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第260話

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とりあえずさっきは何とか冷静さを保てたから、これで月子に恥をかかせずに済んだ。

洵は気持ちを落ち着かせ、リビングへと向かった。

月子はすぐにソファから立ち上がり、洵の方へ歩み寄り、彼をじっと見つめて尋ねた。「どんな話をしたの?」

「謝りに行ったと言っただろ?喧嘩するわけでもないのに、何をそんなに心配してるんだ」

「もっとまともに話せないの!」

それを言われて、洵は月子が今日鳴を凝らしてめてくれらから、大目に見てやろうと、思った。

だから、かれも軽く鼻を鳴らしたが、おとなしく口を閉ざした。

しかし、隼人が月子に気があることを考えると、洵は面白くなかった。彼にとって月子は最高の人間であり、最高の男でなければ釣り合わない。隼人は、まだその域に達していない。

洵は心の中でぼやきながら、きょろきょろと辺りを見回していた。月子から帰るように言われるのを待っていたのだが、ふと隼人の飾り棚が目に入った。

そこには、美しいクリスタルのグラスが4つ並べられていた。月子の家にも木の形をした同じブランドのグラスがあったはずだ。

これは偶然か、それとも二人の間の秘密なのか?

洵はさらに数回、グラスを見つめた。

星型と月型のグラスは、特に怪しい。

そうだ、月子の洗面台にも、趣味の悪い月の積み木があった。

洵は月子の恋愛に関しては非常に敏感だった。一見関係のないように見えることも、彼はすぐに繋げて考えてしまうのだ。

隼人はまだ告白していない。ひょっとして、じわじわと月子に近づこうとしているのではないか?

いつの間にか、月子の生活のあらゆる場所に、彼の影を落とそうと企んでいるのかもしれない。

例えば、自分を説得したのも、その策略の一つなのではないか。

洵は考えれば考えるほど、その可能性が高まっているように思えた。くそっ、なんて腹黒い男だ。やっぱり隼人は信用できない。

月子は、彼に騙されないだろうか?

月子は、洵の露骨に不機嫌な視線に気づき、またどうしたんだろうと思った。

ちょうどその時、隼人が書斎から出てきた。

彼はいつものように上品で冷淡な様子だったため、月子は彼の表情から何かを読み取ろうとするのは諦めた。そして、洵のことは触れずに尋ねた。「鷹司社長、先ほど私を尋ねて来られたのは何かご用でしょうか?」

彼が口を開く前に、背後の洵が冷ややかに鼻を鳴らし
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