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第73話:描きたいものが増えていく

Auteur: Sunny
last update Date de publication: 2026-08-20 21:42:12

フェスティバルまで、あと二か月。

正確には、ジャンと玲が出資することが決まってから。

フェスティバルの期間が少し延長したことで。

展示企画までの猶予が、あと一か月半から二か月まで延びたので。

エマがフェスティバルに関わる期間は、残り二か月となった。

町の空気が、少しずつ変わり始めていた。

商店街には開催日を知らせる小さな旗が並び、海沿いの倉庫では朝から資材を運び込む音が響いている。

カフェにも、フェスティバルについて尋ねる観光客が増えた。

エマも、以前より店を空ける時間が長くなっていた。

午前中はカフェ。

午後からは広場へ移動し、子どもたちの企画を担当するスタッフと打ち合わせをする。

使うチョークの種類。

黒板の高さ。

小さな子でも手が届く範囲。

当日の人数を考えた制作時間。

最初は、頼まれた部分だけを手伝うつもりだった。

けれど。

始まってしまえば、気になるところが次々と見つかる。

「ここ、もう少し下げられませんか」

エマは黒板の前へ立ち、手を伸ばした。

担当者が図面を見る。

「十センチくらいですか?」

「それくらいです。小さい子が上を見続けなくても描ける方がいいので」

「なるほど
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    「僕も参加してよろしいですか?」玲の言葉に、市役所の男性が目を丸くした。エマも、隣に立った玲を見る。あまりにも自然に会話へ入ってきたものだから、一瞬、その不自然さに気づくのが遅れた。「もちろん、光栄ですが……」男性は戸惑いながら笑った。「神崎さん、こちらにいらっしゃることの方が少ないんじゃないですか?」「ああ」玲は何でもないことのように頷いた。「近くのビーチハウスを半年ほど借りたんです」エマの瞳が、僅かに揺れた。半年になることは、聞いていない。聞いていない。「なので、しばらく東京には戻らず、フェスティバルが終わるまではこちらで過ごそうかと。仕事は調整できますから」玲の視線が。ゆっくり、エマへ移った。「エマさんにも、そのことをお伝えしようと思っていたんですが」口元には穏やかな笑みがある。「お取り込み中だったようで」柔らかな言葉。けれど。エマには分かった。――ああ。思わず、心の中で苦笑する。変わっていない。エレナの周囲にいた男へ向けていたものと、同じだった。玲は声を荒らげない。露骨に牽制もしない。ただ、穏やかな顔のまま。相手にだけ分かる程度の圧をかける。昔。画廊の関係者に食事へ誘われた時も。パーティーで誰かがエレナの腰へ手を回そうとした時も。玲はいつも、こんなふうに静かに間へ入ってきた。エレナの頃なら。またやってる。それくらいにしか思わなかった。でも。今は朝倉エマだ。玲が同じことをしている意味が、分からない。「そうですか」男性も何かを察したらしい。先ほどまでより、明らかに笑顔が固い。「では、何人かで企画しているので。また詳細が決まったらご連絡します」「ありがとうございます」玲が丁寧に頭を下げる。男性はエマにも軽く会釈すると、足早にその場を離れていった。背中が見えなくなる。エマは小さく息を吐いた。「……私、カフェに戻るのですが」このまま離れようとした時。「すみません」先に玲が謝った。エマは足を止める。「何に対してですか?」「態度に出ていたのであれば」玲は少しだけ困ったように笑った。その表情に。また、胸の奥がざらつく。「エマさんが食事に誘われているのを、見ているだけではいられませんでした」あまりにも真っ直ぐだった。誤魔化さない。嫉妬していないふりもし

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