「和彦、もう一回できる?」窓際の自分の影をしばらく見つめながら、水村美穂(みずむら みほ)はゆっくりと口を開いた。声はおだやかで優しかった。後ろに立っていた陸川和彦(りくかわ かずひこ)はコートを羽織り、だらしなく開いた襟元から、赤く染まったくっきりとした鎖骨がのぞいていた。ボタンを留めていた手を止め、彼は整った眉をわずかに伏せてから、問い返した。「そんなに乗り気か?」二人が結婚してもうすぐ三年だ。会うことはめったになく、会っても淡々と過ぎるだけで、体を重ねる回数も指折り数えるほどだった。やがて、一緒に食事をしたら、それぞれの部屋に戻るだけになってしまった。だから美穂がもう一回と言い出したとき、和彦は少し驚いた。彼の黒い瞳に、一瞬だけ真剣な色が宿った。美穂は指をぎゅっと丸めて、服の裾を揉むと、シワを摘みながら視線をそらした。滅多に見せない恥じらいの仕草が、男の中に眠っていた衝動をかき立てた。天井のライトが、淡く光の輪を作った。肝心なときに、美穂は唇の端を噛み、小さな声で言った。「その……ゴム無しで、いい?」男の動きがピタリと止まった。情熱にあふれていた部屋が、一瞬で凍りついたように静まり返った。美穂はそっと目を閉じ、両手を男の肩に添えた。張り詰めた弓のように緊張した背中が震え、そこには戸惑いがにじんでいた。しばらくして、男の低く冷たい声が耳に届いた。「理由は?」まさに彼らしい淡々とした口調で、冷酷無情な態度だった。「お義母様が、孫の顔見たいって」美穂の声はかすかで、唇の端は噛んで少し痛んでいた。そして、間を置いてから、落ち着いた口調で言った。「知彦、私たち、もう結婚して三年よ」彼女は彼を注意している。陸川家は立派な名家だ。そして、和彦はその長男だ。彼は今年で二十八歳になるが、まだ跡取りはいない。美穂の脳裏に、新婚初夜のことがよみがえった。彼が一番親密なことをしている最中にもかかわらず、子供なんて欲しくないと冷たく言い放った。まるで冷水が頭から浴びせられたように、彼女の満ちあふれる熱意を打ち消した。彼女という政略結婚の相手が嫌いだから、その子供までも嫌っているのだ。だが、彼女にはどうすることもできなかった。なぜなら、和彦は幼い頃から彼女がずっと恋い慕
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