Share

第1085話

Author: 雪吹(ふぶき)ルリ
真司と佳子が幸せな結末を迎えるのを見て、真夕は思わず涙をこぼした。

自分の一番の親友が、ようやく、ついに最愛の人と結ばれたのだ。

涙で視界が滲む中、真夕は力いっぱい拍手を送っている。

そのとき、一枚のティッシュを差し出す手が現れた。

真夕が視線を落とすと、清潔で長い五本の指が白いシャツの袖口に包まれているのが見えた。しなやかで端正なその手首には高級なスチール製の時計が光り、ティッシュを持って彼女に差し出している。

顔を上げると、そこにいるのは司だ。

司はずっと彼女のそばに立っている。涙をこぼした彼女にティッシュを渡したのだ。

実のところ、真夕と司はしばらく会っていない。司は呪縛の毒にかかっており、彼女に近づくことができないのだ。近づけば激しい痛みに襲われる。

そのため、司は彩との結婚を決めた。

二人の結婚式はずっと準備中だが、随分と時間がかかっている。真司と佳子が結婚するというのに、彼らの式はまだ整っていない。

今日、真司が佳子にプロポーズし、真夕はようやく司と顔を合わせたのだ。

今、司がティッシュを差し出し、真夕はそれを受け取り、「ありがとう」と言った。

真夕は礼を言った。

まるで他人に礼を言うように。

しかし、真夕がティッシュを引こうとしても、司はそれを握ったまま離さなかった。

渡しておきながら、手放さない。

どういうこと?

真夕の長い睫毛がわずかに震え、驚いたように彼を見上げた。

澄んだ瞳が彼の顔を映し出している。少し戸惑ったような、涙に濡れたその瞳は柔らかくて愛らしい。

司の薄い唇がふっと弧を描き、笑みが浮かんだ。

なにを笑っているの?

からかわれたような気がし、真夕はティッシュをぐいっと引っ張った。

すると司は彼女の指を掴んだ。

二人の手がぴたりと重なった。司の指先は少しざらついた感触で、その冷たさの中にわずかな体温が混じり、真夕の指先を包み込んだ。真夕はびっくりした。

熱い。

彼女の掌ほどの小さな顔が、一瞬にして真っ赤になった。

みんなが真司と佳子を見ているというのに、彼がこんなところでこんなことをするなんて!

真夕は慌てて手を引っ込めた。もういい、ティッシュなんていらない!

そのとき、奈苗が不思議そうに彼女を見つめ、「真夕姉さん、なんでそんなに顔が赤いの?」と尋ねた。

真夕「……たぶん暑いから」
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 元夫、ナニが終わった日   第1093話

    司がやって来た。真夕のまつげがかすかに震えた。ついさっき司と別れたばかりなのに、まさかそのままついて来るとは思わなかった。和也は司を見て言った。「司、久しぶりだな」司はまっすぐ真夕のそばまで来て、彼女の隣に腰を下ろした。そして和也を見て笑いながら言った。「和也、急に帰国したのに、なんで最初に俺に知らせてくれなかったんだ?親友としてはちょっと寂しいぞ」司は真夕の隣に座り、堂々と自分の領有権を宣言したようなものだ。和也は久しぶりに帰国したお客様であり、今日は真夕と司が彼をもてなすために宴を開いた、ということだ。長年の親友である和也には、司の意図などすぐに分かった。何年経っても、司は相変わらず独占欲が強く、嫉妬深い男だ。和也は眉を軽く上げて笑った。「司、知らせるつもりだったんだよ。でも聞いた話じゃ、君は今、世界一の富豪である岩崎家の令嬢との結婚を控えてるとか?忙しいだろうと思って遠慮したんだ。俺の気遣いに感謝してくれよ」そう言って和也は優雅に茶杯を手に取り、一口啜った。その横顔には、司の出方を楽しむような余裕がある。司は無言のままだ。和也ったら、相変わらず人の痛いところを突く。だが司も負けるつもりはない。「俺がどれだけ忙しくても、君ほどじゃないさ。林家の令嬢、林洋子(はやしようこ)との最強タッグ、豪門同士の政略結婚だってな。聞くところによると、常陸家の旦那様が曾孫を待ちわびてるらしいじゃないか?そろそろ新婚生活と子作りに励まないとな」和也の手が一瞬止まった。「……」司は上機嫌になり、真夕の手を取って微笑んだ。「この点では俺のほうが先を行ってるな。俺と真夕の娘はもう五歳だ。君も頑張らないと!」和也は無言で司を睨んだ。司は可笑しそうに笑った。「どうした?」和也「君が気に入らない。それじゃ駄目か?」司は声を上げて笑った。真夕は赤い唇の端をわずかに上げた。堀田家と常陸家は代々の付き合いがあり、司と和也は幼い頃から一緒に育った親友同士だ。彼らが自分のせいで疎遠になっていないことに、真夕は心から安堵した。彼女は司の掌からそっと手を抜き取った。「二人でゆっくり話して。私はちょっとお手洗いに」真夕はそう言って個室を出て行った。個室の中には、司と和也だけが残っている。和也「君ってやつは、相変わらず独占欲が強くて嫉妬

  • 元夫、ナニが終わった日   第1092話

    真夕は真心をこめて言った。「和也、帰国おめでとう。ようこそ」和也は穏やかに微笑んだ。「どうも」真夕「和也、結婚したって聞いたけど……今回は奥さんを連れて帰ってこなかったの?」真夕は和也の妻に少なからず興味を持っている。噂によれば、彼女は典型的な名門令嬢で、上流社会でも有名なお嬢様だという。和也は苦笑した。「その話題は勘弁してくれよ。俺と妻の間には感情なんてないんだ」真夕「でも、先に結婚してから恋愛することもできるじゃない?」和也はさらに苦笑を深めた。「真夕、夕飯はもう食べた?よかったら俺がご馳走するよ」真夕「今夜は私が奢るよ。せっかく帰国したんだから、歓迎の食事くらいさせて」和也は紳士的にドアを開け、手で示した。「どうぞ」……その頃、司はまだ車にもたれかかり、どこへ行くでもなく、煙草を吸っている。そんな中、清のスマホが鳴った。「……わかりました」電話を切った清は司に向き直った。「堀田社長、先ほどの情報によると、常陸さんが帰国されたそうです」司は煙草をくわえたまま、動きを止めた。「和也が?俺に知らせなかったじゃない?」親友である彼が、帰国しても一言も連絡してこなかったなんて。清「社長、もう一件報告が……」その歯切れの悪い様子に、司は眉をひそめた。「はっきり言え!和也は今どこにいる?」清「……社長、常陸さんは真夕さんに会いに行きました」何だと?司の身体がびくりと硬直した。彼は、和也が真夕を想っていることを知っている。二人の男が親友でありながら、同じ女を愛している。そして和也は、帰国早々に彼女のもとへ赴いた。司「彼らは今どこだ?」清「常陸さんと真夕さんは今、一緒にレストランで食事中です」司「……」彼の周囲の空気が、瞬時に凍りついた。清は息を飲み、声を出すこともできない。今の司と真夕の関係は、すでにぎくしゃくしている。そんな時に和也が帰ってきた。まるで横取りのようだ。「社長……」言い終える前に、司は煙草を投げ捨て、車のドアを開けて運転席に乗り込んだ。清が慌てて止めに入った。「社長、お身体が……」司はある小さな薬瓶を取り出し、清に見せた。「この薬がある。痛みなら抑えられる」それだけ言い残し、彼は車を走らせていった。……一方、真夕と和也はレストラン

  • 元夫、ナニが終わった日   第1091話

    司はそれでも真夕を家に連れて帰りたいと思っている。真夕は手を伸ばし、司を抱きしめた。司はその腕にさらに力を込め、まるで彼女を自分の骨と血に溶け込ませたいかのように抱きしめた。もう二度と、彼女と離れないように。だが、それでも二人は別れなければならない。真夕は彼と一緒に帰ることはできない。彼は自分の身体を顧みず、彼女に会いに来ることができるが、彼女は彼が破滅していくのを黙って見ていることなどできない。真夕「司、私、行くね!」真夕は彼を放し、車のドアを開けて降り、そのまま去っていった。司「真夕!」司も車を降り、彼女の名を呼んだ。だが、真夕は振り返ることなく、そのまま歩き去ってしまった。司は静かにその鋭い瞳を伏せ、車体に身を預けるように寄りかかり、煙草を取り出して火をつけた。その時、清が近づいてきた。「社長、これからどちらへ戻られますか?」司は煙を一口吸い、ゆっくりと吐き出したが、何も答えなかった。……真夕が帰る途中、星羅から電話がかかってきた。電話の向こうで、星羅は甘えるような声で呼んでいる。「ママ」この期間、環がずっと星羅を世話してくれており、真夕はそれに感謝している。環は自分の孫娘をとても可愛がり、二人の関係はとても良好だ。それが、真夕と司に少しの時間と空間を与えたのだ。娘の声を聞くと、真夕の心は一瞬でとろけそうになった。「星羅、ママに会いたい?」星羅は小さく頷いた。「星羅はママとパパに会いたい。でもおばあさんが、二人とも忙しいって言ってたから、星羅はちゃんといい子にしてるの」こんなに良い遺伝子に、こんなに素直な娘だ。それが、真夕が双子を産もうと思った理由でもある。真夕は微笑みながら言った。「星羅はえらいわね。今は何をしてるの?」「もうお風呂に入ったの。おばあさんが童話を読んでくれてるの。星羅はもう寝る時間よ」真夕「そう。じゃあ、星羅、早く休みなさいね」電話の向こうから、環の声が聞こえてきた。「真夕」真夕「奥様」真夕と司がまだ結婚していないため、星羅という孫娘があっても、真夕は環を「奥様」と呼んでいるのだ。環「真夕、星羅のことは私が見ているから、心配しないで」「ありがとう」「真夕もちゃんと休みなさいね。お腹の赤ちゃんは大丈夫?」星羅が嬉しそうに言った

  • 元夫、ナニが終わった日   第1090話

    真夕「誰が嫉妬なんかしてるのよ!離して……んっ!」そう言いかけた瞬間、司は彼女を抱き寄せ、そのまま唇を重ねた。真夕は押し返そうとしたが、胸の中の怒りは消えず、思わず彼の唇の端を噛んだ。っ……司は痛みで息を呑んだ。「小犬か?本当に噛むのが好きだな!」真夕「離してくれなきゃ、もっと噛むから!」司は体勢を変え、真夕を自分の腰の上に跨らせた。「痛いのなんか怖くない。好きなだけ噛めばいい」そう言って彼は再び彼女の唇を奪った。真夕の全身が力を失い、抵抗する気力も薄れていく。気づけば、ブラウスのボタンが外されている。真夕は慌てて制した。「だめ!」司の瞳が暗く燃え、低く言った。「拒むな」真夕「でも、体が……」司「心配してくれるなら、時間を無駄にするな。ずっと、こうしたかった」真夕は彼を軽く叩いた。「私に会いに来たのはこのため?」司「そうだ。だめか?」真夕は拳で彼の胸を叩こうとしたが、口がすぐに彼の唇で塞がれた。彼女はふと、自分が妊娠していると思い出した。三か月を過ぎれば問題がないはずだが、彼が強引すぎるのが怖い。真夕は彼の肩に手を置いた。「待って」司は彼女の鼻先にキスを落とし、かすれた声で尋ねた。「今度は何だ?」真夕「強くしないで……優しくして」司は口元を上げた。「いつからそんなに弱気になった?」真夕「嫌ならいい!」「嫌じゃない。ちゃんと約束する。今夜は何でも君の言う通りにする。真夕、キスしてくれ」彼はキスを求めている。そう囁かれ、真夕は彼の首に腕を回し、自ら唇を重ねた…………どれくらい時間が過ぎたのか、真夕はようやく汗に濡れた肌を司の胸に預け、荒い呼吸を整えている。司もシャツのボタンが外れ、息を荒げながら彼女を抱きしめている。言葉はない。嵐のような熱のあとに訪れた静かな抱擁は、何よりも甘く、尊いものだ。やがて真夕が口を開いた。「もう帰るわ」司は彼女の額にキスを落とした。「送っていく」「いいの。今夜はもう長く一緒にいたから。本当に帰らなきゃ」司は彼女をさらに抱き寄せた。「真夕、君を連れて帰りたい。一緒に眠りたい」それを聞いた真夕の胸が締めつけられた。司の呪縛の毒が解けない限り、二人に未来はない。さっきまでの甘さが、今は切なさに変わった。彼女は彼を押しの

  • 元夫、ナニが終わった日   第1089話

    ずっと隅に身を潜めている真夕は、彩の言葉を聞いた瞬間、体がびくりと震え、思わず司の方を見上げた。司もまた、目を垂らしながら彼女を見つめている。その瞳は暗く、熱を帯びている。二人の視線が絡み合った。彩「司?司、聞いてるの?」司「過去のことは全部忘れた。もうその話はするな」「じゃあ、今のことを話そう。今夜、あなたのところに行ってもいい?」と、彩は立ち上がった。今日の彼女は高級ブランドのワンピースを着ており、もとよりダンサー出身のしなやかな体つきと美しい顔立ちで、今まさに輝く時期にいるのだ。「あなたは池本真夕と、もう別れたんでしょ?私のこと、恋しくないの?」彩はかつて司と付き合っていたため、彼のことはよく知っている。司は健康な男性で、むしろ強い性欲を持つほうだ。真夕は居たたまれない。そんな会話を聞いていたくないのだ。司が彩と結婚するのを決めたのは理解しているが、実際にそのやりとりを目の当たりにすると、どうしても心がざわつく。司の整った顔には何の感情も浮かんでいない。「今夜は忙しい。会社に行かなきゃならない」彩は肩を落とした。また断られた。それでも彼女は悔しそうに、まだ続けたいと思っている。「司、私……」司「俺は君と結婚すると約束した。だからといって、あまりしつこくされると疲れる」彩「わかったわ、司。じゃあ行くね」彼女はそう言い残し、去っていった。司は窓を上げ、足元に小さく丸まっている真夕を見下ろし、口の端を上げた。「行ったぞ。もう立っていいよ」真夕は立ち上がり、車のドアに手を伸ばした。「私、もう帰る!」だが、その手がドアに触れた瞬間、司の大きな手が伸び、彼女の細い腰をつかみ、ぐいと引き寄せた。真夕は彼の膝の上に倒れ込み、そのまま胸の中に収まった。司は彼女を見つめながら聞いた。「どうした?怒ってるのか?」彼が何も言わなければまだよかったのに、口にした途端、真夕の顔は引きつってしまった。しかし、彼女はそれを認めたくない。「怒ってない」「嘘つけ。怒ってる顔だぞ」真夕は彼を睨み返した。「怒ってないって言ってるでしょ。私に怒る資格なんてないもの!」司は彼女を抱き寄せた。「俺と岩崎彩の間には何もないよ」真夕「それは彼女が拒んだからでしょ。彼女が同意してたら、もうとっくに何かあったんじゃない?」

  • 元夫、ナニが終わった日   第1088話

    彩は追いかけてきたのだ。今まさに司の車の窓を叩いている。真夕は慌てて言った。「岩崎彩が来たのよ!」司「ほっとけ」「すぐ外にいるけど」「外からは中は見えないさ。叩きたければ叩かせておけ」彩は確かに追ってきている。司の冷淡さに耐えられず、諦めきれずに彼の車を見つけて窓を叩いたのだ。だがしばらく叩いても、車内に何の反応もない。彩は不安になった。司が車の中にいるのは確かだ。では、答えは一つしかない。司は自分に会いたくないのだ。彼女は即座にスマホを取り出し、司の番号を押した。車の中では提示音が響いた。司のスマホだ。真夕はすぐに司から離れた。「彼女からの電話だ。出て」司「出たくない!」「じゃあ彼女、これからずっとかけ続けるでしょ?」真夕は彩をよく知っている。司が電話に出ないなら、彩は確かにかけ続けるのだ。やはり、司が電話に出ないため、彩は疑い始めた。司は一人で車の中で何をしているの?電話にも出ないし、車も発進しない。一体何をしているの?ふと彩は真夕のことを思い出した。司、まさか真夕と一緒にいるんじゃ……そう思いながら、彼女は真夕の番号をかけてみた。すると、車の中で真夕のスマホが鳴った。真夕は驚きもなく自分のスマホを手に取った。「あなたが電話に出ないから、私にかけてきたのね」司は真夕の艶やかな頬を見つめ、不快感を隠せない様子で呟いた。「奴を始末してやる!」「あなたは呪縛の毒にかかっている。今回なら彼女を始末できるかもしれない。でも次はどうなる?だからもう、私たちは会わない方がいいわ」と、真夕は冷静に言った。司は唇をかみしめ、厳しい表情になった。「じゃあ、あなたがまず彼女を始末して、それから私が車から降りる。彼女には私たちが一緒にいるところを見せたくない」それを聞き、司はふっと笑った。「何を笑っているの?」「なぜ奴に見られてはいけないんだ?外にいるだろ?さあ、今見せてやるよ!」そう言いながら、司は窓を下ろし始めた。真夕は驚愕した。司がここまで大胆だとは思っていなかった。まさか彩の目の前で窓を下ろすとは。自分に拒否する余地はまるでない。真夕はとっさに身をかがめ、隅にうずくまって司の脚元に体を寄せた。彼女はさらに目を上げ、彼を睨んでみせた。司は真夕を見て、どこか満

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status