Share

第374話

Author: こふまる
「触るな!」冬真が叫ぶ。

しかし楓は更にエスカレートし、彼の上に覆い被さろうとした。

「冬真!手伝ってあげてるのに!私だって脱いでるじゃない。なんであなたは脱がないの?」

「やめろ!離せ!」

抵抗すればするほど、楓の興奮は増していく。

「どうしてそんな顔するの?私に食べられちゃうとでも思ってるの?」

楓が冬真のスーツのボタンに手をかけるが、なかなか外れない。

「もう!暴れないでよ!そんなにくねくねされたら、何しでかすか保証できないわよ!」

冬真の背筋が凍り、頭の中で警報が鳴り響いた。

両足で蹴り上げ、楓をソファから突き飛ばした。

「きゃあっ!」

床に転がった楓が悲鳴を上げる。

ソファに倒れこんだまま、冬真は床に転がる楓を恐怖の目で見つめた。

「お前、正気か?」

この監禁も楓の仕業なのではと疑い始めたが、すぐに否定した。

彼女にそこまでの知恵はないはずだ。

「冬真!なんで蹴るのよ!私のこと、もう親友とも思ってないの?」

楓が憤慨する声も無視して、冬真はソファから身を起こし、扉に向かった。

背を向けたまま手を伸ばすが、ドアはしっかりとロックされていた。

「くそっ!」

荒々しい声が漏れる。

夕月の仕業だと思うと、更に怒りが込み上げてきた。

窓際まで行ってみるが、窓もまた固く閉ざされている。

だが、まな板の上の魚のように、ただ捌かれるのを待つつもりはない。

何としてでも、ここから脱出する方法を見つけ出さねばならない!

冬真の目が部屋を素早く見回し、アロマディフューザーに釘付けになった。

息を止めながらディフューザーに近づき、背を向けたまま電源コードを引き抜いた。

そのまま手に持ち、窓ガラスに叩きつけようとする。

新鮮な空気が入れば、二人とも正気を保てるはずだ。

だが後ろ手に縛られた状態では、ディフューザーを振り上げることすらままならない。

雨に打たれたように、汗が顔を伝い落ちる。

やむなくディフューザーを諦め、他に鋭利な物はないかと探し始めた。

だが窓を割ろうとすることは、夕月も当然想定済みだろう。

部屋中を探し回っても、使えそうな物は見当たらない。

意を決した冬真は、自らの体で窓に突進した。

「ドン!」

全身の力を振り絞って窓に体当たりする。

窓全体が大きく揺れた。

その衝撃音に楓が震え上がる。

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない   第380話

    夕月は休憩室へと向かった。冬真の計画を把握した後、彼女は涼に警告を与えていた。計画通り、冬真と楓を罠にかけることにしたのだ。二人の計画をどう暴くべきか思案していた。単に告発すれば、全てが夕月の策略だと冬真に逆に咎められかねない。しかし今、涼が絶好の機会を作ってくれた。これなら自然な形で冬真と楓の企みを暴くことができる。鍵を取り寄せ、ドアを開けると、濃厚なアロマの香りに血の臭いが混ざって鼻をついた。「ゴホッ、ゴホッ!」夕月は眉をしかめ、吐き気を感じた。後ろから何人もの頭が覗き込み、好奇の目を向けている。夕月が一歩踏み出そうとした時、涼が腕を伸ばして制した。「気をつけて」涼が先に立って入室すると、夕月もその後に続いた。そこには楓が顔を腫らし、気を失って倒れていた。涼は嫌悪感を露わにして顔を背け、夕月は半裸同然の楓の体を見るなり、床に散らばった衣服を拾い上げて彼女の上に掛けた。その時、暗がりの隅から荒い息遣いが聞こえてきた。「まあ!」夕月に続いて入ってきた財界人たちの目に、壁際に寄り掛かる冬真の姿が映った。両手は依然として後ろで拘束されたままだ。シャツのボタンは数個はじけ飛び、襟元は大きく開き、露わになった胸には真っ赤な爪痕が残っていた。汗で濡れた額に数筋の髪が貼り付き、胸が激しく上下する中、瞳には恐怖の色が浮かんでいた。冬真は突然顔を上げ、暗闇の中で夕月を見つめた。もはやこの部屋を出ようという気持ちさえ失せていた。今更ここを出たところで、何の意味もない。夕月の後ろには大勢の人々が立ち、見覚えのある顔が何人も首を伸ばして中を覗き込んでいるのだから。冬真の惨状を目の当たりにした彼らは、次々と驚きの声を上げた。「ま、まさか……橘社長?」「冬真君、藤宮家の次女と……おやおや!これが広まったら大変なことに。夕月さんと離婚したとはいえ、妹の楓さんとこんな……」冬真の姿を見た何人もの来賓たちの顔に、同情の色が浮かんだ。冬真は苦笑を浮かべながら、震える体を必死に支えて立ち上がった。先ほど蹴り飛ばして気絶させた楓を見つめた瞬間、彼女から受けた暴行の記憶が鮮明に蘇ってきた。「うっ……!」全身が震え、内臓が洗濯機で回されているような吐き気に襲われた。充血した瞳には涙が滲み、今に

  • 再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない   第379話

    夕月は桐嶋グループの幹部たちと談笑しながら、さりげなく腕時計に目を落とした。そろそろ冬真と楓は理性を失い始めているはずだ。冬真の当初の計画では、楓と内外で呼応し、この調印式のパーティーの場で涼のスキャンダルを暴露するはずだった。だが失敗の原因は、愚かな協力者を選んでしまったことにある。そして、夕月の藤宮テックに対する支配力を甘く見すぎていた。冬真は社員たちを買収できたと思い込んでいたが、実は彼らが最初に接触を受けた時点で、全て夕月に報告済みだったのだ。夕月は社員たちに、そのまま策に乗るよう指示を出していた。冬真は慎重を期して、各社員には自分の担当部分しか知らせていなかった。来賓用ラウンジに監視カメラを設置する者、パーティーで涼にお酒を運ぶ者、そして厨房で誰もいない隙に薬を仕込む者……これらの情報が夕月の元に集まった時、彼女は冬真が涼に対して何を企んでいるのか、全容を把握することができた。そして楓の役目は、ある社員に薬物を渡すことだった。アロマディフューザーまで買って来賓用ラウンジに設置した楓の一挙手一投足も、全て夕月の目に入っていたのだ。夕月は楓と冬真が罠を仕掛け終えるのを待って、アロマディフューザーと監視カメラの設置部屋を密かに変更していた。冬真が涼にワインを掛けた瞬間、夕月は悟った。冬真の涼に対する行動が始まったのだと。今日招待した財界の重鎮たちに、冬真の卑劣な手口をとくと見せてやろうと思った矢先――「夕月さん!!」会場に涼の切迫した声が響き渡った。参加者たちが振り返ると、涼が慌ただしく入って来るところだった。顔色が青ざめ、目には重苦しい表情を浮かべている。「桐嶋さん、何かあったんですか?」誰かが尋ねると、他の来賓たちも興味津々で周りに集まってきた。涼は夕月の傍らに寄り、周囲にも聞こえる声で話し始めた。「着替えを済ませて出てきたら、隣の部屋から物音が聞こえてね。ドアを開けてみると、橘と楓さんが……」ここで涼は言葉を途切れさせ、周囲を見回してから慎重な面持ちで続けた。「二人とも何か怪しい物でも摂取したのか……橘は手錠で拘束され、楓さんが上に跨っていて……」周囲の来賓たちは思わず息を呑んだ。「二人して私も誘ってきたんです」涼は震え声で告げた。「逃げ足が遅ければ、橘に組

  • 再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない   第378話

    「三つ数えるうちに決めろ。さもなければ、誰にも解毒剤はやらん」涼が言い放った。「さん……」涼は冬真に向かって愉快そうに言った。冬真のこめかみに青筋が浮かんだ。涼がわざと彼らを弄んでいるのは明らかだった。「楓に飲ませろ!」冬真は氷のような声で言った。薬の効果で楓に好き放題されるなど、もう御免だった。「冬真に飲ませて!」楓が叫んだ。冬真は血管を突き破りそうなほど脈打つ神経を感じながら、「私に飲ませて何になる?お前に好き放題されるのを、正気で見ていろってのか?!」冬真の怒声に、楓の肩が小さく震えた。実は、まさにそれが彼女の望みだったのだ。「お前だろう!」冬真は楓を罵倒した後、激昂した様子で涼に詰め寄った。「私と楓をここに閉じ込めたのは!夕月のアシスタントを使って、夕月の名を騙って私をここに誘い込んだのも!」彼の声は確信に満ちていた。額から頬を伝って、汗が滴り落ちる。荒い息を繰り返しながら、まるで檻の中に閉じ込められた獣のように、冬真は涼に向かって危険な警告音を発した。涼は口元を歪め、解毒剤を床に投げ捨てた。楓は即座に飛びつき、解毒剤を拾い上げると、今度は冬真に向かって突進した。「冬真!これを飲んで!」どうせ手錠で拘束されているのだから、冬真に正気な状態で二人の最後までの行為を見せつけてやろう。そうすれば後で、薬の効果で理性を失っていたなどと言い逃れできないはず。楓が冬真の前に立ちはだかる中、涼がドアを開けて出て行こうとするのが見えた。冬真は楓を突き飛ばして逃げ出そうとしたが、楓に阻まれた。「早く飲んで!」「どけ!出してくれ!」叫び声を上げた瞬間、楓は薬を冬真の口に押し込んだ。楓が即座に手で冬真の口を塞ぐと、小さな錠剤が口の中で溶け始めるのを感じた。冬真は目を見開き、喉から怒りの呻き声を漏らした。そうして彼は、涼がドアを開け、そしてまた閉める様子をただ見つめることしかできなかった。楓は冬真の首に手を伸ばし、喉を数回こすった。「くっ!」解毒剤が喉を通り過ぎると、冬真は楓を突き飛ばし、ドアへと突進した。背中を向けて自由な指でドアノブを掴むが、涼が外から鍵をかけていた。「桐嶋!このクソ野郎!開けろ!」冬真は激怒し、ドアを蹴り付けた。その間も楓は粘つくように冬真の体に

  • 再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない   第377話

    楓が彼に向かって歩み寄ると、冬真は何かを察知したように素早く振り返り、警戒心を剥き出しにして楓と向き合った。「結構だ」冬真は冷たく言い放った。全身から楓への警戒感が滲み出ていた。楓には冬真の拒絶が理解できなかった。「携帯を取ってあげるだけよ。そうすれば誰かを呼んで、私たちを助けてもらえるでしょう?」冬真は楓の言葉を全く信用していなかった。彼女の瞳の奥に潜む欲望を見抜いていたからだ。楓が自分に想いを寄せていることを、彼は知っていた。この女は媚薬の効果に乗じて、自分を食い物にしようとしているのだ!今、携帯はスーツのズボンのポケットにある。楓にポケットに触れる機会を与えれば、どんな越軌な行動に及ぶか分からない。冬真は背中をドアに密着させながら、「そこで止まれ!動くな!」と声を張り上げた。「近づくな!」彼は楓を威圧するように叫んだ。「冬真……自分を抑えきれないのね?」楓は思わず口元を緩ませた。「私を傷つけることを心配しないで。そんなに我慢していたら、体を壊しちゃうわよ?」楓は諭すような口調で言った。その言葉が途切れる前に、体内で暴れる細胞が楓を支配し、彼女は抑えが利かなくなって冬真に飛びかかろうとした。「携帯を取ってあげるだけよ!なんでそんなに私を怖がるの?」突然、冬真の背後でカチリという音が響いた。振り返ると、ドアが開いていた。冬真は目を見開いた。外から差し込む光が、まるで希望のように彼の目に映った。誰かが助けに来てくれたのか!?ドアが大きく開き、そこには着替えた涼が立っていた。涼は魅惑的な切れ長の瞳で、冬真を頭からつま先まで舐めるように見た。思わず嘲笑的な笑みが漏れる。こんなに取り乱した冬真を見るのは初めてだった。シャツもスラックスも、すっかり乱れていた。荒い息を繰り返す冬真は、涼の姿を認めた瞬間に悟った。ここから逃げ出すのは容易ではないと。今は自分の惨めな姿を涼に見られることなど、どうでもよかった。涼を押しのけて逃げ出そうとした矢先――涼はその意図を見抜いたかのように、一歩前に出てドアを閉めた。「何のつもりだ?」冬真は信じられない思いで涼を睨みつけた。楓は冬真の後ろから首を伸ばし、好奇心に満ちた眼差しで涼を見つめた。彼も薬の影響を受けているのだろうか?なぜわざわ

  • 再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない   第376話

    夕月の名前を聞いた瞬間、冬真の目が大きく見開かれた。その名が、無数の細い針となって心臓を貫き、全身を痛みが走る。楓は両手で冬真の頭を抱え込む。「冬真、私、あなたを救いたいの!お願い、私のことも救って!」冬真は足を動かそうとしたが、楓が跨がったままで振り払うことができない。「消えろ!」怒鳴り声を上げた瞬間、楓の顔が視界いっぱいに迫ってきた。咄嗟に体を捻り、楓もろとも床に転がり落ちる。「きゃあっ!」楓が悲鳴を上げる中、冬真は芋虫のように体を丸め、必死に這い上がった。「冬真!どうして私にこんなことするの!痛いじゃない!」床に倒れた楓が叫ぶ。冬真は薄布一枚で転がる楓を冷ややかに見下ろした。突然、心臓が激しく跳ね上がり、胸を突き破るかのように脈打つ。視界が二重に揺れ、痛みに顔を歪める楓の表情が、夕月の顔と重なって見えた。一瞬のうちに、全身の血が沸騰したように熱く燃え上がり、抑えきれない震えが走る。「冬真!」楓が四つん這いで這い寄ってくる。冬真は硬直したまま動けない。瞳の縁が赤く染まり、熱い吐息が唇の上に細かな水滴となって浮かぶ。床に這いつくばったまま、楓は手を伸ばして冬真の足首を掴んだ。その瞬間、冬真の瞳孔が収縮し、視界に重なっていた夕月の面影が霧のように消え去った。楓の顔が見えた瞬間、胸の高鳴りも収まっていた。体内の血の気が引くように冷めていく。冬真は楓の手を蹴り払った。「冬真……?」楓の困惑した瞳に、傷つきの色が広がる。「そういう気持ちは一切ない。吐き気がする」冷たく言い放ち、再び扉へと向かう。楓はただ、冬真が扉を蹴り続けるのを見つめていた。「誰かいないのか!?」パーティーの最中だ。廊下を通る人間が一人もいないはずがない。物音を立てれば、誰かが気付いて開けてくれるはずだ。「出してくれ!!」楓は体を支えながら、よろよろと立ち上がる。「もう叫ばないで。夕月姉さんが閉じ込めたんだから、出してくれるわけないでしょ」冬真の表情に怒りが燃え上がる。振り向きざまに楓に向かって吠える。「携帯を出せ!警察を呼ぶぞ!」楓は唇を尖らせる。「隣の部屋に置いてきちゃった」助けを求める手段を与えるわけにはいかない。嘘に決まっている。冬真は楓の嘘を見抜いていた。

  • 再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない   第375話

    冬真は数歩後ずさり、荒い息を繰り返す。眉から滴る大粒の汗が目元に溜まり、視界を曇らせる。窓ガラスは微動だにせず、一筋の亀裂すら入っていない。その時、背後から楓が抱きついてきた。両手が冬真の体を這うように触れていく。「冬真……もう我慢できない……」スーツを脱がせようと手を伸ばす。冬真は体を捻って振り払おうとする。「離せ!」低い声で叱咤するも、後ろ手に縛られた状態では防ぎようもなく、あっさりとスーツを剥ぎ取られる。上着が手首に引っかかったまま、蛇のように楓が前に回り込み、首に腕を絡める。半裸同然の楓が、つま先立ちで冬真の顎に触れようとする。その瞬間、冬真の胃が激しくかき回される。形容し難い吐き気が込み上げてきた。慌てて後退りするが、楓はドロドロと体を這わせるように纏わりつき、離れようとしない。「楓!正気に戻れ!」冬真が叫ぶが、楓は上目遣いに、蕩けた瞳で彼を見つめている。「冬真……私、おかしくなっちゃった。体が言うことを聞かないの……」そう言いながら、冬真の顔に唇を寄せようとする。冬真は目を見開き、全身の毛穴が拒絶反応を示すように震えた。その時、ふくらはぎがソファに当たり、バランスを崩して後ろに倒れ込む。楓が覆い被さり、眉を寄せて吐息を漏らす。「冬真、苦しいの!」「あなたも辛いでしょう?私を助けて!このままじゃ、私たち二人とも発狂しちゃう!」「触るな!」冬真は必死に体を捻る。「楓!我慢しろ!さっさと降りろ!」楓は両手で冬真の肩を押さえつけ、「冬真、このままじゃダメよ!薬の作用が最も強くなった時、私たちは制御不能になる!まるで狂犬のように!そうなったら、理性も吹っ飛んで、取り返しのつかないことになるわ……」狂気を孕んだ瞳で冬真を見据えながら、切迫した声を絞り出す。「まだ意識がはっきりしてるうちに、薬を切れさせましょう!」「正気に戻れ!」冬真は怒鳴った。「降りろと言ってるんだ!さもないと、もう友達としても付き合えない!」楓が声を張り上げる。「責任なんて取る必要ないでしょ!私は貞操を命より大事にするような可愛い子ちゃんじゃないわ!これは解毒よ!薬が切れたら、また今までどおりの関係に戻るだけ!」「ダメだ」冬真は一刀両断に否定する。「もう……冬真ったら」楓の甘ったるい声に

  • 再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない   第374話

    「触るな!」冬真が叫ぶ。しかし楓は更にエスカレートし、彼の上に覆い被さろうとした。「冬真!手伝ってあげてるのに!私だって脱いでるじゃない。なんであなたは脱がないの?」「やめろ!離せ!」抵抗すればするほど、楓の興奮は増していく。「どうしてそんな顔するの?私に食べられちゃうとでも思ってるの?」楓が冬真のスーツのボタンに手をかけるが、なかなか外れない。「もう!暴れないでよ!そんなにくねくねされたら、何しでかすか保証できないわよ!」冬真の背筋が凍り、頭の中で警報が鳴り響いた。両足で蹴り上げ、楓をソファから突き飛ばした。「きゃあっ!」床に転がった楓が悲鳴を上げる。ソファに倒れこんだまま、冬真は床に転がる楓を恐怖の目で見つめた。「お前、正気か?」この監禁も楓の仕業なのではと疑い始めたが、すぐに否定した。彼女にそこまでの知恵はないはずだ。「冬真!なんで蹴るのよ!私のこと、もう親友とも思ってないの?」楓が憤慨する声も無視して、冬真はソファから身を起こし、扉に向かった。背を向けたまま手を伸ばすが、ドアはしっかりとロックされていた。「くそっ!」荒々しい声が漏れる。夕月の仕業だと思うと、更に怒りが込み上げてきた。窓際まで行ってみるが、窓もまた固く閉ざされている。だが、まな板の上の魚のように、ただ捌かれるのを待つつもりはない。何としてでも、ここから脱出する方法を見つけ出さねばならない!冬真の目が部屋を素早く見回し、アロマディフューザーに釘付けになった。息を止めながらディフューザーに近づき、背を向けたまま電源コードを引き抜いた。そのまま手に持ち、窓ガラスに叩きつけようとする。新鮮な空気が入れば、二人とも正気を保てるはずだ。だが後ろ手に縛られた状態では、ディフューザーを振り上げることすらままならない。雨に打たれたように、汗が顔を伝い落ちる。やむなくディフューザーを諦め、他に鋭利な物はないかと探し始めた。だが窓を割ろうとすることは、夕月も当然想定済みだろう。部屋中を探し回っても、使えそうな物は見当たらない。意を決した冬真は、自らの体で窓に突進した。「ドン!」全身の力を振り絞って窓に体当たりする。窓全体が大きく揺れた。その衝撃音に楓が震え上がる。

  • 再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない   第373話

    丸く目を見開いたまま、楓は混乱した様子で尋ねる。「冬真、なぜあなたがここに?」冬真は表情を引き締め、冷静さを取り戻そうと努めながら状況を整理した。「夕月のアシスタントが来てな。夕月が個別に会いたいと言って、ここで待つように言われた」楓は冬真の背後に回された手に気付いた。「冬真、手が……手錠を嵌められてる?!夕月の差金なの!?」冬真の顔が真っ黒に染まった。自分の愚かさに腹が立って仕方がない。あの時の出来事に夕月が嵌まっているなどと、よりによってそんな妄想を……考えただけで頭が痛くなる。完全に夕月の術中に嵌められたのだ。その事実に気付いた途端、冬真の胸の内が掻き乱され、全身が炎に包まれたように熱くなった。「鍵を探せ!」周囲を見回しながら、楓に向かって焦りを帯びた声を上げる。「ええ」楓も手錠の鍵を探す振りをしながら、心の中で別の思いが渦巻いていた。今や二人きりの密室。しかも冬真は両手を拘束されている。この状況なら、薬の効果に任せて、彼を思うがままに……そう考えただけで、楓の体は蕩けそうになる。腰を高く上げ、冬真に背中を向けた。薬で理性が曇っている今なら、きっと彼を誘惑できるはず……「夕月姉さん、私たち二人を嵌めたのね。なんて酷いの!まさか……二人がこんな状態になるところを見て楽しもうっていうの?私は妹なのに!夕月姉さん、どうしてこんなひどいことするの!」鍵を探すふりをしながら、楓は声を震わせた。全ては夕月の責任にできる。これから起きることも、たとえ冬真の本意ではなくても、夕月を恨むはず。自分は咎められない。本来なら桐嶋に仕掛けるはずだった罠。恐らく夕月に計画がバレていたのだ。夕月は逆手に取って、自分たちを自作の罠に落としたというわけか。夕月に弄ばれたという怒りと屈辱は、楓の心の中で一瞬で霧散した。これから冬真と二人きりで過ごすことを想像すると、楓は唇を噛んで表情を必死に抑えた。ずっと友達以上になれる機会を探していたのに。まさか夕月が自らその機会をくれるとは。逃すわけにはいかない。「くっ……暑すぎる!」楓は声を上げながら、上着を脱ぎ始めた。「何をする!」冬真が警戒した声を上げる。「だって暑いんだもん!」ソファに座った冬真の額には汗が滲んでいた。確かに暑い。誰だってこん

  • 再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない   第372話

    冬真が顔を上げ、ドアの方を見た。視界の端がぼやけている。なぜか、はっきりと見えない。瞬きを繰り返すうちに、目の前に女性の姿があった。「冬真……」楓の足がふらつき、彼の上に崩れ落ちるように倒れかかってきた。押しのけようにも、後ろで拘束された両手が動かない。身体を後ろに引くことしかできない。まるで骨が溶けたかのように、楓の体が冬真に覆い被さるように倒れ込んでくる。「楓!何をする気だ!」冬真が低く怒鳴った。楓は蕩けたような目つきで胸に手を当て、上気した吐息を漏らしながら彼を見上げた。「熱い……体が、かゆくて……たまらないの」冬真の眼差しが一気に冷え切った。「まさか、変なものでも飲まされたのか?」楓は朦朧とした頭で呟いた。「お酒を、少し飲んだだけ……」「誰に貰った?」思わず声が強くなる。「パーティーのボーイさんよ……」楓は顔を上げ、鼻先をくんくんと動かした。「この部屋、なんだか甘い香りがする……」楓の言葉が、氷の混じった水を頭から浴びせられたような衝撃を冬真に与えた。息を止めて、しばらくしてから再び呼吸すると、楓の言う甘い香りが確かに漂っていた。「まずい……!」冬真は胸の内で呟いた。この部屋に居続けているうちに、徐々に広がっていく香りに気付かなかった。楓のように部屋に入ってきた瞬間なら、その異変にすぐ気付いたはずだ。視線がテーブルのグラスに向かう。先ほど少し口をつけたきりだった。手錠を嵌められてからは、もう手が届かない。もし手が自由だったら、喉の渇きを潤すために、あのシャンパンに手を伸ばしていたかもしれない。「まさか……」不吉な予感が走る。「誰に案内されたんだ?」冬真は楓に問いかけた。「うん……」頬を紅潮させた楓は、熱く火照った額に手を当てながら答える。「うーん……覚えてないわ。冬真、私、酔っちゃったみたい。頭がクラクラする……」そう言いながら、また冬真に倒れかかってくる。冬真が咄嗟に立ち上がると、楓はソファに崩れ落ち、革張りの肘掛けに歯を打ちつけた。力のない悲鳴が漏れる。冬真の呼吸が荒くなり、顔が凍りついたように硬直した。「罠だ……」眉間に深い皺を刻みながら、グラスを睨みつける。「このクスリ入りの酒は、桐嶋に飲ませるはずだったんじゃないのか?お前、夕月が桐嶋のた

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status