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第3話

Author: 卵黄おにぎり
詩織は茉優の挑発に取り合わず、体をかわして立ち去ろうとした。

逃げる気だと見て取った茉優は眉をひそめ、さらに罵声を浴びせようとしたが、回廊に馴染みのある姿が現れたのを見て、考えを変えた。

彼女は詩織の手を掴み、そのまま一緒に噴水池へと飛び込んだ。

二人とも泳げず、水の中で必死にもがきながら助けを求めた。

詩織の傷口が開き、鮮血が池を赤く染める。

冷たい水が鼻に逆流し、激しく咳き込んだ。

痛みに抗う力もなく、体は沈んでいく。

窒息しそうになった時、賢人が駆け寄って飛び込んでくるのが見えた。

彼は彼女の横を通り過ぎ、一瞥もせず、手を差し伸べることもなく、茉優だけを抱えて岸に上がった。

茉優は目を赤くして彼の胸に飛び込み、まだ水の中にいる詩織を見て、わざと焦ったふりをした。

「詩織はうっかり私を突き落としちゃっただけなの。賢人、私には妹一人しかいないって知ってるでしょ?お願い、あの子を助けてあげて」

彼女の言葉を聞き、池の中の詩織を見て、賢人の表情は霜のように冷え切った。

「茉優、もうあいつを庇うな。あいつは君を殺そうとしたんだ。その上、自分も飛び込んで苦肉の策を使うとはな。

その性根が治らないなら、水の中で頭を冷やさせておけばいい!」

一言一句が詩織の耳に届き、心を深く突き刺した。

顔は酸欠で紫色になり、耳鳴りがし、全身の力が尽きた。

意識が遠のき、視界がぼやけていく。

賢人が茉優を抱きかかえて去っていくのをただ見つめながら、彼女は意識を失った……

……

どれくらい経っただろうか。詩織は寒風に晒され、凍えるような寒さで目を覚ました。

震えながら目を開けると、目の前に隆史と涼子が鬼のような形相で立っていた。

「気でも狂ったか?よくも茉優を水に突き落とせたものだ!姉を殺して後釜に座り、賢人と一緒になろうとでも思ったのか?」

「言っておくが、私達が生きている限り、絶対にそんなことはさせないわ!

あんたは爪の先ほども姉さんに及ばないんだ。賢人とは釣り合わない。現実を見ろ、身の程知らずな妄想はやめなさい!」

彼らの怒号を聞いて、詩織は全身が冷え切り、瞳が徐々に絶望に染まっていった。

長年押し殺してきた苦しみが、ついに爆発した。

「私が釣り合わないなら、あの子は釣り合うの?

あんたたちが偽証して騙さなければ、賢人があの子に見向きするわけないじゃない!私のものを奪ってあの子に与えて、恥ずかしいと思わないの?」

口答えする詩織を見て、涼子は顔を真っ赤にし、隆史は手を振り上げて彼女の頬を張った。

「この親不孝者が!俺たちは実の親だぞ。お前の命も持っているものも全て俺たちが与えたんだ。取り上げるのも姉にやるのも俺たちの勝手だ。文句を言う権利があると思っているのか!

これ以上、真実を口にしてみろ。ただじゃおかないぞ……」

言葉が終わらぬうちに、病室のドアが乱暴に開かれた。

賢人が眉をひそめて入ってきた。

「真実?何の真実だ?」

彼が突然入ってきたのを見て、隆史と涼子は飛び上がり、しどろもどろになった。

「い、いや、この親不孝者に説教をしていたんだ。なぜ茉優を突き落としたのか、その『真相』を吐かせようとしてな」

「そ、そうよ。死んでも認めないから、お父さんも私も腹が立って。どう罰すればいいか……」

二人は顔を見合わせ、阿吽の呼吸で話題をすり替えた。

賢人は深く考えず、氷のように冷たい視線を詩織に向けた。

「まだ過ちを認めないというなら、死体安置所に放り込んでおけ。反省するまで出すな」

隆史と涼子はそれを名案だと言わんばかりに、すぐにボディーガードを呼んで彼女を閉じ込めさせた。

詩織は赤く腫れ上がった頬を押さえ、瞳の奥は空虚だった。

抵抗すればさらに悲惨な目に遭うだけだと知っている。だから暴れることもなく、引きずられていくに任せた。

死体安置所の陰湿で不気味な冷気に包まれ、彼女はガタガタと震える体を抱きしめるしかなかった。

ふと、以前の西園寺家の本宅での日々を思い出した。

雷鳴が轟く嵐の夜、賢人と寄り添って暖め合った日々を。

あの頃、彼は上着を脱いで彼女にかけてくれた。手をしっかりと握り、胸に抱き寄せてくれた。「俺がいる。怖くない」と、何度も言ってくれた。

甘い記憶と冷酷な現実が交錯し、彼女の神経を苛んだ。

一分一秒が過ぎていく。寒さと飢えで意識が朦朧としてきた頃、ドアが開いた。

賢人が冷たい顔で入ってきた。その眼差しは鋭い。

「丸一日閉じ込められて、反省したか?」

「……私が間違ってたわ。何もかも、大間違いだった」

詩織は体を縮こまらせ、喉から絞り出すような掠れた声で答えた。

彼の顔に満足げな色が浮かぶのを見て、彼女はよろめきながら立ち上がり、部屋を出て行った。

心の中で、静かに呟く。

あの約束を信じたことが間違いだった。

彼を好きになったことが、間違いだったのだ。

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