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元夫が復縁を迫る頃、私は御曹司と再婚し妊娠していた
元夫が復縁を迫る頃、私は御曹司と再婚し妊娠していた
Author: 楽しくお金を稼ごう

第1話

Author: 楽しくお金を稼ごう
結婚して二年目。

沙綾は、夫への結婚記念日のプレゼントを準備している時、金庫の中に一枚の離婚届受理証明書を見つけた。

誰のものだろう?

その離婚届受理証明書を目にした瞬間、そこには自分と夫の名前が記載されており、沙綾は思わず呆然とした。

自分が離婚したなど、まったく身に覚えがない。

証明書に記載されている日付は三十日後――夫である時彦の誕生日の日付になっていた。

沙綾は不安に駆られながら、役所へ問い合わせに向かった。

担当者はシステムを検索した後、心配そうな顔で彼女に告げた。

「お客様、システム上には婚姻登録しかなく、離婚の記録はございません。こちらの離婚届受理証明書は偽造されたものです。

ただ、本物とほとんど見分けがつかないほど精巧に作られていて、印鑑までそっくりですが。どなたかに騙されているのでは?」

担当者の言葉を聞いて、沙綾は顔から血の気が引いた。

胸の奥に抱いていた嫌な予感が、まさに的中してしまった。

時彦が偽の離婚届受理証明書を作ったのだ。

しかし、一体なぜそんなことを?

沙綾は証明書をしまい、礼を言って役所を後にした。

心ここにあらずのまま高橋グループへ向かい、時彦に問いただそうとした。

だが、そこで夫の不倫現場に遭遇してしまった。その相手は、自分の異母妹・朱里だった。

長身で端正な顔立ちの男が腰をかがめ、若く美しい女が背伸びをして彼の頬にキスをする。

男はそれを受け入れるように、彼女へ顔を寄せていた。

あまりの衝撃に頭の中が真っ白になり、目の前の光景が信じられなかった。

「時彦、ありがとうございます」

甘ったるい女の声に、沙綾は我に返った。

そしてドアを押し開け、問い詰めた。「あなたたち、何をしてるの?」

朱里は慌てた顔をして、急いで弁解した。

「お姉ちゃん、違うの!誤解しないで。私の論文が賞を取って、お父さんもお母さんも留守だから、時彦がお祝いにジュエリーをプレゼントしてくれただけなの。

お姉ちゃんが嫌なら、これ、返すから」

朱里はそう言いながらも、指の関節が白くなるほどジュエリーボックスをしっかりと抱きしめていた。

一方の時彦は優しい表情を引っ込めると、指の長い綺麗な手を朱里の肩に軽く置き、なだめるように言った。「君は先に出ていなさい」

朱里は大人しく頷いた。

沙綾とすれ違う瞬間、その瞳の奥には挑発的で得意げな光が浮かんでいた。

胸に綿を詰め込まれたように息苦しくなり、呼吸さえままならない。

それなのに時彦は、不倫現場を見られたというのに、微塵も悪びれる様子を見せなかった。

そのまま社長椅子に腰を下ろし、静かな眼差しで彼女を見返すと、淡々とした声で言った。「何をしに来た?」

結婚して二年。

時彦は仕事にのめり込み、沙綾への態度は日増しに冷淡になっていった。

それが今、滅多に見せない優しさを、他の女に向けているのだ。

胸が痛み、深く失望した沙綾は、握りしめた指の爪を手のひらに食い込ませ、その痛みで無理やり冷静さを保った。

「離婚しましょう」

真剣な答えが返ってくるかと思いきや、時彦の視線はほんの一秒しか彼女に留まらなかった。

傍らにあった書類を手に取ると、少し苛立ったような目を向けた。

「朱里のことで、何をそんなにムキになっているんだ?」

そのあしらうような態度に、沙綾は心底冷え切った。

そこへ、アシスタントの渡辺洋一(わたなべ よういち)が書類を抱えて入ってきた。

時彦はもはや沙綾を視界の端にすら入れようとしなかった。

自分のことをまるで空気のように扱う二人を見て、沙綾の心はさらに冷たく凍りついた。

彼女はくるりと背を向け、今夜家に帰ってから改めて離婚について話し合うつもりで、部屋を出た。

「社長、遠藤グループを吸収合併する件ですが、やはり奥様にお伝えした方がよろしいのでは?」洋一は少し心配そうに言った。

時彦は顔を上げ、沙綾の去っていく後ろ姿を見つめながら、薄い唇を開いた。「必要ない」

三十日経ってから話しても遅くはない。

ほんの些細なことも我慢できないようでは、どうしてこの先、一生を共にできるというのか。

時彦は、朱里が抱きしめていたジュエリーを見た時の沙綾の気にするような表情を思い出し、淡々と付け加えた。「沙綾の名義でマンションを一つ用意しておけ」

……

沙綾が社長室を出ると、朱里が立ち塞がった。

朱里は首元のエメラルドのネックレスを指で撫でながら、得意げな目を向けた。

「お姉ちゃん、ここは見て見ぬふりをするのが賢明よ。その方が、お互いのためだわ」

沙綾は軽く眉をひそめた。

「どういう意味?」

「あなたたちの離婚が成立したら、時彦は私と結婚するの。そうなったら、私たちはまた家族になるんだから。これからも顔を合わせるんだし、関係をこじらせない方がいいわよ」

朱里の言葉を聞いて、沙綾はハッと悟った。

あの偽の離婚届受理証明書は、時彦が朱里の機嫌を取るために作ったものだったのだ。

かつての出来事を思い出した。

母親が妊娠していた頃、父親が不倫し、朱里の母親が本妻の座を奪おうと乗り込んできたのだ。

両親が離婚する際、父親は母親が持つ株を手に入れるため、親権を争った。

その結果、沙綾は何年もの間、肩身の狭い思いをしながら屈辱に耐えなければならなかった。

その過去を、時彦はすべて知っているはずなのに。

それなのに彼は、妻をいじめた相手の娘と不倫したのだ。

時彦の中にはもう、自分への愛などとうにない。

もしかすると、最初から一度も愛されてなどいなかったのかもしれない。

彼は政略結婚として、自分と結婚したに過ぎない。

命を救われた恩に報いようという沙綾の感謝の念も、日々の彼の冷たい態度の前に、もはや底をつきかけていた。

それでも結婚当初は、二人にも幸せな時間があったというのに……

沙綾は冷ややかな目で朱里を見た。

「私と家族になるですって?あんたがその器だとでも?あんたもあんたの母親も、他人の家庭を壊して図々しく居座る、厚顔無恥な泥棒猫じゃない」

その言葉に刺激され、朱里は声を荒らげた。「愛されていない方こそ泥棒猫よ!」

愛?

時彦の愛。

そんなもの、もういらない。

彼女はバッグの中の偽の離婚届受理証明書を思い出し、皮肉を込めて言った。「彼が本当にあなたと結婚するって、確信してるの?」

朱里は必死に言い返した。「当然でしょ!彼がまだあなたに言わないのは、会社の株価を安定させるためだけよ。遠藤家と高橋家の合弁会社が上場したら、あなたは追い出されるの!」

三十日後、時彦が離婚届受理証明書を手に入れれば、必ず自分と結婚してくれる。

そうなれば、自分こそが高橋家の奥様になるのだ。

沙綾なんて、ただの捨てられた女に過ぎない。

朱里は内心でそう毒づいた。

沙綾は、地団駄を踏んで悔しがる朱里の姿を無表情で見つめ、そのまま立ち去った。

時彦が朱里と結婚しようが、自分と離婚したがろうが、もはやどうでもいいことだった。

彼のもとを去るのだ。

車に戻ると、彼女は相馬紀行(そうま のりゆき)に電話をかけ直した。

「相馬先輩、あなたの研究チームに加わって、シリコンバレーでの研究開発に参加することに決めたわ」

二人は同じ研究室の出身であり、紀行は半導体分野における第一人者で、ナノチップの開発に尽力していた。

電話の向こうで、紀行は驚きつつも安堵したようだった。

「君が納得してくれたならよかった。ただ、君の義母さんが……」

紀行は、沙綾がどれほど温かい家庭を渇望していたかをよく知っていた。

結婚後、沙綾は生活の拠点を家庭に移し、研究の世界から距離を置いていた。

しかし、紀行は沙綾の才能を諦めきれなかった。

沙綾はこれまで見てきた中で、最も天賦の才に恵まれた科学者だった。

だからこそ、自分の研究所に加わるよう、何度も誘い続けていたのだ。

ただ、高橋家はトップクラスの名家であり、家のしきたりも非常に厳しい。

一年も家を空ければ、高橋家の人々から不満が出るのは目に見えていた。

沙綾は彼の懸念を理解した上で、きっぱりと言った。「もうその心配はないわ」

紀行は合点がいったように言った。

「それならいい。パスポートを準備して、明日の朝、出国手続きのために私に渡してくれ。私たちの研究チームは三十日後に出発する。

ついでに、私たちの提携先である氷室社長にも紹介しよう。

量子テレポーテーションに対する彼の見解は、君と驚くほど一致しているんだ。きっと色々と語り合えると思うよ」

「ええ」

三十日後。

それは時彦の誕生日であり、彼が偽装離婚をしようと企んでいる日。

そして、沙綾が出国する日でもあった。

高橋グループを離れると、本家から電話が入った。

毎月一日と十五日には、二人揃って本家で食事をとるしきたりだった。

元々は行くつもりなどなかったが、沙綾の手元には、時彦の母である高橋有希子(たかはし ゆきこ)のサインが必要な高橋福祉振興会の書類があった。

有希子が支援を約束してくれたお金だった。

書類を取りに帰り、そのまま本家へと急ぐと、そこには朱里と時彦が肩を並べて座っている姿があった。

時彦があろうことか朱里を本家にまで連れ込み、沙綾の体面などまったく気にかけていないことは明白だった。

さらに、有希子は朱里の手を引いて褒めちぎっていた。

「お母様から聞いたわよ。今度の卒業論文が学術誌に掲載されたんですってね。本当に立派だこと。

あの時、おじさんが何に唆されたのか知らないけれど、あなたたちというお似合いの二人を引き裂いてしまって……

あなたは、あの女よりずっと素晴らしいわ」

朱里はにこやかに笑い、謙遜してみせた。

「お姉ちゃんだって帝都大学を卒業しているんですから、そんなに悪くないですよ」

「あいつが?」

有希子は冷たく鼻で笑った。

「ただの学歴の箔付けでしょ。あなたと比べ物になるもんですか」

最初は、嫁姑関係というものは誰にとっても難しいものだと思っていた。

沙綾は、できる限り有希子を満足させようと努めてきた。

しかし後になって知ったのだ。

有希子が自分に辛く当たるのは、時彦が原因だということを。

「突っ立って何をしてるの?時間の感覚、まるでないのね。こんなに大勢の人を待たせておいて、さっさとキッチンに行って料理ができているか見てきなさい!」

有希子の叱責を聞き、沙綾は朱里の嘲笑うような視線を真っ向から受け止めながら、時彦の方を見た。

彼は有希子の実の子ではなく、表面的には円満を装っているものの、裏では絶えず争いが起きていた。

以前なら、有希子が意地悪を言えば、時彦は沙綾を庇ってくれた。

しかし今、時彦は何も言わず、妻が叱りつけられるのを完全に黙認していた。

それどころか、皆が見ている前で、いつもは人をひれ伏させるようなあの男が、自ら朱里にお茶を注ぎ、細やかな気遣いまで見せている。

沙綾のプライドは粉々に打ち砕かれた。

心はすっかり冷え切り、くるりと背を向けて外へと歩き出した。

三月の汐見市では、冷たい雨が降りしきっていた。

ずぶ濡れになった沙綾の体は、風に吹かれて小刻みに震えていた。

家に帰ると、偽の離婚届受理証明書を金庫に戻し、二通の離婚協議書を作成した。

明日は二人の結婚二周年の記念日であり、時彦と離婚する日となるのだ。

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