私がぎこちなく声をかけると、レオくんは、靴箱に手を伸ばしながら私を振り向いた。だけど、すぐに目を逸らすレオくん。昨日の事に触れることもなく、無表情のままで靴を履き替えている。今、レオくんはどんな事を考えているんだろう……。私のあまりのしつこさに、本気で嫌いになった?――ポン。私の手を包み込む、日和の手。日和……うん。 大丈夫。まだ、レオくんの態度に俯いてしまうけど、すぐに顔を上げることができるから。もう、大丈夫。私がギュッと日和の手を握り返した、その時だった。「