共有

第356話

作者: おミカン
あの尊大な態度に、寧々は思わず、かつて太陽みたいに眩しかった頃の絵里の姿を重ねた。

嫉妬で腹の底が煮えくり返り、寧々は歯を食いしばる。

「……行かせて」

絵里は淡々と視線を引き、背筋を伸ばしてエレベーターホールへ向かった。

裕也は両手をポケットに突っ込み、エレベーターを待っている。顔色は陰り、近寄りがたいほど険しい。

その隣にいる郁江は、勝ち誇ったように口元を吊り上げていた。

「考える時間はあげるわ」

郁江は笑いながら、彼のたくましい腕に触れようと手を伸ばす。

「ただし、あまり待たせないでね」

チン、と軽い音。

エレベーターの扉が開いた。

裕也は一歩、すっと中へ入る。彼女の指先が届く隙すら与えない。

けれど郁江は機嫌がいいまま、少しも腹を立てず、笑って後に続いた。

扉が閉まりかけた、その瞬間。

絵里がエレベーターの前へ来て、わずかな隙間から中を覗き込む。裕也らしき横顔が見えた気がした。

だが、はっきりとは確認できない。

絵里はスマホを取り出し、LINEを送る。

【どこ?】

返信が来たのは、下の階まで降りてからだった。

【友だちと外で用事の話してる。
この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター
コメント (3)
goodnovel comment avatar
ウサコッツ
マジでストーカーでキモ奴しかいない 裕也もいつまでも恩があるとか言ってて 郁江にやりたい放題されても 何もできず それなら結婚するべきじゃないし 言いなりになって 結局絵里捨てるなら さっさと離婚して 離れて欲しいんだけど お前ら兄弟クソ過ぎる
goodnovel comment avatar
Tom
郁江への恩はもう返した、とか言ってたのに、なんでこんなに引っ張ってるの?
goodnovel comment avatar
ウサコッツ
裕也浮気してるな どうせ郁江選ぶ感じする
すべてのコメントを表示

最新チャプター

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第360話

    外から言われるほど、残酷なやり口ではなかった。絵里は忘れていない。視線を落とし、淡々とした声で言う。「私はいつでも空いてるわ。そのときは電話して」裕也は眉間にかすかな皺を寄せ、訝しげに瞳を持ち上げた。「どうした?今日、あんまり嬉しそうじゃない」絵里はそのまま目を合わせ、さらりと笑う。「まさか。裕也が私に後ろめたいことさえしなければ、私が不機嫌になる理由なんてないわ」十年前の出来事が脳裏をよぎり、今なら聞けるかもしれない。そう思った、そのとき。コンコン、と扉が鳴り、健が外から入ってきた。きっちりと糊の利いた身なりだ。「社長、奥様」彼は端正な姿勢で脇に立ち、手には書類を一通持っている。裕也はそれを一瞥し、短くうなずいた。絵里も薄く微笑んで会釈を返す。朝食を終え、絵里は玄関まで裕也を見送りに出た。ネクタイが少し曲がっているのに気づき、そっと手を伸ばして整える。指先は優しく、動きは丁寧。伏せた睫毛と柔らかな眉目は穏やかで、肌は眩しいほど白い。裕也は視線を落として彼女を見つめ、しばらくして唇の端を上げた。「最近、ますます優しくなるな」絵里は瞼を上げる。どう見ても、この人が郁江と軽はずみな真似をするとは思えない。昨夜は胸の奥がざわついたけれど、結局は信じている。だから、余計な詮索はしたくなかった。けれど、別のことは聞いておきたい。「十年前、私が溺れたこと……覚えてる?」裕也は眉をわずかに持ち上げる。「覚えてる」絵里の目が丸くなる。「じゃあ、私を助けたのが誰か……知ってる?」「どうして急にそんなことを」裕也の目がふっと細くなり、その瞳の奥を、夜の闇のように昏く沈ませた。絵里は、彼のような人がそんな細事を覚えているはずがないと思い、平静を装った。「なんでもないの。ただ、気になっただけ」裕也は何かを思い出したように、その瞳の奥に暗い陰りを宿した。そして手を伸ばし、彼女の頭をくしゃりと撫でた。「無事だった。それで十分だ。過去のことは考えるな……過去の人間のこともな」絵里の予想通りだった。裕也からは何も引き出せない。彼自身も、詳しくは知らないのだろう。裕也が車に乗り込むと、健が助手席から資料を差し出した。「社長。奥様は、たしかに神原さんと面識があ

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第359話

    絵里は、裕也が今夜は帰ってこないと思っていた。身支度を済ませ、ベッドに横になろうとしたそのとき、彼がふいに外から戻ってきた。絵里は、思わず固まる。いつ見ても隙のない、あの優雅な男。その姿を目にしただけで、あの動画が脳裏に蘇り、胸が締め付けられて息が詰まりそうになった。「まだ寝てなかったのか?」裕也は長い脚でベッドまで歩み寄り、軽く身を屈める。穏やかな眼差しの奥に、わずかな疲れが滲んでいた。距離が近すぎる。絵里の鼻先に、かすかな香水の匂いが触れた。この匂い……前に嗅いだのと同じ。反射的に、郁江の名前が浮かぶ。「今から寝るところだったの」絵里は思考を押し込み、淡々と彼を見た。探るように言う。「こんな遅くまで、どうしたの?」「ちょっとトラブルがあってな」弱い灯りが絵里の顔を照らし、裕也の眉がわずかに動く。「……どうした?顔色が悪い」「何でもない。考えごとしてただけ。少し休めば平気」絵里はあくまで静かに答えた。裕也がそれ以上、何も言う気配を見せない。胸の奥が、ずしりと沈む。絵里は布団を引き寄せ、そのまま横になった。裕也が身を屈めると、長身の影が絵里の顔に落ちる。唇を薄く吊り上げて笑った。「少し待っていておくれ。シャワー浴びて、戻ったら一緒に寝る」絵里は温度のない声で答える。「……うん」ほどなく、裕也はバスルームへ向かった。バスルームから響くザーザーという水音を耳にしながらも、絵里の胸のモヤモヤは晴れないままでいた。まるで重い塊が喉の奥につかえているかのように、息を吸うことも吐き出すこともできず、ただ苦しさに胸が締め付けられる。あと二日で、彼の誕生日。もし彼が郁江とまだ切れていないのなら、この先も一緒にいる意味なんて、あるのだろうか。絵里は、ないと思った。けれど、問い詰めたくはない。人が本気で騙そうとしているなら、問い詰めたところで返ってくるのは、計算し尽くされた言い訳だけだ。水音を聞きながら、絵里の意識が落ちかけた、その瞬間。音がぷつりと止んだ。ほどなく背後のマットレスが沈み、次いで、温かな体温が背中に寄り添う。馴染みのある香りが鼻に忍び込んだ。裕也が後ろからそっと抱きしめ、胸板を絵里の背に当てたまま、低く訊く。「寝たか?」

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第358話

    絵里は拳を握り直し、深く息を吸って気持ちを整えた。夫婦のあいだでいちばん大切なのは、信頼だ。目に見えたものが、必ずしも真実とは限らない。沈みかけた感情に溺れるのはやめ、ディスクへ視線を走らせた絵里は、寧々にメッセージを送る。【ディスクの件、私を騙したわね。後悔することになるわよ】寧々が怖がるはずもない。動画はもう消してある。脅しなんて効かない、と高を括っているのだろう。寧々は鼻で笑うように返してきた。【あなたを助けた人は、とっくに死んでる。あなたは一生、そいつが誰か知れないままよ】その文面を見た瞬間、絵里の背筋を冷たいものが走った。助けた人が死んでいる?そんなはずがあるのか。絵里は強引に落ち着こうとして、あの日の観光地でのことを丹念に思い返した。あの場にいたのは、誰だった。人が多すぎる。誰か、決定的に見落としている。けれど記憶だけじゃ足りない。あの日、自分を助けた人物は、身につけていた半月形の銀色のペンダントが印象に残っている。それに、誰かが名前を呼んだような気もするのだが……遠すぎて、はっきりと思い出せない。目を覚ましたあと、父も「和也が助けた」と言っていた。何がどう食い違えば、父までそう断言することになる?そのとき、着信音が思考を断ち切った。絵里ははっとして画面を見る。寿樹からだ。スワイプして通話に出る。「どうだ?監視カメラのディスク、手に入ったのか。助けたのが誰か分かった?」ここ数日、寿樹は忙殺されていたはずだ。それでも絵里がG市に戻ったと知って、ひと段落ついた瞬間に電話を寄こしてきたのだろう。絵里はこめかみを揉んだ。「ちょっとトラブルがあって。ディスク、すり替えられて……消えた」「え?何だそれ。どういうことだ?」絵里は晴子の件をかいつまんで話す。話しているうちに、こめかみのあたりがずきりと疼いた。「今まで、両家の関係があるからって、ずっと手加減してきた。でも寧々は、容赦なく噛みついてくる。もう甘くはしない」寿樹は彼女の決意を聞き取ったようだった。「分かった。俺にできることは?」「当時、その場にいた人たちの具体的な名簿が欲しい」絵里は一拍置き、言葉を重くする。「ディスクがない以上、当時の関係者から当たるしかない。それと、内密に調べ

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第357話

    絵里はほっと胸をなでおろし、ふっと笑って返す。「うん。会いたくなっちゃって。夜、仕事が片づいたら早めに帰ってきてね」スマホの向こうで、急にカサ……と小さな物音がした。ほんの僅か。衣擦れのような、かすかな気配。「……そっち、何の音?」沈黙が落ちて、ようやく裕也の穏やかな声が戻る。「大丈夫。うっかり何か倒しただけ……今夜ちょっと用があって、遅くなるかもしれない。腹減ったら先に食べて。待たなくていい」「了解。大忙しだもんね。じゃあ、家で待ってる」冗談めかして言いながらも、絵里は素直に頷いた。「いい子だ」甘やかすような声、けれど、裕也の視線は刃のように冷たく鋭い。目の前の郁江を、容赦なく抉る。郁江は口を塞がれ、壁へ押しつけられていた。乱れた髪。挑むような眼。さっきの物音は、彼女が必死にもがき、何か言おうとしたせいだ。通話の切れた「ツーツー」という音が聞こえてから、裕也はようやくスマホを下ろす。郁江の口を塞いでいた手は、今度は頬を掴むように力を入れた。「……俺が、お前に手を出さないとでも思ったか?」裕也の顔は氷のように冷え、眼底で凶気が爆ぜる。郁江の身体がびくりと震えた。だが次の瞬間、彼女は艶めく笑みを浮かべる。勝ち誇ったように。「もちろん、できるって知ってる。あなたって昔から非情だもの、そうでしょう?でも、残念。私、あなたが何を一番大事にしてるか、知っちゃったのよね」頬の痛みなど意に介さず、郁江の瞳は狂気じみた執着を滲ませる。裕也は歯の隙間から、押し殺した声で言った。「……脅しは嫌いだ」郁江は彼を見据えたまま、ゆっくり笑みを引っ込め、怨みを込めて吐き捨てる。「私だって裏切られるのが一番嫌い。簡単に手放してあげるわけないでしょ。私が地獄なら、みんな道連れよ。誰も幸せになんてさせない」裕也は手を離し、郁江を突き飛ばした。ドサッ。床に倒れ、髪がさらに乱れる。それでも彼女はすぐに立ち上がり、狼狽の色を微塵も見せない。「いい報告、待ってるわ」高慢な背中を残し、郁江は個室を出ていった。絵里は電話を切ると、すぐにディスクの中身をもう一度絞り込んだ。その結果に、胸がざわつく。何も、ない。空っぽだ。消されていたとしても復元できる。なのに、最初から何も入っていない

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第356話

    あの尊大な態度に、寧々は思わず、かつて太陽みたいに眩しかった頃の絵里の姿を重ねた。嫉妬で腹の底が煮えくり返り、寧々は歯を食いしばる。「……行かせて」絵里は淡々と視線を引き、背筋を伸ばしてエレベーターホールへ向かった。裕也は両手をポケットに突っ込み、エレベーターを待っている。顔色は陰り、近寄りがたいほど険しい。その隣にいる郁江は、勝ち誇ったように口元を吊り上げていた。「考える時間はあげるわ」郁江は笑いながら、彼のたくましい腕に触れようと手を伸ばす。「ただし、あまり待たせないでね」チン、と軽い音。エレベーターの扉が開いた。裕也は一歩、すっと中へ入る。彼女の指先が届く隙すら与えない。けれど郁江は機嫌がいいまま、少しも腹を立てず、笑って後に続いた。扉が閉まりかけた、その瞬間。絵里がエレベーターの前へ来て、わずかな隙間から中を覗き込む。裕也らしき横顔が見えた気がした。だが、はっきりとは確認できない。絵里はスマホを取り出し、LINEを送る。【どこ?】返信が来たのは、下の階まで降りてからだった。【友だちと外で用事の話してる。どうした?】【ううん、何でもない。ちょっと聞いただけ】絵里は屋外の駐車場へ出る。ふと顔を上げた、その先、黒い高級車が、出口から滑るように去っていくのが見えた。死角でナンバーは確認できない。……今の、裕也の車に似てたような。けれど、絵里は何も聞かなかった。疑っているみたいで、嫌だったから。自分の車を出し、絵里は寧々に動画を送ってから、ハンドルを切って走り出した。個室では寧々が、焦れたように待ち続けていた。スマホの通知音が鳴るやいなや、寧々は勢いよく画面を開き、リンクをタップする。その瞬間、背後に気配が増えた。整った顔立ちの男、和也。だが、その表情は冷たく陰っている。画面は目を背けたくなるほど下品で、それでも絡み合う男女の顔だけははっきり映っていた。寧々は迷いなく操作し、動画を削除した。「これで信じた?」和也を一瞥し、寧々はわざと火に油を注ぐ。「あの女は、あなたにもう一欠片も気持ちなんてない。動画を残してたのも、いつか、私たちを完全に潰すためよ」今日わざわざ絵里と会ったのは、この場面を仕込むためだった。和也に絵里への未

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第355話

    ふいに、郁江の腕が乱暴に掴まれた。「……やめろ。これ以上、俺を追い詰めるな!」指の力が尋常じゃない。骨ごと握り潰されるんじゃないかと思うほどで、郁江は息を呑む。そのまま半ば引きずられるようにして、個室へと連れ戻された。その頃、絵里が角を曲がり、反射的に右手の廊下へ目を向ける。そこはしんと静まり返り、人影ひとつない。……変だな。さっき、裕也の声が聞こえた気がしたのに。考え込む間もなく、絵里は個室の前まで来ると、手を伸ばして扉を押し開けた。絵里は入口に立ったまま、室内を見渡す。ソファに座る寧々が、背もたれに身体を預け、腕を組んでいた。その目はまっすぐ、絵里だけを射抜いている。「……どうしたの。入れないの?」寧々の冷えた声が、部屋の空気を切った。絵里は薄く口角を上げると、そのまま一歩、室内へ入る。「……ディスクは?」絵里は酒卓を挟んで寧々の前に立つ。卓上にはウイスキーのボトルと、ほんの少しだけ注がれたグラスがひとつ。寧々は身体を起こし、グラスを手に取って飲み干した。「何度も同じ目に遭って、まだ学習できないの?呼ばれたからって、本当に来るんだ?」言い終わるのと同時に、扉がもう一度開いた。ぞろぞろと男が数人入ってきて、寧々の傍へ寄り、絵里を値踏みするように見下ろす。寧々の眼光が、一段と鋭くなった。「T市で、あなたは私を嵌めて地獄に落とした。ここに来てまで、無事に帰れると思った?」「帰れるわ」絵里は動じない。最初から、その手を打ってくると読んでいた。「和也とのあれこれ、世間にばらされたくないなら……私に指一本触れないことね」寧々が歯噛みする。「脅し?こっちは人もいる。どうするつもりなのよ」絵里はスマホの時刻をちらりと確認した。「十分後。私が電話を入れなかったら、あの動画は外に流れる。それだけじゃない。この前の通話の録音から警察があなたを割り出す……賭けてみる?」寧々の顔色が、すっと変わった。こいつ、本当に変わった。「信じると思う?」寧々はグラスを床へ叩きつけた。ガシャンッ!砕けた破片と酒が飛び散り、床に不気味な光を散らす。絵里は睨み下ろすように視線を落とし、冷えた声で言った。「信じなくていいわ」寧々はこぶしを握り締め

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status