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第112話

Author: 玉酒
美穂は大きく息を吸い込み、ゆっくり吐き出した。奥歯で頬の内側を噛みしめても、痛みをほとんど感じなかった。

物音に気づいて峯が出てくると、彼女の口元から血が滲んでいるのが目に入った。

「何してるんだ?気でも狂ったのか?」

眉をひそめ、彼は強引に彼女の顎をこじ開けようとした。

美穂は勢いよくその手をはねのけ、瞬く間に目尻が赤く染まった。それでも必死に涙をこらえた。

「和彦……」

彼女は低くつぶやいた。

「秦美羽の歓迎会、参加するよ」

電話を切ったあと、美穂は長く黙り込んだ。

珍しく軽口を叩かない峯は、黙って救急箱を取りに行った。

綿棒を手に戻ったとき、美穂はすでに落ち着きを取り戻していた。薬を受け取ろうとしたが、指先が口角の血に触れ、顔をしかめた。

ティッシュで血を拭い取りながら、彼に手を差し出した。

「私がやる」

「お前、透視でもできるのか?」

峯は受け取らず、椅子を指差した。

「座れ。俺が見てやる」

美穂は渋々従い、口を開いた。

「左側は噛み切れてるな」

彼は綿棒を近づけ、乱暴に見えて実はとても優しく薬を塗った。

一本の綿棒はすぐに赤く染まり、捨てようとしたとき、床に落ちていたパソコンの画面が視界に入った。

そこには年老いた男性の写真。

一瞬、峯の目が揺れた。思い出したのは、水村家の書斎にあった似た写真――美穂の養母の父、つまり外祖父の姿。

彼は画面を閉じた。止めようとした美穂は、間に合わなかった。

だが写真はすでに保存済み、いつでも開ける。

美穂は淡々とした彼の態度を見て、はっと気づいた。彼は――最初から知っていたのだ。

薬を塗り終えたあと、彼女はかすれた声で問うた。口内の痛みで言葉が歪んだ。

「……あなた、前からあの写真を見てたのね」

話すたびに鋭い痛みが走った。それでも彼女は彼を見据え、答えを求めた。

「そんなの、見ればわかるだろ?」

峯は彼女の右頬を掴み、にやりと不遜に笑った。

「じゃなきゃ、なんで俺が監視役に回されたと思う?親父はとっくに俺に資料を見せてた」

美穂は血の味を飲み込み、唇を震わせた。

「いつから調べてたの?」

「お前の養父母の事故報告と一緒に送られてきた。お得な『セット販売』だな、買って損なしってやつだ」と軽薄に告げた。

その瞬間、美穂の平手が彼の頬を打ち抜いた。

鋭い音と
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Comments (1)
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カナリア
峯は優しいんだよねぇ たぶん守ってくれてるんだと思っちゃう 美羽の歓迎会に誘う意味が分からない
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