CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―

CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―

last updateLast Updated : 2026-06-04
By:  天咲琴乃Updated just now
Language: Japanese
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24歳で処刑された侯爵令嬢ルピナス・カーディナル。 王妃候補として国のために尽くしてきた彼女だったが、大好きだった婚約者の第一王子ローゼンは隣国の王女に心を奪われ、「俺の言うことを聞かないならお前は要らない」と冷たく言い放つ。裏切りの果てにギロチンで命を落とした―― しかし次に目を覚ますと、処刑される一年前へと時が巻き戻っていた。 そして再び訪れた運命の日。 「もし良かったら―」 「結構です!!」 今度の人生で同じ失敗は繰り返さない! 元婚約者を全力回避しながら、自分の夢と未来を切り開くルピナス。だが、彼女を振ったはずの王子はなぜか執着を始めて……? 笑ってスカッとできる、人生やり直しラブコメファンタジー!

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Chapter 1

第1話 24歳で処刑された令嬢

私は二十四歳で処刑された。

冷たい石畳の上に膝をつく。

首には重い枷。

広場には大勢の民衆。

空はどこまでも青く、今日が私の処刑日だということが信じられなかった。

ルピナス・カーディナル。

侯爵家の長女。

第一王子ローゼンの婚約者。

そして――国家反逆罪の罪人。

反逆などしていない。

私はこの国のために勉強した。

王妃候補として歴史を学び。

外交を学び。

政治を学び。

夜更けまで本を読み続けた。

すべては未来の王となるローゼン殿下を支えるためだった。

それなのに。

私の視線の先にいる彼は、一度もこちらを見ようとしない。

隣には美しい女性が立っていた。

隣国の王女、マーガレット。

彼女は私を見ると、勝ち誇ったように微笑んだ。

その笑顔だけで十分だった。

ああ。

全部、この女だったのね。

「罪人ルピナス・カーディナル」

処刑人が宣告を読み上げる。

私は静かに目を閉じた。

せめて最後に。

一度だけ。

彼の声が聞きたかった。

「殿下……」

かすれた声で呼ぶ。

ローゼンはゆっくりと私を見た。

その青い瞳に、かつての優しさはなかった。

「ルピナス」

彼は冷たく言った。

「俺の言うことを聞かない女など必要ない」

――ああ。

そう。

私は貴方のために生きてきたのに。

貴方は一度も私を見ていなかったのね。

胸の奥で何かが音を立てて壊れた。

そして。

ギロチンの刃が落ちる。

ストン。

不思議なくらい痛みはなかった。

身体から体温が抜けていく。

手が冷たい。

足も冷たい。

眠い。

ああ。

これで終わりか。

私は目を閉じた。

「ルピナス様!」

聞き慣れた声がした。

「お薬をお持ちしました!」

……え?

私はゆっくり目を開けた。

見慣れた天井。

見慣れた部屋。

見慣れたカーテン。

そこは処刑場ではなく、私の自室だった。

私は勢いよく身体を起こす。

「えっ?」

首がある。

手もある。

生きている。

慌てて鏡を見る。

そこに映っていたのは二十四歳の私ではなかった。

まだ幼さの残る、二十三歳の私。

「まさか……」

コンコン。

扉がノックされる。

メイドが顔を出した。

「ルピナス様。お客様がお見えです」

お客様。

その言葉を聞いた瞬間。

私は思い出した。

今日。

この日。

忘れるはずがない。

風邪を引いて寝込んでいた私の見舞いに、ローゼン殿下が来た日だ。

そして――。

私が彼を好きになった日。

「嘘……」

つまり。

私は。

処刑される一年前に戻っている。

メイドが微笑む。

「殿下をお通ししてよろしいですか?」

私は思わず立ち上がった。

よし。

分かった。

やることは一つだ。

同じ未来にならなければいい。

同じ男を好きにならなければいい。

同じ婚約をしなければいい。

簡単じゃない。

私は拳を握った。

「通してちょうだい」

しばらくして。

扉が開く。

金色の髪。

青い瞳。

誰よりも美しい顔。

かつて私が人生を捧げようとした男。

ローゼン王子が現れた。

彼は少し照れたように笑った。

「ルピナス」

やめろ。

その顔に騙されるな。

未来の私は知っている。

イケメンでも。

声が良くても。

女ったらしは女ったらしだ。

ローゼンは私のベッドの傍へ歩み寄った。

そして真剣な顔で口を開く。

「もし良かったら俺と――」

私は即答した。

「結構です!!」

部屋が静まり返る。

ローゼンが固まる。

「え?」

「結構です!!」

「え?」

「付き合っていただかなくて結構です!!」

ローゼンの顔から血の気が引いた。

私は心の中でガッツポーズした。

よし。

未来回避、第一歩成功。

(第2話へ続く)

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第1話 24歳で処刑された令嬢
私は二十四歳で処刑された。冷たい石畳の上に膝をつく。首には重い枷。広場には大勢の民衆。空はどこまでも青く、今日が私の処刑日だということが信じられなかった。ルピナス・カーディナル。侯爵家の長女。第一王子ローゼンの婚約者。そして――国家反逆罪の罪人。反逆などしていない。私はこの国のために勉強した。王妃候補として歴史を学び。外交を学び。政治を学び。夜更けまで本を読み続けた。すべては未来の王となるローゼン殿下を支えるためだった。それなのに。私の視線の先にいる彼は、一度もこちらを見ようとしない。隣には美しい女性が立っていた。隣国の王女、マーガレット。彼女は私を見ると、勝ち誇ったように微笑んだ。その笑顔だけで十分だった。ああ。全部、この女だったのね。「罪人ルピナス・カーディナル」処刑人が宣告を読み上げる。私は静かに目を閉じた。せめて最後に。一度だけ。彼の声が聞きたかった。「殿下……」かすれた声で呼ぶ。ローゼンはゆっくりと私を見た。その青い瞳に、かつての優しさはなかった。「ルピナス」彼は冷たく言った。「俺の言うことを聞かない女など必要ない」――ああ。そう。私は貴方のために生きてきたのに。貴方は一度も私を見ていなかったのね。胸の奥で何かが音を立てて壊れた。そして。ギロチンの刃が落ちる。ストン。不思議なくらい痛みはなかった。身体から体温が抜けていく。手が冷たい。足も冷たい。眠い。ああ。これで終わりか。私は目を閉じた。「ルピナス様!」聞き慣れた声がした。「お薬をお持ちしました!」……え?私はゆっくり目を開けた。見慣れた天井。見慣れた部屋。見慣れたカーテン。そこは処刑場ではなく、私の自室だった。私は勢いよく身体を起こす。「えっ?」首がある。手もある。生きている。慌てて鏡を見る。そこに映っていたのは二十四歳の私ではなかった。まだ幼さの残る、二十三歳の私。「まさか……」コンコン。扉がノックされる。メイドが顔を出した。「ルピナス様。お客様がお見えです」お客様。その言葉を聞いた瞬間。私は思い出した。今日。この日。忘れるはずがない。風邪を引いて寝込んでいた私の見舞いに、ローゼン殿下が来た日だ。そして――。私が彼を好きになった日。「
last updateLast Updated : 2026-05-31
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第2話 結構です!!
部屋の空気が凍り付いた。ローゼン王子が固まっている。私も固まっている。いや、違う。私は冷静だ。とても冷静だ。なぜなら一度死んだから。「え?」ローゼンが間抜けな声を出した。「今、なんと……?」「結構です」私はもう一度言った。「付き合っていただかなくて結構です」沈黙。メイド達も固まっていた。一人のメイドが口元を押さえている。笑いを堪えているのかもしれない。気持ちは分かる。王子が振られるなど前代未聞だ。「ルピナス」ローゼンは困惑した顔で言った。「君は熱があるんだろう?」「ありません」「風邪で頭が混乱しているんじゃないか?」「しておりません」「いや、でも」「しておりません」私は真顔で答えた。前世の私なら頬を赤らめていただろう。だが今の私は違う。目の前にいるのは未来の元婚約者である。しかも私を処刑台送りにした男だ。「殿下」私はにっこり微笑んだ。「私は今、人生で一番正気です」ローゼンはますます混乱した。「ではなぜ断るんだ?」その質問を聞いた瞬間、私は思った。逆に聞きたい。なぜ受けると思ったのだ。しかし未来の話はできない。私は適当に理由を探した。「殿下は素敵な方です」「だろう?」「でも私には勿体ないです」「そうか?」「はい」「そうか」ローゼンが少し機嫌を直す。ちょろい。前世の私よ。なぜこの男に十年も振り回されたのだ。「なのでお断りします」「待て」「結構です」「待て」「結構です」「話を聞け!」「結構です!」私は勢いよく布団をかぶった。見たくない。顔が良いのは認める。声も良い。だが騙されない。私は知っている。イケメンでも駄目な男は駄目なのだ。布団の中から叫ぶ。「メイド隊!」「は、はい!」「殿下を玄関までお送りして!」「ルピナス!?」ローゼンが悲鳴を上げた。「風邪がうつるといけませんので!」「いや私は構わないが」「私は構います!」「なぜだ!」「色々です!」ローゼンは納得していなかった。当然である。だが私はもっと納得していない。処刑されたのは私なのだ。しばらく押し問答が続いたあと。メイド達が恐る恐る言った。「殿下……」「帰れと?」「はい……」「本当に?」「はい……」ローゼンは呆然としていた。人生で初めて女性に振
last updateLast Updated : 2026-06-01
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第3話 王子、眠れない
その夜。王宮の第一王子の寝室では異変が起きていた。ローゼン王子が眠れないのである。ベッドに横になる。目を閉じる。開く。閉じる。開く。そして天井を見つめる。「なぜだ……」誰もいない部屋で呟いた。なぜ振られたのか。それが分からない。二十七年生きてきたが、女性に断られたことなど一度もなかった。むしろ逆だ。幼い頃から令嬢達が寄ってきた。微笑めば頬を染める。手を差し出せば喜ぶ。それが当たり前だった。なのに。「結構です!!」ローゼンは飛び起きた。耳に残っている。あの声が。あの勢いが。「結構です!!」「……うるさい」思わず自分で言った。だが脳内ルピナスは止まらない。「結構です!!」「結構です!!」「付き合っていただかなくて結構です!!」「うるさい!」枕を投げた。侍従長が飛び込んでくる。「殿下!?」「なんでもない!」「賊ですか!?」「違う!」「刺客ですか!?」「違う!」「では何が」ローゼンは真顔で答えた。「振られた」侍従長は固まった。「……はい?」「振られた」「どなたに」「ルピナスに」「……」侍従長は静かに扉を閉めた。「おい待て」「殿下も大変なのですね」「待て」「おいたわしい」「待て」「おやすみなさいませ」「待てと言っている!!」扉が閉まった。ローゼンは頭を抱える。意味が分からない。本当に意味が分からない。何か失礼なことをしただろうか。思い返してみる。花を贈った。喜んでいた。話しかけた。喜んでいた。笑いかけた。喜んでいた。問題ない。むしろ好感触だった。なのに。今日だけおかしかった。まるで。何年も前から自分を知っているような。そんな目をしていた。「……まさかな」考えすぎだ。風邪で機嫌が悪かったのだろう。そうに違いない。そう結論付けた時だった。コンコン。扉がノックされた。「誰だ」「私です」聞き慣れた女性の声。隣国の王女、マーガレットだった。ローゼンは少し表情を緩める。「入れ」マーガレットは優雅に一礼した。「お加減はいかがですか?」「別に悪くない」「ですが、何やら落ち込んでいると聞きましたわ」王宮の噂は早い。ローゼンは苦笑した。「まあ少しな」「何があったのです?」マーガレットが首を傾げる。ロ
last updateLast Updated : 2026-06-01
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第4話 なぜ僕が振られる?!
翌朝。第一王子ローゼンは寝不足だった。目の下にはうっすらと隈。朝食のパンを見つめながら呟く。「なぜだ……」隣にいた国王が顔を上げた。「何がだ?」「なぜ振られた」国王はパンを落とした。「は?」「ルピナスに振られた」「誰が?」「俺が」「ルピナスに?」「そうだ」国王は頭を抱えた。朝から重い話だった。「何かしたのか?」「していない」「本当に?」「していない」国王は疑わしい目を向けた。ローゼンは真剣だった。本気で分からないのだ。「ルピナスは昔からお前を好いていただろう」「そうだ」「ではなぜだ」「それが分からない」親子揃って分からなかった。その頃。カーディナル侯爵家。ルピナスは元気だった。昨日まで風邪だったとは思えない。朝食を食べながら新聞を読んでいる。「お嬢様」メイドが声をかけた。「何か良いことでも?」「え?」「朝からずっと機嫌が良いです」ルピナスは紅茶を飲んだ。機嫌が良い。当然だ。処刑フラグを一本へし折った。嬉しくないはずがない。「人生は素晴らしいわ」「そうですか」「空気も美味しい」「そうですか」「パンも美味しい」「そうですか」メイドは少し心配になった。その日の午後。王立学院。ルピナスが教室へ入った瞬間。全員がざわついた。「聞いた?」「聞いた聞いた」「王子を振ったらしい」「本当に?」「本当らしい」ルピナスは席に座った。平和だった。最高だった。すると。ドン!机に手が置かれる。顔を上げる。そこにはローゼン王子がいた。教室が静まり返る。ルピナスは心の中で叫んだ。来たーーーーーー!!「ルピナス」「なんでしょう」「話がある」「ありません」「ある」「ありません」「ある」「ありません」周囲の生徒達が吹き出した。ローゼンが振られている。それだけで事件だった。「ルピナス」「なんでしょう」「俺は何かしたか?」ルピナスは思った。いっぱいした。だがまだ未来の話である。「いいえ」「ではなぜだ」「相性です」「相性」「相性です」ローゼンは納得していなかった。全然納得していなかった。その時。後ろから声がした。「殿下」全員が振り向く。そこには美しい少女が立っていた。赤紫色の長い髪。鋭い瞳。華やかな美貌。
last updateLast Updated : 2026-06-01
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第5話 友達になりましょう
ダリアは頭を抱えていた。目の前には満面の笑みを浮かべたルピナス。意味が分からない。本当に意味が分からない。「友達になりましょう」「断りますわ!」即答だった。教室中が頷いた。当然である。普通ならここで終わる。だが。ルピナスは普通ではなかった。「そう」「そうですわ」「じゃあ明日また聞くわ」「聞かなくて結構です!!」ダリアは思わず叫んだ。ルピナスは感心したように頷く。「良い声ね」「何を言ってますの!?」「将来有望だわ」「何がですの!?」ダリアは混乱していた。授業終了後。ルピナスは帰宅準備をしていた。そこへ。ローゼンが現れる。「ルピナス」「結構です」「まだ何も言っていない」「予防です」「何の」「未来の」ローゼンは意味が分からなかった。最近ずっと意味が分からない。「少し話を」「結構です」「聞いてくれ」「結構です」「頼む」「結構です」「なぜだ」「なぜだじゃありません」ルピナスは立ち上がった。ついに来た。前世では言えなかったことを言う時が。「王子」「なんだ」「女性に断られたら引きなさい」教室が静まり返る。ローゼンも固まる。「……え?」「しつこい男性は嫌われます」「しつこくない」「今しつこいです」「そんな」「今です」ローゼンは傷ついた顔をした。少し可哀想だった。少しだけ。本当に少しだけ。そこへ。「殿下」またしてもダリアが現れた。救世主である。「もう帰りますわよ」「ダリア」「授業は終わりました」「そうだな」「帰りましょう」ローゼンは諦めたように去っていく。ルピナスは感動した。「ありがとう」「何がですの」「助かったわ」ダリアはため息をついた。「別に貴女を助けたわけではありません」「優しいのね」「違います」「優しいわ」「違います!」ルピナスは微笑んだ。前世の記憶が蘇る。ダリアはいつも一人だった。高飛車で。誤解されやすくて。口が悪い。でも。困っている人を見ると放っておけない。そんな人だった。「ダリア」「なんですの」「一緒にお茶しない?」「しません」「ケーキ付き」「……」ダリアの眉が動いた。ルピナスは見逃さなかった。「苺のショートケーキ」「……」「モンブランもあるわ」「……」「プリンも」
last updateLast Updated : 2026-06-01
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第6話 フジという男
帰りの馬車の中。ルピナスは向かい側に座るフジを見つめていた。フジは窓の外を見ている。無言。ひたすら無言。静かだった。あまりにも静かだった。ルピナスは耐えられなくなった。「フジ」「なんだ」返事は早い。「趣味は?」「剣術」「それ仕事では?」「そうだな」会話終了。ルピナスは困った。ダリアがいたら笑っていただろう。「好きな食べ物は?」「米」「子供?」「違う」会話終了。ルピナスは天井を見上げた。何この人。難しい。しばらくして。フジが口を開いた。「お前」「なに?」「なぜ王子を振った」ルピナスは固まった。核心だった。聞かれると思っていた。だが答えられない。『未来で処刑されるからです』とは言えない。「なんとなく」「そうか」フジは納得した。早い。「聞き返さないの?」「聞いてほしいのか?」「聞いてほしくない」「なら聞かない」ルピナスは少し笑った。変な人。屋敷へ着く。馬車から降りる時だった。ルピナスの足が少しもつれた。「あっ」倒れそうになる。その瞬間。ぐいっと腕を掴まれた。気づけばフジが支えていた。「大丈夫か」「え、ええ」「まだ本調子じゃないな」ルピナスは驚いた。風邪が治ったばかりなのは事実だ。でも誰にも言っていない。フジは平然としている。「無理するな」「……はい」なぜか素直に返事をしてしまった。その頃。王宮。ローゼンは執務机に突っ伏していた。「なぜだ……」またである。側近達はもう慣れていた。「殿下」「なんだ」「本日二十七回目です」「何がだ」「なぜだ、です」ローゼンは黙った。数えていたのか。怖い。「本当に意味が分からない」「何がでしょう」「ルピナスだ」側近達は全員ため息をついた。また始まった。「俺は何かしたか?」「していないのでは?」「そうだろう?」「はい」「なのになぜだ」誰も答えられなかった。翌日。学院。ルピナスは元気に登校していた。未来が変わり始めている。それだけで楽しい。そこへ。「ルピナス様」マーガレットが現れた。金色の髪を揺らしながら微笑んでいる。前世の処刑台を思い出し、ルピナスの笑顔が引きつった。マーガレットは気づかない。「殿下を困らせているそうですわね」来た。ルピナスは思
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第7話 王子、尾行する
ローゼン王子は決意した。調査が必要だ。なぜルピナスが自分を振ったのか。なぜ避けるのか。なぜ「結構です!!」なのか。その謎を解かなければならない。王族として。未来の国王として。そして何より。一人の男として。「殿下」側近が声をかける。「なんだ」「現在何をなさっているのでしょう」ローゼンは真剣な顔で答えた。「尾行だ」側近は頭を抱えた。学院の放課後。ルピナスは上機嫌だった。隣にはダリア。今日も美人である。「ダリアー!」「なんですの」「ケーキ!」「知っていますわ」「楽しみね!」「貴女は犬ですの?」ルピナスは笑った。前世ではほとんど話せなかった。だが今世は違う。ダリアは面白い。反応が良い。からかい甲斐がある。最高だった。「友達になりましょう」「まだ諦めていませんの!?」「諦めないわ」「怖いですわ!」ダリアが本気で後ずさる。ルピナスは満面の笑みだった。その二十メートル後方。物陰。に、彼はいた。息を潜めて。それはいた。ローゼンがいた。「楽しそうだな」「帰りましょう殿下」「嫌だ」「帰りましょう」「嫌だ」「帰りましょう」「嫌だ」側近は泣きたくなった。その時。ルピナスが突然振り返った。「ん?」ローゼンは慌てて柱の後ろへ隠れる。ダリアが首を傾げた。「どうしましたの」「誰かに見られている気がする」「気のせいですわ」ダリアは即答した。王子が尾行しているなど想像もしていない。当然である。普通はない。二人は王都で人気のカフェへ入った。ローゼンも入ろうとする。しかし。「殿下」「なんだ」「変装してください」「なぜだ」「王子だからです」「そうだったな」今気付いたのか。側近は遠い目をした。数分後。ローゼンは帽子と眼鏡を装備した。全然隠れていなかった。むしろ目立っていた。「完璧だ」「完璧ではありません」「そうか」「そうです」「そうか」「そうです」側近は疲れていた。店内。ルピナスはケーキを見て目を輝かせていた。「素晴らしいわ」「まだ食べていませんわよ」「見れば分かるわ」「分かりませんわ」ダリアは紅茶を飲む。ルピナスはケーキを頬張る。幸せだった。人生最高。処刑もされていない。ローゼンも近くにいない。平和だ。「そうい
last updateLast Updated : 2026-06-02
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第8話 ダリア、お茶会連行
フジの登場によって。カフェの空気は妙なものになっていた。ルピナス。ダリア。ローゼン。フジ。誰も状況を説明できない。いや。説明したくない。特にローゼンは。「何をしている」再びフジが聞く。ローゼンは咳払いした。「偶然だ」「そうか」フジは頷いた。信じた。ダリアは驚いた。信じるの!?ルピナスも驚いた。信じるの!?だがフジは真顔だった。本気で信じたらしい。「それより」ルピナスが立ち上がる。「フジも座りなさい」「いや」「座りなさい」「いや」「座りなさい」「……分かった」フジが折れた。ダリアは思った。この人、意外と押しに弱い。数分後。テーブルの上にはケーキが並んでいた。ルピナスは幸せそうだった。「素晴らしいわ」「さっきも聞きましたわ」ダリアが呆れる。だが自分もモンブランを食べている。説得力はない。「ダリア」「なんですの」「友達になりましょう」「まだ言いますの!?」ルピナスは頷く。本気だった。前世で話せなかったのが惜しいと思うくらいには。本気だった。ダリアはため息をつく。「なぜ私なんですの」ルピナスは即答した。「面白いから」「最低ですわ!」「褒めてるのよ」「褒められていませんわ!」ローゼンが少し笑った。ダリアが睨む。「殿下」「なんだ」「笑いましたわね」「少し」「少しじゃありませんわ」今日は全員がおかしかった。その時。店員が新しいケーキを運んできた。期間限定。苺たっぷりの特製ショートケーキ。ルピナスの目が輝く。ダリアの目も輝く。二人は同時にケーキを見る。そして。同時に手を伸ばした。「あ」「あ」沈黙。ルピナスはケーキを見た。ダリアを見た。ケーキを見た。ダリアを見た。悩んだ。すごく悩んだ。そして。「半分こにしましょう」ダリアは固まった。「……は?」「半分こ」「子供ですの?」「ケーキは分け合うと美味しいわ」意味が分からなかった。だが。少しだけ。ほんの少しだけ。嬉しかった。「ダリア」ルピナスが笑う。「今度はもっと美味しい店へ行きましょう」「……」「友達として」「……」「ダリア?」ダリアは顔を背けた。耳だけ赤かった。「勝手になさい」ルピナスは満面の笑みになる。「ありがとう!」「承諾
last updateLast Updated : 2026-06-02
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第9話 マーガレット、苛立つ
マーガレットは不機嫌だった。非常に。とても。ものすごく。不機嫌だった。「ありえませんわ」紅茶を置く音が少し大きくなる。侍女が肩を震わせた。今日は近付かない方が良い。長年仕えてきた経験がそう告げていた。マーガレットは思い出していた。学院の廊下。中庭。食堂。どこへ行っても。ルピナスとダリアがいる。楽しそうに話している。笑っている。そして。その近くには。フジがいる。「なぜですの……」マーガレットは納得できなかった。前世の記憶など知らない。だから彼女から見れば。ルピナスは婚約者候補を振った変な女だ。普通なら孤立する。噂になる。居場所を失う。そうなるはずだった。なのに。なぜか楽しそうにしている。「意味が分かりませんわ」マーガレットは机を叩いた。侍女がびくりとする。本当に意味が分からない。翌日。学院。マーガレットは偶然を装って中庭へ向かった。もちろん偶然ではない。調査である。すると。いた。ルピナス。ダリア。そしてフジ。三人ともいた。ルピナスが楽しそうに喋っている。「それでね!」「それでね!」「それでね!」ダリアがため息をつく。「話が長いですわ」「大事なことよ」「五分前からそう言っています」「まだ序章よ」「本編に入ってくださいまし」フジは黙って聞いていた。たまに頷いている。マーガレットは信じられなかった。フジ。近衛騎士団の有望株。女性に興味がないと有名な男。そのフジが。ルピナスの話を真面目に聞いている。「面白くありませんわ」ぽつりと漏れた。その時。マーガレットの足元で。パキッ。小枝が折れた。静寂。ルピナスが振り向く。「ん?」ダリアが振り向く。「誰ですの?」フジが振り向く。そして。マーガレットを見つけた。数秒後。マーガレットは三人の前に立っていた。逃げられなかった。特にフジの視線が鋭かった。「マーガレット様」ルピナスが微笑む。マーガレットも笑顔を作る。社交界用の笑顔だ。完璧だった。「ごきげんよう」「ごきげんよう」「何をしていらっしゃるの?」「お話よ」「そうですの」「そうよ」会話が終わった。マーガレットは困った。もっと気まずくなると思ったのに。ルピナスが普通すぎる。すると。ルピナスが言っ
last updateLast Updated : 2026-06-03
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第10話 王子話に混ざりたい
ローゼンは窓から中庭を見ていた。ルピナス。ダリア。フジ。そしてマーガレット。四人がお茶を飲んでいる。楽しそうだった。「なぜだ……」本日十四回目である。隣の側近が言った。「殿下」「なんだ」「授業を受けてください」「今忙しい」「何がですか」「観察だ」側近は遠くを見た。もう何も言うまい。ローゼンは真剣だった。ルピナスが笑っている。ダリアも笑っている。フジも少しだけ表情が柔らかい。マーガレットですら会話に混ざっている。なのに。自分だけいない。「なぜだ……」十五回目。その頃。中庭。ルピナスはご機嫌だった。お茶。ケーキ。友達候補。最高である。「マーガレット様」「なんですの」「その髪飾り素敵ね」マーガレットは少し驚いた。褒められるとは思わなかった。「ありがとうございます」「似合ってるわ」「……」マーガレットは少し困った。調子が狂う。前世のルピナスなら。きっと自分を警戒していた。だが今のルピナスは違う。変だった。すごく変だった。「ルピナス様」「なに?」「貴女は変ですわ」「よく言われるわ」ダリアが頷いた。フジも頷いた。ルピナスだけが納得していなかった。その時だった。ドン。誰かが机に手をついた。全員が振り向く。そこには。ローゼンがいた。「混ぜてくれ」沈黙。ダリアが紅茶を吹きそうになった。マーガレットが固まる。ルピナスは真顔だった。フジは無表情だった。数秒後。ルピナスが言った。「嫌です」即答だった。ローゼンが固まる。「なぜだ」「女子会だからよ」「フジがいる」「フジは別」「なぜだ」「フジだからよ」ローゼンは納得できなかった。フジも少し考えた。確かに。なぜ自分はいるのだろう。誰にも分からなかった。「殿下」ダリアが口を開く。「なんだ」「嫌がられておりますわ」「そうか」「そうです」「そうか」「そうです」ローゼンは静かに落ち込んだ。ルピナスは少しだけ良心が痛んだ。少しだけ。本当に少しだけ。「……ケーキ食べる?」ローゼンが顔を上げる。「いいのか」「一個だけよ」「ありがとう」ローゼンは少し嬉しそうだった。マーガレットは思った。第一王子。意外とちょろい。そしてダリアも思った。この王子。思って
last updateLast Updated : 2026-06-04
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