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第1072話

Penulis: 木真知子
あのボロボロになったスーツ。

隼人は今でも大切にしまっていて、誰にも触らせようとしなかった。

けれど、彼は新しいスーツを桜子に頼みたかった。

それは単なる衣服ではなく――新しい始まりの象徴だった。

彼女との、やり直しの願いを込めて。

「本当に、私の作った服が好きなの?」

桜子は大きな瞳を瞬かせながら、細い指で隼人の顎をくすぐった。

「作ってあげてもいいけど......

もし気に入らなかったら無理して着ないでね?

私のために我慢してほしくないの。

たとえ服一着でも」

隼人の喉がつまる。

胸の奥が、熱く痛んだ。

しばらく黙ったあと、感情を抑えきれずに低く言う。

「本当は、ずっと好きだった。

でも、あの頃の俺はバカで、素直になれなかった。

言葉にするのも下手だった。

......桜子、欲を言えばきりがないけど......

もう一度だけ、やり直すチャンスが欲しい」

「大げさよ。服一着の話でしょ」

桜子は軽やかに笑った。

過去の痛みなんて、もうこだわる気はなかった。

「今の仕事が一段落したら、作ってあげるわ」

隼人の目が熱を帯びる。

言葉が出ない。

代わりに、彼はそっと桜子を押し倒し、柔らかな唇を奪った。

指先が絡み合い、熱が溶け合う。

その夜、言葉はもう必要なかった。

......

翌朝。

樹が車を手配し、桜子を海門へ送り届けた。

隼人は自分で送ると言い張ったが、桜子は首を横に振り、

「ちゃんと休んでて」と微笑んだ。

彼は玄関先に立ち、ロールスロイスが見えなくなるまで見送っていた。

たった数分離れただけなのに、胸が締めつけられる。

すでに、彼は『恋の病』の真っ最中だった。

「いやぁ~びっくりしたわ。

ゴミ出しに行ったら、門の前に大きな石が立ってるんだもの」

白倉が手のほこりを払いつつ、からかうように笑った。

隼人は我に返って眉をひそめる。

「石?どこに?」

「遠くにあるようで、すぐそばにある――『妻を想う石』よ」

「......っ!」

隼人の頬が一瞬で真っ赤になった。

......

桜子が閲堂園に戻ると、万霆は外出中で、夜にならないと帰らないという。

三人の奥方も留守だった。

仕方なく、桜子は部屋に戻り、そのままベッドに倒れ込んだ。

深い眠りから目覚めたのは午後。

ちょうどその
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