LOGIN愛する夫と秘書に裏切られ、父の命と全財産を奪われた挙げ句、海に沈められ殺された「私」(美咲)。だが、絶望の底で目を覚ますと、殺される前の過去へタイムリープしていた。 二度目の人生、私は復讐の悪魔となることを誓う。天神の利権を狙う冷徹な韓国財閥のトップであり、瀕死の「魔王」カン・テジュンを拾い、彼を夫を殺す「凶器」として契約を結ぶ。 圧倒的な暴力と権力を持つ魔王を従え、かつて自分を虐げた者たちを次々と残酷な地獄へ叩き落としていく美咲。だが、復讐の過程で魔王との間に芽生えたのは、互いを縛り合い喰らい尽くす、純度100%の狂気と依存の愛だった。日韓を股にかけた極上の復讐サスペンス。
View More「愛する夫と部下の裏切り。絶望の海に沈んだ私は、地獄の淵で目を覚ます――」
◇
バキッ。
乾いた音が、頭蓋骨に響いた。
激痛よりも先に、世界が回る。 私の右足だ。「……あ、ぐぅ……ッ」
雨の叩きつけるクルーザーの甲板。
這いつくばる私の視界に、濡れて光る革靴が映る。 見上げると、夫・健太が蔑むような目で見下ろしていた。「汚ねえな。血でルブタンが台無しだ」
愛していた笑顔はそこになく、あるのは泥を見るような目。
「なんで……健太……」
ガチャリ。キャビンのドアが開く。
「パパぁ、もう終わりにしてよぉ。胎教に悪いじゃない」
現れたのは、私達の会社の秘書であり、妹のように可愛がっていた愛理。
彼女は傘もささず、ふっくらとしたお腹を愛おしそうに撫でている。「あか……ちゃん……?」
「先輩、気づかなかったんですかぁ? 健太さんの子ですよ。もう5ヶ月」
愛理はくすくすと笑い、私の顔をヒールの先で踏みつけた。
「先輩が不妊治療で泣いてる間、私たち、この船でずーっと『種付け』してたんですよぉ」
「……あぁぁぁぁぁぁ!!」
喉が裂けるほどの絶叫。
それを遮るように、健太が私の髪を掴み上げる。「うるせえな。……ああそうだ美咲、冥土の土産にいいことを教えてやる」
健太の口が、私の耳元に近づく。腐った生ゴミのような息。
「先月死んだお前の親父……心不全だったよな?」
最愛の父。まだ癒えぬ最大の悲しみ。
「あれ、俺が薬をすり替えたんだ」
心臓が止まる。
「遺産相続の手続き、待つの面倒くさかったからさぁ! ギャハハ!」
「社長ったら、悪い人ぉ〜(笑)」こいつらは、人間じゃない。
涙が蒸発し、腹の底からドス黒いマグマが噴き出す。「……殺してやる……お前ら……全員……!!」
「あーあ、怖い怖い。じゃあな、俺のATM!」
二人が私の体を持ち上げる。宙に浮く体。
「バイバイ。来世では幸せになってねぇ!」
ドボンッ!!
冷たい博多湾が、私を飲み込んだ。
暗い。寒い。苦しい。 水面の上から、こもった嘲笑が遠のいていく。(許さない……絶対に許さない……)
薄れゆく意識の中で、私は誓った。
神になど祈らない。 もし地獄から這い上がれるなら、私は悪魔にだって魂を売る――。◇
「……おい、起きろよ」
頬を叩く感触。
ガバッ、と息を吸い込んで目を開けた。「かはっ……! はっ、はっ……!」
溺れた時のように、喉がヒューヒューと鳴る。
シーツを握りしめる手が、脂汗で滑る。 目の前に、男の顔があった。「なんだよ、うなされて。すごい汗だぞ」
健太だ。
パジャマ姿で、歯ブラシをくわえながら、不思議そうに私を覗き込んでいる。「ひっ……!」
反射的に後ずさりし、ベッドから転がり落ちた。
全身の震えが止まらない。 殺される。また海に落とされる。「おいおい、情緒不安定だな。今日は大事な日だぞ」
健太が呆れたように言った。
「『事業承継の調印式』だろ? 親父さんも待ってるぞ」
え……?
親父さん(父さん)が、待っている? 父は先月、殺されたはずじゃ……。震える手で、枕元のスマホを掴む。
画面の日付が、青白く光る。『2025年2月14日』
父が死ぬ、3ヶ月前。
私が殺される、1年前。 そして……健太が会社を乗っ取る、運命の日。「ほら、立てよ。愛してるよ、美咲」
健太が手を差し伸べてくる。
さっき私を蹴り上げ、父を殺したと笑った、その手だ。 吐き気が喉までせり上がる。「ウッ……!!」
私は口元を押さえ、洗面所へ駆け込んだ。
「オエッ……!! ゲホッ……」
胃液を吐き出し、顔を上げる。
鏡の中の顔色は土気色だが、傷はない。足も折れていない。戻ったのだ。
あの地獄の始まりの日に。ガチャガチャとノブが回される。
「美咲? 大丈夫か?」
健太の猫撫で声がする。
私は蛇口を全開にして水を出し、その声をかき消した。
タオルで乱暴に口を拭う。 鏡の中の自分と目が合う。泣いてはいない。
私の瞳孔は開き、爬虫類のように冷たく光っていた。父さんはまだ生きている。
そして、ドアの向こうには、これから私を殺す男がいる。鏡の中の私が、ニヤリと、口角を歪めた。
「……待っててね。今度は私が、地獄を見せてあげる」
「強靭な獣から牙を奪い、完全に服従させるための最も確実な方法は、鞭で打つことではない。二度と立ち上がりたくなくなるほどに甘く、柔らかく、底知れぬ『無条件の愛』という名の泥沼に沈めてやることだ――」◇ インペリアルスイートでの、ソル・アリンとの息が詰まるような対峙を終え、私は一人、ホテルから待たせていたハイヤーに乗り込んだ。「……ペントハウスへ」 運転手に行き先を告げ、深く後部座席に身を沈める。 窓の外を流れる福岡の街並みは、昨日まで私とテジュンが完全に支配していたはずの、きらびやかな私たちの箱庭だった。 しかし、アリンという『本物の怪物』が降り立った今、この街の権力構造は、たった一晩で音を立てて崩れ去ろうとしている。 私の脳裏に、アリンの絶対的な見下しの視線と、あの言葉がリフレインする。『テジュンから離れなさい。そうすれば、あなたの命だけは助けてあげる』 (……ふふっ) 私は、ダークドレスの膝の上で組んだ両手を見つめ、声に出さずに笑った。 彼女は、すべてを力と金で解決できると信じている。テジュンという男が、幼い頃から自分に恐怖で縛り付けられた、決して逆らえない「所有物」だと疑っていない。 確かに、物理的な力や社会的な権力において、私はソル・グループの令嬢であるアリンの足元にも及ばない。彼女がその気になれば、私が築き上げた裏工作のネットワークなど、札束と暴力で一瞬にして焼け野原にできるだろう。 だが、彼女は決定的なミスを犯している。 テジュンという男の『精神の脆さ』を、ただの弱点としてしか見ていないことだ。 人間という生き物は、恐怖で支配され続けると、必ずどこかで限界を迎える。 張り詰めた糸が切れた時、彼らが求めるのは「正しい道」でも「新たな力」でもない。ただ、自分の無様さや弱さをすべて肯定し、甘やかしてくれる『絶対的な逃げ場』だ。 アリンは彼を鞭で打ち、首輪を強く引くことで支配してきた。 ならば私は、彼から一切の重圧を取り払い、彼が二度と自分の足
「自分が手懐けたと信じていた猛獣が、別の飼い主の前で無様に尻尾を巻く姿を見た時。私が感じたのは落胆でも絶望でもなく、彼をそこまで怯えさせる『絶対的な力』を、この手でドロドロに犯してやりたいという、異常なまでの加虐心だった――」◇「……ご忠告、ありがとうございます。でも……うちの主人は、とても『噛み癖』が悪いですから。不用意に手を出せば、お怪我をされるかもしれませんよ? (韓国語)」 福岡の夜景を見下ろす豪奢なバンケットルーム。数百人の日本の権力者たちが息を殺して見守る中、私は着物の袖の中で拳を握りしめ、漆黒のドレスを纏ったソル・アリンに向けて、極上の毒を含んだ微笑みを放った。 私のその言葉に、アリンは微かに目を細めた。 血のように赤い彼女の唇が、弧を描く。それは、人間の女が浮かべる笑みではなかった。路傍で喚く羽虫の羽を、どうやって千切ってやろうかと思案するような、残酷で純粋な『捕食者』の顔だった。「……噛み癖? (韓国語)」 アリンはフツッと吐息を漏らし、手にしたシャンパングラスを優雅に揺らした。「ずいぶんと面白い冗談ね。血統書のない野良猫は、自分が何を飼っているのかも理解できないらしいわ。……テジュン(韓国語)」 アリンが、ひどく静かで、けれど絶対的な服従を強いる声で、私の隣に立つ魔王の名を呼んだ。 その瞬間。 私の隣で、常に圧倒的な威圧感を放っていたはずのカン・テジュンの身体が、ビクッと目に見えて硬直した。 彼は、私が「大石県議を服従させた」と報告した夜に見せたような傲慢な笑みも、裏社会を制圧した時の凶暴な牙も、すべて剥ぎ取られたように立ち尽くしていた。 額には冷たい汗が滲み、呼吸が浅くなっている。「……はい、アリン理事(韓国語)」 テジュンの口から漏れたのは、信じられないほど掠れた、卑屈な声だった。 彼は私の横から一歩前に出ると、アリンの前で深く、奴隷のように頭を下げた。
「自分が飼いならした猛獣だと思っていた男が、実は誰かに首輪をつけられた『血統書付きの猟犬』に過ぎなかったと知った時。絶望よりも先に込み上げてきたのは、その元の飼い主の喉笛を噛み千切ってやりたいという、ドス黒い独占欲だった――」◇ 冷たい大理石の床に這いつくばりながら、私は狂ったように笑い続けた。 喉の奥から湧き上がる乾いた笑い声が、誰のいない広大なエントランスに不気味に木霊する。「……あはっ、あはははは……ッ!」 自分の愚かさが、あまりにも滑稽で、愛おしかった。 私はテジュンという『魔王』を自分の手で作り変え、蜘蛛の糸で絡め取って、永遠の安寧という毒で真綿のように首を絞めているつもりだった。 しかし、その蜘蛛の巣ごと、私はさらに巨大な『ソル・アリン』という女の飼育箱の中にすっぽりと収められていたのだ。 笑い声が静まると、私はゆっくりと立ち上がり、床に散乱したティアラと、黒いタールに塗れたブラックダイヤモンドの残骸を見下ろした。 アリンは私を「泥棒猫」と呼んだ。テジュンを「自分が幼い頃から調教してきた最高傑作(おもちゃ)」だと。「……ふざけないで」 私は、潰された指輪の破片を素手で拾い上げた。 鋭利なプラチナの縁が指先に食い込み、ツツーッと赤い血が滴り落ちる。 痛みは感じなかった。ただ、全身の血がマグマのように沸騰し、今まで感じたことのない種類の『怒り』が、私の脳髄を焼き焦がしていた。 私がテジュンをどうやって手に入れたと思っているのか。 元の夫の肉片を踏みつけ、自分の妹を業火で焼き、実の父親を鎖に繋ぎ、泥水と血の海を這いずり回って、ようやく手に入れた『私だけの所有物』だ。 それを、ソウルの安全な玉座に座ったまま、生まれ持った血統と権力だけで奪い返そうというのか。 (絶対に、渡さない。……テジュンは、私のおもちゃよ) 私は血の滲む指先を舐めとり、鉄の味を舌の上で転がしながら、冷たい瞳で監視カメラのレン
「自分が絶対的な捕食者だと信じて疑わない時ほど、背後に忍び寄る巨大な影には気づけない。私が編み上げたはずの蜘蛛の巣は、いつの間にか私自身を絡め取るための、冷たくて息苦しい『檻』へと変貌していた――」◇『――お前がテジュンの首を絞めていることは、全部お見通しだ。調子に乗るなよ、泥棒猫』 冷たい光を放つスマートフォンの画面。そこに表示された無機質な文字列が、私の網膜に焼き付いて離れない。 私は、テジュンの広く温かい背中に顔を押し当てたまま、全身の毛穴からジワリと冷たい汗が吹き出すのを感じていた。 泥棒猫。 そのひどく日本的で、生々しい悪意に満ちた言葉のチョイス。 この番号は、私がテジュンに隠れて裏工作を行うためだけに用意した、極秘の暗号化回線だ。知っているのは、私が直接金で飼い慣らした数人の情報屋だけのはず。 それを特定し、あまつさえ私の『真の目的(テジュンを依存させ、真綿で首を絞めていること)』までを完璧に見透かしている人間がいる? 「……どうした、美咲。身体が強張っているぞ(韓国語)」 暗闇の中で、テジュンが寝返りを打ち、微かに目を覚ました。 私は咄嗟にスマートフォンをガウンのポケットの奥深くへねじ込み、彼の腕の中にすっぽりと身を収めて、甘えるように首を振った。「ううん……ごめんなさい。少し、怖い夢を見ただけよ(韓国語)」「夢? お前を脅かすものなど、この世界にはもう存在しない(韓国語)」 テジュンは私の額にキスを落とし、再び深く規則正しい寝息を立て始めた。 彼の言う通りだ。私を脅かす過去の人間――健太も、愛理も、詩織も、ドフンも、すべてこの手で潰した。 私はこの完璧な密室(箱庭)で、絶対的な安全圏から彼を支配しているはずだった。 だが、私の心臓の警鐘は鳴り止まない。 テジュンの寝息を聞きながら、私は暗闇の中で目を凝らした。 広大なペントハウスの寝室。防音ガラスの向こうの夜景。クローゼットの影。 どこかに、私を嘲笑う『目』があるの
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